第36話 水鏡の迷宮2
サハギンが2体現れる。
遊都の援護射撃が飛び交う中。
その2体の間に身を飛び込ませる。
心を無にする。
煩わしいわね。この恐怖心。
叩きつけてあげる。
サハギンが悲鳴をあげる。すかさず切り結び。返す刀でもう一方のサハギンを牽制する。
遊都が割って入る。短い刃渡りでやり合っている。
「なんでナイフなんだろう?」
バックステップで銛の射程外に逃れながら考える。
「そうだ投げる為だった」
良くも悪くもスキルを意識しすぎだ。
「スキルを育てる……」
右手をサハギンに向ける。
手のひらの先で宙に浮いていた炎球が回転をし始める
ゴブリン戦でガーネットが使っていた複数の炎球を待機させるイメージ。
気合いをのせると炎が呼応した。
回転した炎が3つに別れ、6つになり円周上を公転する。
「行けっ」
飛んでいく途中で半分が宙に消え、サハギンと遊都に着弾する。遊都の悲鳴が聞こえたが無視だ。無視。
地面をこすりながら振り抜いた剣が着火する。
サハギンの首を飛ばしながら追撃を考える。
振り抜いた勢いはそのままでひねりを加える。
その場で一回りし唐竹割りで斬撃を放つ。
銛を構えたサハギンが斬撃を迎え撃つがその斬撃はすり抜ける。サハギンが左右でずれ音を立てて崩れた。
「ねえ、私の炎ってテキサスホールデムでも使えるんじゃない?」
右手の手のひらを天井に向ける。火柱が立つ。
「多分、私には勇猛たる闘志の炎は効かないわ」
天井のクリスタルに何十というサハギンが映し出される。
「こうやって強くなるのね」
「数は多く見えるが実際は5匹だ」
よくみると同じ動作が別角度で映し出されている。クリスタル……紛らわしいわね。
「まっ、何体来ても負ける気しないけど」
前方に5体小走りに歩み寄ってくる。
剣を地面に刺す。
出来る気がした。
この環境。ダンジョンを支配している感覚。
ボウリングの球を転がすように手を振るう。サハギンの集団の両側面に炎がレーンを引く。
「炎でごり押しできる」
「巴はそうかもしれないけどなっ」
前にでた遊都がサハギンに向けぎこちなく矢を放ち続ける。固まったサハギンはいい的になっている。
「振り抜くのが大事なのよ。恐怖感とか全て置いてその先に答えがあるわ」
炎のレーンの外からサハギンが1匹やって来た。どうやらあそこに見えにくい横道があるようだった。
地面に刺さった剣を抜く。
「逃げ続けるなんて、そんなの嫌じゃない?」
「降りることは大事なことなんだけどな」
「でも本当に逃げれない……逃げたらいけないと本能が悟った時がやってきたら?」
「……逃げ切るまでだ」
遊都の弱い部分を見ている気がした。
その小さく見えた背に思わず問いかけた。
「あなたは戦わないの?」
近寄ってきたサハギンに剣を携え肉薄する。
予想外にキレのあるサハギンの突きを身をよじって回避する。まぶたが切れた。血が垂れてきて視界の半分が消える。距離を取る。邪魔ね。指で拭うと同時に焼き切る。切り傷がやけど跡に変わった。剣を構えなおす。
「皆生きてるだけで何かしら戦っているものよ……たとえ一時的に逃げたとしても」
炎は維持している。あれの集中は切らせない。
こいつとはガチか。
サハギンを見据えて自分に言い聞かせた。
自分を奮い立たせる為に遊都に言う。
「振り抜くのが大事なのよ。恐怖感とか不安とか後悔とか……全て置いてその先に答えがあるわ」
剣をサハギンに向け構えて宣言する。
「私は前に進む」
「遊都……死ぬ気ならなんだってできるって言ったよね?」
「言ったっけ?」
「死ぬ気で生きなさいよ」




