第29話 スターティングハンド
「まずはテキサスホールデムを楽しめ……と言って放りだしたいところだが、残念ながらガチだ」
「生活費……それに地球に戻るための情報を集めるための費用、いくらあっても足りない気がするものね」
「あと何もしなくても減っていくライルがやべえ」
「まあ……ちょっとは面白そうだけど……」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもないわ」
手であおぐ仕草をした巴がひとりごちる。
「時間もない金もない……この世界のテキサスホールデムにも慣れていない」
「何もスキル使えてないものね」
「とりあえずスキルのことは置いといて普通のテキサスホールデムだ。この世界だろうと基本が大事」
「さくっとなんとかっていう何でも願いを叶えてくれる大会で優勝して帰れればいいのに」
「はいはい現実逃避はそこまでにして、こちらを用意しました」
「何よ? 紙と鉛筆じゃない。この世界にもあったのね、それで何をするの? ヒッチハイク?」
「いったろテキサスホールデムの基礎からだ。まずは表を作るぞ」
「表? そんなのテキサスホールデムの役に立つの?」
「例えば、だ。同じ状況、同じポジション、同じチップ量、同じハンドで毎回プレイが違う、それは正しいと思うか? 俺は間違っていると思う。昨日はコール。明日はレイズ。今日は気分がのらないからフォールド。そんなのいきあたりばったりだ。そんなプレイヤーは強くない。それに積み重ねがない。積み重ねがないのがギャンブルだ。それにハンドを迷わないことで、迷ってしまって敵に情報を与えることを避けれる。判断が瞬間的にすめば、持ち時間に迷って時間を使っているように見せかけることも出来る」
「え? 気分で決めるんじゃないの? 勘とか」
「勘は経験の積み重ねだぞ」
「ふーん、ギャンブルじゃないって言っちゃうんだ」
「巴、参加するかどうか決める決め手の最初に配られるカードのことをスターティングハンドというんだ」
縦軸と横軸にAKQ……432と並べた表を作る。
「そしてこれがスターティングハンド表になるものだ。元はCSIかなんかオールインした時の期待値の表があって、それを元に作るのが早いんだがこの世界にはないし、俺は覚えていない。俺が覚えているのは俺のハンド範囲だけだ」
「まずAAこれは全てのプレイヤーが参加する。レイズで参加するオールインも可と書いて色分けしておけ」
「でも遊都降りてたじゃない」
「……俺はいいんだよAAなくても勝てるから」
「KKもレイズで参加するオールイン可だ。問題はAKだ」
「たしか……プレミアムハンドなんでしょ? 当然オールイン可なんじゃない?」
「AKは強いが体感で一番死にやすいのもAKなんだ。強いと信じて全部のチップを賭けてそれ以上のハンドでも負けるし、ストレート、フラッシュ、スリーオブアカインド、ツーペア死ぬ要素てんこ盛りだ。個人的にはフロップを開けてAかKがヒットしてから状況次第で強気にいくか弱気にいくか考える方がいいと思う。トーナメントでは特にそうだ」
この辺はレイズで参加、この辺はコールで参加、この辺は色揃いならコールで参加と色別にしていく。
「そして絶対に参加しないハンドを決める……これが大事だ……俺はこの辺は絶対参加しない」
俺のスターティング表が矢印のような形になる。
「そしてここに着目! この話だけは押さえて欲しい。A5とA6どっちが強い?」
「それは6がヒットすれば強いからA6?」
「ぶっちぎりでA5だ」
「A5にはA6にはない可能性を秘めている……ストレートだ。例えばフロップに234が並んだ瞬間最強と言っても言いくらい強いハンドに生まれ変わる。あとストレートを狙いやすく場に持っているカードと絡んだら大化けしやすいのがコネクター。TJのように一続きになっているものをいう。しかも色が揃っているのを特にスーテッドコネクターと呼ぶ。フラッシュになるかもしれないしストレートになるかもしれないそういった期待があるハンドだ。そういうハンドを上方修正して……こんなもんだな俺のスターティング表は」
「表見せて」
巴が今作って色で分けた表を流し見る。
「QTってそんなに強い手じゃなかったんだ」
「ん? 強いぞ。かぶらなければな。かぶりやすいんだだから弱い。3人とか2人の時には十分闘える。今のスターティング表はあくまで9人全員揃っている前提のことだからな」
かぶるとどうなるか説明しよう、と紙とペンと一緒に1.99ライルで買ってきた紙のトランプを使って並べる。
「俺がQT、巴がAQな。それでフロップを42Qとしよう。4枚目と5枚目を何回か連続して開く。色んなパターンを見てみよう」
テーブルにトランプをめくって並べていく。
::::::::::テーブル:::::::::::
9K:Qのワンペア キッカーA……巴の勝利
T2:QTのツーペア ……遊都の勝利
42Q JA:AQのツーペア ……巴の勝利
98:Qのワンペア キッカーA……巴の勝利
35:Qのワンペア キッカーA……巴の勝利
:::::::::::::::::::::::::
「……と、このように大体かぶった場合8割方強い方のキッカーを持っている方が勝つことになっているんだ」
「やっぱり弱いじゃないQT」
「じゃあもっと巴が強い手を持っていたらどうなるか試してみるか? 俺が同じQT、巴がAKな」
巴のQをKに変える。AK……プレミアムハンドだ。
「テーブルを見てみな。結果はどう変わる?」
::::::::::テーブル:::::::::::
9K:Kのワンペア ……巴の勝利
T2:QTのツーペア ……遊都の勝利
42Q JA:Aのワンペア ……巴の勝利
98:Qのワンペア ……遊都の勝利
35:Qのワンペア ……遊都の勝利
:::::::::::::::::::::::::
「QTの方が勝ってる」
「まあ最初のフロップにQがヒットした場合だけどな。フロップでトップペア……ここでいう2とか4ではなくてQでヒットした時点で8割方勝つんだけどAもKもQより上だからなそれよりちょっと下がって勝率7割くらいか?」
「じゃあQTでも参加しようかな~」
「9人もハンド持って参加してるんだぞ自分を除いて3人ぐらい自信を持ったハンドで参加してくる……その中にQが入っていない自信はどのくらいある?」
「っわー、入ってそう。私なら参加したくなるもの。Q持っていると」
「これがトーナメント終盤で残り4人。参加してくるのが1人ぐらいだとすると?」
「あれ? 参加できそう」
「そう、それぐらいがQTの強さだ」
「9人いても似たような状況の時がある。自分がSBで残りがBB1人の1対1の状況だ。勝負できるだろう?」
「うん、できるわ」
「とまあこの表を自分に合わせて作ることが大事だがまずは体験することが大事だ……最初にやるべきは」
「初心者プレイだ」




