第20話 下級冒険者Dランク認定戦(1)
ギルドに人が集まってくる。お祭りみたいだ。下級冒険者であるDランク未満の冒険者やそもそも冒険者でないものは会場から追い出されている。俺たちのテーブルを囲んで表示されている鏡を見て何かを話し込んでいる。時間に近づくにつれ静まりかえってくる。テキサスホールデムの大会……か。
「さあ時間になりました。各自魔力奉納をお願い致します。私の言葉に続いて聖句を口ずさんで下さい。」
さすが異世界こんな儀式めいたものがあるんだな。
静謐な雰囲気をまとったイリアが聖句を唱える。
「ヌイトに捧げる」
「「ヌイトに捧げる」」
「我らは盟約に囚われし10人」
「「我らは盟約に囚われし10人」」
「数多の英霊の捧げし、剣に連なるものなり」
「「数多の英霊の捧げし、剣に連なるものなり」」
「風よ、水よ、地よ、火よ。星の煌めきのもとイシスへの道程を照らしたまえ」
「「風よ、水よ、地よ、火よ。星の煌めきのもとイシスへの道程を照らしたまえ」」
魔力がすっと抜け、天に、ギルドの天井を超えどこかに吸い出された感覚だけが残った。
グレイソンがイリアに向け頷く。
温かくもない冷たくもない。違和感がなくて違和感を生むような魔力がテーブル全体を包む。
イリアが戦場でも響くだろう声でスキルを詠唱した。
「絶対中立の傍観者」
これよりテキサスホールデムは他者を対象に害するスキルの使用を禁止します。
「は?? 今なんて??」
「さあ始めるぞ遊都! この世界のテキサスホールデムをな!」
アレクパーティはカモを見るような眼でにやにやしていた。
「遊都っ!私はどうしたらっ」
「使うなっ」
巴のスキルは他者を害するスキルの類いだ。ここで使うのはまずい。
「作戦通りにいけっ」
「今から下級冒険者Dランク認定戦……通称ヨーヴン認定戦を始めます」
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「ヨーヴン認定戦 開始」
【開始時席順】
BTN …… イリア
SB …… アレク
BB …… ガーネット
UTG …… スイ
UTG+1 …… グレイソン
MP1 …… フランカ
MP2 …… 遊都
HJ …… モンド
CO …… 巴
【ブラインド】
10/20 10分刻みでブラインドレベル上昇
【開始時アンティ】
3
【開始時チップ】
1500
【開始時刻】
13:00
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アレクたちがスキルをかけていく。
「鑑定」両手を前に手を出しガーネットがスキルを展開する。
そのまま左手をUTGにいるスイにかかげる。
「勇猛たる闘志の炎行きなさいスイ」
「にゃはははレイズ150っっ!!」
面白くなさそうにアレクが呟く。
「千剣の憧憬」
アレクの体が魔力に覆われる。
「いっくよー百獣の嗅覚」
ゴブリンをひっかき回していたスキルだ……このタイミングでなぜ??
スイにオーラが立ち上るのと同時に悲鳴が響いた。
「っっっにゅああああ。くっ臭い。お前ら、何食ったぁ? これはだぁみだ」
激しくぶんぶんと頭をふるとスイが睨みつけてきた。
スイから立ち上ったオーラが霧散する。
「おまえりゃ、生きて帰れると思うにゃよっ!!」
これテキサスホールデムだよな??
やばいこれどうやったらいいんだ??
動揺する俺にいつもの平坦な声が聞こえる。
「ん? いいかコールだ」
「わたしは降ります。フォールド。毎年見ますけどいいですね1ハンド目は。何というか活気があって」
「年がばれるぞ」
「グレイソンさん私と個人的なヘッズアップなさいます?」
「はっ色んな意味で高くつきそうだ」
グレイソンとフランカはスキルを使用していない……もう使っているのかもしれないが。この世界が無詠唱ありなら本当にヤバい、何をされているかすらわからない。幸か不幸かアレクパーティはスキルを使用した。他者を害するスキルは禁じられている。そのことからも自身を底上げするスキルを使用したとみて間違いないだろう。スイが最後に使用したスキルはなんだ?? 百獣の嗅覚どんなスキルかは分からないが、サバイバルとつくのだから生存本能を上げるものか? あの乱戦の中ゴブリンに突っ込んでいった時もたしか使っていた……直感をあげるって感じか。だが、臭いに敏感に反応した……。なるほど嗅覚の底上げか。巴がにんにくっぽいものをたくさん注文してて助かった。巴に救われたのかもしれない。あとのスキルはなんだアレクの千剣の憧憬とガーネットは2つ使っていた。鑑定と勇猛たる闘志の炎……恐らく効果は……」
「遊都っ!!」
31……30……29……
「っ!! フォールド!!」
馬鹿野郎っ! 自分の手番だぞ! 考え事なら降りた後に……。
伏せられたカードをめくる。
KJ
っっっっっっう。やってしまった。それより状況に集中しないと。今どこにいった??
アレクが伏せられた手札を手元に持ってくることなくそのままフォールドしていた。
そうかい。化かし合いはお互い様か。ハイパーアグレもふりなのか?
手元にハンドを持っている初心者は巴ひとりだ。
3枚のフロップがめくられる。参加者はモンド、そしてスイだ。
危険な位置からハーフポッドレイズ。間違いないこいつら狙い所なんかではない。どうする巴に伝えられるのか? 巴に伝えるにしても筒抜けだ。俺のミスだ。狙うべきはフランカ、モンド、イリアだった。しかし、強気なプレイングだなスイはおどおどしていて確かに狙い所だった。それが、ガーネットからスキルをかけられた後の豹変ぶり……そういうスキルか。勇猛たる闘志の炎恐怖心をなくすか勇気を高める。前者ならクソアグレになったとして、後者なら厄介だな。
モンドがフォールドし、300ライルがスイのチップに積み重なる。
【2ハンド目 ブラインドレベル1:10/20 アンティ3】
グレイソンが20を前に出す。コールだ。
フランカはフォールド。
グレイソンは俺が参加するとほぼほぼ参加してきて俺より前にアクションする時には、最低限のチップで参加してくる。何を待ってるかって。グレイソンと目が合った。待っているのはこれだろう。
3と4のカードを確認すると。アレクを見て勝利を確信してスキルを発動する。
「……悪いな勝ち確だ」
「乱数支配」
時間を止める。見慣れたボタンの存在を確認する。眼を見開いて注目しているプレイヤーの表情が面白い。さて時間はあまりない。数値が変わるんだ。AKあたり狙ってみるか。ボタンを押す。めくってみた。
3と4
「ん?」
もう一回押す。
3と4
連打する。
3と4
やべっ。表情にだすな。勝ち誇れ。
時間が動き出す。
「レイズ150っっっ!!」
やばい。本当にやばい。スキル使ってクソハンドならなんの脅しにもならねえ。オープンしてクソハンドって分かったらクソスキルもろばれっ。降りろ。降りてくれっ。
次々にフォールドを宣言して皆降りていく。
やはりスキルが怖いんだな。あと一人……最後はグレイソン。
「待ってたぜえ! コールだっっ!」
ですよねえっ
「あんたはこのスキルが目的みたいだな」
「んあ? まあそれだけじゃねえ。っていうかどうでもいい。それより俺を楽しましてみろ、遊都っ!」
フロップはダイヤの5、Aのクラブ8のクラブ。俺のハンドはハートの3と4。
ストレートドローが唯一の勝ち筋。
自分のプレイスタイルではまずしないが、スキルのお披露目だ。はったりし続けるしかない。
ハーフポッドをレイズする
ターンはハートの2。
っっっっっっっっひゃあああああああセーーーーーフううううぅ。
もちろん表情には出さずに悩んだふりをする。
カウントを始めてもらう。28……27……26……
考える必要のないナッツだから考える。
そしてコンティニューションベッドでもありうるポッドの四分の一をレイズした。
「懐かしいな……これがテキサスホールデムだ」
グレイソンは目元をほころばせて言った。
「ならば俺も応えなければならない。コールだ」
スペードの3がリバーに落ちる。
「オールイン」
「コール」
手元のカードをオープンにするハートの34だ。
魔法のカードがずれてストレートが成立していることを指し示す。
「5ハイストレート」
「悪いな、俺もだ」
「5ハイストレート」
グレイソンと引き分ける。グレイソンはオフスートのA4
5A823
ストレートで引き分け。
「リバーさえなければ」
「……そうだな俺も嫌いだ」
グレイソンの顔は何故か寂しそうに見えた。
その眼はどこか遠くを見ていて、それと同時にチュートリアル戦から感じていたグレイソンの魔力圧とでも言うようなものがなくなった気がした。
とりあえずクソスキルは封印しておこうと固く誓っておこう。
【4ハンド目 ブラインドレベル1:10/20 アンティ3】
アンダーザガンは俺。スーテッドか。とりあえず参加するか。
「レイズ50」
イリアが追っかけでコールする。
まだ見られてるのか?
まあグレイソンはこないだろう……
「コール」
グレイソンがコールする。
またあ?
フロップがめくられる。フラッシュの目はない。降りだ。降り。
フォールドと言おうとして、まだ自分の順番ではないことに気づいた。
グレイソンの手番で進行が止まっていた。
………………52……51……
グレイソンの持ち時間が減っていく。
グレイソンは何事かすごく悩んでいるようだった。
何を悩むことがあるのだろうか。
「なあ遊都。俺はお前を好きになったよ。お前のベッド額には理念がある。意味がある。対話ができる。テ
キサスホールデムで対話なんていつぶりだ」
50……49……48……47……46……45……44……
「だから言う、王都はやめとけ」
「王都にいけば何でも揃っているという話じゃないか。それに願いが叶うって」
43……42……41……40……39……
「確かに王都の最高峰のトーナメントは願いを一つ叶えてくれる」
38……37……36……
「この世界でもっとも金と魔力が集まる王都でだ」
35……34……33……
「だが、この世界のテキサスホールデムは紛い物だ」
32……31……30……29……28……27……
「お前はこの世界で勝てない」
26……25……24……
「だから王都に行くのはやめとけ。この世界で暮らしていくんだ。そこのお嬢ちゃんと和やかな人生を送るといい」
27……26……25……24……23……22……21……
「そんなのやってみないとわからないだろう」
「やってみたら遅いんだよ。お前達だと死ぬよりも恐ろしいめにあう」
24……23……22……21……20……19……18……
「俺はそんな同郷をごまんと見てきた」
17……16……15……
「これが俺ができる打算のない嘘偽りない忠告だ」
14……13……12……
「……決めた。お前達喜べ。これは借りだぞ。どういった世界が待ち受けているかその片鱗をみせてやる。俺は降りる。……イリア。中立の射程外だ。俺は遊都を支援する。オールインだ」
タイムアウトのブザーが鳴り、
イリアからグレイソン目指して質量のある暴風が通り抜けた気がした。
その暴風は収まるやいなや濁流のようにグレイソンにまとわりつき、イリアからは絶えず魔力圧が放たれていた。その圧は、全てグレイソンに向けられていたが、その傍流でも耐えられそうにない。生物としての恐れをいだかせるような根源的な恐怖を感じ、思わずテーブルから逃げ出したくなる。まだ座ってられるのはその濁流の中平然とグレイソンは座っているからかもしれないし、誰も今のところ逃げ出してないからかもしれない。濁流の中では何かにしがみついていた方が安全なのを本能は知っていた。
「ふぉっふぉふぉふぉふぉーるふぉ」
歯ががたがたする。
「……何よこれ、怖いっ! 怖いっ!」
カタカタと肩を震わせて巴が言う。
イリアがすっと眼を細めて「コール」する。
台風の眼にいるかのようにすました顔でグレイソンが解説する。
「種明かしすると一つはレベル差だ。計れないけどな。ダンジョンに潜っていれば大抵の場で後れを取ることはないんだが。まあ知らせたいのはそれじゃねえ。脅しで勝てるのならテキサスホールデムは楽勝だ。レベル差を持ってしてもどうしても覆せないものがある……それはスキルの差であり、相性だ。俺は遊都を支援すると口に出した瞬間負けたんだ。イリアのスキルにな……それと念のためまた言うがコイツはディーラーだ。プレイヤーではない。プレイヤー向きのスキルは本来持っていない。まあそれを無理矢理利用したんだがな。こいつの絶対中立の傍観者は敵でも味方でもない空白の空間を作り出す。これは戦闘を調停できるものでもあり、ディーラーとしてはスキル持ちのプレイヤーを公平に対処できる天性のものだ。まさにディーラーの家系だな。それは置いといて俺は宣言した遊都を支援するってな。これはテキサスホールデムのルールから逸脱し、中立の範囲内から出て行くことになる。するとどうだ排除する力が働く。あとは俺の特性なり、スキルなりとこいつのスキルのどっちが強いかって話なんだが、まあ見てみよう」
リバーがめくられグレイソンの敗退が決定した。
「とまあ、こうなるわけだ、さてと俺は外から見物させてもらうさ。がんばれよEランク冒険者達」
グレイソンはそれぞれの背中を叩くと酒を片手に意気揚々とテーブルを後にした。
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ヨーヴン認定戦 9位 敗退 グレイソン・コート
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