第18話 テキサスホールデム(チュートリアル)
結局Dランク認定に声をあげたのはアレクパーティと俺たちだけだった。
フランカはギルド職員でイリア立ち会いの元にという話だったが、仕切っていたのは何故かグレイソンだった。なんで参加するのかと聞いたらギルドからの依頼だよ。内容は答えられないけどなと言われた。
「遊都。巴。アレク。ガーネット。スイ。俺。6人かちょうどいいと言えばいいが、どうせなら本場を体験させておきたいな。認定戦本来の趣旨から外れるし。ん。イリアお前入れ。嫌だ? いやお前に拒否権はねえ。そこに居るフランカはもちろん参加するよなとそれとモンドも入れ。お前ギルドからの依頼は断れないだろ? これで9人だ」
モンドが髭をもごもごさせて言う。
「わしはもうやらんと決めたんだ」
「……モンドは王都入ったことがあるな。金はいらねえ? 払わねえ? そりゃあ困るギルドから出せるか。モンドが優勝してもギルドのものになる。まあいいだろ。それならいいだろ? モンド」
「まあその条件なら」
「フランカは参加するよな。ギルドの福利厚生使えるもんな」
もうひとりイヤイヤしているイリアの両肩をがしっとつかまえるグレイソン。
「イリア……仕事だ諦めろ。プレイヤー兼務だ」
がくっとイリアがうなだれた。
「じゃあ起動するか」
手を鏡にかざしたグレイソンが言う。
楕円テーブルの上の鏡が宙に浮き、テキサスホールデムの状況が表示される。
ブラインドタイマーもある。
「特殊障壁があるからな外部からの妨害も心配ない」
高く上がった鏡をみて驚く。銀行のように感じていた天井の高さはこの為にあったのか。
「中立でないのは久しぶり……」
「イリアはディーラーなんだよ王家直属のな……いずれあがっていけばお世話になる」
さて、とグレイソンが切り出す。
「トランプにはなじみがあるものとして話をはじめさせてもらう。王都をめざすということはそういうことだろう」
皆がまばらに頷く。
「とりあえず頭にたたき込めカードの強い順はA、K、Q、J、T(10)、数字が低くなるほど弱くなって最弱が2(デュース)だ」
「Aが一番強くてあとはK……13? から一つずつ弱くなるのね」
あきらかにギャンブルに疎そうな巴が噛みしめるように確認した。
「そうだ。ブラインドとかはスキルで自動的に引かれて表示されるからおいおい慣れろ。ブラインドはまあ税金みたいなもんだ。先にそれよりルールだルール」
「マークの違いは強さに関係ない」
「それは間違っている」
「イリアさん……今はおいときませんか」
「ルールは厳粛であるべき、現ルールではクルワ269年に制定されたテキサスホールデム基本憲章においてディーラーボタン決定時とチップレース時は……」
「まあ今は頭上の魔道具で自動的に割り振られるがな」
イリアは口を手で押さえつけられ、もごもご言っている。
「で、だ」
グレイソンは目で合図をイリアに送ると。
皆の手元に寸分狂わずカードが表の状態で2枚配られた。
「チップを賭けれるタイミングは4つ。1つ目がこれだ。カードが2枚配られた時。順番にチップを賭けるか賭けないか」
「順番はどうなるのよ」
巴が尋ねる。
「ここにボタンゴーレムがいるだろう。そいつが立ち止まっているプレイヤーを基準に動き出す。ボタンゴーレム君は1プレイ終わる度に右回りに一人分移動する。だが、ゴーレム君から始まるわけではない。ちょっと複雑だからよく聞いてくれ」
「魔道具なんか使わなくても……」
「いや今プレイヤーも兼ねてるからねイリアさん」
「ブラインドも今説明しとくかウィンドウに25/50とあるだろう。それが今のブラインドレベルだ。これは時間経過ともに上がっていく。プレイを促すためだな。決着が早いトーナメントだとこのブラインドレベルが最初から高かったり、上がるスピードが倍だったりする。ゴーレム君がいるプレイヤーつまり俺から見て左隣のプレイヤーをスモールブラインドと呼ぶ25ライルだな。イリア払え。そのイリアの左隣のガーネットはビッグブラインドだから50ライル払え」
「損した気分ですわ」
しぶしぶビッグブラインドのガーネットが払う。
「払ったな。払ったものに対してどうでるか行動を選べる。楽しいホールデムの始まりだ!」
がははと両手を広げて大げさに開始を宣言するグレイソン。
「では始めてみるぞ。ビッグブラインドの左隣アレクからだな。ルール説明なんでオープンしているぞ。AJだな。さすが強運。強い手札だ」
「まあ当然だ」
まんざらでもない顔でアレクは言う。
「この手札なら」
レイズだな2.5BB
「レイズだ。まあビッグブラインドの3倍でいいんじゃねーか。150ライルだしな」
「アレクがすっとチップを出すと画面もチップが出されて表示されていた」
「まあフォールド、フォールド、フォールド。降りることはフォールドって言う。お、次は9のペアか。スイの手札これはありだな。ここでできるのはコール、つまり同じ賭け額である150ライルを払って参加する。もしくはレイズと言って賭け金を上乗せして脅しをかけることもできるぞ。降りるって選択肢はここではとらないことにする。スイはコールだ」
スイはびくっとするとアレクの顔をちらりとみた。
「巴は参加しないとして、遊都は……ゴミ手だがレイズすることにしよう」
「カスには全くもってお似合いだな」
アレク一行が馬鹿にして盛り上がる。
「数字に愛されてそうですわね」
まあ72オフスートだしなあ
「何よラッキーセブンなんだから強いわよ」
どや顔の巴。
いや最弱だよ!
苦笑いしたグレイソンが続けるぞと言った。
「レイズ300に対して参加を表明していたアレクとスイは順番にどうするか選べれる。つまり降りるという選択肢フォールド、同じ額を支払うコール、さらに上乗せるレイズだな。次に行きたいから2人ともコールしたことにするぞ」
手元のチップがひとりでに中央にいき、アレク、スイのチップと空中で整然と揃えられきっちり並んで着地した。何それ怖い。動揺してるのは俺と巴だけだ。
握りこぶしでトントンとテーブルを叩いたイリアが混乱した様相で「スリープレーヤーズ!!!」と叫ぶ
プレイヤー……いやなんでもないとグレイソンはかぶりをふる。
イリアは見た目は今にも倒れそうだが目で追えないほどのシャッフルをしており、バーンカードもきっちりしていることに驚く。
カードが3枚表向きではじかれる。フロップというやつだ。はじかれたのはQQ7だ。
「ここで2回目の賭けられるタイミングだ。復習するぞ1回目は2枚のカードが配られたタイミング、2回目は3枚開けられたタイミング。あと、1枚開けるのが2回あってそれぞれにチップをかけるタイミングがある。全部で4回だ。全部開けられたとしたら2枚の自分のカードと全員が使用できる共通のカード5枚を組み合わせてできる強い役を持っているプレイヤーがチップを総取りできる。引き分けもあるし、レイズで降ろさせてチップをもらうという方法もある。」
説明していなかったが、と前置きしてグレイソンが言う。
「どこで自分の手札が強いかを判断するのは強い役になりそうかだな」
ミニマムレイズ額と役についてはウィンドウに表示されているから説明不要と思うがとグレイソンはつぶやいた。
「最初なので念のために弱い順に役は一通り言うぞ。まずはばらばらゴミ手だ。ノーペア、ハイカードとも言うな。5枚のカードを持ってもっとも高い数のカードを使って……この5枚ならAハイと呼ぶ。もっとも高いカードが同じだった場合2番目、3番目同士と比べていって勝ち負けを決める。KJハイならK9ハイより強え。次がワンペア、5枚のカードで同じ数が1組ある状態。次が2ペア2組ある状態。ちなみに同じ数のワンペア同士、2ペア同士で争う場合残りのカードで数が高い方を持ってる方が勝ち。この残りの勝敗を決めるカードをキッカーと言う。キッカーは大事だぞ。チップの賭け方とか変わってくるからな。次に強いのはスリーオブアカインド文字通り3つの種類って意味だ。これも同じ数だったら強いキッカーの勝ちだな」
頭を押さえて巴が制止をかけた。
「ちょっと待って……3種類使ってるんでしょ? 同じ数ってのはあり得るの?」
「いい質問だ、確かにトランプのカードは4種類、スペード、ハート、ダイヤ、クラブだが。最初に配られた手札は本来伏せられているものでな。そこのテーブルの真ん中でオープンになっている3枚とは性質が違う。配られたものは自分だけが使えるカードだが、テーブルの真ん中で公開されるのはさっきちょっと話した共通カードなんだ。皆が使える。今開かれてるのがQQ7か、ちょうどいいな。可能性としてはちゃんとあるだろ。今はフォールドして降りている巴の手札はQ9とフランカの手札はQ2だ。もし2人が参加して、この3枚だけで決まるなら、巴スリーオブアカインド9ハイで勝ちとなる、分かるか?」
「うん、なんとか」
「次の強い役からは単純揃うだけではない……それより強い役だ、故にどんどん確率的にめずらしくなっていく。ワンペア、ツーペア、スリーオブアカインドと来てストレートだ。ここで注意点はAは最強としての位置と数字の1の意味合いを兼ねることだな。A2345のストレートもありで、TJQKAのストレートも当然ありだ。もちろん後者の方が強い。だけどな、QKA23みたいなAをまたがるストレートは成立しないんだ。気をつけろ」
めくられている中央の3枚のカードを見てばらばらだなとグレイソンは顔をしかめる。
「ここまで数字だったが、ストレートより1段階上なのがフラッシュだ。同じハートで5枚揃えればフラッシュだ。特にめくられた共通カードが全部同じスーツであるハートなんかであってみろ、もっている数字で勝敗が決まってくる」
表には役が4つあるが、あと実質3つだとグレイソンの説明は続く。
「そんな珍しいフラッシュを倒せれる役はめったに来ねえ。フラッシュより上なのがフルハウスだ。スリーオブアカインドとワンペアが同時にある状態だな。今ハンドに参加している2人が可能性あるな、99のペアを持つスイがQQ997であと一枚Qか9が来ればフルハウス完成だな。現時点でもツーペアで十分強え。遊都もQQ772でツーペアだが、数字の差で現時点では負けが決まっている。大量にチップを失いそうだなこりゃ」
しばらく共通カードを見ていたグレイソンをイリアがせっつく。
おっと役の話だな、とグレイソンが話を戻した。
「こっから先も具体例交えて説明できればいいが、やってられねえ。フォーオブアカインド。文字通り四枚の種類全部そろっちまうやつだ。まあめったに見られねえ。最後にストレートフラッシュ5枚がストレートでもありフラッシュでもある。これが一番強い」
「もう一つあるんじゃないの?」
巴が確認する。
「ああ、それもストレートフラッシュの一種なんだが、ストレートフラッシュの中でも特にAKQJTの場合を特別視してロイヤルフラッシュという。復習するぞ下からノーペア、ワンペア、ツーペア、スリーオブアカインド、ストレート、フラッシュ、フルハウス、フォーオブアカインド、ストレートフラッシュ、ロイヤルフラッシュだ。ゲーム展開に戻るぞ」
こいつがスリープレイヤーズと言ったとおり参加者は3人だ。
グレイソンは右手でイリアの頭をわしわしとした。
「次の選択できるのはやっぱり基準のコイツ……ボタンゴーレムから右回りに近い順からだ。隣はいないからアレクからになる」
ピンッとゴーレムをはじくとあわあわしてゴーレムがその場でバランスをとる。もちろんまだ1ハンドが終わっていないのでその場から動かない。賢いな。
「もう賭け金を払っているので、賭けを受ける意味でのコールではないここではそのままでいいことを示すためのチェックと賭け金を上乗せするレイズ。まずこのタイミングでは使わないゲームから降りるフォールドがある。チェックは口頭で言うか、手のひらでテーブルを2回叩く」
トントンとグレイソンとイリアが実演してみせる。
「全員チェックということにする。面倒くせえからな。本当は勝ちそう、勝てそうってんならチップを賭けたり、負けそうでもはったりで賭けたり、勝ちそうなのを隠して賭けなかったり、まあ面倒くせえんで全員チェックだな、はいアレクの番だ」
「チェックっ!」
スイの番
スイは手のひらをトントンと叩く。
「……チェック」
「チェックアラウンド」
イリアが何食わぬ顔で拳で2回叩く。
「スリープレイヤーズ!」
1枚カードを脇に寄せたイリアが中央にカードをはじく。
ちょうどいい位置に来たカードが魔法でもかけられたかのようにめくられる。
カードよ、お前もか。
『T』のカードだ。
「ん、全員またチェックということにするぞ」
「チェックっ!」
スイの番。
スイは手のひらでトントンと叩く。
「……チェック」
「チェックアラウンド」
グレイソンがあまりにも自然な顔をしてイリアの山札に手を一瞬かざした……ように見えた。
イリアを促したのかイリアがカードを中央にはじく。
またカードが1枚めくられる。
『A』のカード。アレクの勝ちだな。
「今最後の一枚が配られた。最後の賭けれるタイミングだ。アレクはレイズをしてもらうんだが、レイズの中でも特に自分の持っているチップを全て賭けることをオールインという。アレクがオールインして2人ともコールしてショウダウンだ、イリア」
「AとQのツーペアです」
「Qと9のツーペアです」
「Qと7のツーペアです」
ポット……賭け金のチップの山がアレクの元へと動く。
「これで次のゲームだ。この繰り返しで最後の勝者を決めるまでする。次は実際にやってみる。そのお試し戦を1回やって次が本番だな。賞金総額13500ライルのな」
にやりと笑ってグレイソンは席に座りなおした。




