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第16話 イリア・クロスフィールド

 悲鳴があがった。

 俺たちの傍らに人だったものがバウンドして地に染みを作る。


「ひっ」


 声にならない声を巴があげる。

 あれは無理だ。林の奥から小山のような鬼が現れる。

 尻餅をついた巴が後ずさる。

 囲むようにして冒険者たちが手数を加えるが一向に弱る気もしない。



 ゴブリンキング 1/1250



 千回以上小突いて死ぬかどうかかよ。

 幸いにもゴブリンリーダーは倒せたんだ、無理をするところじゃない。

 安全にやりすごして、金を貯めて王都に行くだけだ。

 だがそれで上手くいくのか?? 逃げてるだけで何かを得られるのか??


 ――そう思ったら足が動いた。


 ゴブリンキングと同じ距離をとりながら右手に回り込む。

 注意を引かない為ゆっくりと。

 万が一こっちに来た場合巴を巻き込まない位置へと移動する。

 武器破壊は……俺では無理か。


 棍棒 1/199


 神眼で見えた情報に絶望する。

 アレクパーティがゴブリンキングとともに現れた集団と激闘を繰り広げている。

  ゴブリンキングの注意もそちらを向いている。


 今なら!


「射出っ」


 スキルを起動しそれを制御する。魔力の矢をつがえ限界まで引き絞る。

 狙うは右目。

 集中しろっ。俺が一番集中していた頃の……。ファイナルテーブルを思い出せ。

 相手とコミュニティーカードとホールカードしか見えなくなる。


 そうだ。その感じだ。


 今はゴブリンキングと弓の弦しか見えない。


「っっし」


 確信とともに張り詰めた弓放った。


「入る」


 間髪入れずスキルを起動する。


「乱数支配(ランダム・オーダー)」」


 眼球 15 /15


「あーやっぱり入ってたな。駄目だろうけど距離とってみるか」


 静止時間でゴブリンキングから距離を取る。

 スキルが時間で強制解除されると意識が元の位置に戻る。


「さて、逃げますか」


 激高の叫び声を聞きながら俺は走りだした。


「乱数支配(ランダム・オーダー)」」


 後ろを見る。やばい追いつかれる。無理だ。詰んだ。

 カウントダウンされる残り時間が減っていく中で俺は決断を迫られる。

 闘争か……逃走か……。


 眼球 1 /15


 残る片側の眼を奪えればなんとか逃げれるかな。

 巴が遠くで青ざめているのを見て、なんとかして生き延びなければと思った。

 スキルが切れる。振り返りバランスを崩しながらも標的を見据える。


「射出っ! 乱数支配(ランダム・オーダー)」


 残る片側の眼を捉えるこれでやつの戦闘能力は奪える。あとは頼んだぞ巴。

 振り下ろされている槌の軌道を見て、終わったことを俺は悟る。


 ……踏み入りすぎた。


 巴すまない。相打ち(・・・)か。頑張ったな俺。

 巴の悲鳴が聞こえる。

 ゴブリンキングと眼が合う。もう反らせない。あとはもう一度最期の乱数支配(ランダム・オーダー)をするだけか。


「ああ……」


 その瞬間一陣の風が吹き抜けた。

 俺の視界に上下逆さになった無表情な女の子が両手を左右に突き出し、飛び込んできた。


「絶対中立の傍観者(アポストルオブピース)」


 戦場に淡々と声が通って告げられたスキル。


 ゴブリンキングの凶悪な膂力で振り下ろされた一撃と俺の決死の一撃が間に挟まれたイリアによってはじかれる。前宙して着地したイリアが言う。


「ここが私の中立スポット」


「イリアだ! イリアが出たぞーー!!」


 冒険者陣営が叫んで周りに知らせる。


「なんてはた迷惑な」


「整えるぞ30秒で支度しなっ」


 冒険者たちは慌ただしく装備整えたり、陣形を組み直したりしている。


「イリア・クロスフィールドは宣言します。今この場で60秒調停します。59、58、57……」


「お前危ないから後ろに下がっとけよ」


「ああ……そうする」


 ゴブリンキングの激しい乱打を不可視の障壁がはじき続ける。

 呆然としてその光景を眺めていた俺を冒険者が後方に待避させる。


「3、2、1……タイムアウト」


 用は済んだというように素通りして戦場を歩こうとした。イリアにゴブリンキングが棍棒を振りかぶる。イリアはスキルを使うそぶりも見せない。


「あっ、危ないっ」


 思わず声をかけた俺を「何?」と言って振り返ったイリアの頭に直撃する。

 ばきっ。鈍い音がした。

 何もなかったかのように首をかしげ、イリアはそのまま歩いて戦場を離脱した。


 折れたのはゴブリンキングの棍棒の方だった。



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