第13話 ミッション17時までに報告せよ
「ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン」
机に突っ伏して何やら巴がぶつくさ言っている。
ねえ、遊都。巴が声をかけてくる。
「この世界ってゴブリンしかいないと思わない?」
綺麗になびく髪を払って優雅に言い切りやがった。
だが俺はクールに返す。
「キャタピラーがいただろう」
「あのね、遊都。私とんでもないことに気づいたの」
表情が一変、マジメできりっとしている重大なことを言うに違いない。
ごくりと喉が鳴った。
「……飽きたわ」
早く帰りたい~~と駄々をこねる巴。
一見わがままに見えるが、やはりゴブリンは苦手意識があるのだろう。時々ひるみそうになる巴を何回か見た。そんなクエストとクエストとの間の閑散期は思いっきりぐだって切り替えるのだ。こうやってくだらない会話も普段の慣れない戦闘の緊張を忘れるために必要なのだ。だべりながらだらだらしていた俺たちに、そんな暇そうなお2人にも朗報がありますとフランカさんが1枚の羊皮紙を持ってきた。すっごい自慢げにその豊満な胸を張っている。
「ゴブリンの生態調査?? またゴブリンっ~~?? いやなんですけど」
「巴さんそう言わずに。こほんっ。お二人ともすでにお気づきのようにゴブリンで溢れてきています」
「今日も昨日も、多分明日もゴブリンだもんな」
「ええ、そろそろ時期的に頃合いですのでミッションを発行します。なんと金貨8枚です」
どうやら恒常のものをクエストといい。王都からの時限付きクエストを特にミッションというらしい。
「遊都さんは達は特殊個体の引きがいい」
「いや外れだぞ、出玉一緒で当たり確率低いんだあれ」
「遊都時々意味分かんないこと言うよね?」
「ですので遊都さん達にも大物がいそうな場所の特定をお願いしたいのですよ」
「大物?? 『耳なし』ならすぐ遭遇する気がするわ!」
「それ引き悪いだけだからな」
「でもそれはそれでありがたい情報なのですよ。とにかくこれで周知義務完了です。冒険者の皆様これより緊急ミッションを発行致します。報酬はなんと金貨8枚にもなりますっっ!!」
五分咲きの笑顔でフランカさんはギルドによく通る大声で宣言した。
「「8!?」」
俺と巴は目を見合わせた。王都行きにちょっと前進となる金額だ。王都に行くにはDランクの下級冒険者以上にならないといけないらしく、それの登録料には二人で金貨36枚が必要となるらしい。日本円で36万ぐらいの感覚だ。ゴブリンリーダー以上の撃破も条件の一つだが、貯金は今金貨24枚なので、金銭面ではこの報酬さえ手に入れればクリアできる。思わず食い入るようにフランカさんを見入ってしまう。巴も目が金のことしかない感じだ。ギルドが熱気に包まれる。フランカさんの手元の羊皮紙をひらひらさせるのに合わせて、ギルド中の視線も合わせて動くようだ。それほどまでに報酬が高い。
続いてよく通る声でフランカが注意事項を読み上げる。
「このミッションというのは特殊で失敗要件もあります。間違った情報を元に討伐隊を組織したら赤字ですからね。その場合罰金金貨5枚です」
その言葉に今や今やとフランカが張ろうとした羊皮紙をとろうとした男たちがすくむ。
「さあさあどなたかやってやろうという方はいませんか? ……いませんね?」
念を押すようにフランカは尋ねる。
「でも8枚だぜ、今からしっかり調査すれば……」
まだ迷っている男たちにフランカは大声で追い打ちをかける。
「そしてその期限は今日の17時までです!」
ざわっと動揺が広がり、なんだその糞依頼みたいな空気が流れる。
その様子をひとしきり眺めたフランカは嬉しそうに1度依頼を貼って、剥ぎ取る。
「では……今年も私が頂きますね」
フランカから殺気を感じた。
「ナガスは直近三ヶ月の討伐依頼を達成の有無は問わず持ってきて、レシアナは付近一帯の地図と指しピンを。用意した後はナガスの持ってきたファイルから『耳なし』だけ選り分けて。報酬はずむわよっ」
フランカの指示でギルドにあった楕円系のテーブルから、鏡が下ろされ、付近一帯の地図が広げられる。
「調査系依頼は……依頼があったその時に」
ナガスとレシアナと呼ばれた職員がフランカの指示に従い、地図に指しピンがトントントンとどんどん埋められていく。偏っているように見えるが時折見当違いの方に色違いのピンの集団も刺されていく。
「終わっているんです!」
フランカが一際でかいピンを空白地帯に突き立てる。
指し示した地点から漏れ出るようにゴブリンの撃破情報、目撃情報、依頼情報を指し示すピンが並んでいるように見える。他にも漏れ出るような空白地帯があるが、そちらには目もくれず位置を特定したようだ。
「これにて……ミッションクリアです」
「なんでそっちの空白ではなくて、そっち側にいるって確定できるんだ?」
はっ、そんなことと鼻で笑いそうなフランカさんが俺にどや顔で答える。
「遊都さんとアレクさんたちがたくさん倒してくれた位置情報がこちらになります。たしかにあふれ出るような箇所は3カ所ありますね。ただ2カ所に限って言えばこのゴブリンの親玉がいる可能性はないでしょう。この色のピンは遊都さんが倒してくれた『耳なし』になります。手傷を負って臆病になったゴブリンは知られていませんが群れの規律に従わなくなる傾向にあります。俗に言うはぐれですね。ですので、簡単な推理です。はぐれがいる一帯を外せばあとはゴブリン親玉がいる地帯になります。まあそれが何ゴブリンかまでは分からないのですが、この調査依頼はそこまで求められていません」
フランカが説明している間にもナガスとレシアナはピンを刺し続けていた。
それだけ撃破数が多いということであり、ゴブリンの数がそれほどの規模を誇るのだろう。
強気は弱気の裏返しの言葉があるように巴の顔色がピンの数が増えるにつれて悪くなっていっている。
「……何あの数??」
巴はかぼそい声でそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
やはり怖いのだろう俺だってそうだ。命のやりとりなんてものはサイコパスでもなければやっていけない今日は良くても明日がある。明日が終わっても明後日がある。命をベットして勝ち続けれるはずがない。それが力量差が明白でなければ一つの事実なのだ。
翳りの浮かんだ俺たちとは対照的に上機嫌なフランカが勝ち鬨を上げる。
「報酬は私の物。ギルド職員も副業が認められているのですよ!」
勝ち誇った顔でフランカは言う。
「ほーほっほっ。ナガスさん、レシアナさん行きますわよ、有給をとりに」
「今夜は豪遊ですっ!!」
高笑いとともにギルドの窓口が閉じられていく。
臨時休業の札がこんこんこんと掛けられていく。
奥からひょっこりフランカさんが声をかける。
「明日には討伐依頼発行しますからね。今夜はきちんと休んでください」
嵐のように去ったギルド職員に対し冒険者は圧倒されていた。




