第12話 討伐部位論争
「ごめんっ」
いきなり謝られた。
「ちょっとナイーブになってたみたい。昨日泣いてスッキリしたわ」
「もう迷わないし、全力で戦って、全力で地球に帰るわ」
「だからごめん」
「なんのことだよ」
「パチンコのことよ。パチンコをする人がみんな悪いわけではない。頭では分かっているけどなんかもやもやするのよ、だからごめん」
「握手ぅ、握手っ」
「さっ、切り替えて今日もゴブリン殺しに行くわよっ!!」
それから巴は少し打ち解けてくれた。
クエストを受注する日々は巴とアレクがやたら敵視し合っていた。
互いに張り切ってクエストをやっていたが、狩っていたゴブリンの数はアレクパーティーの方が圧倒的に多かった。巴はよく人が困っているだろう依頼を率先して受けた。いわゆる割に合わない依頼だ。金よりも優先している何かがあるのか……俺には分からない感覚だ。
「また1日1匹か。ふん、しけてんな」
「あらそういうアンタは経験値100倍なのにまだゴブリン? そんなにゴブリンに詳しくなってどうするの? ゴブリンの権威でも目指してんの??」
「そういうのは稼げてから言うんだな」
「でもネームドを狩ったのは私たちよ、あんたたちみたいに雑魚を相手にしないの」
「これを見てまだ文句言えるなら図太い女だぜ」
鼻をこすったアレクが言う。
どかっとテーブルにおろされる金貨袋。
アレクは経験値100倍のせいかゴブリンのいるところを経験として蓄積し、撃破数を増やしているようだった。こっちはそういった特殊スキルもなく差が開く一方だが、『耳なし』という特殊個体を撃破して討伐金が結構出たので、潤ったのだ。『耳なし』は討伐対象部位を剥ぎ取られたにも関わらず生き延びた個体で、より狡猾に用心深く、本当に非常に強かった。ずっと通常を引いてるような感覚はもう味わいたくない。
「私も探知系のスキルがあればいいのに」
すねる巴。
「ねえどうしたらゴブリン狩りであいつらに負けないと思う??」
「そうよっ!!ゴブリン絶滅させればいいんだわっ!!」
「種なしよ!!!」
ギルドに巴の叫び声が木霊する。
哀れむような眼で周囲が俺を見る。やめてくれ。
「種なしにすればいいのよ」
自分に頷く巴。
「フランカっ、フランカ聞いてっ私たちこの前ネームド狩ったわよね? あれってどういう条件で生まれた個体だった??」
「えー、ゴブリン狩りを生き延びた個体ですね。死んだふりだったか虫の息だったかはわかりませんが、窮地を切り抜けた魔物は強いです」
「そうなのよっ」
「それで思いついたんだけど。耳を狩るだけなら、耳だけを失った逃がしたゴブリンはどうなるの? 生き延びたゴブリンはさらに強くになるわ。成長するんじゃないの? 私覚えているのよ、生殖機能を失った蚊を放てばその群れの数は激減する……だから討伐部位は……」
「金玉にするべきよっっ!!」
「なりません王都で決められた事柄なので」
フランカにつべもなく拒絶される。
「なんでよっ!!」
「なんでも何もお金にならないからです。ゴブリンの耳なら王都が買い取ってくれますが、金玉に値段はついておりません」
「もういい」
巴が憤慨して言った。
それから数日はなぜか厨房に出入りする巴をみかけた。
なんか郷土料理を覚えているらしいと聞いた俺は女の子だなあとほんわかしていた……。
あのブツが目の前にあらわれるまでは!!
「遊都……わかったのよ、金玉が討伐部位にならないのは価値がないからだって」
「だから価値をあげてみたわ」
「ね? 遊都……一生懸命つくったの。わたしの気持ちがたくさん詰まった料理、食べてくれる??」
目の前には女の子の手料理としてまず選択肢があがらない。肉野菜炒めが湯気をあげていた。
食欲をそそるいい匂い醤油っぽい焼き加減も胃袋を掴んでくる。だがこれは食べたら駄目なやつだ。なぜかって? 俺の眼が! スキルが! 俺に絶望への道筋を指し示しているからだ。野菜、調味料……1つの食材を除いて俺の眼は全てを見通せる。だから視えないこれは食べたら駄目なやつだ。女の子の手料理。……だがこれは食べたら駄目なやつだ。
「はい、遊都。あ~~ん」
身を引いて無理無理と意思表示していると、勇者が現れた。
「なんだ食わねーのか」
もぐっと。アレクは巴から箸をぶんどって口に入れる。
「お、うめえじゃねえか。やっぱ俺の女にならねえか」
上機嫌なアレクに。よだれたらしてるスイ。ガーネットは「あなたそれ……」と青ざめた顔で指を指し示し口をつむんでいた。
「今までごめんね。お詫びに全部食べていいから」
すっごい愛嬌たっぷりに巴が喜ぶ。
「据え膳もくわねえなんてさすがおっさんだな」
かき込むアレクに「やめなさいよ」とガーネットが焦って止めるが、アレクは止まらない。
結局完食してアレクは満足げに去って行った。
「なあ、巴、やっぱ料理って味見とかもしたんだよな? ってことはお前も食ったんだよな?」
「食べたけどわたしは郷土料理を食べたわ」
「え? じゃあゴブリンは??」
「えっ? 嫌よ、わたしは」
すごい笑顔な巴を見て怖いと初めて身震いした。
次の日。ギルド。
「殺すっ。絶対おまえ殺してやるっっ」
「うまいっうまいっ」
馬鹿みたいなアレクの真似をして煽っている巴を見て俺は扉を静かにしめた。




