第九話 空から見る大陸北端
雨は上がり木の隙間から日が射し込んでいる。天気がいいのは良いことだ。ずっと暗いよりも明るい方が気持ちも上向いてくる。
俺は『世界樹』へ向かってみようと考えている。それをティラ子に伝えると、彼女もそっちの方向へ進みたいと考えているようで、俺たちは一緒に行動することにした。彼女が世界樹を目指す理由だが、
「グオオ! (あそこからは凄い力を感じるの! いい出会いがありそう!)」
と言っていた。
道中に関して、俺は無理に食べる必要もないが、獲物の追い込みなどで手伝おうかと提案した。彼女としてはどっちでもいいらしい。自分で戦ってもなんとかなるだろうし、今までも一人でやってきているから、本当に必要ないことなのだろう。
こちらから言ったことなので、状況に合わせて臨機応変に対応していこうと思う。嫌がられない範囲でね。
そういえばこの大陸北端についての全体像を把握していないことに気がついた。様々な環境が近距離で集合しているのだ。今後の探索の為にも把握しておくべきだろう。
ティラ子に一声かけて空に向かった。今までのように本能を我慢しすぎるのはやめたので、とてもスッキリした気持ちだ。
グルオオオオオッ!
身体中に魔力を漲らせ、雄叫びをあげながら飛んでいく。森の生き物がざわめく。巨大な首長竜は緑の隙間からこちらを見上げ、木々の中から鳥たちが羽ばたき逃げていく。
人間としての自分は「やっちまったなぁ」と嘆いているような気がするが、俺は今、めっちゃ気持ちいい。ドラゴンの本能を解き放つ! 己の存在を世界に示すのだ!
俺は閉じ籠っていた殻を破り、ドラゴンとしてやっと孵化した、そんな感覚を味わった。
空をかけ上がる。胸元や翼から赤黒い稲妻を迸らせ、羽ばたく毎に突風を生じさせながら突き進む。魔力の稲妻によって大気を掻き分けながら進んでいく。
いつも通りに上空10000メートルまで上がってから観察を始めた。この高さだと気温は寒そうだ。息が白くなっている。
ここまで来る理由は、かなり広い範囲を一度で見渡せるからである。今までの遠慮がちな態度とはおさらばしたのだ。
まず、俺が世界樹と名付けた巨木はとんでもない大きさだとわかった。恐らく4000メートルはあるだろう。他の木々が草花のようなサイズに見える。雲を突き抜ける大きさだ。
木というよりは山。富士山と同じくらいの存在感だ。気流が世界樹を通過したらフェーン現象でも起きてしまいそうだ。
内部には魔力の存在を感知できるが、それは俺の体内のものよりも膨大だ。そして光合成や呼吸をするように魔力も放出している。青々とした葉のサイズも数も相当だろう。
俺より魔力量が多いのは体のサイズの差によるものだと考えられる。もっと調べてみたいが、この木の研究は今度地上でたどり着いてから行うことにする。
――この巨木からは動物たちとは違うが、いきる意思のようなものを感じる。頑張って訓練すれば会話も可能かもしれない。
そして、それができたとすれば世界最強の一角はこの木かもしれない……。
世界樹に対する興奮は収まらないが、一度切り替えてその他の風景を見渡した。北極圏は主に6つの環境で分けられる。まずは俺とティラ子が歩いていた『大森林』、大森林の南は西3分の2が草木のないボロボロの『荒れ地』、東3分の1が『砂漠』となっている。
そして驚きなのだが、大森林の北側は西半分が吹雪の舞う『雪山』、東半分が絶え間なく噴火を繰り返す『火山帯』となっている。
さらに北側の北極点周辺地域は『氷河』に覆われているが、これは厳密にいうと大陸でない。氷の塊だ。
まるで別の土地の大自然がぶつかり合ったかのような、環境魔法をぶつけあったような歪な領域だ。
『大森林』には『世界樹』があり、その環境の中心的役割を果たしていると考えられるが、他の地域も同様の巨大なエネルギーが発見できた。
『荒れ地』には大陸の東にある俺の住居よりも巨大な『巨大岩』
『砂漠』には地上からではわからないだろうサイズの『蟻地獄』
『雪山』がある山脈には山々の頂上を覆い隠す動かない『巨大雲』
『火山帯』には標高8000メートルを越える『巨大火山』
『氷河』の中には海面からは一部しか見えていない『巨大氷山』
これらの超巨大なエネルギーの塊が、お互いを牽制するように魔力を放っている。『巨大雲』は宇宙から魔力を吸収している流れが見えるが、それ以外は地下からだろうか? だとしたら、俺が想像するよりも地下の魔力は大きなものだということになる。
今後は地殻についての研究をするべきだな。地下で繋がるエネルギーの流れがあるようにも思える。
ティラ子が言う通り俺が何かしなくても、環境に干渉する者たちはいた。これら6つの存在がそこにあるだけで『環境魔法』を使い続けていた。この存在たちは世界樹と同じように、理解することはできないが意思を感じる。
つまりその場で意識的に現象を起こし、環境を変化させているのだ
――これは星の意思なのだろうか? 何のためにその環境を作っているのか? 今は全くわからないが、コミュニケーションをとるために頑張ろうと思う。直接聞いてやるのだ!
とても面白そうだ!
直近の目的はこの魔力を出しまくる存在についての調査に決めた。
俺はティラ子を探し、地上に戻った。……彼女は摩訶不思議な生物を食べていた。全長8メートルくらいのトカゲっぽい見た目だが、毛のようなものが生えている、爬虫類と哺乳類を混ぜたような生物だ。額に10センチほどの角が生えている。
進化途中の突然変異だろうか?
「グルルル グルォ。(ただいま戻りました)」
もう俺たちは1つの集団、仲間みたいなものだと思うので声をかけてみた。
「グオオオ。(おかえり! 遅かったね。歩いてたらこいつが突進してきたからお先にごはんタイムにしちゃったよ)」
こんなに小さい生き物が20メートルの相手に挑むとは、珍しい気がする。
「グルル? (そんなに小さい生き物が向かってきたんですか?)」
「グワオ! (そうなの! いきなり真横からグサッと突っ込んできたんだよ。めちゃくちゃ速くて見えなかった)」
見えない程の速さってあり得るのか? 見てみないことにはわからないが、森の深部へ進むと様々なビックリ生物が出てきそうだ。入り口付近でさえ火を吹くギガノトサウルスがいたのだ。
しっかり警戒しながら進もう。
「グルルル。(危なかったですね。一筋縄ではいかなそうなので、ここからは気を付けていきましょう。空からの確認は終わったので私もついていきますから!)」
「グワオ! グオオ。(うーん、気にしすぎなくても大丈夫だと思うけどねぇ。ていうか、本当に空飛べたとはね! 飾りだと思ってたよ。そんなに大きな体で浮いちゃうなんて不思議だなぁ。飛んでる奴らって、皆軽そうな体してるのに)」
「グルルゥ。(体の中にある謎エネルギーを使って飛んでるんですよ。翼竜たちとは飛ぶ仕組みが違うんですけど、自分でもよくわからないです。私も不思議なんですよね)」
うまく話せないので適当に話してしまった。そのような他愛ない話をしながら歩いていく。道中は様々な生物から襲われたが、全て返り討ちにした。
2メートルの大きさのハチの集団は火炎放射で焼き払い、大きな角を持つ恐竜に襲われたときは俺が注意を引いてから飛び上がり、隙をティラ子が噛み砕く。
襲ってきた生物に対する遠慮は無くした。俺も生存競争に参加すると決めたのだ。
熊と爬虫類が混ざったような生物や風を起こす鳥など、数多くの生物に攻撃された。彼らは勝算が低くても挑んでくる。
まるで何かを目指すように、俺たちをも踏み台にして何かへ向かおうとしているかのように見えた。
ティラ子が夜を4回休んだ次の日、しばらく歩き続けてとうとう世界樹の目の前までたどり着いた。幅は数100メートルあるだろう。彼女も唖然と見上げている。
――これが、大自然か。俺は大きな体を持っていると思っていたが、間近で見るとそんなものはちっぽけだった。圧倒されてしまう。
もし人類が見つけたとしたら、神として崇める者もいるだろう。
……さて、世界樹さんの観察を始めようか。
地図とかあった方がいいですかね?もし必要であればやり方がわからないけどどうにかしようと思ってます。




