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第七話 北極圏の戦い②

 ティラ子は俺の後方で2頭のギガノトサウルスと戦っていた。俺は先ほど噛みついてきた1頭と、左右の後方から1頭ずつの計3頭と戦うことになりそうだ。

 この巨大肉食恐竜は5頭の群れのようだ。灰褐色の全長25メートルの体はまるで丘のようである。1頭でも恐ろしいが、群れになると大地が襲いかかってくるかのような威圧感だ。


 ギガノトサウルスは顎があまり強くはない。咬合力(こうごうりょく)はティラノサウルスの3割程度だ。強くないといってもティラ子の3割だ。3から4トンの力はあるので十分な脅威である。顔の厚みはティラ子の方があるが、長さはほとんど変わらない。


 なぜ俺とティラ子が同時に襲われたのかはわからない。恐らくたまたま近くにいただけだろうが、今は深く考えている場合ではない。三つ巴の戦いになると無駄に俺の体が削られかねないからだ。ティラ子は俺の体を引きちぎる力がある。

 なるべく近寄らず、触れないように立ち回る必要がある。






 以上のようなことをもっと端的に、瞬く間に考えながら戦い始めた。正面の1頭が睨みながらその巨大な顎で噛みつこうと飛びついて来る。

 それを防ぐために俺は鉤爪(かぎづめ)で殴ろうとしたが、左脇腹付近に鋭い痛みが走る。――同時に右の翼が引っ張られるような力が加わった。


 ――前の奴は(おとり)で本命は後ろの2頭だった。このギガノトサウルスはその巨体に似合わず正面から戦うことはしない。そもそもこいつらが群れを作る理由は、全長50メートルオーバーの巨大な首長竜を食料として狩るためだ。


 自分の体よりも大きな獲物を狙うときは、顎で噛み砕いたりするよりも、牙で皮膚や肉を切り裂き失血による体力の消耗を狙う。複数で取り囲み注意をひきながら、切り傷を無数に負わせ失血死へ至らせる。


 大型種の戦い方というよりは、長草草原で出会った彼らのような戦法に近い。すごく、戦いにくい。ものすごい、動きにくい。


 グルガアアアア!


 俺は雄叫びを上げながら、20メートル以上ある尻尾で辺りを思いっきり凪払う。彼らを弾き倒し距離をとりつつ、近くの木を倒したことで動きやすく整えたのだ。完全に環境破壊してしまっているので心が痛むが仕方がない。


 距離をとることで一旦仕切り直しだ――というところで更に後方から尻尾に衝撃を受けた。思わず後ろを確認すると、ギガノトサウルスが1頭倒れこんでいる。


 どうやらティラ子に投げとばされたようである。首についた傷もかなり深い。

 ここは今、大乱闘なのだ。

 後ろに目がないから全然把握できない。しかも俺は体が40メートルある分、(まと)が大きく細かい動きを認識しずらい。ドラゴンの体は周りに気を使った戦いが不得手なのだ。


 吹っ飛ばされてきた1頭は、起き上がる前に尻尾で元の方向へもう一度飛ばしてやった。たたらを踏んでいたところをティラ子が食らい付き、(くび)をへし折って止めを指した。一対一になればティラ子の敗けは無いだろう……。

 仲間を殺された怒りとこちらの強さに対する警戒か、敵の群れの殺気が強まる。


 邪魔だから退()けただけなのに意図せずアシストした形になる。……間接的とはいえ、俺は殺しに加担してしまった。

 ――元々戦いながら相手を生かすなど、難しいことだとはわかっていた。俺の爪は60センチもあって頑丈だ。事故で突き刺さったらどんな生き物でも致命傷になり得る。

 鉤爪の特徴として、地面に手をついたときに爪の先が地を(こす)らないよう上を向いている。それでもビンタすれば切り傷を負わせるのだ。


 ――思考に意識が持っていかれたとき、目の前を火炎が襲う。


 「グルアッ!? (うおっ!?)」


 思わず声が出てしまった。リーダーらしきギガノトサウルスが火を吹いたのだ。俺がやるときのように、爆発するような勢いで焔がぶつかる。草木にも燃え広がり辺りは煙と熱気で満たされる。

 俺以外で『現象』を起こす生物を始めて見た。熱耐性があるためダメージはないが、視界は奪われる。

 すかさず2頭が攻撃してくる。

 噛みついてはすぐに離れ、隙ができたところを別の1頭が噛みつく。とても優れた連携だった。俺の視線や動きをよく視ながら対応している。

 傷はすぐに塞がるが、体力は失われていく。





 俺はどうするべきなのだろうか――俺も『火炎放射』くらい使ってしまうか? それとももう殺さないルールなんて捨ててしまうか? そもそも長い生を過ごしてきたのだ……惑星観察と自分の研究は道(なか)ばだが、ここで惑星の子供ともいえる生命に殺されるのもありだろうか――


 グオオオオオオ!


 ――後ろから走りだしたティラ子が右後ろの1頭へ体当たりをした。重厚な壁に大型車が猛スピードでぶつかったような衝撃だ。風圧を体に受ける。それだけで大きな威力だったのだとわかる。


 この間に俺は前方へ突進し、爪を左にいるギガノトサウルスに突き立て、肩から腕へ引っ掻く。血液がじわりと(にじ)み出す。傷を負った恐竜は後ろへ下がりながらリーダーの方へ向かった。


 俺は、体に魔力を込めていく。体に魔力が巡っていく。怒りの感情とともに力が沸き上がってくる。胸の内からマグマのように沸騰しながら力が込み上げてくる。俺の体を赤黒い稲妻(いなづま)が走りだした。


 グルガアアアアアッ!!


 込み上げる衝動のままに吠えた。大地がビリビリと振動している。

 勝ち目がないと判断したのか、リーダーはティラ子に飛ばされた1頭を起こしながら、3頭でまとまって撤退していった。


 去っていったあと、俺は久し振りに『環境魔法』を使った。大地から魔力を吸い上げ、周囲の水分子を集めていく。さらに分子運動を加速させ、温度を上げ上空に雲を作った。そして雨が降り始め、徐々に火を消していった――






 俺は自分自身に怒っていた。戦うことが好きだと言っておきながら、生態系を壊すからとどんな者でも殺さないようにしようとした。自分に超圧倒的な力があるわけでもないのに、殺さずに倒せると考えていた。

 その結果、俺はただの優柔不断な軟弱者に成り下がっていたのではないか。


 (ドラゴン)は強い生物だ。しかし、この惑星の生物も同じく強い。まだ同等のものは発見できてはいないが、強いのだ。『俺は根本的に違う生物の気配がするからあまり干渉してはいけない』という考え方は無自覚に傲慢ではなかったか? 

 ドラゴンは強いが、俺は弱い人間だったのだ。


 あいつらは火炎放射を使っていた。俺が使うものとほぼ同じレベルだった。原理などは流石に知らないだろうが、本能的に使えるのだろう。今後はそのような生き物も増えていくかもしれない。

 俺と同じような『環境魔法』を使う生命体の誕生もあり得るだろう。


 魔法を使わないと縛っているが、そのうち同じレベルの技を使う生物も現れるかもしれないのだ。俺が決めたルールなど、独り善がりで決めたものであって現実が見えていない。今回も森林火災を鎮めるためとはいえ、環境魔法を使った。


 一度、本気でゆっくりと考えなければならない。俺の立ち回り方は、揺らいでばかりだ。とても生きにくい。野生で自由なはずなのに、生きにくい。


 ……今回の戦いはティラ子が戦況の決め手だった。俺はなにもしていない。状況に流されていただけだ。







 ティラ子は彼女が(ほふ)った恐竜のうち1頭を食べていた。やはりしっかり2頭を()っていたようだ。

 食べている彼女はゆっくりと俺に向かって振りかえる。そして語りかけてきた。


 「グオォ? (貴方も食べる?)」


 ……うん? これはどういうことだろう。彼女たちは基本的に自分の獲物を盗られることを嫌っている。奪おうとすれば戦闘は避けられない。何か意味があるはずだ。


 「グルォ? (何で私にくれるんですか?)」


 「グオ! グオオ。(え? 偶然だけど一緒に戦ったよね。共に狩りをしたならお互いに糧を得るべき。無駄働きは私達の種が一番嫌うこと。共闘した相手には相応の対価が必要なものなんだよ。それに2頭も食べきれないしね。いいから早く食べなよ)」


 「グ、グルゥ。(わ、わかりました……)」


 そう答えてしまった。ティラ子の言葉には有無を言わせない迫力がある。女王や女帝のような迫力だ。俺は流されただけである。俺がボケッとしている間に倒したのは彼女だ。俺に貰う資格なんて本当はない。


 そう答えてしまってから、あることを思い出した。俺、食べなくても生きていけるんだよ。食べないんだ。だから今まで腹の中に何かを入れたことなんて無い。食べたとして体に問題など起きるだろうか……。


 ――いや、起きないのではないか? よく思い出せば、俺は一度モノを食べているではないか! 産まれたときに卵の殻を食べている。あのときに、なにも起こらなかったのだ。食べても何らかの方法で分解され吸収されるはずだ!

 ……卵は広い意味で自分の体と近いから大丈夫だったとか、そういうことだったらどうしようか。


 それも大丈夫な気がする。卵の殻を食べたといっても、それに付着した砂なども一緒に食べているのだ。これは自分の体がモノを食べたときに、どのような反応が起こるのか確かめるいい機会ではないか。卵の殻を食べたときはそんなことを考える余裕が無かったが、今は違う!

 50億年近くたって初めて思い付くとは、なんとも間抜けだとは思うが仕方ない。


 生き物を生で食べることに忌避感は無かった。生まれ変わった影響だろう。初めて『食事』を意図して行う。高揚や不安を感じながらかぶりついた。

 鉄の香りとまだ残る体温の温かさが口腔(こうくう)内に広がった。


 あまり嫌な感じはしない。むしろとても好ましいと感じている。ドラゴンの根源的な欲求の何かが満たされている感覚がある。食欲ではない()()が満たされていく。

 この感情、感覚は何なのだろうか。食べ物がどのように消化・吸収されるのか調べるつもりだったのだが、新たな謎が生まれてしまった。

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