第六話 北極圏の戦い①
北極圏はかなり強力な生物達がひしめく魔境らしい。偵察君から聞くところによると、炎を纏った生物がいたり、周りを凍らせる物がいたりするようだ。草原地帯から抜けた所の荒れ地で争っていたのを見たらしい。
手前から隠れて見ていたので無事だったようだが、それを見たことで絶対に踏み込まないよう決めたらしい。
いきなりファンタジー生物だ。俺が魔法を使えるからいつかは同じようなことができる者も現れると思っていたが……。極点付近に集まっているとはなぁ。恐らく魔法を使うから魔力が濃いところを目指して集まったのだろう。
魔力の影響が色濃く出たことによる『突然変異種』といったところか。
俺の常識では理解できない世界が待っている。絶対に行くしかない。
本当はもう少しこの場でのんびりしていようと思ったのだが、早々に北極を目指すことにした――
◇
俺は群れに戻って会話したことや奴の情報を全て共有した。
「グルル。(俺達の暮らしぶりをメインで聞いてきたのか。食べないでも生きていけるとはな……。家族愛だとか友愛だとか、こちらの感性を調査して感動する。その割にこちらの事情は考えていない。結局攻撃してこないとわかっただけでその他は謎だな……)」
「ガウガウ。(北極の領域に向かうのよね? ここから出ていってくれるならあいつが何でも構わないわ。話を聞いた限りじゃ、確かにここにいるべき奴じゃないわよ。あっちの戦闘凶どもと気が合うでしょうね)」
「……グルルゥ。(……それにしても無理するなと言ったのに、話しかけてしまうとは。本当に肝が冷える……)」
「グワ! グワッ! (いやいや! あれがベストだったんだって言ってるじゃんかぁ。こちらを襲う可能性は低かったし、実際そうだったよ。危険地域の奴らはいつも殺気立ってるけど、あいつは雰囲気が違ったんだ。生物としての括りは似てるんだけどね。変な体してた)」
「ガウガウ! (頭のおかしさって意味でもあっち側の生物なんじゃない? 他の生き物の生活が気になるってだけで、時間かけて調べているんだもの。)」
「グルル! グルァ。(まあ去っていった者のことはいいだろう。実はまた問題が起きた。超大型のティラノサウルスのメスが現れた。こいつは繁殖期の気配がある。おそらくこの個体に釣り合うオスがいないから、強者を求めてさ迷っているのだろう……。このまま放置すれば北極に向かう可能性が高い。捕食範囲に入らないように立ち回ろう。)」
「グワ! (了解!)」「ガウ! (わかったわ!)」
元々ここには大きく強い生物が集まりやすい。更に北を目指す者達の通り道になることもよくある。だから見つからないように、怒らせないように立ち回ることで決まっている。
リーダーは考える。
北極に向かうのはあの翼の奴や今回のティラノサウルスだけではない。俺が子供だった頃もそれなりに強い奴らが北へ向かっているのは見ていた。
しかし、最近はおかしい。火を纏う生き物、北極の山にあるような氷を纏う生き物……。こんなものは見たことがなかった。
今何が起こっているのだろうか。これから何が起こるのだろうか。
……いいや、何が起こってもやることは変わらない。群れを存続させることだ。俺達は、俺達の子供達を守るのだ。俺達の妻を守るのだ。
俺達はより強くならなければならない。強者を喰らい、取り込み、次世代へと強さを繋いでいく。進化を目指すのだ。俺達が死んだ後も種を残すために……。
◇
私は東の大岩で出会った不思議な恐竜に言われた通り北に向かった。本当に今まで住んでいたところよりも大きくて強い生き物が沢山いた! これなら番になれるティラノサウルスにも会えるかもしれない!
私はどんどん進んでいく。番を得るまでは縄張りを決めない。周囲の匂いをかぎ、戦いの気配を探っていく。血の匂いを追いかける。一定の場所に留まらずに北へと進む。
私の前に立ち塞がるものは食い殺した。横から襲ってくるものも噛み砕いた。全てを打ち砕きながら突き進む。
自分の力はどこまで通用するのか試したい。かなり大きく強い恐竜が、『……も、もっと北へ行けばいい! 火山みたいな生き物だっているぜ? 俺みたいのなんかほっといて……』とかなんとか言っていた。私は自分のやることを他人に曲げられることが嫌いなので食べてやった。逃がしてと言われたら、逆に食べちゃいたくなるものでしょ。
私の血肉の糧となるがいい。私の強さの糧となれ。私は私の思うままに進むんだ。今までそうしてきたし、これからも変わらない。
……そういえば、あの不思議な恐竜は何をしているんだろう。かなりの強さを感じたけど、腹もいっぱいだったし優先順位があったから気まぐれに戦わなかった。
大岩にいたはずなのに、この北の大地のどこかから彼の匂いがする。彼も巣を出て強者との戦いに興じているのか。次に出会うときはどうしよう。戦って喰らいあうのだろうか。
……まあ、気にしなくてもいいだろう。戦うことになったら喜んで噛み砕く。彼は強者だ。戦って喰らえば更なる強さを得られるはずだ。
草原を進むと遠くの方に離れていく集団が見えた。私の進行方向の逆へ向かっている。……腹は満たされているしわざわざ狙う必要もないだろう。先へ進む。
長草の草原を抜けると、肌寒い荒れ地が広がっていた。その先にはもっと寒いはずなのに木が映えている地域が見える。雪が降っているところや、赤く光っているところもある。砂漠のような所も……。
……すごい。今まで見たことがない。色んな土地を合わせたみたいだ。ここなら私が求める将来の夫もいるかもしれない!
期待を胸に混沌の地を進んでいく。見慣れた森林にまずはむかう。そして――
◇
俺は荒れ地を進み、とりあえず慣れ親しんだ環境を目指して進んでいった。森林だ。ここは寒帯っぽいのだが、亜熱帯の様に木々が生えている。不思議だ。
しかし原因らしきものはすぐにわかった。森の奥に遠すぎて大きさはよくわからないが、超巨大な木が見える。そいつから魔力が滲み出ている。俺がやってしまった急激に宇宙や地上から引っ張るようなやり方ではない。
あの木はまるで大地や宇宙そのものだ。自然と魔力を放出している。……生み出しているのだろうか。近付いて見ないとわからないが、あれが魔力が濃い原因であり、木々に何らかの影響を与えていると考えられる。
あの木は便宜上『世界樹』とでも名付けようか。心踊るっ!
周囲の木を見ると、大地から魔力も吸い上げている気配がある。おそらく世界樹も同じような仕組みで魔力を吸い上げ、周囲に少しずつ放出しているのだろう。もしかしたら自分で生み出しているのかもしれないが、後者は可能性が低いと思われる。
魔力は元々宇宙にあったもので、アースにはなかった。今は地下からわき出ているが、それは何らかの原因で惑星誕生の際に宇宙の何かを取り込んだのだと思っている。地学の知識からすると46から48億年くらい前かな、詳しくはわからんが……やたらと魔力で遊んでたし、そのことが関わっていそうな嫌な予感がする。
――考えるのを止めた。
唐突に周囲の空気が張りつめた。
なんだこれは。今まで感じたことのないレベルの存在感……。そして喉元を食いちぎられたかのように感じる殺気……。
俺みたいな鈍い奴が存在を感じている。これは、やるしかないッ!
俺は草木が密集した気配のする所へ突進する。
俺の体重で衝突されたら無事では済まないだろう。
だが、同時に向こうも顎を大きく開けて食らい付いてきた。頭付近に噛みついた恐竜を確認する。全長25メートルはある『魔恐竜ギガノトサウルス』だった。
この恐竜はティラノサウルスよりもサイズが大きく、その力もかなり強力な生物だ。体はとても頑丈そうである。顔の長さはティラ子よりは小さいが、それでも3メートル近くはありそうだ。
口の中から火花が散っている……。こいつは腹のなかに火種を持っている可能性がある。始めての魔法を使う生物との戦闘になるようだ。
こいつらの気を付けなければならない点は身体性能だけではない。群れを作るのだ。集団で襲いかかり、大きな首長竜すら切り裂き狩り殺す。俺をその首長竜の一種だと思ったのだろう。一体だけに構ってられない!
周囲に注意を向けたその時だ。
グオオオオオオ!
群れの一部だろうギガノトサウルスとティラ子が戦っていたのだ。
なんだこのカオスな戦場は……。
怪獣大乱闘が始まります!




