6話
その夜。王城の一角にある国王の執務室には、重々しい雰囲気が漂っていた。
部屋に集まっているのは、国王アルベルト、第一王妃エレノア、第二王子のジュリアン、そしてアルフレッド王国近衛騎士団長であるヴェイン将軍の4人だ。
長男のレオハルトと次男のジュリアンは、昼間にルシアンから手渡された二本の剣を机の上に並べていた。
「……で、これがルシアンが『魔法の実験』とやらで手を入れた剣か」
国王アルベルトが重厚な面持ちで一本を取り上げ、刀身を改める。
隣に立つ近衛隊長ヴェインが、静かに自身の愛刀を抜き、訓練用の鉄くずを机の脇に用意した。
「失礼いたします、陛下」
ヴェイン隊長がルシアンの付与した『切れ味保存』の剣を振り下ろす。
カツン、と鋭い音が響き、分厚い鉄の塊が紙のように滑らかに切り裂かれた。
刃先には傷一つなく、研ぎ澄まされた光を放っている。
続いて、もう一本の『耐久固定』の剣に向かって、ヴェイン隊長が全身の魔力を込めて自身の銘刀を叩きつけた。
ガァンッ!!
激しい金属音が響き渡り、部屋に火花が散る。
結果は——ヴェイン隊長の銘刀の刃がわずかに欠け、ルシアンの「元・安物剣」には指先ほどの傷すらついていなかった。
「……あり得ん」
近衛隊長ヴェインが、慄くように呟いた。
「この剣の元身は、市井で数千銅貨で買える粗悪な鉄です。それにルーンの刻印もなしに、これほどの高密度な付与を施すなど……宮廷筆頭魔導師でも不可能ですぞ。それを、わずか5歳のルシアン様が……」
部屋に静寂が訪れる。
昼間、ルシアンから剣を受け取ったジュリアンが、複雑な表情で眼鏡のつるを上げた。
「ルシアン本人は『市井の職人からもらった剣で遊んでみた』と無邪気に笑っていました。……ですが、あの読書スピードといい、今回の件といい、ルシアンの頭脳と魔力はすでに大人の、それも国家最高峰の英知を凌駕しています」
「うーむ……」
国王アルベルトは腕を組み、深く唸った。
「5歳にして国家の宝になり得る規格外の才能……。だが、あ奴は第三王子だ。王位継承権の争いに巻き込ませたくはないし、何より諸外国にこの才能が知られれば、暗殺や拉致の標的にされかねん」
「ルシアンは、本当に優しくておとなしい良い子なのです」
母である王妃エレノアが、心配そうに胸に手を当てて言った。
「あの子が望んでいるのは、権力でも名誉でもなく、ただ純粋に本を読み、魔法を学び、自由に過ごすことのようですわ。……その無垢な芽を、大人の都合で摘みたくはありません」
「……確かに」
アルベルトは溜め息をつき、手の中の剣を見つめた。
「天才すぎるのも考えものだな。本人が政治や戦闘に興味がないのが救いだが……この溢れ出る才能を、一体どう扱ったものか……」
家族と近衛隊長が「ルシアンの凄まじすぎる才能」と「その将来」について頭を抱えて真剣に悩んでいるとは露知らず。
当のルシアンは自室のベッドで、「明日はどの職人街に行こうかな」「無限収納から醤油を出して卵かけごはんが食べたいな」などと能天気に考えながら、すやすやと幸せそうな寝息を立てているのであった。




