5話
朝食が終わり、父や母が公務へと向かった後。
ルシアンは市井の鍛冶屋からこっそり持ち帰っていた二本の「元・安物剣」を抱え、王城の屋外訓練場へと向かった。
快晴の空の下、訓練場では長男のレオハルト(18歳)が汗を流し、その傍らで次男のジュリアン(14歳)が休憩を挟みながら兄の剣技を観察していた。
「レオハルト兄様、ジュリアン兄様!」
小さな声で呼びかけると、激しく剣を振るっていたレオハルトが動きを止め、爽やかな笑顔を向けた。
「おや、ルシアンじゃないか。どうしたんだい、そんな大きなものを抱えて」
「ふふ、また図書室の帰りか? ん……? その手に持っているのは訓練用の剣か?」
ジュリアンが不思議そうに眼鏡の奥の目を細める。ルシアンは二本の剣をそれぞれ二人の兄へと差し出した。
「これね、お散歩のときに市井の職人さんからもらった練習用の剣なんだ。
僕がちょっと魔法の実験をして遊んでみたから、お兄様たちの練習に使ってもらおうと思って!」
「ルシアンが魔法の実験を?」
レオハルトは面白そうに目を見張ると、差し出された一本の柄を握り、ゆっくりと抜刀した。
その瞬間、第一王子として数々の名剣に触れてきたレオハルトの表情が一変した。
見た目こそ平民の使う安価な鉄剣だが、手にした瞬間に伝わる重量バランスの異質な安定感、そして刀身から静かに漂う高密度の魔力。
「……な、なんだこの剣は!? 刃の硬度が異常だ。どれだけ打ち合っても絶対に折れないし、刃こぼれひとつ起きそうにないぞ……!?」
「僕のはね、ジュリアン兄様!」
ルシアンはもう一本の剣をジュリアンに手渡した。
「そっちの剣は、どれだけ使っても研ぎ直す必要がない『切れ味保存』の付与をしてみたの。練習でたくさん使っても、お手入れがいらないんだよ」
ジュリアンが半信半疑で木偶に向かって剣を軽く一閃させると、抵抗感すらなく木偶が真っ二つに崩れ落ちた。ジュリアンは息を呑み、絶句した。
「……あり得ない。付与魔法は専門の付与師が何日もかけてルーンを刻むものだ。5歳のお前が、おもちゃ遊びの延長でこんな領域の付与を……!?」
頭脳派のジュリアンが驚愕で固まる中、大剣豪でもある長男のレオハルトは、驚きを通り越して破顔した。
「ははは! そうか、そうか! ルシアンは本当に凄まじい天才だなあ!」
レオハルトはしゃがみ込むと、ルシアンの小さな頭を「よしよし」と愛おしそうに、大きな手で力強く撫でまわした。
「兄さんのためにこんな素晴らしい練習道具を用意してくれたのか。ルシアン、ありがとうな!」
「ううん、お兄様たちが使ってくれたら嬉しいなと思って」
(本当は付与魔法の分子構造化の実験がしたかっただけなんだけど……喜んでもらえたなら結果オーライかな!)
ルシアンは頭を撫でられながら、満足そうに目を細めるのだった。




