3話
市井を抜けたルシアンの足は、王都の郊外に広がる「静寂の森」へと向かっていた。
一般的な大人や冒険者にとって、この森は獰猛な魔物が潜む危険地帯だ。
しかし、5歳の第三王子ルシアンにとって、ここはまさに探求心を満たしてくれる「お宝の山」にほかならなかった。
「うわぁ……本で読んだ通りの植物がそこら中に生えてる!」
一歩森へ踏み入ると、ルシアンの目は宝石を見つけた子どものようにキラキラと輝き始めた。
完全記憶のスキルのおかげで、王城の図書館で読み漁った何百冊もの植物図鑑や魔物図鑑のデータが、目の前の景色と一瞬で合致していく。
「これは『月光草』だ。夜にしか開花しないって本には書いてあったけど、根っこに魔力を少し注ぐと……ほら、昼間でも綺麗な青い光を放ち始めた。この根の抽出液が、あの薬師の言っていた高級ポーションの主原料になるんだな」
ルシアンは小さな手で丁寧に月光草を掘り起こすと、そのまま『時間停止付き無限収納』の中へと放り込んだ。
採取した瞬間の最高の鮮度と魔力含有量が、時が止まった空間の中で永遠に保たれる。
市井の薬師が見たら目を出んばかりに驚くような保存方法だ。
さらに森の奥へ進むと、木の陰からガサガサと音がして、体長1メートルほどの低級魔物「ホーンラビット」が飛び出してきた。頭部に小さな角を持つ、初心者冒険者用の獲物だ。
「ちょうどいい、魔力の出力調整の実験台になってもらおう」
ルシアンは慌てることなく、指先にほんのわずかな魔力を集中させた。市井の職人たちの手元を観察して閃いた「極小・高密度」の生活魔法応用技だ。
「『エア・カッター』——じゃなくて、もっと細く……『針状風圧』」
シュッ、と微かな風切り音が響いた瞬間、ホーンラビットの眉間に目に見えないほどの小さな風の針が貫通し、魔物は苦しむ間もなく倒れた。
「よし、必要最低限の魔力で仕留められた。余計な傷をつけないから、お肉も毛皮も綺麗に残るな」
ルシアンはすばやく小さなナイフを取り出し、ホーンラビットの胸元から小さな赤い「魔石」を抜き取った。
「これが魔物の動力源であり、人間社会のエネルギー源……。火属性の魔石か。さっきの武器屋で見た火付与の刀身にも使えそうだし、城の隠し部屋で地球の醤油を使って炒め物をする時の熱源にも使えそうだ」
手に入れた魔石、綺麗な毛皮、そして希少な薬草。
ルシアンにとっては、森で手に入るすべての素材が新しい知識と実験の材料だった。
(薬草の精製も試したいし、魔石の波動分解もやってみたい。やりたいことが多すぎて、全然時間が足りないよ!)
戦闘で強くなるためでも、王家としての功績を挙げるためでもない。
ただ純粋に「この世界の仕組みを知りたい」という好奇心だけで、5歳の王子は森のお宝を効率よく回収しつつ、密かに自らの魔力タンクと技術を高めていくのだった。




