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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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本当の気持ち

日付が変わり夜も更けた頃。リアンは部屋で書き物をしていた。寝室にてソーラは眠っている。


「……ふう。」


ある程度キリの良い所までと思っていたが中々どうして止め時が見つからなくなってしまっていた。気分転換に飲み物を取りに行こうとしたのだが、冷蔵庫の有る場所へ行くにはシドが眠っている場所を通らなければならなかった。


「……そっと行けば、大丈夫かな。」


迷ったが暗い中をゆっくり歩けば起こさずに飲み物を取れるだろうと思いリアンは部屋を出た。……ドアもそっと開けた。


……


長年住んでいる自分の部屋だという事もあってか月明かりの光程度でも迷わずに冷蔵庫まで進むことは容易い。……歩いているとシドの影を見つけた。……横になって眠っているのだろう。起こさないように特に気を使ってその場所を通過する。


冷蔵庫からミネラルウォーターを手に取りリアンは部屋に戻ろうとした。……その時だった。シドの声がしたのは。


「……ふうむ。パジャマ姿はやはりいい。」


「!?」


通過するときにはリアンに背を向けて寝ていたはずのシドがいつのまにかこっちを向きながらそんな事を口走ったのだ。


「月明かりに照らされた柔らかな衣服に体のラインがくっきりとしていて実に風流だ。」


……起こさないようにと気を使った自分がバカらしく感じたリアンであった。


「……セクハラは癖なんですか?」


「いいものはいいだろうが。俺は正直なんだ。」


悪びれもせずそう言うとシドは起き上がり上体を起こした。


「……あの子がどうしてあなたの事を信用しているのか本当に理解できません。……親友だからこそ、友達はちゃんと選んだ方がいいと言ってあげた方がいいのでしょうか。」


「あいつはしっかりしてるだろうが。それはお前がよく分かってるはずだ。そんな変な奴を信用したりする奴じゃないだろう?」


「……貴方と出逢うまではそう思っていました。でも時には信じられない過ちを犯す事だってないとは言い切れません。」


「人を信じられない過ちって言うもんかね。」


……ソーラの手助けをしてくれたことはもちろん感謝に堪えないのだが……それを差し引いても言動行動にマイナス部分が多くて未だにいい評価とはならないシドなのであった。


……


「一個聞きたいんだがいいか?」


「……急になんですか?」


「お前のスリーサイズを……」


「……(怒り)」


おおう……オーラが……オーラが満ちる。俺にもわかる程度には怒りが充満している。


「どうせそんな事だろうと思いました。……そんなもの教えるわけないです。」


「うそうそ。ちょっとしたジョーク。」


「そういうの、ジョークじゃなくてセクハラですからね。不快感を与えるのがセクハラ。場を和ませるのがジョークですから。」


「ほんとの事を言うとな、正直俺は少し面喰ってるとこもある。よくもまあ俺の思いつきをすんなり承諾したもんだってな。」


昨日今日やって来た奴に大切な友達を任せようってのもちょっと俺からすると信じがたい所もある。自分で言うのもなんだが俺の信頼度なんて大抵の人間は大きく下に位置しているのだろうから。


「ソーラの望みと、あなたの望みが一致しただけです。引き受けたからにはしっかり働いてくださいね。」


「おう。大船に乗った気で待ってろ。」


「……本当に、口は本当に立派なんですね。」


「はっはっは!!」


シドは上機嫌だったが、意外にもリアンも不快なやり取りではなく笑みをこぼしていた。二人で笑いあう。


「……出会って間もないけれど、なんとなくあなたはそこまで悪い人ではないのかもしれないと思っています。」


「そこまでってなんだ。そもそも俺は悪い人寄りじゃないぞ。」


「いえ、悪い人寄りです。それは絶対です。譲れません。」


何を根拠にそんな事言えるんだ。


「そういや、一つ気になったんだが、この部屋に来て最初に頼まれごとをされた時、お前、自分は精霊術の研究をしてるって言ったよな。……まだ出会って間もない俺にそんな事打ち明けてよかったのか?」


俺が思う以上に精霊術にまつわる奴らってのは肩身が狭いのだと知った。出会ったばかりの俺にそんな事を言って俺が言いふらしでもしたらどうしていたんだと疑問に思って本人に聞いてみる事にした。


「あなたにしては、真面目な話ですね……何か、あったのですか?」


「真昼間にクソみたいな奴らに会ったせいでそう思っただけだ。」


正直その場で斬りかかってやろうかと思ったが流石にソーラに止められるのを振り切ってまでやる程のメリットも無かったからやめた。周りに誰も居なかったら絶対にやっていたが。


「……言われてみれば、そうですね。どうしてでしょう。今思えば軽率だったと思いますが……何でしょうね。あなたのせいです。きっと。」


薄く笑いながらそんな風に言われた。何が俺のせい?


「この国では……いえ、もはやこの時代において精霊術師なんてもの、疎まれる存在でしかないでしょう。あなたはこう思っていますか?どうして私が隠れて精霊術の研究をしているのか。」


「……思ってはいるが、だからと言って話せと言うつもりもない。けどお前が話したいなら俺は聞くがな。夜更けに可愛い子と話すのは楽しいからな。」


ふざけた言葉を並べては見るが口調は真面目なつもりだ。リアン自身もこれ以上隠し事をしているのが嫌なのだろう。だから今隠しているそれを打ち明けようとしているのだと俺は感じた。


「……私が公に研究をしていることを明かせば、周りは決していい顔をしないでしょう。……そうなればここでの研究だってやり辛くなります。……たとえ嫌であっても、従わなければいけない事です。それが組織と言うものです……簡単な理由ですよね。でもあなたからすればそんな嫌々従ってまでやるなんておかしい、って言うんじゃありませんか?」


……昼間あったあの男だってそうだ。やりたい事をやるために組織ってもんの力を必要として入ったはずなのに気付けばやりたくもない事をやり続けなければならない。……それは間違った組織だ。


「……まあ、全然分からないわけじゃないってのが本音ではある。ただ自分だったら嫌だ。」


「……精霊術は、私にとってとても大切な、私の全てなんです。……その為なら、なんだってかなぐり捨てても構いません。精霊術は……とても素晴らしい力です……それなのにこの国は……」


憎々しい口調でリアンは語り始める。それは、これまで表に出さなかった彼女の闇の部分だったのかもしれない。


「精霊術が廃れていったという話を覚えていますか?」


「なかなかなれないってのと……精霊術を研究していた奴らが徐々に魔法の方へと移り変わっていったとかだろう?」


「……あれは、真実の一部に過ぎません。一部の精霊術師たちはそれでも研究をつづけ、自らの力に磨きをかけていきました。なぜそこまでするのか。精霊術師はその才能と努力によって得た力で人々を幸せに導こうとしていました。……ですが、結局はその才能をねたみ、そして恐れた者達の手によって、皆死に追いやられたのです。」


「死に追いやられた?」


「精霊術師たちの悲願はただ一つ。その力で人々の幸せの為に。……その気持ちを皆は踏みにじったのです。あれはそう……ずっと昔、百年以上昔の話です。魔物の大群が突然どこからか現れたそうです。……そう、このゴーバスの地に。原因は分かりませんが、当時の国の軍では太刀打ちできないほどの大群が。……人々は嘆き悲しみに暮れました。……ですが、その時すでに日陰者だった精霊術師たちは今こそが立ち上がる時だと決起し颯爽と現れました。わらにもすがる思いで国は邪魔者扱いしていた精霊術師達の力を借りる事にしたのです。命を削り、途方もない数の敵たちに勇敢に立ち向かった精霊術師たちは魔物達を少しずつ退けていきました。……そして一人また一人とその命が奪われていきました。」


「……少しずつ、見えてきたな。」


「はい。いいように道具扱いで使い捨てられたのです。結局魔物達の力が弱まったところで国の正規軍が動き事を鎮圧しました。……信じられない事に、正規軍の犠牲者よりも精霊術師の犠牲者の方が多かったのです。……だと言うのに、散っていった彼らに対して労りの言葉や行為など何一つ与えず、それどころかあまりにも強力な力の危険さを説いて更にあたりを強くする始末……これが同じ人間のやる事でしょうか。彼らは誰のために戦い、散っていったのか。……その想いが報われるはずがありません。」


……カラリーサ達の時もそうだったが、昔ってのはどこまで後ろ暗い過去を秘めていると言うのか。今に生きる人にまで残る程の傷跡を残すなんてほんとに迷惑な先人でしかない。


「……私の父は強力な精霊術師でした。……もう今となっては意味のない事ですが、父の精霊術師としてのレベルは6……そんな素晴らしい才能もこの時代においては役に立たせることを許されませんでした。……精霊術師としての道を選んで生きていくには、とにかく辛い世界だったのです。」


「普通ならばどんなスキルだろうと6なんて世界中を探したってなかなか居ないもんだ。称賛されてもいいぐらいなのにな。」


「でも、父はそんな事は関係ないと。認めてほしいと思うならばその人間に媚を売れば簡単な事だがそれをしては本当にやりたい事への道がぼやけてしまう。人の命は短い。回り道をしていられないほどに。誰に何を言われようと関係ない。自分がやりたい事をやっているだけなのだから。認めてもらえなくてもいい。自分が納得できる生き方をするんだと。……私なんかよりずっとずっと、馬鹿正直で真っ直ぐな父でした。」


……ふん。男だがそいつの言ってる事は正しい。少なくとも俺もそう思っている。


「いつもいつも家を空けては精霊の地へと赴き、戻って来てはまた次の旅の準備と……忙しい人でした。そんな父を、私は誇りに思っていましたが、周囲の目はそうではありませんでした。……幸いと言えるのかわかりませんが私がその被害に遭う事はありませんでしたね。……むしろ、同情の目に晒されていました。精霊術師の親なんて持って可哀そうに……親は選べないからねなどと……今思い出しても腸が煮えくり返る思いです。……父は皆の為に命がけで努力をしているのにその父にどうしてそんな言葉を吐けるのか。……称賛しろとは言いません、ですが罵倒を受ける謂れなんてありはしません。そして、そんな父が居なくなったのが、十年前の事です。……いつものように精霊の地へと赴き……そのまま、帰って来ませんでした。」


十年……。死んだという言葉を避けるのは、もしかしたらまだ生きているかもしれないという希望を託したものなのかもしれない。……だが、皮肉な事に、もし死んでいたならばそれを確認する術はもう失われている可能性が高いだろう。何一つ残らなければ必然的に。……そうなった場合一生その苦しみを抱きながら生き続ける事になる。……個人的には、俺はしっかり受け止めて次に進むべきと思うが、そればかりは人それぞれか……


「一人残されたお前はどうなった?」


「精霊術師である父などを持ちそれに振り回され挙句の果てに独りぼっちになった少女。……同情を買うには十分でした。私はそれをあえて武器にしました。……身寄りのなくなった私でしたが、この魔法研究所の施設へと身を置くことが出来たのです。……ふふ、父が聞いたら、きっと怒るでしょうね。精霊術師の仇の様な場所へと所属するなんて。」


「生きてく為に精一杯やったんだろ。お前は。お前の親だってそんな事分かってるに決まってる。」


「……ここまで聞けば、あなたに私の目的が、分かりますか?」


「……復讐、か?」


これまでの話で憎しみの気持ちはありありと伝わってきた。吐き気を催すほどの事をしてでもここに居るのはそういう事だとしか思えない。


「そうです。……父の、いえ、ひいてはこれまでの過去の全ての精霊術師たちの悲願なのです。……人々を幸せにするためなのではなく、人々へと力を知らしめるために。……必要のない謂れを受けてきた私達にはその権利がある。……そう、思っていました。」


「?」


「今言ったことは、紛れも無く当時の私が思っていた事です。魔法研究の傍ら、陰で精霊術の研究を進め、ていたある日の事。そう、今から五年前の事になりますか、ソーラと私が同じ道を歩み始めたのは。」


……彼女の記憶に残るその彼女の姿。もし出逢っていなければ、きっと今でも復讐心に取りつかれた鬼となっていたに違いないであろう自分の道を変えた彼女の存在。それを今この瞬間再び回想していた。

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