一日でも早く立派になるために
「精霊って他にも居るんだろ?」
「?ええ、それはもうたくさん。各地に存在していると言われています。」
「んじゃ、さっさと次の精霊と契約しに行こう。」
「え……え?」
「いつかは契約に行くんなら早い方がいいだろうが。」
「……でも、まだ私は一人で旅立つことも出来ませんし……」
「俺が一緒に行ってやるっての。」
「え、え。本当ですか?」
「急にそんな事言いだすなんて。何か裏でもあるんですか?」
「あのリムルって精霊が思いのほか可愛かったからな。顔は良く見えんかったが。きっと他の所に居る精霊もあれ以上に可愛いに違いない!だから契約のついでに精霊に会いに行くんだ。」
「……本気なんですか?」
正気とは思えない目で見られてしまった。
「闘技大会はどうするんですか?」
「まだ始まるまで時間はあるだろうが。それまでやれるだけやればいい。昨日の精霊だって一日で終わったんだ。後十日あれば十体と逢えるって事だろうが。」
「そんな簡単にはいきません。他の精霊達達との契約にはきっと何らかの試練があるに違いありません。ソーラをあまり危険な目にあわせるわけには……」
「いえ、シドさん……私と一緒に精霊との契約の旅、付き合ってくれますか!!」
「ちょ……!ほ、本気なの?」
「……昨日、精霊術師にようやくなれて、私は安心しました。……でもこんなのまだスタートラインなのです。精霊術師なんて名前だけで、私はまだ何にも出来ません。シドさんの言う通り、こんなところで休んでなんかいちゃいけないのです!!一日も早く凄い精霊術師になって、リアンの役に立ちたいのです!!」
「ソーラ……あなた……」
「……」
その真剣な眼差しを、誰が止められようか。
「……分かった。もう、止めない。……行くからには、しっかりやりなさいね。」
「……!!はい!!」
二人で会話を交わした後、リアンは俺の方へと顔を向ける。
「……あなたが突然やって来て、こんな事になるなんて。……良かったんだか、悪かったんだか分からないです。」
「良いに決まってるだろう。ソーラはこれから立派な精霊術師になるんだぞ。嬉しくないのか?」
「……全く。嬉しいに決まってるじゃないですか。……ソーラの事、しっかり守ってくださいね。」
「おう。」
「……結構な旅になるだろうから、今日は支度をして明日旅立つといいわ。」
「はい!!では!街に出て必要な物を買い集めてきます!!忙しい忙しいです!!」
「俺も一緒に行くぞ。」
必要以上にテンションの上がるソーラだったが、その買い物に俺は同行する。
……
「それにしてもシドさん、そんなに私の為に手伝ってくれるなんて、私にホの字ですか?」
「日中から寝ぼけた事言ってんな。」
二人で馬鹿な話をしながら街を闊歩する。……周りの視線はどことなく刺さる物だった。なるほど、こういう事か。周りを見ればこっちを見てひそひそ話をしてるような奴らばかり。……気に食わないな。
「何見てやがんだ!」
「べ……別に見てないよ!」
「だらあああ!!!」
「あがっ!!!」
俺はその内の一人に蹴りをかます!
「し、シドさん何してるんですかー!!そんなことしちゃダメですよー!!」
「ふん、いい気味だ。」
それからというもの、俺が睨みをきかせると誰も視線を合わせようともしなくなった。群れてこそこそとしか動けない奴らなんてしょせんこんなもんだ。
「シドさんって、情緒不安定なんですか?歩いている人に突然キックなんてしちゃいけないんですよ?」
「んなこたぁ分かってるわ。」
「分かっていてやるなんてダメですよ。分かってたらやっちゃダメなんですから。」
「ふん。いいからさっさと買い物を済ませるぞ。」
「あ、そうですね。後はえっとえっと……」
「おや、お前は……」
「あ、どうもこんにちはです!」
不意に眼鏡をかけた男が後ろに女を二人引き連れて話しかけてきた。……目が、何となく気に食わないな。
「研究所のお荷物でも挨拶ぐらいは出来るのだな。いっそ何も出来ない方が可愛げがあったかも知れないものを。」
「そうよね。何にも出来なかったら実験の役に立ったり出来るもんね。中途半端って一番始末に困るのよね。」
「アナタみたいな役立たずを世話しているリアンさんの苦労が忍ばれますよ。」
「そういえば聞けばとうとう精霊術師になったとか。本当におめでとう。これでやっとお前の様な人間でも国の役に立てるようになったわけだ。これで無駄だった命も少しは役にたてられる事だろう。」
聞くに堪えない罵詈雑言がそこにはあった。だが、当のソーラは表情を一切崩さなかった。
「……その通りです。私はこれまで何にも出来ませんでした……だから!今度はきっとリアンの役に立ってみせるのです!……リアンの役に立って、それが出来たら、皆さんの役に立てるようになりたいのです!」
「何言ってんだ……お前なんかが役に立てることなんてあるわけないだろうが。この時代に精霊術だ?お前が出来る事なんてこの世界には無いんだよ!」
「あなたなんて早く居なくなってしまえばいいのよ。本当にいるだけで迷惑。まだ家畜の方がよっぽど有能だわ。」
「おうおう、汚ねえ奴らが汚ねえ台詞を汚ねえ声で吐いてやがる。耳が腐る。」
「なんですかあなたは?」
「あ?」
見て分からないのかというように俺は睨みを利かす。……所詮こいつらは数でしか優位に立てないような奴らだ。自分に立ち向かってこないような相手を狙って憂さ晴らしするようなクズ共に違いない。
「シドさん!そんな酷い言葉言っちゃいけないのですよ!」
「……とっとと消えろ。……殺すぞ。」
当人がそういうんじゃ仕方がない。……俺は大人しく剣を抜いて平和的な言葉を投げつけた。
「な……何だって言うんだ!!野蛮な奴め!……もう行こう!」
「何なのよあの人……頭おかしいんじゃないの?」
クズ共はすごすごと逃げていく。……結局何の為に出てきたんだあいつらは。ただフラストレーションがたまっただけで何の利益ももたらしはしない。
「シドさん怒りっぽ過ぎますよ!牛乳をたくさん飲むといいですよ。一日二本位飲むとなお良いです!」
「……じゃ、買ってくか。」
「はい!朝と夜にでも飲みましょう!」
何事も無かったかのように俺達は買い物を再開する。……もう周りからの視線が痛いのはどうでも良かった。
……
買い物を終えた俺達はリアンの所に戻り身支度を整えた。それを終えた頃には夕方になっていてそのまま食事を終えて一息ついたのち精霊の情報を聞いてまとめていた。
「どこに行けば精霊は居るんだ?」
「そうですね。寒い地方の場所には氷の精霊、暑い地方の場所なら炎の精霊と言うのが一般的です。」
「ウズックとかサッコロとかか?」
「そうですね。資料によるとやはりその地方で精霊との契約をしたと言う記述があります。」
ほんとはあんまり気温差が激しいとこは行きたくはないんだが、この際仕方ないだろう。
「二人が出かけている間に作りました。この地図の部分がおそらく精霊が居るのではないかという場所になります。」
この大陸を描いたその地図には何か所か赤いマークが行われていた。
「ふーん。……流石に全部回るのはなかなか骨が折れるな。」
「期間的にもそれは無理です。無理せず一体を目標にしてもらえればそれで十分です。余力があれば次の精霊をと言った感じですね。」
「明日が楽しみなのです!」
「……遊びじゃないんだから。」
「分かっています。……でも、頑張ったら頑張っただけリアンの助けになるって思ったらもう居ても立っても居られないのですよ!」
……そのあまりにも無邪気な笑顔にリアンの顔もほころぶ。
「ずいぶん慕われてるんだな。」
「仲が良いのですよ!」
「……そういう事です。」
……微笑ましいもんだ。
「そういえばシドさん、街で何を買ってたんですか?あそこってゲームとかが売っている場所ではないでしたか?」
「おう、これか。こないだ出たばっかのゲームだ。ダービーってゲームだな。やってみるか。三人でも出来るし。」
「三人って……私はあんまりゲームは得意じゃないですし……それに明日旅に出るんですから早く寝た方がいいんじゃないですか?」
「支度はもう終わったしまだ寝るには早すぎる。ちょっとぐらい息抜きした方が良く眠れるぞ。」
「リアンも一緒にやりましょう!ゲームゲーム!」
「……」
俺は知っている。リアンはこういうタイプの相手に押されると断れないタイプの人間だと。
「……一回だけよ。」
「わーい!」
ほら折れた。俺は買ったばかりのゲームを開けてルールブックを読んで確認する。……ふーん、なるほどなるほど。どうやらそれぞれに配られた駒を使って一手ずつ動かしていき最終的に相手の駒を全滅させれば勝ちか。
「じゃあやるとするか。」
俺達はルールを確認しながらゲームを始めた。
……
「尖兵で突進です!」
「おお……盾がもう無いからロストだ……」
「じゃあ後方から魔物を放ちますよ。」
「ちょ……!ふざけんな!!……仕方ねえ……隊長を後方に移動させて防御に回す。」
「そこには爆弾が置いてあるのです!」
「……ちーん……」
「これであなたの駒は総崩れですね。囲い込みして……はい。どうぞ。」
「……だ……」
「?」
「積みだっ!!これじゃ2対1じゃねえか!勝てるか!個人個人で戦うゲームだと言うのに見事なコンビプレイで攻められたらどうにもならん」
「私達仲良しコンビの勝利なのです!いえーい!」
二人は笑顔で手を叩き合う。……嬉しそうな顔しやがって。
「ふふ。あなたも結構頑張ってましたね。」
「リアンはリアンで意外と真面目にやってたし、結構好きなんじゃないか。」
「……まあ、楽しかった、ですよ。……何ですかその目は。」
「……素直じゃない奴。」
「分かっています。そういう性分なんです。さあ、もう終わりにしましょう。」
「ぐぐぐ……」
「またいつでもお相手になりますから。」
勝ち誇ったように言われてしまった……しょうがないので俺はゲームをしまう。
……
ゲームを終えてしばらくしてからの事。リアンは一人湯船に浸かって思いに耽っていた。
「……」
内容はもちろん明日から旅立つ大切な友達の事だ。……ソーラとの関係を言葉にするのは中々難しいものがある。友達のようでもあり、妹の様な……何とも難しい感じなのだ。そもそも身長差があるから分かり辛いかも知れないが年は一つしか違わない。それゆえ二人の間にはそこまでの差と言うのは無い。お姉さんぶるつもりもないし母親のつもりもない。……友達。大切な友達なのだ。リンカスターとのそれとはまたちょっと違うけれど。
「リアンー!!」
「!!ど、どうしたの!」
物思いの中心にいる彼女が裸で浴室に現れた!同性ではあるがいきなりの事だったので声を大に反応してしまったのだった。
「一緒にお風呂に入りに来たのです!」
「も、もう。急に来るからびっくりしたわ。……そうね、一緒に入りましょう。」
「入るのです!!」
ちゃぷんと音を立ててリーナはその体を沈める。こんな事は時たまあるのだ。そしてリアンが知る限り、ソーラがこの行動を取る時は決まって、ちょっと寂しい時なのだった。
「……明日から、しばらく寂しくなるね。……私も、一緒に行ってあげられたらいいんだけれど。」
「……大丈夫です。きっと今日の私よりもっともっとすごくなって帰ってくるのです。」
思えば毎日一緒に暮らしている二人が十日に満たない程度だとしても離れ離れになるなんていままでになかったことだった。……それに加えて、冒険には危険が付きまとう。……万が一、そのまま二度と逢えないなんてことが有ったならと言う不安も少なからず存在していた。
……でも、自分はソーラを行かせてあげると決めたのだ。……笑顔で、送り出してあげるのだと。
「うん。きっとソーラの事だからすっごく頑張って色んな精霊と契約するんだろうなって思ってる。……次に会う時がすごく楽しみ。」
「はい!!期待していて欲しいのです!!」
旅の前に不安など持たせるものではない。持たせるべきは希望とトキメキ。目の前に苦難があると思いながら進むよりもきっと楽しい事が待っているに違いないと思った方がいいのだ。
旅へと赴くソーラにしてあげられる精一杯をリアンは尽くしてあげた。
そうして二人の時間は少しずつ過ぎていく。他愛もない話をたくさんして、普段しないような話なんかもしながら今日という日が終わりに近づきつつあった。
……
「くっそ!!なんでこの部屋の浴槽には鍵がかかってるんだ!!こんな絶好の機会だってのにまたお預けか!!あの時はあのオヤジのせいで覗けないわラナにメタメタにされるわで散々だったしくそくそ!俺には世界中の可愛い子の裸を見る権利があるんだーーーーー!!!」
……どの世界にもそんな権利を持ち得る人間などきっと存在しないだろう。




