本当の本当の気持ち
「復讐の為に精霊術の研究を続けていた私でしたが、どうすればそれが出来るのかは未だに見えていなかったのです。私には才能が無いため力を行使することは出来ません。ですがそれでは人々に力を見せつけることは出来ません。……その時、新たなる精霊術師が偶然現れたのです。」
「それがソーラか。」
「あの子は元々魔法の実験体の一人としてこの施設へとやって来ました。そして私はその実験に携わる立場だったのです。経過を観察している時にふと彼女の異常さに気付いたのです。……何かが、見えると、何かを感じると。」
それは、きっと精霊に関する何かだったのだろう。
「山に登った時も言っていた。微精霊がどうとか。」
「無論多くの人にはそんなものの存在は感じるものでなく、ただのおかしな子扱いでした。実際私にも見えません。……ですが、思えば父もそうでした。見えぬものを感じ、心を通わせる。それこそが精霊術だと。その言葉を思い出した時、私の心に芽生えたのです。……この子を利用すれば精霊術師の力を行使することが出来るという考えが……」
なりふり構わずと言っていた。その言葉通りか。
「研究を続ければ続けるほどに彼女の精霊術師としての才能を感じる事となっていきました。……私は決意して、彼女を実験体という立場から解き放ち、自らの元に置くことにしたのです。」
「けどそんな事したら周りからの非難だってあったんじゃないのか?」
「……最悪の場合はそれを避けるために非人道的な手段を取るつもりでした。……何を犠牲にしてでもやり遂げる覚悟だったので。……ですが、これまた私へではなくソーラへと悪意は向けられる事になりました。……私はと言うと実験体の子に手を差し伸べて育て上げようとする慈悲深い子だ、と。……謂れのない称賛を受ける事になるなんて、本当に皮肉ですね。……欲しい時には貰えず、欲しくも無い所で称賛されるなんて……」
「人なんてそんなもんだ。」
欲しい物を欲しい時に与えてくれる奴なんて居やしない。自分で、掴みに行かなくちゃ欲しい物は大抵は手に入らないように世界は出来てる。
「なりふり構わなかった私は彼女へと向けられる奇異の視線を隠れ蓑に精霊術の研究を秘密裏に進めていったのです。……酷い人だと、思いますか?」
「……そう聞くって事は、お前が自分でそう思っているからだろう。なら俺がどう思ってるかなんてどうでもいいはずだ。」
「……皆、分かっていません。ソーラが、どれほど凄い力を持っているのか……ソーラの力に比べたら……魔法なんて吹けば飛ぶようなものです。……それを証明するためにも、私がここで研究を止めるわけにはいきません。……ソーラが皆に白い目で見られている事も、時には暴力だって振るわれることを、私は知っています。……ですがそれを止めればこの研究はここで潰えてしまう。どれほど酷い人間に成り果てようとも、それでも悲願は果たさなければならない。……そうでなければこれまでの全ては無に帰す。精霊術師として最高レベルまで育ったソーラの力で……人々に復讐を。」
「……」
「と、言うのが昔の私の目論見でした。」
「ふふん。だろうな。聞かせろ。今お前がどんなことを思っているのか。」
今でもそんな道具みたいな扱いをしているんだとしたら二人があんな関係を保てているはずが無い。……なら、きっと何かがあったのだ。そしてリアンはそれでよかったと思っているに違いない。その顔を見れば誰だってそう思う。
「今の私は、素直にソーラのやる事を応援して、全力で支えてあげたいと思っています。その力を私の為に使わせようなんて思いません。」
「へえ。いいのか?それで。悲願はどうなったんだ?」
「意地悪な人ですね。」
ワザとそんな風に聞いてみるが、リアンも嫌そうな顔ではない。
「最初は利用するための関係でした。ただ表面上自分の事を信用してくれればよかった。研究がスムーズに行くために彼女との関係を深めていきました。……そして、彼女の真っ直ぐさが私を変えていきました。」
「たしかに、あそこまで馬鹿みたいに真っ直ぐな奴もあんまり居ないもんだ。」
「父に、似ているって思いました。……錬金術師に必要な物ってなんだか分かりますか?」
「……心だってソーラは言っていた。……理由まではあんまり詳しく分からんかったがな。」
でも、あの精霊が言っていたことがそのまま答えなのではないだろうか。
「あの子は、何があっても挫けません。そして、止まらない。立派な精霊術師になる為の道をただ進む子です。それを見ていて思いました。誰に何を言われようと本気で目指している人の歩みを止める事など出来ないのだと。それに気づいたとき、彼女を貶している人達の事がとても小さく見えてきました。大きな目標の前に立ちふさがるそんな小さな障害など気にしても意味などありません。……きっと父もそうだったのでしょう。多くの人達を助けるために努力し続ける事に称賛など必要ないのです。その時私の心の呪縛は解けました。今思えば何とも子供らしく、思慮の欠けた行動だったのかと思いますね。」
「けど、そのおかげでソーラを引き取れたんだから良かったじゃねえか。引き取るには金がたくさんかかるってソーラも言っていた。だからお前に感謝しているってな。」
「……」
薄らと、涙の一粒が頬を伝っていく。
「これ、多過ぎだ。返すぞ。」
俺はお礼として受け取った金を叩き付けて突っ返す。
「……本当ですか?」
「嘘なんかつくかよ。ま、何をするにも金はあって困る物じゃ無いだろうが。なりふり構わずなれ。」
「お人好し……ですね。……ありがとう、ございます。」
金を工面するのだって楽じゃないだろうに……ああ、むずかゆい。
「やるからにはこれからも全力なんだろう?」
「ソーラが一生懸命なように、私は私の全力を尽くすと決めたのです。その為にこの施設はとてもうってつけなんです。私は、精霊術師を目の仇にするこの施設を徹底的に利用して精霊術の研究を行います。そして、ソーラが立派な精霊術師となったその時こそ、人々にソーラの力を知らしめてあげるんです。これまで彼女を嫌ってきた人達がどんな風になるのか、今から楽しみです。」
「結局は復讐しようとしてるじゃねえか。」
「あら、そうですね。」
涙も一瞬悪びれもせずに堂々と言ってのける。……こんな一面もあったのか。
「いい性格してるじゃねえか。」
「そういう女性は嫌いですか?」
「いや、見ていて気持ちがいい。」
「……ふふ、でもソーラはそんな事望まないでしょう。周りの目なんて私達にとってはどうだっていいんです。道端の石ころ同然なんですから。そして使えるものは使う。そして、あなたも。」
「俺を道具扱いするなっての。もしかしたら旅の中でソーラが恋心を抱いて俺から離れなくなっちまうかも知れないからそれだけは謝っとくぞ。」
「それは無理でしょうね。頼もしいと思う事はあっても男性として惹かれる事はないでしょう。」
「あー!?」
「ないでしょう。」
「二回も言ってんじゃねえ!」
腹を割って話してみれば、なんだかんだちゃっかりしてるしふてぶてしい奴だった。
「そろそろ、寝ますか?長々お話につき合わせてしまいましたね。」
「……ほんとにいいんだな?俺にソーラを任せて。」
俺は、最後の確認とばかりに尋ねる。……俺を、信用していいのかと。
「……出会って間もないあなたに任せるなんて、普通はありえないんだけれど、あの子の友人ですから。……信用して、利用させてもらいます。」
「一つ、要求があるんだが。」
「?何ですか?」
「お前、俺の事名前で呼ばないだろ。後そのちょっと距離を置いたみたいな話し方も好きじゃない。ソーラにするみたいに砕けた話し方しろ。」
「……そんな事ですか?」
「ですます禁止だ!」
「……そんな事?」
「そう、それでいい。」
「心を許した相手じゃないとそんな喋り方出来ないのだけど。……あなたって人は本当に強引って言うか。……シドさんは、強引なんだから。」
……
……
……
「おおおお!!!今の言い方は、テンションが上がるぞ!もう一回呼んでもらおうか!」
「……おやすみなさい。」
可愛い笑顔を残してリアンは部屋へと戻って行ってしまった。……恥ずかしがり屋な奴め。はっはっは!
……なるほどな。なかなか面白い生き方をしてるもんだ。不条理と分かっていてもそれを割り切って敢えて利用するってのはいい事だ。……利用されるって言い方は好きじゃないからな。逆に俺の為に利用してやろうじゃないか。
……
「おはようございます!」
「んおう。朝から元気だな。」
「はい!今日からよろしくお願いしますシドさん!」
元気印二重丸って感じだな。……なるほど、確かにこんな風に毎日過ごしていたら毒気も抜けるわな。
「じー……」
「わ、わ、な、なんですか?」
「……わしゃわしゃ。」
「わーわー!なんですか、寝癖でもついてますか!?まだ髪の毛はセットしてませんよ!?」
愛くるしい奴だ。
……いかん。まだ数日だってのにあの感覚が恋しくなってきている。……けどまだ戻るわけにはいかない。……何の成果も無しに戻るなんて俺じゃない。……ふふふ、もしかしたらもう起きてるかもしれんしな。帰ったら真っ先に剣を見せて驚かせてやるとしよう。
俺達は食事を済ませると昨日のうちに準備しておいた荷物を手にする。
「二人共、気を付けてね。」
「はい!!」
見送りを務めるのはもちろんリアンだ。しばらく会えなくなるが二人の心は一つと言ったところなのか、笑顔でのお見送りとなった。
「俺が居ないからって泣くなよ。」
「ありえません。もしシドさんが危なくなったら構わず置いて帰って来てね。」
「分かったのです!」
「元気に返事してんじゃねえ!!」
「だってソーラを守ってくれるんですよね?身を挺して守ってくれてるんだったら逃げなくちゃシドさんに悪いじゃないですか。」
「……ぐむう……」
「大会前には戻ってきてくださいね。優勝はともかく、どこまでやれるのか見たいところもありますし。」
「わーっとるわ。」
「……」
少し、リアンはもじもじして、言うか言うまいか迷って、結局その言葉を口にする。
「……ちゃんと、帰ってきてくださいね。……何かあったらあの子になんて言ったらいいのか分かりませんから。」
「素直じゃない奴。素直に俺の事が好きだからって言えばいいだろうに。」
「ありえません。ありえませんから。」
事務的に処理されてしまう。そっけない奴。けど、結構心を開いてくれたようで結構な話だ。第一印象の悪さを見事払拭する事に成功した。
「リアン。これまで私の面倒を見てくれてありがとうございました。……って、これじゃ別れの挨拶みたいなのです!私が留守の事お願いするのです!」
「もちろん。帰ってきたらまた一緒にご飯を食べて、お風呂に入って、一緒に寝ましょう。」
「そこに俺も混ぜてもらおうか。」
「混ぜるな危険という言葉が精霊術にはあるのです!」
嘘つけ。
談笑もそこそこに、旅立ちの時はやって来た。
「……じゃあ、行ってくるのです!」
「ええ、行ってらっしゃい。」
互いに交わした笑顔、そして俺達はリアンの笑顔に背を向けて歩き出す。
一歩ずつ足を踏み出し、互いの距離は離れても二人の願いは頂でまじりあう事だろう。それを信じて進む。その先にどんな障害があったとしても歩みを止める事など叶いはしないだろう。そうして二人は一旦それぞれの道を歩き始めたのだった。
……
さて、精霊探しの旅が始まる。……つーかあれだ。ついでに良い剣があれば一石二鳥だ。棚ぼた狙いの旅だ。
「んじゃあまずはタガールに行くぞ。」
「はい!」
タガールの方に風の祭壇とかいうのがあるらしい。そこにきっと風の精霊が居るだろうと言う話だったのでそれを信じて俺達はタガールへと進路を進める。
風の精霊か……涼やかそうな女の子だといいな。
「あー!早速締まりのない顔をしていますシドさん!」
……これから待ち受けるスリルとロマンに胸を躍らせる俺は笑顔を隠せなかったのであった。
「笑顔じゃないです。エッチな顔です!」
……騒がしい同行人だが、まあこんな旅も悪くは無いだろう。空は今日も青空が広がっていた。




