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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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巨人を落としてしまおう

「それでは皆さん、よろしいですかな。」


巨人を眠らせる作戦の決行日が訪れた。……これで討伐出来たら今までの苦労はなんだったんでしょうかね。


「今回の作戦だが、我々第五軍と第三軍で行う。戦闘によって討伐と言う事ではないため、そこまでの戦力を割く必要はないだろうという事だ。巨人を大陸の裂目近くへと誘導し、そこで奴を眠らせ、そのまま裂目へと巨人を落とす。」


巨人は頭が悪いとは聞いているが……それが噂以上のよっぽどの物であることがこの作戦の最低条件だろう……


「私達は巨人を裂目近くまで誘導する事が今回の役割ですので、戦いは死なない程度に頑張っていただければ結構ですので。最悪巨人をこの国から遠ざけるだけでも時間稼ぎとしては十分ですしね。」


もしこんな事で戦力を削いでしまうのは、まあ曲がりなりにも隊長としては褒められたものではない。……成功の確率なんて相当に低いだろうし。


「しかし、大きな器ですね……いやはやなんとも、持っていくのも大変でしょうに。」


先んじて第三軍が出発する。彼らは巨人を眠らせるために使用する薬と、それらを注ぐ器を輸送する。あらかじめ眠らせるポイントに先回りしてもらって準備をしておき、私達はそこへと誘導し、巨人がそれを飲めば……作戦は九割方成功だ。


……笑いますか?笑っておきましょう。……まあ、巨人の知能のほどや、眠り薬の効果がどの程度なのか、相手のデータが取れればよいという事にしましょう。そうしましょう。


「では、私達も出発するとしましょう。」


我々正規の第五軍と……突撃Dチーム(に決まったらしい)は速やかにラズリードを後にする。


・・・・・・・・・


「本当に巨人は寝るんだろうな?」


「寝るんじゃないかね……多分。俺だったら寝ると思うがな。」


「そもそもその辺に置いてあるものなんて、怪しがって飲まないんじゃないの?」


「飲むんじゃないかね……多分。俺だったら飲むと思うがな。それにちゃんと看板も用意するんだろ?この薬安全です!よく眠れる!!痛みによく効く!!って。じゃあ大丈夫だろうよ。」


……敵の内情を知っている人物からの発言だが……正直信憑性に欠ける事はその場の誰もが感じていた。


それでいて根拠が、あいつはアホだから大体の罠には引っかかるしな。というものだ。……流石に私でも少し怪しむと思う。


「それによ、別に差別とかするわけじゃないけど、俺やゴームはお前らと違って、ザナなわけだ。そうそう死なないんだよ。だから、警戒心とかはお前らよりよーっぽど薄いわけ。お前らは死に繋がる行動がたくさんあるから一つ一つに注意しなくちゃいけないけど、俺らはそうじゃないのよ。眠ったところで、じゃあそれで俺が殺せるのか?って話よ。……ま、それはそれでどうかと思うわけだけどさ。」


……長く生きているとそういう考えに至るのだろうか。寿命が百年そこらの生き物と、数百年、あるいは数千年となってくると価値観が変わってしまうのだろうな……


私が死にたいと思うのもたかだか二十年にも満たない人生の中で生まれた思いつきに過ぎないのかもしれない。……逆に私も数百年ぐらい生きたらコロッと考えが変わってしまうかもしれない。……流石にきついか。少なくとも一人じゃ無理だ。……誰かずっと傍に居てくれる人が居たなら……ちら。


「ん?なんだ?」


「……いえ、いつもと変わらないカッコいい姿だなと……」


「ふふん、当たり前だな。」


……お父さんやお母さんがシド様を見たら何て言うだろう。……まあいっか。


……


しばらく目立たないよう森の中を歩く。そして、時々何かが蠢いているように見えた。


「……ちらちらしてますね。」


「……あれかよ。」


「……間違えようがないな。あれが、巨人だ。」


……この距離から見えるぐらいだから……とりあえず大きい……話だと7~8mと聞いている……近寄るともっと大きいんだろうな……


「みんなの仇は……この手で取りたかったのですが……」


「そうですね。もっと惨たらしくザクザク串刺しにしてやったりしたかったですね。」


「魔法の、実験台に、してやりたかった。」


……普通のやり方では手が出ないのだ。口惜しいが仕方がない。私達は森を経由して大陸の裂目側へと移動を行う。……さて、後はそれぞれの準備ができ次第と言ったところだ。第三軍のからの連絡待ちとなる。


「あ、あと言っとくけど俺は直接ゴームとは戦わないからよ。」


「はぁ?なんでよ?」


「いやぁ、ほら、俺はこれからもアイツとかとは過ごしてかなくちゃいけないわけでさ。嫌なイメージもたれたら嫌じゃん?俺の事倒そうとしたのかっ!!ってなったらどうするよ。俺の居場所がさ……」


「……それってこの作戦が失敗するって言ってるようなもんじゃないの?」


……


「んな事は言ってないけどよ……まあ、とりあえずは必要ないっしょ?誘導だけならさ。」


「分かった分かった。元々お前なんぞいらんのだ。腰抜けは出てくんな。」


「……一応俺、お前らに協力してんのよ?情報提供してんのよ?……はぁ。」


そういうわけでエアストさんは前線へは出てこないようだ。……しかし……大きいなぁ……とにかくあんまり近づかないようにしよう。……あれ、でも近づかないなら私ってどう戦えばいいのだろう……逃げ惑うぐらいしか出来ない。


せめてもう少し身のこなしが軽ければ……せっかく体も大きくないし……他の部分も大きくないのだし←


「皆さん、よろしいですかな。準備が整ったようです。……作戦を開始しても?」


……とうとう巨人との対峙の時が来たようだ……気を抜いたら一瞬で命を奪われるだろう……


「……よろしいようですな。では、皆さん。行きましょうか。」


・・・・・・・・・


「はあぁぁぁぁ……ズキズキするぅぅぅぅ……」


ゴームはその痛みに未だ悩まされ続ける。……数百年、気の遠くなるような昔、傷つけられた傷が今でも激痛を生み出す。ザナが受けた傷でも人と同じように自然に治って行き何事も無かったようになるのだが、この傷だけは特殊で、いつまでも癒える事は無い。それが残っている限り、体の内側から痛みを生み出すと言えば適当だろうか。……同じザナによってつけられた忌々しき呪いである。


昼夜問わず暴れたり腰かけたり、そんな日々をもう幾度も送っているゴームにとっては日常茶飯事だが、だからと言って慣れることなどない。……眠りたい。眠りたいのだ。


「ああぁぁぁぁ?……また来たぁぁぁぁ……」


長い年月からすれば大した時間ではないが、またも人間達がやってくる。……ゴームからすれば勝手に呼び出されて襲われて、踏んだり蹴ったりだ。……ならばそのイライラは痛みと共に人間へとぶつけるしかない。……どうせ誰も自分を倒すことは出来ないのだから。


……


「……いい感じにこっちへやってきますね。巨人。」


「確かにあの図体はちょっと面食らったけど、結構鈍いじゃない。よっぽど近寄らなきゃ大丈夫でしょ。」


「やっぱりデカいのは体だけか。大したことないな。……はっ!!!」


「どうしました、シド様?」


「……もしこのままアイツを裂目に突き落したら……俺の手柄が薄くなる……」


「……そうですね。」


……思っていたよりかは、あんまり脅威はないかもしれない。……確かに迷惑ではあるけど、直接戦わなければ、なんとでもなりそうだ。実際問題みんな中距離を保ちながら攻撃を加えながら巨人をおびき寄せる。……聞いていた通りダメージはまるでなさそうだけど。


大きな落とし穴とかにでも誘い込めばいいんじゃないだろうか。それか底なし沼とか。


「人間は魔物と違って力が無いから、どうにか知恵を絞って倒そうとするわな。いやはや賢いねぇ……」


だが、力が知恵をはるかに凌駕する場合……もう為す術はないだろうけど。……さっさと逃げる準備しておこうかね……


……


「もう少しです、シド様。」


……指定ポイントへと近づく。……ここからが肝だ。


「では、皆さん。散開してください。……速やかに。」


「ああぁぁぁぁ?……どこいくぅぅ……」


固まっていた集団は一気に蜘蛛の子を散らすようにバラバラに居なくなる。どれを追いかけようかと考えている間にターゲットを見失う。


「……ううんんんん……おぉぉぉ??」


どうしたものかと思っている間に、遥か前方に何かを見つける。……それは魔物領と人間領を別つ大きな裂け目。魔物領から何度も見ている。……だが、目の前に広がるそれは、遠目に見ても見慣れた魔物領だった。……つまりはここは魔物領ではなく、人間領なのだ。……どおりで人間ばかりだと思ったが……そんな思考は一瞬にして掻き消える。


ゴームはそれへと突き進む。巨体がずんずんと大地を響かせる。


「……よく効くぅぅぅぅ?……ほんとかこれぇぇぇぇ……」


……看板を読む。……そこには大きな器が、二つ。透明の液体と、青色の液体が中にはなみなみ入っている。


「どっちが効くんだぁぁぁぁ?……痛い痛いぃぃぃぃ……」


痛みは思考能力を低下させる。何を考えるにも痛みが付きまとうのだから冷静な判断力はゴームにはもう無い。どちらが正解か、今彼の頭にはそれだけだ。……罠かも知れない。どちらも薬とは違うかもしれない。……そんな考えも無い。……ましてや、よく眠った自分が、裂目へと落されるなど、夢にも思わない!


「……青好きだから……こっち飲むぅぅぅぅ……」


……ちなみに色は違えど、どちらも同じ薬だ。……二個あればどちらを飲むか迷うだろうからそれ以上考えられなくなるだろうからという事だったが、まさにその通りと相成った。


大きな器だったが、ゴームの巨体にかかれば、一気飲みだ。……味は悪くないようで飲み干してしまう。


「お……おお……痛みが……引いてく……嘘みたいだ……」


……その薬の効果が、ゴームに遠く失った理性を思い出させる。……通常の人間へと使用するよりもはるかに強力な作用を発するように作られたそれは、久方ぶりの安らぎをゴームへと与える。


「……ザザムザザの奴……こんな傷残しやがって……はぁ……どれくらいぶり……だろう……こんな……安らかな……」


……最後の言葉を言い終える間もなく、ゴームの巨体は横たわる。大陸を揺さぶるような地鳴りと共に。……ゴームにとっては何百年ぶりにもなる睡眠だ。……よほどのことが無い限りは……目覚める事は無いッ……!!


「ははは……いやぁ、はたから見てると間抜けな光景だったねぇ……まさか本当に眠るなんて。」


「……同感ですね。……正攻法ではなく、意外性がある方がああいう敵には効果があるのかもしれません。」


「……じゃあ、第五軍と協力して、運んじゃおうか。」


……拍子抜けしてしまう結果になったが、これで巨人も最後だろう。……眠りながら死ねるのは、幸せに違いない。リンカスターはそんな事を思いながら兵士達へと号令を出す。


……


「寝ちった……ゴームったらしょうがねえなぁ。」


「……いびきがうるっせえなぁ……」


「みみせん持ってきました。」


手渡して早速シド様は付ける。


「……みみせんを貫通してくるぐらいうるせえ……」


「……早く運んでしまいましょう。」


……崖になっている場所までは、100mないし、80mぐらいだろうか。……遠いな。


「あの、どう運ぶんですか?」


「……知らん。」


「まさか本当に眠るとは思ってなかったからさっきラズリードの方に連絡したってあのおじさんが言ってたよ。」


……まぁそれはその通りか。やけにあっさりとした幕引きになりそうだ。……誰もがそう思っていたに違いない。


「ふんっ!!」


エアストさんが……手にナイフを持ち、巨人の体に傷を与えた……


「ちょっ!!!……何してんのあんた!!」


「……傷が、付いていますね。」


「そういう事よ。俺ならゴームにこんなふうに傷を与えられるわけさ。」


「いやいや!!そうじゃなくて!せっかく眠らせたのに起きちゃうでしょうが!!」


「……でーじょぶでーじょぶ。……こんな怪我、ゴームにとっちゃ大した事ねえよ。それに、気が遠くなるような年月を経て、久方ぶりの睡眠なんだ。よっぽどのことが無くちゃ起きるはずないさ。」


ガスガスッ!!


……容赦なくナイフで切ったり刺したりを繰り返す……確かに巨人はうんともすんとも言わない……いや、いびきは相変わらずか。


「ほらな。」


「そいつは面白い。俺もやるぞ。おらああ!!!ありゃ……何だ変な感触……」


「いや、話聞いてないのかって……俺じゃないと無理だっての。」


「つまんねー……」


……何を思ってるのかは理解しがたいが、援軍を待つ間、エアストさんはゴームの体を切ったり刺したりを繰り返していた。……分からない。


・・・・・・・・・


「お待たせしましたね。出番が少なめな第六軍がやって来ましたよ!」


一時間もしたら援軍が到着した。……たくさん動物を引き連れて。


「いつもお世話になってるよ。君達が居なくちゃ僕達がスムーズに動けないんだから本当に縁の下の力持ちって奴だね。」


「シンクレスさんにそう言ってもらうと急いで急行した甲斐があるというものです!……これが例の巨人ですか……ははぁ……流石に動物達も引っ張るのは苦労するかもしれないですね。一応たくさん連れてきましたが……まあやってみますね~。ではでは~GO~。」


巨人の体に巻きつけた鎖を動物達に引っ張らせる……ちょっと……動き出しが重い……が、動き始めた。


「一頭が500kgぐらいを引っ張れましてですね、30頭連れてきましたので単純に15tぐらいは運べる計算になりますね。動物達はお利口なのですよ。」


「こんなに大きい物を運んでくれるのですから、帰ったらたくさん餌を挙げないといけませんね。」


「リンカスターさんのおっしゃる通りです。今日はうんと御馳走をしてやりますとも!!」


もう余裕綽々ムードだ。遂にその体は崖っぷちへと押しやられる。そして動物達は最後の一押しを行う……


「……あっけないが、まあ巨人なんてこんなもんじゃないか。アホだし。」


「そうですね。確かに体は大きかったですが、なんとかおせんべいにならずに済みました。」


「あはは。まあカラリーサ達にはちょっと不本意かもしれないけど、巨人の最期だね。」


……


……んなわけ、ないでしょうがよ。


お前ら、巨人を、ザナを、甘く見過ぎじゃないのかね……


……


「シノちゃんシノちゃん。ちょいちょい。」


?エアストさんがおいでおいでと手招きをしている。……なんだろう。


「どうしましたか?」


「いやぁ。俺とさ、駆け落ちしちゃわない?」


「……」


「よし!決定!じゃあじゃあ行こうぜ~。どこ行くか~。」


「……いえ、あの、冗談でしょうか。」


「あ~……半分マジかな~。」


「……どうしてですか?」


「……先に言っとくとさ、ゴームを落っことしても、意味ないんだわ。」


「……意味がない?」


「戻ってきちゃうんだよね~。……だから落としたら全員その場所から速やかに離れるようにした方がいい。」


……


「あの……落としても無駄なら、先に言っておいて欲しかったのですけど……」


「……いや、もしかしたら……無駄じゃないかもしれないし、1%って言ったじゃん。今とルールが変わってれば……いけるかもなー……って感じでさ。」


……私は速やかにエッケルノさん達に伝えた。巨人を落としたらすぐにその場を離れて欲しいと。……理由は私もよくは分からないのだけど、エアストさんがそう言っていましたと伝えると了解してくれた。


……意味がないってどういう事だろう。落としたら戻ってくるって……底があってジャンプしてくるとか?


何だか分からないが、とりあえずは動向を見守る他ない……

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