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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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仕方ないので正攻法で巨人退治

どんどん巨人は裂け目へと近づいていき、その巨体が……吸い込まれて行く。……その先には何があるのか。考えても仕方ない事だ。これで巨人退治はおしまいだ。報酬を貰って、この冒険はおしまいかな。……そんな風に思っていたけど……エアストさんの話を聞いたらそんな風に思えなくなっていた。


「はっはっは!!やっぱりお前なんかの助けが無くても余裕だったな。」


「ははは。落ちてったなーゴーム。……おや、上を見てみるとあれはなんだ?」


?エアストさんがとてもわざとらしく上を見上げる……上?……暗い……?まだ、日中なのに……?


「ッッ!!!なんだぁぁ!!!」


シド様の声が平穏な空気を打ち砕く……


上から降ってきたそれは……安心しきっていた私達の大地へと……落下してくる……


……紛れも無く、巨人ゴームの、巨体だ。


……それが大地へと激突した瞬間……それまでとは比較にならないほどの地鳴りが起こる……とんでもない高さより落下してきた巨体が大地へと与えた衝撃は計り知れないものだ……舞い散る砂埃……戦場は一気に緊張を極める……


「おい!!!どうなってんだ!!!」


「……戻ってくるって、上からですか……」


ただ衝撃が凄すぎて何が起こったのかよく分からない……だが、エアストさんが言っていたことの意味はこういう事だったのだ。


「……夢でも見ているみたいだね……」


「ど……どういう事ですか。……裂け目に落ちたはずの巨人が、何故空から……降ってくるというのでしょうか!!」


「……君にも、そう見えるよね……まるで、あの裂け目の向こうは空に繋がっているかのように……」


結局予め避難していたおかげで誰もその巨体の餌食になることはなかったが……それ以上に、間違いなく巨人を倒せるところから、再び対策が必要な状況になってしまったことのショックの方が大きい。


……


「ど、どういう事だ。なんでこいつが空から……」


「……こういう事なんですか……」


「……ザナがそう簡単に殺せるわけないでしょうよ。落とせばいいんだったらあの子の封縛で動きを封じ込めて裂け目にポイってやれば終わっちゃうでしょ?……ザナがあの裂け目に落ちても、空から戻って来ちゃうんだよね。不思議な事にさ。俺も何回か落ちてみたことあるけど……空から地上に降りて来られちゃうんだ。あはは。この世は何とも不思議空間だよね。」


「……知ってて何で言わなかったわけ……?」


「いやいや、ギリギリでシノちゃんには言ったって。だからここにいるみんなは無事だったでしょうよ。……ちょっと黙ってるのは忍びないかなって思ったわけで。」


「……もっと早い段階で言うべきだと思うんだけど……」


「まあそんな事はいいでしょうよ。……こっからどうするかって話じゃない?……次の手、何か考えてあるの?……なんか思いつかないとやばいんじゃないの?」


……今分かってることは、この裂け目に落としても駄目という事……ならば、次の手段があるかというと……ない。……エアストさんがゴームを倒せるだけの力を実は持っている……そんなあるのか分からないような希望に託すとか……それぐらいしか思いつかない……


「貴方も……しょせんは魔物達の味方なのですか……?」


「ありゃ、怒ってるね。美人が台無しじゃないのかねって思うわけさ。」


「……私達にとって、何の縁もない……なんなら憎い国の兵士の方々です……ですが……だからと言って……死んでもいい命だとは……今は……思いません……」


「……別にあいつらの味方な、わけないじゃんか。……敵だよ敵……魔物達が居るだけで俺には生き辛い世界なんだよ。」


「……なら、どうして騙すような真似をするのですか……」


「……」


「ちっ……あーだこーだめんどくせえ。もうお前になんかかまってられん。」


「……シド様。」


「始めから言ってるだろうが、巨人は俺がぶっ殺すって。……よくよく考えれば、俺の大事な女の子達をぶっ殺しやがったこいつを、こんなあっさり殺してたまるもんか。」


……でも……どうやって……巨人を倒せばいい……


「皆さん……無事ですかね。……いやはや……流石に私も、ヒヤヒヤしましたね……」


「……我が第五軍数名、第六軍の数名が、奴の体の下敷きで骸と変わり果てた……怒りと……何が起こったのか分からず困惑している……」


……エッケルノさんとグラフィカさんはどうやら無事のようで、私達の元へとやってくる。


・・・・・・・・・


「掻い摘んで言うと……あの巨人を落としても、意味が無い、というわけですか……正直、分かっていたなら、先に言ってほしかったのですが……」


「……んまあ、100%かどうかは分かんねえよ。今までがそうだっただけでさ。」


そうこうしているうちに……あのけたたましいいびきが、止んだ。


それは即ち、巨人の目覚めを意味する……


「……まさか、起きるわけ……?」


「大した衝撃でしたからね……眼を覚ますには十分過ぎたかもしれませんな……とりあえず、全員下がりましょうか。」


……仕方なく全員巨人から距離を取る。そして、再びゴームは動き出す。


「……久しぶりに……寝てたってのに……騒がしいったらぁ……」


目は覚ましてしまったが、同時に服用した痛み止めの効果はまだ多少残っていた。いつもよりは頭の中がクリアな状態を保っている。


「人間共がうろちょろしてやがってんだなぁ?……弱っちいくせによ……」


……遠巻きに眺めているシノ達は、巨人に理性がある事を感じていた……明らかにさっきよりは頭が働きそうで、それでいて凶暴そうに見える……


「頭打っておかしくなったのか?」


「おかしくなって、元に戻ったとかでしょうか。……何にしても悪い状況ですね。」


……理性が戻った分、厄介なのは間違いない。……


「……傷だ。俺が付けた傷があいつの弱点になる。」


「傷ですか?」


「……傷の上からなら、ザナにもダメージは与えられるんだわ。……あいつの体中にちっこい傷つけてやったからよ。そこを狙っていけばいい。けど傷は何日もすればふさがっちまう程度のもんだ。やっちまうならさっさとやんなって。」


「それは本当なのか?」


「マジよ。マジ。……まあ、それを加えても、ゴームは強敵だからな……そう簡単には倒せないだろうけど、道ぐらいにはなるだろうよ?」


「……第三軍に連絡を、そして、巨人へ攻撃を仕掛けるよう、伝えてください。……傷を集中的に狙うようにと。」


「……ならアタシ達も……って……シドもう行っちゃってるし……」


「クソ巨人野郎がぁぁ!!!死にやがれぇぇぇ!!!」


「ちょろちょろすんなよ。雑魚虫がぁ……」


「ノロいんだよッ!!……これか?おらあぁぁぁぁぁッッ!!!!」


ゴームへと突進するシドに向かって巨大な足が降りかかるが、シドはこれを躱し、足の甲にある一筋の傷に己の剣を思い切り突き立てるッ!!!


「うわぐぅぅうぅぅッッ……!!!な……なんで俺の体に傷が……」


……誰もがその光景を目にした。今まで一つたりとも傷をつけることが出来なかった巨人にとうとうダメージを負わせた瞬間を。表面上は小さな傷に過ぎないが、他の者達を奮起させるには十分な一撃を与えた。


「……一応あのアホのおかげで、傷を攻撃すればいいと分かったわけだ。……たまには役に立つものだな。……そのままやられてしまえばもっといいが、今は巨人を……倒す。」


「……仲間達の、仇をッ!!!」


「負けてらんないね、アタシも行くよ~!!」


シドの一撃を合図にアグリアが、カラリーサ達が、冒険者達が、兵士達が、一斉に巨人へと向かっていく。


「お、お前なんなんだぁぁ……」


「何だっていいだろうが。こっちはてめえのせいで踏んだり蹴ったりなんだよッ!!オラオラ次だ次だッ!!」


「おおぐぐぅぅ……痛い痛いってのぉぉぉ……どけぇぇぇ!!」


シドは再び足の傷めがけて攻撃を繰り返すが、ゴームも足で薙ぎ払う。その重量から放たれる衝撃は未だ健在なのだ。シドもいったん吹き飛ばされるが、すぐに体勢を建て直し、再び突撃する。


「背中はがら空きだな。うまくあの最低男に気を取られているようだ。」


カラマは素早くゴームの背後に回ると、傷を突き刺しながらゴームの巨体を登り上がって行く。ゴームにはチクチクした程度の痛みしかなく、シドが与えた足の傷の方に気を取られている。


……そして、ちょうど背中の部分にある傷を狙い澄ます。


「ちょうどいい傷だ。……はっッ!!!」


「あがががッ……!!背中にもなんかいやがる……なんでだ……なんで人間如きが俺にぃぃ……」


傷に思い切り突き立てた苦無が肉を裂く。無論ダメージとしてはそこまでのものではないが、これまでとは違う手ごたえを実感していた。


……これならば、いける。一のダメージだろうと繰り返せば十、百にもなる。


ゴームの動きの隙を突きながら攻撃を加えていく。……背中に気が回れば足元を、背後を、攻撃する。……今まさにこの瞬間、巨大な相手を人数の差で押し倒そうとしている。


「仲間達の受けた痛み……せやぁぁぁぁッッ!!!」


「ふうん。しかもこの傷……刺した後から広げられるじゃない……もっと広げちゃえば、その分狙える場所も増えるってわけ。それっと!!」


「今度は後ろかよぉぉ……!!」


ゴームが足元へと手を伸ばす……


「私の力は未熟故、それほどでもありませんが……この一撃はちょっと痛いですよ。……聖剣アスカラシュ……たぁぁぁぁッッ!!!!」


手の甲にある傷へとリンカスターの一撃が真一文字に炸裂するッッ!!!……これまでにないレベルの大きな傷が姿を現す。肉をえぐり、そこに確かな痛みを生み出すッ!!


「ふぐっぐぅぅぅ!!!」


さしもの一撃にゴームの体もよろめく。……負傷した右手を抑えるが、攻撃の手は緩まない。……誰もが次々にゴームを攻めたてていく。


「はっはっは!!巨人だって言っても一皮剥けばこんな程度だぜ!!!オラオラッと!!!」


「……別にあんたの手柄じゃないでしょうが。……結局はあの変な男のおかげなわけよね……それもなんか嫌な気分だけどッ!!!」


「てめえららぁぁぁ……いい加減にしやがれぇぇ!!!」


怒り心頭のゴームの左手が、シドへと向けられる。


「うぉっ!!やべぇ……」


シドは気付き回避しようとする……が、その腕はしつこくターゲットを狙う。


「背中がガラ空きだと言うにッ!!!」


「てぃッ!!!せいッ!!はぁッ!!!」


シドを守るためというわけではないが、背後へと苛烈な攻撃が加えられるが、ゴームはひるまず、遂にはシドの体を捕えるッ!!


「くっッ……かはッ……」


「捕まえたぞ……お前ぇ……握りつぶす……死ねぇ……」


「シドさんッ!!」


「流石にまずいって……!!!」


その左手が力を入れれば人の体など一瞬にして潰れてなくなる……命など一瞬で奪われる。……無慈悲な豪腕の餌食へと変わり果てる……


「こ……このやろッ……」


どうにか逆らおうとするが、その力は余りにも大きすぎた。一瞬の抵抗の後、ついにゴームはその左手に力を込めるッ!!


……いや、力は入らない……むしろその力は緩まって行く……


「こ、これはぁぁ……!!」


「……くくく……ふ、封縛……」


ノノノンが全身の魔力を振り絞って、ゴームの左手全体を封じ込めたのだッ!!十秒も持たないだろうが……逃げるには……十分!!


「は、早く、逃げろッ!!最低、男ッ!!!私が、こうして……抑えているんだからッ!!」


「うッ……おりゃあああああ!!!!」


シドは力の入らないゴームの左腕を振りほどくッ!!……少し頭がくらくらするが、一瞬で血が上る。怒りに!!


逃げる、それだけで済ませてなるものか!自分にここまでした相手に……デカい一撃をくれてやらなければ、腹の虫はおさまらない!!


「死にやがれえええッ!!」


手首めがけて今までで一番の一撃を振り下ろしッ!!切り刻むッ!!!手首の半分以上に渡る傷を加えてやるッ!!


「おおおおッぐぅッ!!!!」


効かないはずがない。そんな程度で終わらせない。痛みに悶えるところだが、次の一撃はすぐに訪れる。その腕を伝い、巨人の胸部の眼前へとシドはたどり着く。


「……どんな奴でも、大抵ここは弱点って決まってんだよ!!!」


そこは、人ならば、心臓の位置。……勢いをつけて一気に飛び上がり、自らの剣を、突き立てるッ!!!深く!刺し貫くッ!!!


「あ……あああああアッあアアあッッ!!!」」


心臓まで到達しなかったものの、致命傷と言うに相応しいだけのダメージを与えることに成功したッ!!ゴームは痛みに蠢く。


「へっ、どうだってのデカブツが。……ってあれ、剣が……抜けねえ。よっ!!ほっ!!……って……やべえ!!おわああああああ!!!」


……少し深く刺さり過ぎたのとぶら下がるような体制になったせいか、剣は刺さったまま、シドは落ちていく。……言うまでもないが、巨人の胸部の高さから普通に落ちたなら、シドを待つものは死に等しい。……アーメン。


「……正直ほっときたいけど……ああもう!!」


シドの落下地点でセフシアは待ち構える……不本意ながら、非常に不本意ながら。


「……大ッ!!!!……くぅぅぅぅッッ!!!」


そしてシドをそのまま受け止めながら……


「旋ッッ風うううッッ!!!」


自らの技で、投げ飛ばす。……シドは地面に叩き付けられる。


「おあああああ!!!」


……シドに中程度のダメージを与えた。

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