作戦を立てて士気をあげよう
「各隊長様、そして副隊長様方方、お集まりいただきありがとうございます……いやはや、お伝えしなくてはならない事が出来てしまいましてね……」
会議室には第六軍までの隊長と副隊長が勢揃いしている……エッケルノはエアストとの会話で得た情報を共有するためここで会議の場を設けたのだった。
「……なるほど、通りで攻撃しても手ごたえが無いはずですね。」
「聞けば聞くほどとんでもない魔物なわけですね。……そしてそのザナ……ですか?その方は本当に信用できるのですか?」
「……現状では、信用できるかどうか。それを考える余裕は私達にはありませんな……信じたうえで、次の手を考えようと思ってお集まりいただいたわけです。」
「……」
少なくとも彼の語る言葉は確固たる証拠が無くとも状況はそれを裏付けている。ただの狂ったおかしな男ではないだろう……
「じゃあそのエアストという方にあの巨人と戦って頂けるように事を運べばいいという感じなのかな?」
「……矢面に立って戦うのはごめんだと。……とにかくしっかりした作戦を立てろと。でなければ俺は何もしないと……まあそんな風に言ってましたな……」
「いやぁ……それは困ったもんだね。ははは……」
……結局は戦力としては当てにできないという事だろうか……?ではやっぱり対抗手段は未だ見つかっていないというのと変わらない……
「……一日も早い巨人討伐の為に、各軍で、新たな打開策を思いつくため……知恵を絞っていただきたいと思います。……私からは以上ですかな。」
「……」
……進んだんだか、壁に当たったんだかわからない会議は、終わった。
・・・・・・・・・
「うめー!!!……くはああ!!おかわり三丁!!」
「あいよー!今日はいくらでも用意してきたからたくさん食べてっておくれー!」
「おう!!望むところよー!!」
「……で、あれがその、ザナって奴なわけ?」
「……本人曰く。」
今日もまた氷結晶屋台に居る。だが今日はアグリアさんにカラリーサさん達も呼んでみんなで会議と言う名の気分転換をしている最中だ。……良く晴れた日に氷結晶は良く合うなぁ。
「前向きにとらえれば、あの巨人の実体がだいぶ分かって来たわけですね。」
「……結局男に頼らざろうえないってのがちょっとなぁ……」
「あんな奴が居なくたって俺がなんとかしてやるっての。」
「そればっかじゃない……たまにはほんとになんとかして見なさいっての。」
……ほんの少しではあるが、彼女達のシド様への接し方が、柔らかくなっているような気はしている。……好感度が最低からほんの少し上がったぐらいの違いしかないだろうけど……
「……もし本当にそのザナと言う者ならば、あの男も私達の攻撃を一切受け付けないという事になる。」
……
「あーうめえ!!うめえ!!やっぱ食ってのはこうじゃなくっちゃなあ!!」
……ぼかっ!!
シド様は近寄ると思いっきり拳骨を振り下ろした……が。全く無傷と言うか、意に介さない。
「……なんだこれ、変な感触だ……なんか見えない壁に阻まれたみたいだ……」
「おお?今殴ろうとしたのか?だから俺には効かないって。」
「じゃああの巨人にも効かないわけか……スケールちょっと大きすぎよね~……美味し。」
……
「あの、魔物領に居る他のザナの方々とは喧嘩になったりしないんですか?」
「……悲しいかな俺はそこはひたすら低姿勢なのよ……俺ってそんな強いわけじゃないしさ。ゴームと直で戦ったって100%俺が負けちゃうだろうね。そのゴームだってザナの中じゃまあ真ん中ぐらいの強さだし……」
「黒い鎧の魔物は、あれも、ザナなのか?」
「んお?ガンマーグ?あれはザナじゃねえ、ただの魔物だ。まあめっちゃ強いけどな。」
「そうか……」
「エアストさんは、どれぐらいまでなら私達のお手伝いをしてくれるのですか?」
「んー……危険なのはちょっとごめんだから……ま、ちょっと引き付けたり、注意引いたりぐらいならオッケーかなって感じよ。」
「全然役に立たねえじゃねえか。」
……まあ確かにそれぐらいならエアストさんじゃなくても出来なくない……あんまり意味ない。
「俺だってゴームが居なくなりゃ俺としても過ごしやすくなるんだって、だからなんとかあいつを倒す手段考えてくれって。」
「はー……倒す手段ねぇ……おや、カラリーサ眠いの?欠伸なんかしちゃって。」
「ええ……少し、昨日なかなか寝付けなかったもので。普段と違うところで寝るとそういう事ありませんか?」
「あはは、冒険者はいつ何時どんな場所でも寝られるようにしてるものだから。」
確かにこの世界に来てから色々な場所で寝るようになってからは、どこで寝るのもそんなに大差なくなってきたな。モンスターが襲って来たらすぐ起きて戦わなくちゃいけないし……
「……あの、エアストさん、巨人って、眠ったりはしないんですか?」
「……ん?……あいつなぁ……俺が知ってる限り、一回も寝てねえんじゃねえかな。」
「……数百年って事ですか?」
「言っとくけど、ザナでも普通に食べたり寝たりするのは変わんないからな。ゴームだけはちょっと特別なんだよ。昔の傷が今も痛くて眠れねえって聞いたことあんな。」
……体の中で暴れている大きな傷って言っていた。……じゃあ眠りたくて眠りたくてしょうがないのではないだろうか。
「じゃあ、もし眠らせたら、エアストさん、巨人と戦ってくれますか?」
「おえ?……うーん……」
「何百年も眠っていないのなら、もし眠ったらそうそう起きないと思います。」
「……後押しするわけじゃないけど、あいつって結構痛みに鈍感なんよね。……まあ、俺がちっとばっかし攻撃しても、多分全然起きてきやしないとは思うぜ。」
……あの巨人を、眠らせれば。
「……おお!!イケるぞ!!」
「急にどうした……騒がしいやつだ。」
「超強烈な眠り薬と痛み止めを作ってもらって巨人に飲ませれば奴もぶっ倒れる。その隙に俺があいつをぼっこぼっこにしてやればいいのだ。」
……まあ実際はエアストさんがやるのだろうけど……
「でも……人用の薬が巨人に効くかどうか、分かりません。」
「アホみたいに超強力なら効くに違いない。なんならそのまま一生眠っててもいい。」
「……結構アリかもな。それなら乗ってやってもいいぜ。ただあいつが起きてくるまでだけどな。起きたらそこで終了。」
「……そもそも、いくら相手が寝てるからって、あんたの攻撃で巨人を倒せるわけ?」
「いやー……難しいってか……無理だろうね。俺ひ弱だからさー。あははー。」
「……はぁ……疲れるわ……」
「……もしさ、本当に奴を眠らせることが出来たなら、次の手を、あげるよ。それまではちょっと言えないかなーって感じさ。」
……何かまだ、隠していることがあるようだ。……今は明かす時ではないって事みたいだけど。
「ふん。お前の手なんて借りなくてもイケる。更に次の作戦もばっと考え付いたしな。」
「……!?ほ、本当なの?」
「地図を見てたら浮かんできた。」
「へぇ。じゃあ、お手並み拝見って感じで行こうっかな?」
・・・・・・・・・
「……裂け目に、巨人を突き落す……ですか。」
「そうだ。暴れてる巨人を裂け目の方までおびき寄せてその付近で眠らせたら突き落してしまえばいい。7~8mぐらいだったら全員でやればどうにか落とせるだろう。多分それだけ揺らされてもアホだから目を覚ますことも無い。」
「……確かに、封縛の呪文が効果があったように、眠りに干渉する事ならば効果はあるかもしれませんね……まあかなり賭けの要素が強いですが。……あの彼はなんと?」
「それならば協力してやってもいい、と言ってました。危なくなったら逃げるけど、とも言ってました。」
「……なるほど。……では、それで、やってみましょうかね。……用意する物は、眠り薬と痛み止めの薬ですかね。……度を超えた効果の物を大量に。」
「そうだな。デカい容器にいっぱい用意するといい。二つぐらいな。」
「……手配しましょう。」
……何もやるべきことが無いよりかは、不確実でも可能性のあるやり方を取ることになった。
「近々、再び、連合軍に加え、あなた方冒険者の方たちに協力していただき、巨人討伐へと向かう事になるでしょう。」
「その冒険者達って言い方がなんかちょっとピンと来ねえからなんか好きな部隊名付けてさせてもらうぞ。」
「はぁ……その方が士気が上がるのでしたらどうぞお好きなように。」
・・・・・・・・・
「ってわけで俺達の部隊名を決めるぞー!!カッコいい奴な!!」
「久々に集められたと思ったらなんだよそれ……」
「別に部隊名なんてどうでもいいけどなぁ……」
「美学の分からん奴らだ……じゃあシド様親衛隊って事で決定だな。」
「ちょっと!!誰がいつあんたの親衛隊になったのよ!?」
「……それが貴様の美学と言うのならさっさと犬にでも食わせろ。」
「総スカンじゃない。シド、違うのにした方がいいみたいよ。というか部隊名に自分の名前入れない方がいいわよ。」
「あー分かった分かった。じゃあ全員紙に書け。その中から決める。」
……そんなに重要なのだろうか。……何にしよう。……まあ、適当でいいか。こういうのはセンスないし、無記名だから私だと分からないだろう。
かきかき……
我ながらなんてセンスだろう……
「おーし出せ出せ。……どれどれ、ジャスティスブレイバー……うわダサっ……正義の剣……臭っ……死神部隊。……まあまだマシな方か……野郎チーム……愛の戦士……どれもセンスねえなぁ……」
「兄ちゃんには言われたくねえよ……」
……じー。いろいろ見てみるけど……まあ私のよりは全然マシだろう。私の以外だったらどれでもいいんじゃないだろうか……
「では、前後に分けて、組み合わせてみるのはどうでしょう……がさがさ。」
……では分けてみました。シド様引いてください。
「……巨人の。」
「……戦士達。」
……
「とまあこのようになります。では巨人の戦士達で……」
「それじゃあ私達が巨人じゃない……」
「今のは練習です。びびっと来るまでこれを繰り返すのです。」
……そんな遊びがあった気がする。
「麗しき野郎……ボツ。ジャスティス連合……ボツ。シド様チーム。おっ、これいいんじゃないか?」
「あー却下却下。てか上の言葉がシド様ってのは全部却下よ。」
「……次ー……ボツ……あー次ー……」
……そしてだんだんテンションが下がってくるのもお約束……
「次ー……あああああ!!!!めんどくせえ!!次のでもう決めだ!!何が出ても文句なしだぞ!!!」
突撃チームD。
「さんざ引っ張って……なんだこれ。」
「……では、決定ですね。突撃チームDという事で。」
温かいみんなの拍手にてこの部隊名は快く迎え入れられる事になった。
……ちなみにDはデンジャラスのDだ。
・・・・・・・・・
「なるほど、眠らせる作戦ですか。」
「ちゃんと効くといいけど……」
「まあ、成功しなければまた次の手を考えるまでですな……」
「あの巨人と戦いで勝敗をつけられないのは少し残念ですが、仕方ありませんね。」
兎にも角にも次の作戦は決まった。それに向けて各部隊は動き始める。
……だが、その作戦が成功しないであろうことをエアストは知っていた。
眠らせるまではともかく、その後については自分が動かなくてはどうしようもない事も分かっている。結局は最後には自分に頼るしかない。……その時に、自分が彼ら人間の為に動こうという気にさせておいてくれなければならないわけだが……
「まあ、今のところは、出来る限りは協力するけどなー……」
気持ちなんて天気のようにすぐに不意に変わって行ってしまうものだ。……自分が機嫌を損ねればその時点で人類は対抗手段を失う。……まあそんな簡単にへそを曲げるほど子供でもないが。
「……自由を俺は望んだ。与えられたと思ったら、別に自由なんて無かったな。……ゴームは何を望んだのかね。……何を与えられて、何を奪われたのか。……まあ、どうでもいっか。」
ザナ。その立場と引き換えに、一つ、望んだものが与えられる。……だが与えられたものが満足できる物とは限らない。……いやむしろ、分かっていてそうしていると思っている。……結局ザナだって、いや、オドだって、どこぞの誰かがこの世界を面白おかしく遊ぶために与えた力に過ぎない。……そう思うと、虚しい物だ。
……そんな虚しい時間だけど、人間達がどこまでゴームに立ち向かえるのか、観察するのも悪くはないかもしれない。……まあ、願わくば殺してくれ。……あるいは、ちょっと早めに滅んでくれ。人間達。




