物を食べると口が軽くなる
「これ食いもんだよな?……初めて見たぜこんなの。」
「食べてくかい?」
「おお!おお!!食うぜ。食うぜ。おすすめはどれだ?」
「……全部乗せスペシャル。かね。味は保障するよ?」
「ならそれ頼むぜ。一番大盛りでな。」
「ちょっと待て。俺ももう一個。」
「……私ももう一つお願いします。」
「ふっふっふ……任せときな。」
……私達二人ともおかわりタイム。……見た目ほどお腹いっぱいにならないし、なにより美味しすぎてまだまだいけてしまう
「あんたら二杯目か?そんな旨いなら楽しみだぜ。」
「ええと、そうですね。なんというか。ファンタジーな味です。」
……って、そんな事を思いつつも、この人に探りを入れてみよう。
「あの……きょ……」
「おお!!ちょっと待った!話しは後な。……うはー!!!……すげえなぁ……めっちゃ綺麗じゃんか……!!」
……まあ、いっか。……綺麗だし。……見ごたえがある。
「はいはい、追加で三丁出来上がり!」
「おほほほう!!ち、ちめてぇ!!……うほっ!!しゃりしゃりでキンキンだああ!!!旨ええよ!!旨すぎるって!!」
……話をするムードじゃないし、私達も食べよう。……二度目だけど全然飽きそうな感じも無い。……むしろ一度目はあっけにとられて知らないうちに食べ終わっていたけど、二度目はじっくり味わってその深さを噛み締めている……味が何層にも重なって……オーケストラみたいだ。……聞いたことないけど。
「ごちそうさん!!いやぁ!!……これもう一丁……いや、もう三丁ぐらいあるか?」
「自信はあったけど、そんなに盛況だとは思わなかったね。悪いけど今日は五食分しか用意してこなかったんだよ……全部乗せスペシャルは高いから売れないかもしれないってのもあったし。ただ明日以降はもうちょっと用意してもいいかもね。」
「マジかぁ……じゃあまた明日も絶対来るわー!!ってか、この店って昨日あったか?こんな旨いの見逃すわけないんだがな。」
「そうだよ、この氷結晶屋台は今日からやらしてもらってるんだよ。初日だからちょっと控えめに用意しといたんだよ。氷もあんまり長持ちはしないからね。けどあんたらの食べっぷりを見たらちょっと甘かったね。」
「毎日でもいくらでも食べられるぜ!繁盛するって!俺が保証するぜ!!」
「ははは、誰だか知らないけどお墨付き貰ったね。」
……とりあえず一通り満足した後、男の人はうんうん言いながら歩き始めた。
「こんな店があるんなら……うーん……けどなぁ……」
「あの……」
「おお?どうしたお嬢ちゃん。俺になんか用か?それともナンパか?」
「こいつ、殺すぞ。」
……穏やかではない。見た目や話し方通り、軽そうな人らしい……まあシド様は嫌いなタイプだろう。……私も正直得意じゃないけど……
「いえ……ではありません。……あの、巨人が、暴れているのを、知っていますか?」
「ああ、ああ。暴れてるよな。……それで?」
「……率直なんですが、何か、知っていませんか?」
「唐突だなー。お嬢ちゃん。けど、知ってもしょうがないぜ。あんなのは人の手じゃどうしようも出来ないものなんだしさー。」
「知ってんのか知ってねえのかさっさと言えってんだ。知らねえならとっととどっか行けっての。」
「まあまあ穏便に穏便にさ。せっかく同じ物食って感動を共有した仲なんだしさ。まま、俺も多少なら口滑らせてもいいかなーって感じよ。……どうせ変わんないだろうけどさ。」
「……貴方は、何を知っているんですか?」
「逆に何が聞きたい?分かる事ならある程度答えてもいいぜ~?」
「じゃあ、巨人の倒し方は……?」
何が聞きたいって、それだけ聞ければ後はどうでもいい。プロフィールや生い立ちなんて聞きたくもないし。
「倒し方~?……倒し方は……まあ普通に倒すしかないかね~。」
「……そうですか。」
当たり前だ……出来たらやってる。
「あほらし。行くぞ。」
「あー待った待った!!……うーん。ってかあんた達なんでそんなこと聞くわけさ?冒険者なの?」
「……巨人を倒せないとこの国から出られません。」
「倒せば女の子が見事俺の物になるんだ。」
「……はー……よく分からん。……けど、なになに。この国から出らんないって?」
「……知りませんか?」
「そうなのかー……まあほら、俺あのゲート通って来たからさ。最近の情勢には疎いんだわ。たはは。」
……ゲート?
「あの、ゲートって……あの、うにょうにょした奴ですか?遺跡の地下の……」
「お、知ってんね~。そういう事よ。ゴームを追って来たら俺もこの有様よ。くぐって来たのに戻れねえってどんなゲートよ。はた迷惑だっての。」
ゲートを通ってこっちへやって来た?……じゃあ、この人は、魔物領から来たって事なのだろうか?
「シド様、魔物領に人っているのですか?」
「多分人が生きて行けるような場所じゃねえだろ……。」
「いやあほんとほんと。俺みたいのが生きていくにはだいぶ不便よ。……不自由よなぁ。まあ、俺はもう人って言わねえかもな。」
……なんだか、聞くほどに処理しきれないほどの情報が流れてきそうだ。……そもそもこの人の情報が信用できるかどうか判断するためにこの人の事を知らなくてはならないかもしれない。……果てしなく面倒だけど……
「あなたは一体、誰なのですか?」
「エアスト。普段は魔物領に住んでる。たまたまこっちに来ることが出来たから、今は観光気分で食べ歩ったりしてるわけさ。」
「……巨人も、魔物領からやって来たのですよね?」
「ゴームな。あんのデカい図体で急に消えたって聞いたもんだからどれどれと行ってみたらあの変なゲートよ。」
ゴーム……
「お前はこれからどうすんだ。あの裂け目があるから帰れないだろうが。」
「まあまあ俺はなんとでもなるんだわ。心配ご無用。……けどこの国は終わりだな。せっかくの旨いもんが食えなくなるのは残念だが。……いや、この国に限ったことじゃねえか。遅かれ早かれ人類は終わりだ。」
「そこまで……重大な事なのですか?」
「アイツと戦った?」
「……いえ。」
「アイツには攻撃は通用しないんよ。魔法も、剣も。」
「……それはあくまで効き目が薄いという事ではなくてですか?」
「ああ、何か知んないけど、効かないんだよね。不思議なもんさ。」
攻撃がまるで手ごたえが無い……その事実を裏づけするかのような事だ。……理屈が分からないというのは厄介だ。対策も練れないという事ではないか?
「どうにも、出来ないんですか……?」
「……難しいだろうねぇ。……ご愁傷さん。」
……
「難しいなら、何かやり方が、有るって事ですか……?」
「……いやぁ、それは何とも……ちょっとねぇ……」
「男のくせに勿体付けたような言い方しやがる。」
「……巨人を倒せば、美味しい物はまた食べられます。」
「うーん……そこなんよねぇ……やっぱ向こうの世界ってあんま楽しい事ないんよ。……娯楽が減るのは辛いわぁ……」
「……では、無理のない範囲で協力してもらえませんか?」
「何よ、無理のない範囲でって。」
「こちらのシド様が巨人をババッとやっつけるので、さりげなく助言的なものをポツポツと……」
「ほえー……ゴーム倒すの?……マジで?」
「言っとくがてめえが居なくても巨人なんて俺が一捻りだ。ただデカいだけのデカブツに負けるか。」
……
「どっちなんかね。本当なのかウソなのか。……ま、いっか!どうせ俺はいつでもオサラバ出来るし。やれるとこまでやってみーよ。ってか二人とも名前なんて-の?シド?」
「さっきから馴れ馴れしいんだ。男が近寄ってくるなアホ。後名前で呼ぶな。殺すぞ。」
「どんだけ好戦的なのよ……嬢ちゃんは?」
「……シノです。」
「おうおう、分かった。んじゃあさ。本来なら絶対無理なところ、1%力貸してやんよ。」
「1%?」
「アイツを倒せる確率が、1%になったって事さ。」
……0よりは、マシか。
「あ、策はお前らが考えんのよ?出来そうなら協力するわ。」
・・・・・・・・・
「と、いう事なのですが、どうでしょう。」
「……率直に言って……よく分からないのですが。」
「おおっす。よろしくなおっさん。」
「一応名乗ります。……エッケルノと言います。」
……私達だけではなんだかいつまでも話が進まなそうなのでとりあえずエッケルノさんの所にやってきた。
「あなたは……あの巨人の味方ではないのですか?」
「うーん……互いに顔は知ってるけど味方じゃねえな。もし倒すってんならどっちかというと協力したいぐらいだ。まあ、無理だろうけどな。」
「……あの巨人に何か弱点などありませんか。」
「あったら苦労しねえよね……あいついつも痛がってるんだわ。痛い痛いっつって。」
「ですが話を聞く限り、我々の攻撃で痛がっているわけではない……そうですね?」
「もう何百年も前からの話よ。ってか俺が向こうの世界に行くよりずーっと前から痛がってるって話だし。」
「……失礼ですが、あなたとあの巨人は、いったいどれくらい前から居るのですか?」
「あいつなぁ……七、八百年前ぐらいじゃねえのかなぁ……俺は三、四百年前ぐらいからの新参者よ。」
……なるほど、たしかにそれは人ではない。
「ふう、頭を抱えるほかありませんね……というかそれが本当かどうか私にはわかりかねるのですが……」
「信用しないならそれでいいんじゃねえか。それもあんたら次第ってやつよ。ま、普通は信用しないだろうけどな!あっはっは!!」
「……あの巨人が痛がっている原因は、何なのですか?」
「大昔にさ、ある奴にえらい一撃を受けたらしくて、その時の傷が未だに体の中で暴れ続けてるとかって話だぜ。何百年も続く傷なんて……いやはや恐ろしいったら。」
「一切の攻撃は通用しないという話でしたが?」
「……んー……あー……んじゃあ、言っちゃうよ。言っちゃうよ?厳密に言えば、ザナの攻撃ならダメージを与える事は出来るんだわ。」
……ザナ……って何?私だけが知らないかと思ったが、シド様も知らない様子だった。
「なんだそのザナって。」
「おお……思い切って言ってみたのにそこからかい。ザナってのは、次のオドの候補となる者の事よ。……流石にオドは知ってるよな?」
オド……いつだったか聞いたことがあるような気もするのだけど……どこでだったっけ。
「ザナという言葉に心当たりはありませんでしたが……なるほど、そういう事ですか。……これはこれは……」
「一人でうんうん納得すんな。」
「……知らなくても無理はありません。私もたまたま過去の文献や資料を目にしていたので知っていたようなものですから。……オドと言うのは、魔物の頂点にして、絶対なる王。過去人類の歴史においてなんども降臨した最強の存在……で、あっていますかな?」
「そんなとこだなぁ。俺もあんまりあったことないけど。大体今のオドしか知らんし。新参は肩身狭いったら。」
「……歴史に残されている一番新しい資料でもオドが最後に現れたのは、1500年は前の話になりますね。……気の遠くなるような話です。」
「まあ、俺もザナになった時はオドなんて全く知らんかったけど。まあともかくめちゃんこ強いのがオドで、それよりだいぶ落ちるのがザナってわけだ。」
「では……あの巨人は……」
「そ、ザナなんだわ。ザナはオドかザナじゃないと傷を与える事は出来ない。……言っとくけど、ザナってのは魔物領にしか基本居ない。しかも人間の味方になろうなんて酔狂な奴まず居ない。なんだったら機会があれば人間領へと攻め入ってやりたい奴らばっかりじゃねえのかね。裂目があるから当面無理か!あはは!!」
「……」
……あまりにスケールの大きい話ばかりで、何も言えない……エッケルノさんもどうしたものかと言った感じだ……
「そこの兄さんも。ゴーム倒すなんて息巻いてたけど、無理なのさ。どれだけ強くても、ザナでない限りはさ。……絶対倒せないぜ。」
「……」
……全てを真実だと受け入れるには、酷な話だ……対抗手段はそのザナと呼ばれる人達……しかしその誰もが人類にとっては敵対的だというなら……本当にどうしようもない。
「それが全て本当ならば……お手上げ……ですかね……」
「……」
「ところが、そんな人類に、1%だけ希望があるわけさ。マジで気まぐれだけどな。」
希望……そう、この人は、1%の希望を与えると言った。
「ここに、手を貸してやろうって言う、酔狂なザナが一人いるわけさ。……大サービスも大サービスよ。」
「……エアストさん。ザナ……なんですか?」
「じゃなきゃ、やっぱあそこじゃ生きていけないわな。さあ、そういうわけだ。抗う手が一つ見つかったぜ?……後はお前らがいい作戦を思いつけばいい。それに俺が賭けてもいいと思えれば、手を貸してやるよ。」
……突然現れたのが災厄ならば……起死回生の手も突然現れるものなのだろうか。
……まあそれでも1%と言う低い確率には違いないだろうけど……信じるには低い数字じゃない。
……やらないと帰れないし、早く帰りたいものだ。




