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シドとシノの大冒険  作者: レイン
422/1745

戻れぬ過去、だからこそ……

郷愁の日々……と呼ぶにはそれは少々スリリングだったように思う。まあ、賑やかだったとも言い換えられるかもしれない。


だが、だとしても昔の話。もう戻る事のない時間だ。


それに、俺は昔を懐かしむようなノスタルジアな感情を大切にするような人間ではない。むしろ未来に向けてさっさと進んでいきたいぐらいである。


……捨てていった過去の記憶なんかに、用はないのだ。


……


「(野生の勘と隊長は言っていたが……案外馬鹿にしたものではないのかもしれないな。)」


アーガイルの町の異様さは誰の目にも明らかだった。


「確かに大きくない町だけど……だからって守りが兵士十数人なんて事、あるのかしらね。」


「……」


シド達が突貫した時には既に住民はおらず、代わりに幾ばくかのヤシャマ軍の兵士が居たのみ。その者達もシド達と少々戦ったのち、手早く撤退していった。


「これで、制圧……で、いいんでしょうか。」


「……」


本来喜ぶべきタイミングでも、誰も喜べなかった。むしろ湧き上がる不安だけが心に募っていくばかり。


「……もしかすると、これは同じなのかもしれん。」


「?同じ、ですか?」


「こちらの兵士を巻き添えにブルックスを爆発させたときとな……」


「……」


皆の背筋に嫌な物が走る。だとしたらすぐにでもここを立ち去らなければならない。


「……いや、その可能性は薄いんじゃねえか。こんだけ人が居ないなんて明らかに異常。普通ここに人間を引き付けるつもりならもっと引き付けるための何かがあるはずだろ。第一この町は見ての通りそんなに広くもない。ここ一帯を爆発させたって倒せる相手なんて高が知れてる。こないだの策をまたそのまんまつかって来るとも正直思えん。」


「ならば、貴様の感じた物とはいったい何だったというのだ。」


「……」


……


俺が、感じた物。それは、奴の気配。


奴ならば、ここで俺と決着を付けようと考えるだろうという俺でなければ感じられない感覚。


それを簡単に敵意と言う言葉で片づけることも出来るが、厳密には少し違う。


確かに敵の実態は見えてはいない。だが、何となく確信する。もしもあいつならば、どう動くか。このシチュエーションを利用しないわけないだろうと。


「アーガイルの町……シド様、ここ、知ってるんですか?」


「そう言えば確かにそんな雰囲気だったわよね。もしかしてシドの故郷とか?」


「それはない。……まあ、来た事はあるがな。冒険者ならそれなりにどこの町にだって行った事ぐらいあるだろう。けどただそれだけだ。」


この期に及んでこんな言い方をするのは些か自分でも白々しいとは思った。


「ヘブンズ・テンペスター。」


「……!!!」


どこからか声が聞こえたかどうかを感じる間もなく、この身を引き裂かんばかりの痛みが体中を駆け巡る。


「がっ……があぁッッッ……!!!!!」


激痛を感じながら目に入ってきたのは眩いばかりの雷光。


「ッ……」


「こ……これ……って……」


「!!!」


「……ぐ……ぐぐ……」


そして俺だけではなく、もれなく他の4人とも強烈な衝撃を受けてその場にへたり込む。


「ただそれだけ……なんて、寂しい事言ってくれるね。」


……今度はさっきよりももっと近いところから聞こえたその声。……誰かなんて見るまでもなく明らかだった。


「ッ……ジ……ジハードッ……!!てめえッッッ……!!」


堂々たる態度でゆっくりとこちらに歩み寄って来る。……その余裕な態度が俺には癪に障る部分だった。


「……やあ、シド。また会えて、嬉しいね。」


地面に倒れ込んでいる俺達に向かって野郎は飄々とそんな事言ってのけてきやがったのだった。


「い、いったい……どこから……全然姿見えなかったし気配も感じなかったのにッ……」


「それは簡単な事だよ。姿も見えないし、気配も感じられないようなところから撃っただけだからね。」


「な、なんだと……」


「既にご存じだとは思うけど、僕の技は結構広範囲に向けて放つ事が出来る。そして特に力を込めてやれば……まあ、この町全体に向けて技を撃つことも出来たりするんだよ。」


ご自慢の剣を見せつけながらしれっとそんな事を言ってくる。だが、簡単に言っているようだが、町全体を包むほどの技など簡単に撃てるはずもなかった。魔法で言ったらレベル5ぐらいには相当するのではないだろうか。


それをこいつはふいと撃って見せたのだ。


「けど本当は押し寄せてきた軍団に撃つつもりだったんだけど、まさかこんな少人数で来られるとはさすがに思っていなかったかなぁ。ちょっと効率としては悪いねー。」


「そんな……大勢に向けて撃つような技を私達に……」


「まあ、おかげで1人あたりへのダメージはちょーっと大きくなり過ぎたかもしれないけどね。」


「ちょーっとどころでは……全然済みません……」


「ぐっ……!以前に受けた時よりも……これは……」


「これが……ジハード将軍のッ……力……」


圧倒的なまでのパワーを誇示されるが、それでも奴は俺達へ攻撃を仕掛けてはこなかった。もし俺ならば何も言わずさっさとかかっていくというのにだ。


「……おちょくって……やがんのか。」


「まさか。……もちろん、ここで全員殺すつもりだよ。……そう、本当なら、間髪入れずに今すぐ殺すべきなんだろうけどね。」


「……くっ……そういうの、趣味悪いんだけど……」


「気を悪くしないでくれるかな。君達も少々長く生きながらえるという事で、さ。……シド、もしこれが君と会話を交わす最後の機会なのだとしたら、その終わりがあっさりだったら、とても呆気ないと思わないかい?」


「……思わねえな。命なんて無くなる時は一瞬だろうが。あっさりもあっけないもあるか。どんな死に方だろうが何も変わらねえ。ただの死だ。」


「……ライラック・クターカ。」


ライラック……


「彼女の死も、君にとってはそんじょそこらの誰かの死と変わらないのかい?……そうじゃないはずだ。」


「変わらねえよ。」


俺は、心からそう思っている。死は、死なのだと。


「今この世界にあるのは生きた人間かそうでない人間かだけだ。死んだ人間の事なんて覚えちゃいねえ。」


「……それは凄く、悲しい事じゃないかい?……彼女がどれだけ僕達の事を想って生きて、そして生涯を終えたのか、それらを全部何も無かったとしてしまって、それで君はいいのかい。」


「……」


「僕は、ずっと、ずっと彼女の事を忘れない。……忘れられるはずなんてないのさ。それはきっと君もそうだ。シド。」


……何かを思い出すかのような眼差しを俺に見せてくるが、あいにく俺はそんな昔に浸るつもりはさらさらない。そんなのは勝手にやってればいいのだ。


……そう、勝手に。


……


ある日ある時ある洞窟にて


「……」


その洞窟に掬う親玉であるモンスター。


タイラントイーター。


かつて多額の懸賞金がかけられていたモンスターであり、それ目当てで向かってきた冒険者を数百人単位で食らいつくしてきた経歴を持つ。


そんな魔物に対峙する5人の影があった。1人は成人の女性だが、残り4人はまだ10年生きたか生きてないぐらいかの幼い少年少女たち。このような場所に居るのが不釣り合いなほどに。


「さーてクソガキどもー、いつも通りにやっちゃいな、遊び過ぎないようにね。」


そんな子供達に向けて彼女は号令をかける。いつも通りに、と。


そして、我一番にと魔物へ向けて飛び掛かる!


「いつも真っ先に遊んでんのはてめえじゃねえか……」


幼いながらもひと際異彩を放つ彼はぶつくさとつぶやく。


「シドったらー、そんな事言わないで行こうよー!」


「ライラックの助けに入らないと……火炎砲!!!」


「!!!」


小さな彼女が打ち出したそれは怖い物など知らぬ魔物ですら驚愕させるほどの魔法。


火炎砲。炎魔法レベル7以上の才気が無ければ発動する事も叶わない。それをいともたやすく魔物に向けて発射する。


それは先んじて向かっていた彼女のすぐ横をすり抜けて魔物に命中する!


「オオオオオオオッッ……」


声にならない叫びをあげながら炎に包まれながら悶え撃つ魔物。


「おーっとっと……フォニカ!!撃つのはいいけどアタシには当てない様に!!」


「大丈夫だ。あいつしぶといし当てようとしても当たんねえよ。」


フォローになっていないフォローをする少年。


「シド!後でたっぷりしばくから覚えときな!」


「まあそれはともかく、僕達も行こう。」


「よーし、行こうジハード!」


端正な顔立ちの美少年と、活発そうな格闘少女が魔物へ向かって突撃する。


「おー、頑張れよ。」


「シドは行かないの?」


「めんどくさい。」


もとより完全にやる気のない彼はフォニカと一緒にただ戦っているさまを眺めていた。


「やれやれ、大したことない相手だねッ!!」


「たッ!!」


「あちょー!!ほちょー!!!そりゃー!!!!」


「氷結砲!!」


見る見るうちに衰弱していく魔物。これが人々を苦しめた魔物だとは思えないほどに。


いや、彼女達があまりにも強すぎるからそう見えてしまうだけでタイラントイーターはとても容易に倒せる相手ではない。


本来ならば兵が群れになっても敵わないほどの相手に他ならない。


ただ純粋に、それよりも強いだけなのである。


そして間もなく命の散りそうな瞬間、最後の意地とでも言うのか、魔物は力を振り絞る。


「……オオオッ……!!!」


「……ッ!いけないッ!!」


魔物が向かう先に居るのはフォニカ。その突然の攻撃に彼女は一瞬我を忘れる。


「あッ……」


もし彼女が既に成熟して精神も発達していたならばとどめの一撃を加えられたのだろうが、いくら強くともまだ少女。襲い来る敵の魔の手に立ちすくんでしまったとしてもやむを得なかった。


「まずっ……」


「フォニカっ!!!」


間近で戦っていた3人はその行動に対応できずにただ叫ぶしか出来ない。


「オオオッ……!!」


魔物は瞬く間に彼女の小さな姿ごと自分の牙で……


「させるかよ、クソデカブツがッ!!!!」


「オ……オオッ……!!」


「!!シドっ!!」


怯える彼女の隣に居たシドはすぐさま間に割り込んでは己の剣でタイラントイーターに最後の引導を渡す。


「……」


程なくして、魔物は息絶えた。あれほど狂暴と言われたものでも死はあっけない物であった。


「ったく……疲れさせんじゃねえよ。」


めんどくさがりながらも、とどめを加えたその力はとても年端もいかない子供のそれではなかった。


「シド……ありがと……」


「ふん。」


「……ようし、終わりだね。んじゃ、とっとと引き上げるとしようか。」


親分格、と言うのか。皆を連れて歩くまとめ役を担うライラックに4人は付いていく。


この5人はずっとこうして各地を歩いていた。


……


「フォニカ大丈夫だった?」


「うん。ごめんね、ドジしちゃって……」


「本当だ馬鹿。」


「シドがちゃんと最初から一緒に戦ってくれてればよかったのに……」


「別に俺がわざわざ戦わなくてもお前らだけで十分だったろ。」


「ごめんね、ジハード。足引っ張っちゃって……」


「フォニカが怖くても仕方ないよ。僕も正直怖かったし。でも結局はシドに良いところを取られちゃった感じだね。」


「お前ら全員ドジなんだよ。」


言い方にとげはあろうとも、そこに悪意はない。しいて言うなら素直でない事による照れ隠しのようなものなのだった。


「でもやっぱりライラックは凄いねー。あんな大きな魔物だって全然怖くないんだもん。」


「それにかっこよくてスタイルも良くて優しいもんね。どうしてシドは女の人が好きなのにライラックはダメなの?」


「あれは女じゃねえ。あんな無軌道無作法で粗暴な女を誰が相手になんぞ……」


「随分言ってくれるじゃねえかこんのクソ坊主が。」


「!」


彼が自分の後ろに迫っていた事を声で初めて把握した瞬間には頭部に途轍もない衝撃が走っていた。


「ぐっ……痛えええええええええッッ!!!!!」


「(あーあ……また殴られてる。学習しないなぁ……)」


悪態をついては彼が鉄拳を食らうのはいつもの事だった。


「どこの誰が無軌道無作法粗暴な女だって?……あ?」


「て、てめえだてめえ!お前みたいな奴が他に2人も居てたまるか!」


そこで言葉を引込めるのがある程度学習能力のある人間なのだが、彼は感情が先立って追撃の言葉を突き立てる。


ゴン……!


「……!!!ぬ……ぬああああっ……」


「今のは流石に痛そう……」


「いいかお前ら、覚えておけ。こういうのを分かりやすく自業自得って言うんだよ。」


「(口は災いの元とも言えそうだけど……なんか飛び火が来たりしたら怖いし黙っておこう。)」


「さあて、あの怪物をぶっ殺した報奨金を貰って来たよ。さ、お前らの取り分だ。」


ライラックは1人1人に金を手渡していく。もちろん子供が手にするには一般的に多すぎる額である。それらを普通に受け取っていく。これは正当なる権利だと自覚しているから。


「なんで俺だけ少ねえんだ!!」


ただ、額が均等だとは言っていない。


「ほとんど見てただけだからだよ。順当な配分さ。」


「トドメ刺したのは俺だろが!むしろ多くてもいいぐらいだ!」


「はいはい、勝手に吠えてな。解散。」


「むあーーーー!!!!」


シドは勝手に吠えた。


「しょうがないなあシドは。少し私の分分けてあげるね。はい。」


そう言ってオルテナは自分の取り分から少しをシドに手渡そうとする。


「あんまり不満を持たれて後ろから刺されても嫌だから僕も、はい。」


言い方が気になるがジハードも同じようにする。


「私の事助けてくれたのに後ろから刺さないよね?」


言葉では信じてるよ、と言っているようだが、フォニカもまた同様にする。


なんだかんだ3人共シドをちゃんと仲間と認識しているし、同じく平等でありたいと言う仲間意識がそうさせていた。


そんな3人の好意をシドはありがたく受け止め……


「いるかバカ!そんな金いらん!くそ……!あの野郎いつか寝首をかいてやる!」


「……」


ぷりぷりしながらシドはどこかへ行ってしまう。


「……シド、いっつもこうだね。」


「本当に受け取って欲しいのに……」


「……」


本当に心からの誠意のつもりなのだが、それがシドに届かない事を3人は少し残念だった。


その中で同じ同性であるジハードだけはそれとなくそうできない理由を察していた。


男が女性から施しを受けると言うのが彼的には情けない事と思っているのではないかと言う想像。


それが真実なのかどうか、本人しか知るところではない。

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