なにものよりも自由たれ、少年少女達
「ねーシド。ライラックにプレゼントしようよ。」
「はぁ?なんでだ?」
「いつもお世話になってばっかりだから、たまにはね。」
「日ごろの感謝を込めて!」
「それにもうすぐね、5人がこうして揃ってから丸3年経つんだよ。」
シドは内心そんな事よく覚えてるもんだと感心したり呆れたりした。
「……無駄に終わるな。」
「そんな事無いよー!ライラック喜んでくれるよ!」
「……」
無意味に終わると分かっていても、流れには逆らえず、しぶしぶ自分も金を出すシド。こんな事に使うなら自分の食い物でも買った方が有意義だと最後まで疑わなかった。
……
「ライラックー!」
「ん?なんだい?」
「これ、私達からライラックにプレゼントー!」
オルテナは4人を代表してそれを手渡す。フォニカと2人で包装していかにもプレゼントっぽいそれを。
「へえ。開けてもいいのかい?」
「うん、開けて!4人で選んだの!」
「俺は金を出しただけだがな……」
「シドったら、そんな事言わないの。」
箱の中からは、綺麗な装飾のイヤリングが姿を現す。
「……へえ、こいつは。」
「ライラックは綺麗で何を付けても似合うと思ったから迷っちゃった。えへへ。」
「喜んでもらえたら嬉しいです。」
「……ああ、ありがとうよ。」
どこか感慨深そうな顔をしてただそれだけ口にするライラック。少々味気ないかも知れないが、彼女の性格からいえばこんな物かと3人共思っていた。
「(……絶対無駄に終わると思うがな。)」
……それから数日。
「そうだお前ら、こないだはありがとうね。」
「?」
「あのイヤリングだよ。結構高かったろうに。」
実際庶民的な稼ぎではとても手が出るような代物では無く彼らが多額のお金を稼いでいたから買えた様なものではあった。
だが、不思議な事にライラックはそれを身に着けてはいなかった。というよりこの数日あれから一度も見かけていなかったのだ。
「けどおかげでいい金が入った。いい酒が買えたよ。今夜が楽しみだ。」
「「……」」
「またプレゼント期待してるよ。はっはっは。」
その言葉で4人は分かった。彼女はプレゼントを売り払ってお金と換えてそのお金でお酒を買ったのだと。
「(う……うーん……ちょっとショックなような気もするけど……ライラック喜んでるし……なんだか微妙な気分。)」
「(あんまりイヤリング好きじゃなかったのかな……)」
「(……次は何をあげたらいいのか分からないなぁ。結局は直接金銭を渡した方が喜ぶんじゃないだろうか。)」
「(ほらやっぱり無駄に終わったじゃねえか。こういう女なんだよ。)」
4人は4人共それぞれの思惑を胸に旅を続ける。
……
「シドってライラックの事、嫌いなの……?」
「当たり前だろうが。逆に好きになれる神経が分からん。いつか押し倒して身動き取れなくなったところをひいひい言わせてやる。」
「それはだいぶ下品だよ。というか私達女の子なのにそんな男の子と話すような事平気で言っちゃダメだよ。」
「正直に言ってやってんだろうが。」
「正直なのも時と場合を考えないとダメだよ?デリカシーが無いと女の人に嫌われちゃうよ?」
「そういう奴はそうさせておけばいい。けどちゃんと本質を見てる奴は俺の凄さを勝手に分かるからな。」
「確かにシドは強いけど……強いだけじゃ女の子は振り向かないよ?ジハードみたいに優しいともっとみんなシドの事を好きになってくれるよきっと。」
「じゃあなんだ。俺はあの野郎よりも下だってのか。」
「うーん……フォニカはシドとジハードどっちがカッコいいと思う?」
「こないだ誰が命を救ってやったか覚えてるだろうな。」
「ジハード……かなぁ。」
「なーーー!!!!!」
「だって、シド……よく私にイタズラするんだもん。この間もスカートめくられた……」
「なーーーー………」
フォニカは正直な子である。だからこそ、シドの心に突き刺さる。
「?何の話かな?」
当の本人は剣術指南書を読んでいる。
「ジハードがカッコいいって話!私もジハードの方がカッコいいと思うなぁ。優しくて強いし。」
「……」
「……あんまり前の話を聞いてなかったんだけど、これってフォローした方がいいのかなシド……?」
「やかましいわ!お前ら2人もガキだから俺のカッコよさが分からんのだ!」
「じゃあ逆に僕から聞くんだけど、シドはフォニカとオルテナどっちの方が可愛いと思う?」
「!!」
ジハードは子供ながらに何の気なしに聞いた質問だが、実は内心2人ともドギマギしていた。
互いに相手の事を大好きではあるが、だからと言って自分の方を可愛いと思っていて欲しいという微妙なジレンマが2人の間にそれぞれ走る。
「どっちもガキだ。」
「「(ムカ。)」」
流石の2人も少しムカッとした。葛藤した時間は全くの無駄に終わった。それどころかどちらも基準に満たない様な言い方だった。
「(あ、2人共怒ってる。)」
ジハードの見立ては正しい。二人を見れば明らか。
「(ぷくー……)」
オルテナは頬を膨らませる。よくある光景だ。
「(ぷく……)」
そして珍しくフォニカも同じ様に頬を膨らませている。これは結構珍しい。つまりはそれなりにムカっとしたということである。
「(これは流石にまずい気がする。)」
後々引きずる可能性も考慮したジハードは行動に出る。
「シドは見る目ないなぁ。フォニカは努力家だしおしゃれにも凄く気を使ってるよね。着てる服もとっても似合っていて可愛いよ(すかさずフォロー)。」
「ジハード……(照)」
「オルテナもいつも元気でこっちも明るくなれて一緒に居て凄く楽しい子だよ(こっちもすかさずフォロー)。」
「え、えへへ……そうかなぁ……(照)」
「どこを探したってなかなか見つけられないぐらい素晴らしい2人だよ。僕は2人とずっと一緒に居たいって思うもの。」
「ふん、そんなもんおべんちゃらだ。」
「まあ、シドは素直じゃないからね。多分本当は大好きだけど恥ずかしくて言えないだけだよ。」
「そうなの?シド。」
「んなわけあるか!」
少年少女たちの和気藹々としたトーク。それは4人がごく一般的な生活を送れている事を示す。
……
ある日ある時、とある町にて。
「シドとジハードはどっちが強いの?」
「そりゃあシドだろうね。」
「ふん、そんなの当たり前だろうが、下らんこと聞くな。」
「そうかなぁ。」
「俺もこいつも俺が強いって言ってんだから何を疑う事があるんだよ。」
「でもシドって全然訓練したりしないし戦いの時もめんどくさいって言って戦わないじゃない。それに比べてジハードはいつも頑張ってるよ?ジハードの方がよっぽど強そうだよ。ね、フォニカ。」
「うん、シドは遊んでばっかり。」
「だから見る目が無いって言ってんだよ。」
「じゃあ、ここで戦って強いとこ見せてよ。」
「何の足しにもならねえのに何で戦わなくちゃならねえんだよ、あほらし。」
「じゃあ、やっぱりジハードには勝てないの?」
「……うぜえなぁ。」
「それじゃあシド。1回だけ僕と戦ってくれないかな?勝てないとは分かってるけど、僕もシドと戦って勉強したいから。」
「てめえまで何寝ぼけた事言ってやがる。」
「1回だけでいいからさ。そうすればオルテナ達も納得するよね。」
「するする!」
「……」
結局勢いに流されてシドはジハードと手合せする事になったのだが、結果は明らかだった。
「やっぱり、負けちゃったか……」
「うそー……」
勝者は、シドだった。
「ほら見ろ、俺の方が強いだろうが。」
「……でも、シドの攻撃むちゃくちゃで何だか乱暴。ジハードの方が綺麗な戦い方してる。」
「んなの関係あるか!強い方が勝ちなんだよ!」
どうにも女性から見た感じではあまり納得できる勝ち方ではなかったようだが、対峙したジハードにはシドの強さは明らかだった。
「(……どれだけ差があるのかと思って戦っては見たけど、こんなに差があるなんて……流石にショックだなぁ。)」
「ぶーぶー!」
「やかましわ!」
ギャラリーのヤジにヤジで返すシド。
「……シド、もう1回、戦ってくれない?」
「するかバカ!もう一生戦わねえよ!」
「……それは、残念だね。」
「次やったらジハードに負けちゃうからでしょー。やっぱりまぐれー!」
今も昔もシドの強さは皆に伝わり辛いのだった。
「シド。」
「あ?」
「もし、何かの機会でまたここに来る事があったら、その時はもう1回戦ってくれるかい?」
「だからやんねーって言ってんだろうが。」
「……」
「……何でだよ。」
「……君の方が、強いからだよ。」
「そんなの別に関係ねえだろ。」
「……僕は、君みたいに強くなりたいんだ。だから、君と戦って強くなりたい。それじゃあ、理由にはならないのかい?」
「お前根本的に分かってねえな。強くなるってのは誰かになるって事じゃねえだろう。お前はお前で強くなればいいだけだろうが。」
「……だけど、いくら努力しても、やっぱり僕は君には勝てない。」
「なら努力が足りねえんだろ。まだまだ努力しろ。」
「シドはいつも寝てばっかりのくせにねー。」
「女が口挟むな!」
「……分かった。なら、僕の努力が十分だと僕自身が感じた時、君を越えたと証明するために僕と戦ってほしい。それなら、どうかな。」
「……ふん。アホな事言ってんじゃねえよ。」
「その時は私達も呼んでねー。シドがズルしないか見ててあげるから。」
「勝手に言ってろ。ふん。」
結局その約束はしたんだかしてないんだか曖昧な感じで終わってしまったのである。
そもそもシドからしたら自分を越えるとかそんな事に囚われている時点で論外だった。
だけど、そんなシドの思いとは裏腹に、ジハードにとってこのやり取りは彼の人生の根幹に深くかかわるものとなったのだった。
……
皆寝静まった夜。今日は旅先で野宿であった。ライラックは1人眠り、フォニカとオルテナは2人で眠り、ジハードとシドは本来同じテントで寝るはずなのだが、男と寝るなんてごめんだと言い張ったシドは大抵外の適当な所で寝ていた。
「……」
そして、ライラックのテントに1つの影が忍び寄る。
その影は音を殺してテントを開けて中に入り込む。
「(ふっふっふ、よく寝てやがるな。)」
その人物はシドであった。いわゆる夜這いと言う物である。幼くしてこんな事を覚えてしまっている彼は中身は既に青年……あるいは中年のそれである。
眠るライラックの体も呼吸と共に一定のリズムを刻んで動いている。眠るのだから当然の如く軽装であり、彼女のボディをより一層際立たせていた。
「(本当に体だけならいい体してやがる。これで中身がなぁ、とは思うが寝てればそんなの関係ねえ。いつもの鬱憤を晴らさせてもらうとするか……)」
シドはいかにも良からぬ事を考えていた。
「(……とりあえず上に乗っかって体重をかけて身動きを取れなくしてやる……)」
ソロソロと忍び寄っていくシドだが、突然足首を何者かによって掴まれる!!
「!?」
「……こんのクソガキ。」
……何者かも何も無かった。当然それはライラックの腕。シドの気配に気付いて目を覚ましたのだ。
「て、てめッ!!」
「……おらッ!!!」
「ぬがッ!!」
足首を掴まれながら思い切り引っ張られてシドは転んでしまう。代わりにすっとライラックは起き上がり、逆にシドの上に乗っかって馬乗りの状態になる。
「女性の寝込みを襲うなんざ本当に躾のなってないガキだ。」
「ぐ……まさか起きてやがったのか……?」
「しーっかり寝てたよ。……あんたの気配がバレバレなだけさ。」
「……むむむ……」
「さあって……アタシは眠りを邪魔されるのが大嫌いなんだ。知ってるね?」
「ぬうッ……!!」
じたばたして振りほどこうとするが、両ひざでがっちりとホールドされているのでライラックの体はビクともしない。
「……罰として100固めの刑だ!!!」
100固めの刑とは、彼女が日々頭の中で構想していた関節技の数々。それら100種類をまとめて受けるというフルコースである。
「ぬああああああああああッッ!!!!」
……真夜中にシドの悲鳴が延々響き渡った。
「「またやってる……」」
そんな事もあってか、各自のテントはいつもそれなりに離れていた。もっともいつもの事なので3人は特に気にする事も無く再び眠りに就く。
……とまあ、こんなレッドゾーンな事もありつつも、それでどうにかバランスを取っている5人。
ライラックに付いていく4人は理由はそれぞれなれど、天涯孤独となってしまった。だが、そんな4人がライラックと出会い、今ではこうして集団となっている。
シドはどう思っていたか定かではないが、少なくとも他の3人はずっとこの日々が続くのだろうと思っていたしそう願っていた。
だがある日突然、このパーティは解散となってしまう。リーダーであるライラックの死をもって。




