その名もサンダーマント
「なかなかやってきやがるじゃねえか。」
「なりふり構ってはいられないという印象ですな。」
順調に進行を進めている俺達の元へ届いた伝令は、敵が都ごとこっちの兵士を爆殺したと言う話だった。
「いやー……なんというか、えげつないわねぇ……」
「……」
シノはややショックな様子だった。言い方は悪いが規模が大きく瞬間的に起こった事だからそう感じるだけで俺達が今やっている事だって長い目で見れば一緒なのだがな……
だがまあ、善悪問わないこの何でもありな戦場でならこのやり方は至極効率が良いだろう。
向こうがどれぐらいの戦力だったのかまでは知らないが、その人数に対してその何倍もの相手を殺す事が出来たとすれば都1つ犠牲にするだけの価値はあるだろう。
どうせ負ければ都もくそもない。逆に言えば勝てば都の代わりなんていくらだって都合がつく。この戦いにただ勝利する為だけと言うのならば使えるものは全部使い切って当然だ。
「これによりグラム殿が率いる第1軍は損害を被り、一旦編成作業を挟まなければならぬ事になってしまったようですな。まあ、数日ほどで再編は終わるでしょうが、それまでは少々苦戦を強いられる形になるやもしれませぬ。」
「編成……は、まあどうでもいいんだが、数日ねぇ……」
……ちょっときついかもしれない。
俺はこの戦いを半月以内に終わらせると宣言した。実際は10日ぐらいで終わらせるつもりなのだが、余裕を持ってそう言ったのだが、無論これはただのカッコつけではなくちゃんと理由がある。
理由はシンプルにして1つ。それ以上の期間が経過するとクノッサルからの援軍がヤシャマに加わってしまう。
今現在こっちとヤシャマの勢力は贔屓目に見ればややこっちが優勢だが、クノッサルに加わられたんじゃそれが一気にひっくり返る。というかもうひっくり返せなくなる。そうなればラズリードは負ける。
だが、どうにか内通者を使う事でこうしてクノッサルからの援軍を押さえる事に成功している今この時期に電光石火の侵略によってヤシャマを降参へと追いやるのがベストなのである。……つーか、それを逃したらもう勝つ手段が無い。じりじり行ったらもう立て直しは不可能だ。
そしてもう1週間ぐらい経ってしまった。俺の考えるリミットまでは後約3日。長く見積もっても7日……そろそろマジで行かないと厳しいだろう。
「それぞれの戦況はまあ互角以上のようですが、それを続けていて勝てるかどうかと言うとまた微妙な所ですな。」
「膠着状態を続けていては勝機は見えません。」
「……だからこそ俺達はこうやって一直線に敵の本丸に向かってるんだろ。」
「その通りですな。」
……危険を承知で向かって行く位の気概で無くてどうして勝利できるだろうか。
俺を含めたこの軍勢は敵地を横断しながら真っ直ぐ首都ガイアルラへと向かっているのだ。
多からず、されど少なからず、俺達はただ首都を目指す。狙いはもちろん大将の中の大将。皇帝の野郎である。
「近づけば近づく程に危険なこの任務ですが、それが私の所へと巡って来るとはなんという事でしょうな。……まあ、今攻めに回る事が出来るのは1軍か5軍……1軍は最悪の場合は城の救援に転じなければならないと考えるとそこまで離れる事が出来ないのですから、当たり前と言えば当たり前でしょうが……何とも、疲れそうですな。」
「そんなに疲れるのが嫌なら隊長なんかやめちまえばいいだろうが。」
「……ごもっともな言葉ですな。前向きに検討するとしましょう。」
「冗談でもそれは困ります。まだ自分達には隊長が必要なのです。」
どっからこの人徳が湧いて出て来るのか不思議でならない。ただの陰オヤジじゃねえか。
「まあ、何にせよ、この作戦を遂行してからあれこれ考えるとしましょうかね。死んでしまっては元も子もありませんからな。」
……それだけは同意見だった。
……
「ちっ……うぜえなこいつらはッ!!」
近付くにつれて激しさが増してくる敵の攻撃に飽き飽きだった。
「シノ!後ろから来てるわ!!」
「……ちょっと忙しいですね。」
「……たあッッ!!!」
「あ、ギンガさん、ありがとうございます。助かりました。」
「ここは敵の巣の中だ!!一瞬の油断が命取りだと知れ!!己の身を第一に優先しろ!何としても生きて次へと歩みを進めるのだ!!」
「「おおおおおッッ!!!!」」
だが、どうやら既にテンションの下がり気味な俺と違って他の奴らはやる気満々状態を保てているらしい。大したこった。
……つーかこうして戦っていて分かった。どうしてテンションが少しずつ下がっていくのか。
周りに女が少ないからだ。シノとアグリアしか居ねえ。後は男ばっか。こんな状況が続いたら俺でなくてもうんざりするわな……
でもまあ物は考えようでこの戦いが終わればまた女の子達とイチャイチャしながらだらーっと遊べる日々が待っているのだ……
「……」
「貴様らぁぁッ!!!!我は部隊長……この地を預かっているヒエムラ……」
「死ねえええええええええッッ!!!!!!」
突然目の前に現れたそれらしきやつを力いっぱいに一刀両断した。
「がッ……!!!!ぐっ……ガイアルラ様……すみま……せぬ……」
「た、隊長が……!!!……おのれえええええッッ!!!!」
怒りに身を任せて飛び込んでくる奴らの末路など決まりきっている。この場所での戦いも危なげなく終了した。
……
「シド様途中から元気になってましたか?」
「あ?」
「何かいい事でもあったんですか?」
行軍中だってのにまたのんきな事を言ってくる。……そしてそれなりに俺の事を見ているんだなぁとも思う。
「この戦いが終わっちまえばまたいつも通りになると思うと少しだけやる気が出てきた。」
「そうですね。また、色んな所へ冒険に行けますね。」
「……」
言うか、言うまいか。迷っていた。
もう俺はゴーバスに入国できないと言う事に。……まあ、遅かれ早かれ分かる事なのだが。
……自由を取り戻すために戦いに加わったと言うのに、そのせいで少しばっかりの自由を失ってしまう事になったのは本当に皮肉でしかない。
思えばほっといたとしてラズリードが負けたとしても、多分この世界全域がその内ヤシャマの領土になるだけで、俺のような冒険者にとってはさほど変わらなかったかも知れない。
「この戦いが終わったら、またソーラ達に会いに行きましょうね。」
「……まあ、その内な。」
……そりゃあ、向こうからこっちに来てもらえば会えないって事は無い。ただ、以前みたいに気軽に様子を見に行ったりする事が出来なくなるだけだ。
ただまあ、そうなったとしても、俺は自分のやった事を後悔などしていない。
あの時は殺したかったから殺した。例えばその結果俺が命を狙われる様な事になったら俺は抵抗する。国が相手だと言うのならば、それでも抵抗しよう。
無論勝つ見込みなど無くてもだ。死ぬその時まで自分の心に従って生きる。
やりたい事を心の中で抑えた先の人生のどこに自由がある。それのどこが自分の人生だ。
人生というのは、本来破天荒な物なのだ。
「シド様。」
「ん?」
「あのビリビリの人が出て来たらどうしますか?」
「それについては大丈夫だ。いい案が浮かんできたからな。もうあんなの怖くは無い。」
「流石シド様です。……実は、私、迷惑かもとは思ったんですが勝手にこんなものを。」
そう言うとシノの奴は道具袋からアイテムを取り出す。……マント?
「何だそれは?」
「この戦いが始まる前にラズリードでシド様と離れて行動していた時に見つけて買っちゃいました。」
……カラリーサ達と出かけてた時だな。適当に街をぶらついてショッピングしてたんだろうか。と言う事は自分用か?シノにマントはあんまり似合わないのではないかとも思うが本人が好きならそうするといいだろうが。
「戦いが始まる時に、私1つだけ気がかりだったのはあのビリビリでした。だからどうにか出来ないかと思ってアグリアさん達に相談したりしてました。そうしたら街を歩いていたらこれが売っていたんです。なんと限定1つ限りでした。」
「ふーん……って、まさかこれ、ただのマントじゃないのか?」
「どうやらこれはサンダーマントと言うアイテムのようです。」
「サンダーマント……」
それは市場にあまり出回らない珍しい装備だった。鎧や盾などああいった装備に対して魔法防御加工をするのはまだ出来なくないらしいのだが、マントや衣服などにそう言った加工をするのは数ランク上の技術らしいのである。
ましてや一般的にマントを付けて戦うのは冒険者が多く、それを所有した人間は大抵どこかで死んでしまう為、その後マントが再び誰かの手に渡ると言う事も無いのだ。だから中古の物であってもそんなに見かける事が無い品である。
そんな中ここにあるサンダーマントはおそらく完全新品の物。こんな物が市場に出たらかなりの高値が付くだろう事は容易に想像できた。
「……これ、お前が買ったのか?」
「シド様から貰って貯めていたお小遣いを全部使ってしまいました。……でもそれでも足りなかったのでアグリアさんやカラリーサさん達からも少しずつお金を借りてどうにか買う事が出来ました。」
「……ずいぶんだな。そこまでして欲しかったのか、それ。」
どういう体質なのだか知らないが、聞けばシノはあまり奴の電撃を受けないようだった。そんな奴がこれを付けてもそこまで劇的にどうにかなるような事でもない気もするのだが……
「本当はちゃんと自分で頑張ったお金で買わなくちゃいけなかったんですが……シド様に、プレゼントしようかと思って、買っちゃいました。」
「……」
「いつもいつもお世話になっているシド様に、私から、何かお返しが出来ればと思っていたんです。でも、いらなくなっちゃいましたね。」
……自分の為に貯めた金は、自分の為に使えっていつも言って来たのに、懲りずにこいつはこういう使い方をする。
そもそもシノの奴は小遣いだなんて言い方をするが、正確に言えばあれは分け前なのだ。こいつが頑張った分の金を俺は小遣いと称して与えているだけだ。
こいつが命がけで稼いだ金を、どうして俺の為なんぞに使ってしまうのだろうか。
食いたい物を食えばいい。着たい服を着ればいい。何だっていい。自分の為に使えばいいのにこいつは……
「……で、そのマント、どうするんだ?」
「……じゃあ、私が身に付けましょうか。すすす。……どうですか?」
「……イマイチだな。」
「しゅん……」
……こいつにマントは似合わないだろう。
「……よっと。」
「きゃあ、シド様に身ぐるみをはがされてしまいました。」
「……マントをはぎ取っただけだろうが。」
……俺は自分のマントを取って外す。
そして、シノから奪ったマントを手早く身に着ける。
「……ま、こういう着こなしが似合うのはやっぱり俺だな。はっはっは。」
「……気を使わせてしまって、すみません。」
……アホめ。
「言う言葉が違うな。」
「……」
「……」
「シド様に……とってもよく似合ってます。」
「はっはっは!当たり前だ。俺が着ればどんな物だって際立つのだ!」
……素直に礼の1つも言えない所が、少し情けなくもあるな。
「前のマントはどうしますか?」
「んー……まあ、好きでいいんじゃねえか?そこらに放流すれば風と共にどっかに行くだろうしな。」
「環境に悪いです。私が大切に持っておきますね。すすす。」
そう言うと前のマントを袋に仕舞い込んだ。
そんな物後生大事に持っててもしょうがないと思うがな。
「まあこれがあればより無敵だな。」
「でもサンダーマントなので雷にしか効果が無いって言ってました。」
「……それは仕方ねえだろう。全部に耐性がある装備なんてまずねえしな。」
魔法などによる属性攻撃と言うものに対しての耐性など普通無いのだ。特に雷ってのは人体に対してなかなかの影響を与える特徴がある為雷に耐性のあるような装備はかなり重宝される。こうして新品があるだけでかなり希少な事なのだ。
「それと、サンダーマントと言っても完全に無効化できるわけわけじゃなくある程度軽減できるだけとも言ってました。」
「分かってる分かってる。無効化なんて出来ねえのは分かってるさ。」
無効化できるアイテムなんて有ったらそれこそ世界を揺るがす大ニュースになっているだろう。
……サンダーマント……か。
全く余計な事しやがる奴だ。
……だが、不思議とそのマントは俺の体によく馴染んでいた。付けたばかりとは思えない程に。
それはひとえにこのマントが誰かの為にという想いがそうさせているのだろうか……などとメルヘンチックな事を考えてしまう。
「(……戦いが終わったら、また金の使い方をしっかり教えてやるとするか。)」




