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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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振り向かず、前を向け。そして痛みを忘れるな

「ゴーバス側は押しているようだな。」


ここ数日での戦いに関する報告書を見ながらガイアルラは呟く。


確かにゴーバス側が勝利する場面もあるが、大局で見るとやはりヤシャマ側が優勢である。


要因として特に大きいのはいち早くガエイン軍が参戦した事だろう。突然湧いて出てきたような軍勢が現れれば苦戦を強いられるのは当然の事だった。この出来事によりある程度均衡を保っていた力関係は一気に崩れる事になる。


「とはいえ、敵も何かの兵器にて対応を行ってきた……か。」


「はっきりと何か分かっているわけではありませんが、魔法の力関係に関する何かだと言う事ぐらいです。」


「魔法が強みのゴーバスとしては、頼もしい限りだろうな。……して、問題はこちらか。」


「……」


さしものシグナリアも難色の色を示す。


「ラズリード……」


そう、対ラズリード相手に関する報告は決して良好では無かった。


「現状ではヤシャマ軍とラズリード軍の勝利比率は4:6と言ったところです。」


「……向こうにとって絶好のタイミングで仕掛けてきたのだ。苦戦する事は分かっていた。……これをひっくり返すには、やはり迅速なクノッサルの協力が無くては難しいようだ。」


「準備が整い次第援軍を要請するとの通達は受けております。」


「……」


だが、ガイアルラは自分達の命運を他でもない敵国に一任するようであまり気分の良い物ではなかった。


そもそも当初の予定ではほぼ自国の力だけでこの戦いを終わらせるつもりだったのだから。


「(……見通しの甘さを嘆く時間などありはしない。今はこの戦いを勝つことにまい進するだけだ。)」


……


「イールセン王!現在の状況が分かっておいでですか!」


「それはもちろん、分かっている。」


「ならば!今すぐにでも救援に行くべきです!違いますか!?」


フェイタルがどなるのも当然だった。クノッサルは実はその気になればとっくに戦いに出る事が出来たのだ。誰の目にもそれは明らかだったが、イールセンはそうしなかった。


「だが、重要な戦いだからこそ、慎重に準備を進めねばならない。この戦いがどれだけ続くか分からない。長期戦になる様ならば物資の数が物を言う。後少しで攻め落とせると言うのに武器や食料が足りませんでしたでは辛いとは思わないだろうか。」


「それは……ですが!既に十分なたくわえは揃っていると考えます!万全を期すのは大事ですがそれは十分な猶予があっての話です!今は多少のリスクに目を瞑ってでもすぐに出陣するべきです!」


「……無論準備を急がせる。」


「大至急です!こうしている間にますますクノッサルの立場が危うくなってしまいます!」


「……」


もちろんイールセンは兵達を急いで出撃させようなどとは微塵も考えていない。それどころか逆になるだけ引き延ばそうとしているのだから。


「(とは言っても、こんな手で引き延ばせるのは5日が限度……それ以上やったら流石にヤシャマも黙ってはいないだろうし……ヴェイン将軍がいい手があるから任せておけとは言っていたけれど……)」


イールセンの思惑では、ヤシャマが敗北を認めるその時まで味方である状態は維持しておかなければならなかった。そうでなければ戦いの後自国が孤立してしまう事になるのだから。


だから外面では味方である状態で終わらせるのが半ば理想であった。


いざ戦場に出てしまえばもはやそう言ったものでは済まなくなってしまう。


どうしても大切な仲間が死んだり傷つけられたりしたら自然と怒りが湧き上がって来てしまう。そうなればもはや感情など引込められやしない。


「(……クノッサルからの援軍が出てしまえば、おそらく人数差でヤシャマはラズリードを押し切ってしまうだろう。そうなれば、ヤシャマの全面的勝利だ。……その結果、多くの血が流れる。いや、今だってそうだ。……本当に、この短期間でヤシャマを降伏にまで追い詰める事が出来るのだろうか。……信じる他ない。ギンガ達を……)」


……


「ふう、終わりっと。」


危なげなく敵地を陥落させるジハード軍。後ろにはペレストロイカも居た。今日だけで3拠点もの場所を制圧する事に成功していた。まさに電光石火であった。


「流石の手際の良さじゃな、ジハード様。」


「指示と作戦が抜群だからだろうねー。……けど、全体的に見たらまだまだなんだろう?」


「……ちょーっと、厳しい所じゃなぁ。ここまでやって五分五分か……それに満たん所じゃろうな。」


「1日これだけ頑張ってもまーだ足らないかぁ……やっぱり彼女が抜けてしまっている穴はだいぶん大きいんだろうねぇ。」


「そこを突かれると痛いですな……確かにジャスティナ様が居れば、とは思うのじゃが、無い物ねだりしても仕方がない。今持ちうる力だけでどうにかする他ないの……」


「ごめんごめん、君を責めたわけじゃないんだよ。……なぁに、君の戦略があれば簡単に優勢に持って行けるはずだろう?」


「むむ、少々期待が大きいが……しょうがない、今回ばかりは知恵を振り絞ってその期待に応えるとするかの!」


「もちろんだとも。僕も君の手足の様にこき使ってくれて構わないよ。」


「とりあえずまだ時間はありますな。もう1拠点落とすとするかの。」


「……1日4拠点は……流石に記憶に無いなぁ。記録更新だねぇ。」


「何をおっしゃるやら、ジハード様のお力ならば目標は5拠点制圧じゃ。さあ、さっさと行くとしましょうぞ。」


「(……手足の様にとは言ったけど、本当にスパルタだねぇ……)」


地味ながらもいつもの限界を超えて行動する他ない。出来る限りでやっていては戦況を優位には出来ないのだ。今がいつも以上に頑張る時であった。


……


「お前ら!何としてもここを攻め落とせ!!」


「「おおおおッッ!!!!」」


ここヤシャマ帝国の領地、ブルックスは今にも陥落しそうになっていた。


「痛みを忘れるなッ……ぐッ……」


まさに命を張ってこの都市を死守しようとしているのだが、この戦場においてはラズリード軍が優勢だった。


ここを防衛していたヤシャマ軍はもはや当初の10%程度しか生き残っておらず、後はどれだけ生き延びるかと言うレベル。完全にこの地はラズリードの手に落ちる事となるだろうと言うのは明らかだった。


そして……


「痛みを……わ……す……」


……最後まで抵抗を続けた兵士が、とうとう倒れる。


「……」


辺りを見渡せど、もはやヤシャマ軍の姿は見えない。と、言う事はそういう事だった。


「俺達の……勝ちだあああああああ!!!!!」


部隊長が雄叫びをあげるとそれに呼応して他の兵士達も叫ぶ。


ラズリード軍にとってはこの都市を落とすと言う事はかなり大きな意味を持っていた。


ブルックスはいわば大都市に名を連ねる程の規模を有していた。資産価値としてもこの場所は非常に有用度が高いのだ。


早速ラズリード軍は落としたこの場所を探索する。


「やっぱり物資やらなんやらがたんまり……って程でもないか。」


……大きな都市の割には残されている兵糧やら兵器などの類はそこまで多いようには見受けられなかったのだった。


「向こうもよっぽど必死だったんだろうよ。全部使い切っちまったのかも知れねえな。」


「むう……少し残念ではあるな。」


……その時に、少しでも別の意図があった事に思い当たっていれば、この先の結果は少し違っていたかも知れない。


……


「あらかた探索し終わったな……後はこの鍵のかかっている部屋だけか。」


都市部の中に1つ設けられ厳重に鍵のかけられた1室。最後にそこを探索して彼等は作業を終えるはずだった。


「どれやっと!!……くそ、固いな。」


鍵ごと力づくで壊そうとするがなかなかに手こずる。かと言って部屋ごと壊してしまうのもいかんせん。もしかしたら何か貴重な物をしまっているからこそ厳重なのかも知れないのだから。


「そらッ!!……どらッ!!!!」


……そして、バキン!と音を立てて、ようやく鍵は破壊される。


「こんだけ頑丈な鍵で守ってるんだからせめていいものでも保管されてなきゃ割に合わんな。」


とは言ってもそんな有用な物わざわざ敵の手にみすみす渡す事も無いだろうから、既に持ち去られた可能性が高いだろうと彼等は頭の中で想像していた。


「……」


「……なっ……」


だが、その中にいたものはそんな彼等の思惑を大きく裏切った。


そこに居たのは、1人の人間。もっと言うならば、ヤシャマ軍。


そして何より、その手に携えているのは……彼らの目には爆弾のような物に見えた。


「……痛みを忘れるな。」


その人物はそう言って笑みを浮かべると、手に持った爆弾に火を点火した。


「!!!ッ……まさかッ……」


完全に危険な物だと分かった所でもはや指示を出す事も逃げる事も叶わない。彼らの思いも虚しく、大きく爆弾が弾ける。


「……!!!」


……彼らが見たのはただ一瞬、眩いばかりの閃光。


……


……


その爆発から、10分もした後。このブルックスに立っている人物は1人も存在しなかった。


あの爆弾は中規模程度の爆発を起こすもので、都市全体を吹き飛ばすにはまるで足らなかった。


……だが、実はブルックスの各地に隠される形で爆弾がいくつも仕掛けられていたのだ。彼が放った爆発によってそれらの爆弾が誘爆し、都市全体を吹き飛ばすに十分な威力を生み出したのだ。


その結果、ブルックスに居たラズリード軍は全滅……そして、ブルックスは壊滅した。


……


「(……こんな作戦、使わなくてはならないところまで来てしまうとはのう……)」


ブルックスでの惨状を聞いたペレストロイカは、心を痛める。


大都市に敵軍を集めて都市ごと吹き飛ばすという作戦を立てたのはペレストロイカだった。


だが、立てたものの、こんな作戦出来る事ならば使いたくはないとギリギリまで使う事を躊躇っていた。


「(作戦の成功率は高い。有効価値の高い場所を囮に使うなんて普通の考えじゃないのじゃから。)」


長期戦を見越すならばブルックスを破壊してしまう事は失策であるが、あくまでこの短期間での戦いを制すためという意味合いで言うならばその点でのデメリットは抑えられた。


ペレストロイカが嫌ったのは当然仲間の命を犠牲にさせなければならないと言う倫理的な観点からだった。


敵にあの場所そのものが囮だと思わせるためにはヤシャマ軍が全力でその場所を守りきらなくてはならない。


爆発させるからと言って守りを手薄にしてしまえば敵に怪しまれたり、爆発に巻き込める人数が減ってしまう可能性があるのだから。


どれだけ多くのラズリード軍を引き付ける事が出来るか……そんなどう転んでも死に直結するような役目を誰かに与えると言う事がどうしてもペレストロイカには出来なかった。


だが、そんな彼女に自ら兵士達は申し出た。


自分達の命、どうか役立てて欲しいと。


その結果、彼らは散ったが、それ以上にラズリード軍に多大なダメージを与える事に成功した。


……だが、いくら作戦が成功したとしても、やはり、いい気分になどなれるはずも無かった。


「(……本当に、わっしは罪深いの……きっとこの戦争で一番の罪人じゃろうな。)」


元々こんなギリギリの策を使わなければならないところまで戦いを長引かせてしまったのも自分のせいだと彼女自身が感じている。


自分の失敗を挽回するために仲間の命を捧げてしまったと言う負い目が、彼女を少なからず苦しめる。


「(せめて、あやつらの勇気に報いるため、この戦い、絶対に勝利で終わらせるしかないの。)」


そう、生き残った人間が死んだ人間に報いるためには、結果を出すしかないのだ。


「(天国で安らかにな……わっしは地獄行きじゃろうから直接は謝れん。だから今心で謝ろう。……すまん。……そして、感謝する。おんしたちの死は、絶対に無駄にはせん。)」


今更誰かの死を見て止まる事など出来はしない。


これまでどれだけの死を看取って来たのか。


どれだけの人間が生き残る自分達に望みを託して来たのか。その重さを今一度噛み締めるペレストロイカ。


「……痛みを、忘れるな……」


彼女は呟く、自分達をここまで強くたらしめた言葉を。


自分達の受けた痛み、そして、散っていった者達の痛み。


「……それを思えば、前に進む力が湧いてくる。……よっし!それじゃあ、行くとするかの!!」


そして彼女は何事も無かったかのようにいつも通り飄々とした態度で皆と合流するのだった。


……


この作戦によって、ラズリード軍の兵力は大きく削がれる事になった。

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