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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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それぞれの死生観

突然精霊がとてつもない技を繰り出し、それに対抗するようにソーラが力を振り絞り、気が付いたらソーラは倒れていた。それが今起こった全てだった。


俺達は当然の様にソーラの元へと駆け寄る。


「……」


彼女は眼を閉じていた。


「心配する事は無い。」


「初めから心配なんてするものかよ。」


俺にはこれが疲労感などから来る疲れで、この眠りが一時的な物だと分かっていた。


「あいつがやって見せるって言ったんだ。ならやりきるに決まってる。」


「そうか。信頼しているのだな。」


ソーラには帰る場所もある。自分がそこへ戻れなかったらリアンがどんな顔をするか分からないソーラではない。


「試練は、これで終わったんですか……?」


「ああ、見事、ソーラは試練を達成したものとする。……契約は目を覚ましてからになるだろうがな。」


「……よく頑張りました、よしよし。」


シノはソーラの頭を撫でていた。友達がまた一歩夢に近づいた事を祝福しているかのような優しそうな顔だった。


「さて、ソーラが目覚めるまでの間、お前達の話も聞くとしよう。」


「私達の……」


「ただソーラにくっついてきたわけではなく、お前達はお前達の用事があってここへ来たのだろう。」


「察しが良くて助かる。あそこに生えてるアンブロサムをよこせ。」


「シド様、いつも言っているようにもう少し言い方を変えると交渉がスムーズに行くと思います。」


「……アンブロサムか。ならば一つ聞きたいのだが、あの植物が一体何の役に立つと言うのだ?以前ここへ来た男もまたアンブロサムを必要としていた。こんな危険な場所に来てまで手に入れようと言うのだからそれなりに有効価値があるという事だ。」


「実は今、サッコロである病気が流行っているんです。その病気の特効薬を作る為にあのアンブロサムの葉が必要なんです。」


「病気……そういう事だったか。」


「あなたが大切に育てているとさっきの話の中で聞きました。私達に出来る事ならどんな事でもします。だから、あのアンブロサムを譲っていただけませんか?」


「……」


凛とした瞳で俺達の方を見据えている。何か見定められているような気がして気に食わないでもある。


「どれくらい必要なのだ。」


「……その……」


「千個だ。」


「そんなに持って行けるのか。」


「ぎゅうぎゅうに詰めれば大した事は無いさ。荷物持ちもここに2人も居るからな。1人500個だ。」


「持って行けと言うなら持っていきますけど……少しぐらいシドさんも手伝ってくれてもいいんじゃ……」


「千個持っていくのはやめておくといい。かさばるぞ。」


「え。……は、はあ、まあ、それはそうですね。」


「必要なのは葉っぱの部分だけなのだろう?それならば千個ぐらい持って行けるだろう。適当に摘んでいくといい。」


「……あの、その、それでは、私達は何をすれば……」


「何をとは。」


「……ただで貰っちゃうって言う話ではもちろんないですよね。」


「特に見返りを要求するつもりも無い。」


「気前のいい精霊だな。」


そういえば、他の奴らも剣が欲しいって言ったらポイとくれようとしてくれてたな。


「ええと、それで、良いのでしょうか……せっかく大切に育てているのに……」


「何の為に大切に育てているのか分かるだろうか?」


「見て楽しむ為ですか?」


「それもある。だが、成長していく様を見届けて行くのが好きなのだ。産まれて育って、やがて死ぬ。最後だけ取ってしまうと悲しいようだが、その全ての工程を経て命は完成する。」


「難しい話ですかね。」


「死ぬのは避けられない事だ。ならばより良い死を望みたいと願う。死ぬ事で何を残すのか、何が残るのか。この場所で一生を終えただけではあの植物たちは私の記憶にしか残らないだろう。だが、それが多くの人命を救う為に使われたのならば、私にとっても、お前達にとっても、病を患った者にとっても、そして何よりあの植物たちにとって、その死は喜ばしい物となる。」


「死が……喜ばしいものに……」


「私はあの植物たちを大切に育ててきたつもりだ。だからこそ、あの命を大切に使ってやってほしい。」


「……ありがとうございます。」


ご高説……ってやつか。精霊ってのは長く生きてるせいか、どいつもこいつも色んな死生観みたいなものを持っているらしいな。それに感銘を受けるような奴も居れば、俺みたいにふーんそうかで済ませてしまう人間も居る。


「ついでだ、代わりと言ってはなんだが一つ頼まれごとをして欲しいのだが。」


「……結局何か要求されんのか……」


「そんな嫌な顔をするものではない。大した事では無い。すぐに終わる事だ。」


「私達に出来る事ならどんな事でも。」


「では、これからお前達は一人につき私に一つ質問をしてもらおう。内容は特に問わない、単純に聞きたい事を聞くといい。」


「……それって、要求なんですか?」


「私に質問をしろという立派な要求だと思うが。」


「それっていったい何の意味があるんですか?」


「深い意味は無い。」


……精霊って変わった奴しか居ねえのか。


「さあ、来るといい。誰からでも構わない。」


「あ、じゃあ僕トップバッターいいですか?」


「なんだ。」


「スリーサイズを教えて欲しいんですけど。」


「……」


「……」


氷に囲まれた場所だけに、より一層ヒンヤリとした空気が流れた。てか、それは俺が聞こうと思ったのに……


「答えたくない。はい、終わりだ。次の質問。」


「え!?答えてくれないんですか?」


「質問をしろとは言ったが、だからと言って正直に答えると言うわけではない。」


「そんなぁ……だったら、先にそこまで言ってくださいよ。」


「曲がりなりにも精霊にそんな質問をするとは思わなかったのでな。」


「アホめ。勇み足だな。なら次は俺が質問するぞ。」


「いいだろう。何を聞きたい。」


「お前って精霊になる前からそんな喋り方なのか?」


「?そんな喋り方とは?」


「そのちょっと偉そうな感じのしゃべり方だ。」


「それはつまりこういう事か?精霊になる前の私の事を知りたいと言う。」


「うーん……まあ、そんなようなそうでないような……」


「簡単に答えると、精霊以前の私はもっと一般的な女性の話し言葉を用いていた。」


「ほーう、どんな風にだ。」


「どんな風にって言ったってぇ☆ちょ→っとだけ今よりもかわいこぶりっ子ちゃんな喋り方してただけだりん♡」


「……」


「……」


「……」


「……」


「答えたぞ。では最後の質問を……」


「ちょ……ちょっと待て……」


「どうしたのだ。」


「い、いや……なんつーか、ギャップっていうか落差って言うか……」


……久々に寒気がした。あまりにも自分の理解から遠いものを見てしまうとこうなる時がある。


「ちょっと誇張しすぎたかも知れないが、大体あのような感じだった。」


「誇張……」


多分だが、誇張し過ぎだろ。


「でも、それじゃあどうして今はそんな喋り方じゃないんですか?」


「気分だな。」


「……気分。」


「長く生きているとそういう事を思ったりするのだ。時に違う自分になってみたいと言う願望。そしてその思いつきで始めてみた喋り方が意外としっくり来たりするものなのだ。分かってもらえるだろうか。」


「……な、なんだか、親近感があり過ぎる精霊なんですね。」


「他の奴もそんな理由なのかよ。」


「他の精霊は分からない。基本会う事が無いのだから。」


……質問した事で何かプラスはあっただろうか。いや、ないな。


「では最後の質問を頼む。」


「私の、質問ですか……」


聞きたい事か、何かあるんだろうが、逆に聞きたいことだらけで絞れなさそうな気もするな。性格的に。


「……トキア、さん。」


「……」


「トキアさんは……その、元々人だったんですよね。」


「そうだ。元々はお前達と同じ人間だ。だが、ある時命を落として、そのままこの命は精霊へと変化したのだ。」


「……死ぬのって、一体……その……」


「どんな気分なのか。だろうか?」


「……」


押し黙ってしまった。という事はそういう事らしい。……またどうでもいい事聞いてやがる。


「死ぬ事を考えると怖いかも知れない。だが、実際に死ぬ時は怖くは無かった。」


「怖く、無かったですか……?」


「死ぬのが、怖いようだな。」


「……誰だって怖いと思います。」


「それはどうであろう。例えば他の二人はどうであろうか。」


「俺は別に怖くはない。」


心のまま正直にそう告げる。


「僕はまぁ、想像すると怖そうなので考えません。」


「と言うことは、誰だって怖いわけではないと言う事になる。では一体何が違うのか。……未練があるかどうかの違いではないかと私は勝手に思っている。」


「未練なんて……」


「いつ死んでもいいようにと思って生きていれば、心残りがないように行動するだろう。だから、お前にとって死はとても恐ろしいものなのだ。……と話が脱線してしまったな。死ぬのがどんな感じなのかと言うのが質問だった。」


「……」


様子を見るにどうやら少なからず心にクる事があったのだろうが、そんなのはお構いなしに言葉は紡がれていく。つーか、なんでコイツはそんな誰でも分かるような当たり前のことにいつも悩んでしまうんだ。


「上手く伝わるか分からないが、死ぬ瞬間、痛みや苦しみと言う感情が一瞬にして消えて行く。そして体と言う檻を抜け出し、後は自由だ。」


「……よく、分かりません。」


「説明が下手ですまないが、私にはそんなイメージだった。」


「痛みも苦しみも無くなるが、代わりに快楽も無くなるんじゃないのか?」


「……確かにその通りだ。心を満たすことは出来ても、体を満たす事は一生叶わなくなる。」


「それは……やっぱり少し辛いかも知れませんね。」


「少しどころの騒ぎじゃねえだろうが。だから死ぬとかそう言うくだらない事考えるんじゃねえって事だろうが。」


「……」


何だこいつは。最近はだいぶマシになったと思っていたのに、忘れた頃に突発的にそんな事を考えだしてしまうのか。


「体のない身で一つ言えるとするならば、死んだ時の事など考えない方がいい。そんな事を考えるよりも今を一生懸命生きるために使うといいだろう。そしてどんな事があっても自ら死を選ぶのだけはやめるべきだろう。絶対に、後悔する。」


「トキアさん……」


「勘違いしないように一応言っておくが、私は不慮の事故で命を落としたのだ。決して自ら命を絶ったわけではない。」


「……変な質問して、すみませんでした。」


「いや、どんな質問でも構わないと言ったのはこちらの方だ。」


「んで、このわけの分からない時間を設けたのは一体何のためだったんだ?」


「精霊術師同士でなくても、心を交わしてみたかったのだ。」


「心を、ですか。」


「どんな事でもいいから会話を交わす事が互いを知る為の第一歩だ。契約はその延長線上に過ぎない。だから本来は精霊術師でなくても精霊の姿を見る事が出来、声を聞き、力を使う事も出来るはずだと私は思っている。お前達の様に私の姿を見つけてくれる人間達と出会ってそれをより深く確信した。感謝する。」


……やっぱり、変わった奴ばっかだな。


「ん……私は……」


「起きたか。」


キリの良い所でソーラは目を覚ましてきた。


「……あれ!私……ここ、どこなのです?私はどうなっちゃったのですか!」


「ソーラ・シード。見事試練を達成したものとして、契約を行おう。」


「……わ、私、無事だったのですか?」


「見ていてちょっとハラハラしました。」


「だが、最終的に己の限界を見事に越えて見せた。これからの道に、更に強き光が射す事を祈っている。」


「あ……ありがとうございますなのです。」


「……では、私を、受け入れるのだ。」


「……」


そして、ソーラは新たな精霊と契約を結んだのだった。


……


「そうなのですか……私が眠っている間にお話は終わってたのですか。」


「これで目的もダブルで達成できたわけだし、万々歳だな。」


「雪崩に巻き込まれたのもいい思い出ですかね。」


「でも……あのお爺さんの話だと、もう1つ必要な素材があるはずです。そしてそれはきっとこれまでで一番手に入れるのが難しいものに……」


「俺が本気出せば手に入れられない物なんてねえだろ。」


「そうなのです。シドさんが手に入れられないのは女の子のハートぐらいなのです。」


「人をモテない男みたいに言うんじゃねえ!」


起きてきた途端にこれだ。全く口の減らない奴と言うか。けど、それぐらい普段から元気な方が退屈しないっちゃあしないんだがな……


「行くのか。」


「ああ、用は済んだからな。」


俺達はアンブロサムの葉っぱだけを遠慮なく大量に貰っていく。


「その子達を大切に使ってやってほしい。」


「はい。必ず。」


そしてこの場所を後にする。


……またあの綺麗な姿を拝みたいってのは確かだが、この場所に来るまでの手間を考えたら何とも言えんなぁ……まあ、本当に気が向いたらまた来てもいいか。


……


「しまった……」


……また忘れてしまっていた。この崖を登って行かなくてはならない事を……


「たっぷり眠って元気回復なのです!おいっちに!」


アホが準備体操している。……絶対調子に乗るに決まっている。不安で仕方がない。


「……おい、背中乗れ。」


「ええええ!!シドさんがどういう風の吹き回しなのです!?もしかしてひた隠しに出来ない程の下心が溢れてしまったのですか!?」


「お前が危なっかしいからいけないんだろうが!!」


結局旅の荷物は他の2人に任せて俺はソーラを背負ったままでロープを使って登って行く事になってしまった。


……次来るとしたら、もっと楽に上り下りできる物を持って来るべきだな……心に刻んだ。

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