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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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夢の道を越える為の光路とならん

「シドさんの背中は暖かくて頼もしいのです。ついでに楽ちんなのです。」


「絶対ついでじゃなくてそっちがメインだろうが。」


体感ではせいぜいソーラの体重は40キロもないだろう。背も小さいし、どこかが普通より出ているわけでもないのだから。だから体力的にきつい何てことは一切ないんだが……


「……もうちょっとこう……嬉しいハプニングとかがなぁ……」


「?ハプニングですか?」


「……なんでもねえよ。」


つい心に想った事をつぶやいてしまった。防寒着の上から分かる程の柔らかさや弾力を感じられたらうれしいのにと言う話だが、言うとまた騒がれそうなのでやめよう。今の俺は完全にソーラに背を預けてしまっている無防備な状態だ。おとなしく上がろう。


「にしても、なんであんな戦い方したんだ?」


「?どういう事ですか?」


「別に炎の魔法じゃなくて他の魔法の方が良かったんじゃねえのかって思っただけだ。」


素人考えなのかもしれないが、氷の精霊と分かっているのならば、何となく火は相性が悪そうな気がしてしまう。氷は元は水なのだから。だが、ソーラは炎の技でトキアを迎え撃った。それが若干疑問だった。


「でも、水じゃこっちが凍っちゃうし、風では威力を和らげるぐらいしか出来ないと思ったのです。」


「……後他は何が使えるんだっけか。」


「地と、闇なのです。闇は特殊なのでああいう攻撃を迎え撃つには有効じゃないのです。闇ほどではないけど地も同じなのです。どれも強力な力だけど、用途によって使い分ける必要があるのです。」


「んじゃああれか?消去法で炎が残ったからそうしたって事なのか?」


「そんな後ろ向きじゃないのです!氷をどうやったら倒せるかって言ったら、砕くか溶かすかどっちかなのです!それなら高い温度で溶かすのが一番って考えたのです。」


一応、ソーラなりの考えと駆け引きがあったという事なのか。


「でも……実際に技を受け止めてみて、考えが甘かった事に気付いたのです。」


彼女の話に耳を傾けながらもロープを手繰って上へ上へと上がっていく。


「試練を受けたあのフィールドは精霊さんのフィールドなのです。だから私の見立てよりもずっと強大な魔力が襲い掛かって来たのです。結局……炎の力だけでは立ち向かえなかったのです。」


遠目に見ていた俺達の目にはそれは明らかだった。最初は少し押し返したものの、しばらくするとまた押されている様子がありありと浮かんでいたからだ。


「あの時は何故だか考えられなかったのですが、今ならなんとなく分かるのです。きっと、あの技は一般的な魔法とは逆のエネルギー構造で放たれた技だったのです。」


「……一応言っとくが俺は魔法に関してはよく知らんから難しい話なら付いていけんぞ。」


「そんなに難しくないのです。基本的に攻撃魔法は相手に向かって放たれるその一番先の部分が一番高威力なのです。普通はそうやって調節するのです。」


「……あの技の場合だと、ソーラから一番近い所が一番威力が高いって事か?」


「その通りなのです。そして使用者に近い部分はエネルギーが一番低いのが一般的なのです。」


なるほど、ソーラが言いたいのは実際に放たれた魔法のエネルギーのバランス配分の話のようだ。大きく分けるなら放たれた技の一番先と一番後ろ、どこにエネルギーが集中しているかという事。そして一般的には一番先にエネルギーが集中しやすいという事。


それは何となく理屈的にも分かる。当然敵に当てる部分なんだからそこが一番威力が高くなくちゃ有効なダメージなんて与えられない。だが、その逆が必要になるパターンとはおそらく……


「という事は、さっきの技はその逆の配分で撃たれてたって事か。」


「だから最初は押し返せたのに、途中から押し返せなくなったのです……」


……トキアが実際にそう思ったかは分からないが、俺がもしそんな風なバランスで魔法を使うとするならばそれは一気に敵を倒すと言うよりは、相手の心を疲弊させるために使うだろう。


警戒している相手からの全力に見える一撃を意外と受け止められたら、きっと相手は油断し、増長するだろう。だが、それはあくまで威力の振れ幅の中での最低ラインに近い物。押し返すにつれて威力はどんどん強くなってくる。そうなると相手の計算は狂い、焦りが生まれる。そんな心を乱した所に絶え間ない高火力の技が押し寄せてくる。……こうなるとそう簡単には立てなおせないだろうからな。


……そして会話の中でふと疑問。


「お前、精霊術師だよな?」


「そうなのです。卵なのです。」


「精霊術師って魔法も詳しいのか?また違う分野なんだろ?」


「基にする力がちょっと違うだけで、大体似たようなものなのです。むしろ精霊と契約してその力を使う為に参考にしてるのは魔法体系なのです。精霊術より魔法の方が圧倒的に研究してる人も多いし、魔法の方が進歩してるのです。だけどきっと精霊術にもまだまだ色んな力の使い方があるはずなのです。」


なるほどね。その辺りの話をしているとやはりこんななりでも研究者なのだと思ってしまう。


「……あの技は、一番末端の攻撃でも十分強かったのです。」


「だから先端のエネルギーをまさか抑えているなんて考えもしなかったんだろうな。」


「……やっぱり、まだまだ半人前なのです。」


……背中越しだが、少しだけ落ち込んでいるのは声を聞いて分かった。


「……けどまあ、最後は逆転したじゃねえか。」


「はっきり言って、たまたまなのです。」


「それが実力だろうが。たまたまは実力じゃないってのか?何も思いつかないピンチの状況になった時、ダメな奴はそこで終わっちまう。だが、強い奴はそんな中でもどうにか生き残る。それは決して運なんかじゃねえ。実力だ。」


追い詰められてどうにもならなくなった時こそ、その人間の真価が問われると俺自身は思っている。楽な状況で勝つのは誰だって出来る事なのだから。


「……さっきシドさんは、どうして炎の力を使ったのかって聞いたのです。」


「ああ。」


「……今思えば、結果的にはどの魔法でも良かったのかも知れないのです。」


「?」


「あの試練は表向きには技を破れというものでしたが、本当の目的は、これまでの私を越える事だったのだと思うのです。」


「これまでの?」


「……今まで私に無かった力。それが産みだせたから私は試練を突破することが出来たのです。……でも、だからこそ、それが産みだせなかったら。試練に挑む前までの力だけでどうにかしようとしていたら、きっと私は……」


「……」


「だから……シドさんの言う通りなのかもしれないのです。きっとたまたまも、私の力だったのです。」


「……そうか。」


「そうなのです。」


……顔は見えない物の、声から少し元気が戻ったような感じがした。きっと微かでもまた微笑んでいるのだろう。


「……そういえば、おんぶしてくれるのは嬉しいですが、私がせっかく頑張ろうとしてるのにあれは酷いのです!」


「なんだよ急に思い出したかのように。」


「契約も出来て調子は万全の所に水を差されたのです!」


「お前なぁ……降りるのでぜえぜえ言ってた奴が。登るのはお前が想像するよりももっときついぞ。」


「ここだけの話シドさんだけには、教えてあげるのです。私は、ちゃんと自分一人でも登れたのです!」


何がここだけの話なのか。そもそもガセネタじゃねえか。


「やるとしたら最初は少しの距離から始めてだな……」


「信用してないのです!実は私は、密かに新たな力を手に入れるための特訓をしてたのです。」


「新たな力だ?」


「と、言っても、シドさんはもう知ってる事なので新鮮味が無いと思いますが、シノやエイル君には一番いいタイミングで披露しようと思ってるのです。さっき登る時だって実はそのタイミングだったのですがそこをシドさんに潰されてしまったから今ふと怒ってみたのです!」


?俺は、知ってる?……なんだっけ?


「でもあの時よりももっときっと強くなれたら、シドさんにも見せてあげるのです。きっと驚くこと間違いないのです。」


「そうか。じゃあ、楽しみにしてるぞ。」


……なんだか思い出せないが。ソーラって何か力なんて持ってたっけか……風の所で巨大な竜巻を起こした事ぐらいしか……


「っと、もうちょっとで上か。」


話ながら進んでると時間が経つのが早い。切り立った崖の頂上が見えてくる。


「よっ……と。」


「到着なのです!こっちはオーケーなのですー!!」


「……了解しましたー!じゃあ僕達も登りますねー!!」


下で待っていた2人が上がってくるまではここで待つことになる。


「さて、んじゃあ……」


「……まだ、おんぶしてて欲しいのです。」


「なんでやねん。さっさと降りろ。」


「……やなのです。せめてシノが登って来るまでは……おんぶしてて欲しいのです。」


元気だったと思ったら急にわけの分からない事で駄々をこね始めた。再三言うがこれが二十歳になる成人女性とは思えないんだが……


「……シドさんの背中、好きなのです。」


「じゃあ俺が死んだら背中だけやろう。」


「……死んだりしたらダメなのです。」


ジョークにマジで返された。これを言われると次の言葉を言い淀んでしまう。相手のテンションや心境がいまいち分からないからだ。


「シドさん……私の事……どう思ってるのですか?」


……でやがった。その聞き方……少なからず相手に何らかの興味を持ってる時に出てくる質問だ。


「どーって、まあ、いつも頑張ってるけどその割に体の発育がもう一つな感じだと思ってる。」


「……ナイスバディの方が、好きなのですか?」


「……ううん……なんつーかな……」


別にそういうわけでもないんだが……またも言い淀んでしまう……


「……私……もっとナイスバディに産まれてきたかったのです……ぐすっ……」


「……っ!?」


嗚咽交じりに、何か言い出した。……何か、また泣いてるぞこいつ。


「シドさんは……私の事……どれぐらい好きなの……ですか?」


「どれぐらいって……まあそこそこだな。」


ひたむきに頑張ってる奴を嫌いになんてならない。……と言うのもあるが、ソーラは普通に容姿がいい。だから何をしていてもまあ嫌いになるという事はないだろう。よっぽど性格に何らかの難が無い限りは。


「……シノと……どっちの方が好きなのですか?」


「……」


……


「……どれくらい好きかとか嫌いかとか……そんなの別にどうだっていいじゃねえか。好きか嫌いかの二択でならお前は好きだ。それじゃあダメなのか?」


「……シドさんは、それでいいかもしれないけど……それじゃあ辛い人だっているのです。」


「……可愛い子は好きで、それ以外は嫌いだ。それ以上は言わん。」


「……シノが、羨ましいのです。」


……ソーラの言いたい事は、分からないでもなかった。……ようは、俺に対してどこか仄かな恋心的な物を抱いてしまっているのだろう。うぬぼれでなければそれしか無かった。


「……夢、叶えるんだろ。」


「……夢……」


……けど、そんなのは多分一過性のものだ。これまで世界を知らなかったソーラがたまたま出会った男が俺だっただけの話。まあ、ホイと他の男に行かれるのは許せない。そう言う理由ならば是が非でも俺のものにしようと思うだろう。だが、ソーラが俺の傍に居ようと言うのは、こいつの夢を叶えるには障害にしかならない。それが目に見えているから、俺はそれを思い出させてやろうとする。


「夢を途中で放り投げるような奴は、好きじゃない。やるって決めたなら、しっかりやれ。」


「シドさん……」


「俺も協力したんだぞ。骨折り損のくたびれもうけにさせるな。……お前は立派な精霊術師になれ。いいな。」


「……」


こんな形でぶっきらぼうに好意を袖にされて、嫌な気持ちかも知れない。でも、誰かから距離を置かれるのは慣れている。そして距離を置く方法だってごまんと知っている。むしろソーラが夢を叶える為には必要以上に俺に好意を持たない方が


「もし……」


「ん……?」


「もし……私が立派な……立派な精霊術師になれたら……その時は……」


「……」


「何か……ご褒美を、くれませんか……?」


「……何が欲しいんだ?」


「……その時シドさんが考えて選んでくれたものなら……きっとなんだって嬉しいのです。」


「そしたらその辺に落ちてる花や食い物屋で買って来た旨い物でも……」


「それでも……嬉しいのです。」


「……そんなものを目標に、頑張れるのかよ。」


「……不思議なのです。なんだかとっても、頑張れる気がするのです。絶対、投げ出しちゃ駄目なのです。……えへへ……私、楽な方に逃げちゃうところだったのです。でも、シドさんが私を正しい方向に戻してくれたのです。……本当に、いつもありがとうなのです。」


……心が、かき乱される。


「これ、覚えてますか?」


背中越しに俺の方へとソーラは手を出してそれを見せる。


「まだ、持ってたのか。」


「この石はずっと前にシドさんから貰った、私の大切なお守りなのです。」


それは、初めてソーラと一緒に精霊と契約するために訪れたメルタレムで手に入れた光珠だった。それ自体は特殊な効果を持つわけではなく、ただ綺麗なだけのアイテム。その時俺にとっては必要のないものだったが、ソーラが興味深そうに見ていたからやっただけのもの。……どうやら、後生大事に持っていたようだ。


「これを見る度に、シドさんとの出会いや、一緒に冒険した事を思い出すのです。……シドさんはいつもだらしなくて……でも、たまに凄くカッコいいのです。……思い出すだけで、驚く事ばっかりで……だけど、これを眺めている時、シドさんが近くに居ないのが……ちょっとだけ、寂しかったのです。」


「……」


……俺はやはり、ソーラに踏み込み過ぎてしまっていた。心のどこかでは分かっていた。だからこんな空気になってしまうのも、当たり前の事だった。


「……だから、もう少しだけ、おんぶしてて欲しいのです……そうしたら、寂しい時も、シドさんとの楽しい想い出で辛い気持ちを忘れられるのです……」


……


「……降りろ。」


俺は、彼女の願いを無視して、しゃがみ込む。


……ソーラは、何も言わずに、俺の背中から降りる。


きっとこう思った事だろう。


自分の願いを受け入れてくれないという事はそれは拒絶のサインであると。


「……」


後ろを振り向くと、ソーラらしくも無く、目を閉じながら俯いていた。その顔は、達観と、諦めが宿っていたように見えた。


そして俺は同じ高さまでしゃがみこみ、その顔に自分の顔を思い切り近づける。


「んっ……」


そして至近距離まで近づいた口とソーラの唇が重なり合う。


……もし万が一俺のうぬぼれだったならば、この時点で払いのけられるか、なんらかのショックを受けていただろう。


「……んっ……」


……ソーラは、一瞬驚いたようなリアクションを取ったが、2秒も経った後、何の抵抗もしなくなった。ただ、何も言わず、キスを続けた。


「……っはぁ……」


そして、顔を離す。すると再び今自分の身に何が起こったのかを判断しているかのように動揺していた。


「……おんぶしてるままじゃ、できねえだろ。」


「……出来ないのです……」


「立派な精霊術師になった時にやるもんの先渡しだ。こんなんでもお前は……嬉しいか?」


「……う……嬉しくないわけ……ないの……です……」


感極まってしまったようで、ソーラは涙混じりに喜びの表情を浮かべる。ソーラがこの道を進み続ける限り、行きつく先は心優しい最高の精霊術師だろう。もし何かをする事でその道のりを進む為の支えとなるならと思ったが、これしか思いつかなかった。


「先に渡したんだから、ちゃんと立派な精霊術師になれよ。」


「な……なるのです!……絶対なるのです。だから……これからも、私の事、見ていて欲しいのです……」


「……ああ。」


……俺は、後悔していた。


……こいつのどこまでも甲斐甲斐しい様が、俺をおかしくさせた。それが故の愚行だった。


こんな事をしたって、後で事態がこじれる事になるだろうと分かっていても、俺はなんだかソーラを放っておけなかった。中途半端な優しさなんて絶対に最後に相手を傷つけてしまうと分かっていたのに。


……俺の溢れんばかりの冷酷さは、いつからこんな温くなってしまったのだろう。

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