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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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雪に包まれて……

ソーラの攻撃はこれまでインペリアに大きなダメージを与えることは出来ていなかった。だがそれは彼女の力の足りなさではない事を言及しておく。


それは山を登り始めてまだ序盤の頃の会話。


「言っとくがお前はあんまり気張って戦うなよ。」


「どうしてですか?」


「危ねえからだよ。」


「?分かったのです。」


シドはソーラにそれとなく釘を刺しておいた。


無論危ないと言うのはソーラ自身の疲弊を心配した意味でもあったのだが、シドは知っていた。ソーラが全力で力を放った時の威力を。風の祭壇にて何百メートル離れている場所からでも観測できるような竜巻を起こしてしまえるほどの力をこんな雪山で使ってしまえばどんな事になってしまうのか分かろうものだ。


まだソーラは己の力を百パーセントコントロールする程には至っていなかった。8割や9割の力で抑えて放つと言う部分においてまだ不安定だった。


だからこそ、そんな事態になる前にどうにかしていなければならなかった。もちろんソーラだって分かってはいたが、目の前で命の危険にあっているエイルを前に窮地を脱しなければいけないと言う判断をしてしまったのを責めるのもどことなく酷ではあるが……結局引き起こしてしまった原因はソーラの力だった。


魔物にも、人にも、等しく、雪塊が降り注ぐ。


「(こんな形で……死んじゃうんですね……)」


「(……雪崩……なの……です……私の……せい……で……)」


……ソーラは、疲労の限界を迎え、雪崩に巻き込まれる前に、意識を失った。最後に彼女の心は後悔の念でいっぱいだった。


「(……死なない……とは、思うけど……これ、本当に助かるのかな……痛たた……)」


「(ッ!!)」


4人はそれぞれの想いを抱いたまま、一瞬の内に自然の摂理の中に飲みこまれていった。


……雪は全てを飲みこんでいく。そこには生も死も無い。ただの静寂である。


……


……


……


……


……


……


……


……


……


あまりの静けさに、それが逆に不自然さを生んだんだか何だか知らんがとにかく俺はふと意識を取り戻した。


「……意識があるって事は、そういう事か。」


そう、俺は、今この瞬間、間違いなく、生きていた。思考するとはそういう事だ。しかし目を開けた俺の視界はどうやら雪に閉ざされているようだ。体にも若干の重量を感じる。とは言え潰されるほどのものでも無い。


「どれ。」


案の定少し手を突き上げるとズボッと言う音と共に俺の手は風に晒される。自分の腕が地上へと息を吹き返すのが分かった。そして顔の上の雪を払いのけるのが終わる頃には、星が見えていた。


「あっちの山で見たほどは綺麗じゃないな。」


シノと登ってワンスマウンテンで見たあの景色には遠く及ばない何とも言えぬただ広がるばかりの天空だった。やっぱりそこに至るまでの経緯やその時のムードと言うのは大事な物だな。


と、こんな事を考えられる程度には俺は既に窮地を脱していたのだ。……本来ならば、ここでシノやソーラの安否を気にする所だが、俺は動じる事も無く、逆に何となくずっと雪に埋もれながら空を見ていた。


何故そう落ち着いていられるのかは、何故俺がこうして助かっているのかを考えれば分かる事だ。それがそのまま他の奴らの無事に繋がる理由である。


「お守りねぇ……まさかここまでとは、精霊の授けものは伊達じゃねえって事か。」


ここに来る前に追加で貰っておいて正解だった。カブールストーンは半永久的に熱を発する。それは装着者の意識にある程度依存しているものだとベルは説明していた。雪景色や風が強ければ、人は勝手に寒そうであるとイメージする。そのイメージを受けて石は熱を発すると。


だが、こういう状況になって改めて思った。意識が無い時でもカブールストーンは熱を発するのだ。そうじゃなきゃ寝てる時や気絶してる時みたいな肝心な時に効果を発揮しない中途半端なアイテムでしかない。


余談と言えば余談だが、そうじゃなくちゃ雪美達が無事という事も24時間この石が力を発揮していないと病気から守られる事も無いだろうし。


あるいは、装着者の危険を感じたら自動的に熱を発生するようにでもなっているんだかもしれん。


何にしろ、不覚にも気絶してしまった俺が大量の雪に埋もれる事無くこうして生きている以上、他の3人も等しく同じ状況になっているはずだ。命の危険は無いだろう。


「……よし、状況は分かったぞ。起きるとするか。」


少々の雪に塗れた自分の体を起こす。時間は……もう3時かよ。あのクソ共と戦い始めたのが7時半くらいだから……


「雪の中で7時間も寝てたのか。人類新記録かもしれん。なーんてな。はっはっは。」


けど石のおかげで全然寒くも無かった。寒ささえなければ雪は羽毛の布団みたいなものだし、正直寝心地はとてもよかった。ただ雪に埋もれていると言う状況はあまり気持ちの良い物ではないか。


「……人が小ボケかましてるのにスルーしてやがる。ったく、しょうがねえ奴だな。」


俺はいくらも離れない所に居るそいつに対してぼやいた。


「どれどれ。」


適当にそのあたりの雪を退けると、ちょうどちっこい顔が現れた。


「……」


危ない状況にありながらこんな事を思ってしまうのもどうかと思うが……その顔は何と言うか……綺……


「って、アホか。」


思わない事にした。さて、寝てるな。起きるまで待っていたとしても構わないだろうが、とりあえず雪どかしてやるか。


せっせと雪を払いのけるとシノの全身像が現れた。……まあ、本当に凹凸の少ないスマート?……な、体だ。


1、2分眺めていたが、どうやら起きてくる気配はない。それまでの疲れが一気に来たのだろう。……流石に無理をさせ過ぎてしまったな。手掛かりが見つからないのにちょっと躍起になってしまったのも無くは無いが……


さて……あいつはどの辺りかな、と……多分そんな離れた所には居ないと思うんだが……


あの雪崩の際に俺は無我夢中でシノとソーラの元へと走り出した。ギリギリのところでどうにか2人を抱きかかえながら雪崩に巻き込まれた……と、思う。俺が目を覚ました時シノの手を握っていた事から考えても多分意識が無くても俺は2人を離さなかったと思うんだがな。


……可能ならばあいつも助けてやるべきだったのかも知れないが俺の手は2つしかなかった。そうなると、助かる公算の一番高い奴が弾かれてしまうのは仕方のない事だ。


……一旦シノをそのままにして、俺は周囲を散策し始めた。30分、1時間と経過したところでようやっとソーラを発見した。


「すぅ……」


……何を血迷った事を、と言われるかもしれないが、何となく、ここだよ、と言う声らしきものが聞こえたような気がしたのだ。そしてこちらもぐっすり眠っている。寝息がその何よりの証だ。体も雪に包まれていたとは思えない程暖かい。


「……無理させて悪かったな。よく頑張った。」


……屈託なく無邪気な寝顔を浮かべるソーラに俺は、一言だけ謝罪した。こんなんでソーラを死なせてしまったら、リアンに会わせる顔も無い。


「……さて、あいつは……どうすっかな……」


シノとソーラはともかく、あいつは完全に俺の手を離れて行ってしまったからどこに居るかなんて想像もつかなかった。だが、無事ではあるはずだ。だから敢えて探す必要も無いだろう。たぶん生きていればその内合流できる。


「さて、どっちが後ろでどっちが前の方がいいか。」


少々の思案の後、俺はシノを背中に背負い、ソーラを前に抱きかかえる事にした。元々そんなには膨らみも無いが、防寒着の上からでは特に何も感じられない。


大荷物に加え人二人と言う重量は決して無視できない物ではあるが、どうって事は無い。不本意ながらも睡眠を取り過ぎたせいで体力はほぼ万全状態だ。適当にプラプラとそのまま歩き出す。とりあえず洞窟など火の焚けるような場所を探す事にした。


「にしても、流石にあの雪崩だ。魔物共も静かになっちまったか。」


ソーラを探している間も魔物は一切現れないどころか気配すら感じなかった。完全に巻き込まれてしまったのだろう。俺達の様な何の術も無ければ雪崩に巻き込まれながら雪で圧死するのが自然の成り行きだろうしな。


「ざまあみろだ。」


あの剣だって、本当は抜くはずじゃなかった。あんな雑魚共との戦いで使っちまう事になるなんて、配慮が足らなかった。シノ達があんなに疲労している状態では何らかの間違いが起こる可能性を感じて抜いてしまったのだが、そうなる前に本当はやめておかなければならなかったんだ。


……結局、まだまだ俺は剣頼みの強さって事なのだろうか。……アホ臭い悩みだ。俺らしくも無い。やーめた。さっさと休めるとこを探そっと。


……


「ういぃー……疲れたー……」


1時間弱歩いたところでようやく無事な洞穴を見つけることが出来た。2人を下ろして俺はやっと腰を下ろして落ち着く。


そして適当に火を焚く。手慣れたもんだ。後はこいつらが起きるのを待って……明るくなってからまた捜索開始だな。


……でだ、ここからがやっとお楽しみタイムの時間だ。


「ぐへへ……」


俺の前で体を晒すとは何とも無防備な奴らだぜ。これは好きにしてくださいって言うのと実質同義だ。据え膳喰わばなんとやらってな。


「すぅ……シド……様……」


「……」


「……リアン……大好き、なのです……」


「……」


……せっかく下衆っぽい気持ちになってたのに、なんだかあんまりにも無防備過ぎて気分が乗らなくなった。何の夢見てるんだか知らんが、2人の表情はとても安心しているもののように見えた。


「ほっとくか。」


俺はほっとく事にした。


……


「い、いけませんシド様……そんなものを耳の中に入れては……」


「……」


「し、信じられないのです……まさか、シドさんが野菜の一族だったなんて……」


「……」


「シド様が7等分されてしまうなんて、私の取り分はいったい何等分に……」


「……」


「だ、ダメなのですリアン……研究所が爆発しちゃうのです……」


これは全部こいつらの寝言だ。人があずかり知らない夢の世界で秩序もへったくれもないストーリーが繰り広げられているらしい。こいつら精神的にはやっぱりアホだな。


「シド様のお目目とお口が一つになってしまいました。でも、そんなシド様も素敵です……すー……」


「……」


「ひかえおろー……なのですぅ……」


わけ分からん。


……


意味不明の寝言を耳にしている最中、俺はあいつについて考えを巡らせていた。


一月程前に突然現れたあいつ。奴は一体、何なんだ。その目的は。


大体あの現れ方からして異常だ。何もない空間から現れるなんて通常ありえない事だ。一体何をしたらあんな風になるってんだ。


ちゃっかりと言うか何と言うか旅にくっついてくる始末。邪魔なのはもう分かりきっているが、どうにもおかしな言動や行動がちらほら見え隠れする。


何かを俺達に隠しているのは明白だ。シノだってそれぐらい分かっている。問題はそれが俺達にとってのいい事なのか悪い事なのかだ。


……あいつの飄々とした態度のせいで分かり辛いが、あいつは知っているのに知らないふりをしているように見える素振りをする事がある。あたかも俺達を自分の思惑通りの方向へと誘導しようとしているかのように。


戦えるのに積極的に戦わないのも謎の一つだ。身のこなしを見れば戦える奴かどうか、その力量だって大体分かる。あの強さで戦わないのは必ず何かしらのわけがあるのだ。


あいつが魔物からシノを庇った時、確かにあいつは出血していたが、それでも多分大したダメージになるものではなかったはずだ。あんな受け方をしてるにしては血の量が少なすぎた。何かの手段でダメージを軽減したのだ。


だが冒険慣れしていないソーラにはあれが致命的な傷に見えてしまったのだろう。だから勢いよく魔力を解き放ったのだ。……こんな事ソーラには言うつもりもないがな。別にあいつが間違ってるわけじゃない。


話が逸れたが、何に関してもあいつは謎が多い。未だに掴み所もよく分からん。


……そして、何より何より……あいつは男だ。俺の嫌いな男だ。


だと言うのに、俺はこうして旅に同行する事を半ば認めてしまっている。それが何よりの異常なのだ。


……俺は、自分の中の思いつきと言うか、何となく本能的に感じてしまっている事をあまり信じたくないのだが……あいつは、エイルは……


敵……


では、ない、ような気がする。もちろん現段階では何の根拠も無い。ならば疑ってかかるべき。最低でも敵でも味方でもない中間あたりで止めておくべきなのだが……何故か俺の心は、そう言っている気がしてならない。


とはいえ、敵ではなかったとしてもあの顔で女ったらしっぽい所はやっぱり好かん。俺の周りの女たちはあんな奴にこまされる程アホではないだろうが、これからの動向次第ではちょいと灸を据えてやらなければならん事になるかもしれん。


とりあえず次会ったら出会い頭に一発殴ってやるとしよう。はっはっは。

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