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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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目を覚まして2人

「ん……ここは……」


一体どっちが先に起きて来るかと頭の中で賭けをしていたが、見事的中したようだ。まあ、疲労の量から考えても当然かも知れない。


「やっと起きて来たか。ねぼすけめ。」


「……」


体も起こさずに横目で俺の方を見ている。状況がいまいち把握できてないのか、しばらく目をパチパチとしている。


「……ここ、天国ですか?それとも、夢の中ですか?」


「そんなに現実逃避したいのか。」


「……」


いつものようにおっとりとした感じでこちらをただ見据えている。……おっとりって言うか、俺からすればでれすけとでも言うべきか……相変わらず何を考えてるのかよく分からん奴。


「……ほっぺたを抓ってあげた方がいいですか?」


「やるなら自分のでやれよ。」


「私のきめ細かな柔肌が痛んでしまうのでそれは致しかねます。」


「じゃあ目の中に指でも突っ込んでみるとかどうだ。」


「シド様に一つご忠告を、そういうちょっとグロイのは女の子はあまり好みません。」


「……あ、そ。」


起きて早々この有様だ。マイペースな奴。俺も大概だけどこいつのマイペースっぷりったらねえな。


「……助かったん、ですね。私達。」


もちろんシノの視界には横たわっているソーラの姿もある。寝息を立てている事から命もしっかりある事だって分かる。


「?エイルくんはどこですか?」


「知らん。雪崩に飲みこまれた。お陀仏だな。」


「……」


「……」


「……」


「……ここには居ないけど、たぶん生きてんだろ。あいつはくたばるようなタマじゃねえよ。」


無言で無表情だから察しずらいが、それなりにあいつの事を気にかけているようだったので沈黙に負けた俺は柄にもなく慰めの言葉をかけてしまう。特に根拠も無いその場しのぎの言葉。


「……そうですね。きっと、大丈夫ですよね。」


……まあ、何の根拠も無いわけじゃないか。あいつも石持ってるんだからその内ひょっこり目を覚ますんだろう。合流できるかどうかは別として。はぐれた時はここに集合とか決めたわけじゃないしな……


「あの、私達、雪崩に巻き込まれたんですよね。」


「なかなかできる体験じゃないぞ。けど、あんな経験は流石にもういらんな。」


「……」


「お前、考えてる事いつも分かりやすいな。また自分のせいで、とか思い悩んでるだろ。」


「……そんな事……無くも無いですけど……」


表情に出なくても醸し出す空気が何となくそんな感じのオーラを纏っているのだ。知らぬは本人ばかりってやつだ。


「んなもん悔やんで何になるんだよ。生きてんだからいいじゃねえか。」


「……分かってます。本当は生きてて良かったって、思わなくちゃいけないって。……それでも……」


「誰が悪いかとか考えだしたら誰だって悪くも見えるし、別にそうでもないともどっちとも取れるだろうが。油断したお前が悪いとも言えるし、庇うのをしくじったあいつが悪いとも言えるし、勢い任せでぶっ放したソーラが悪いとも言えるし、けどお前は他の2人の事を責めようと思うか?」


「……思いません。」


「ならソーラもあいつも同じだって思わないのか?誰もお前を責めようなんて考えしてないだろう。なのに必要も無く勝手に罪の意識に苛まれて、無駄じゃねえか。」


「……」


「誰かが面と向かってお前のせいだって言い出した時にはちっとはへこむフリぐらいしてもいいかもしれんが、そうでないならいつもみたく平然としてろ。この世界で生きて行くにはそれくらい図太い位で全然いいんだよ。」


「……」


言ってすぐ実行できるような奴じゃないとよく分かっている。だから度々こんな風に諭してやらなくちゃならない。不器用っちゃ不器用だな。


「シド様が、私達を助けてくれたんですか?」


「お前達を抱えながら今にも崩れ落ちてくる雪の山を華麗に滑り降りてな。はっはっは。」


「なんと……そんな大スペクタクルな事があったんですか。巻き込まれた時ぐらいに私は気を失ってしまっていたようです。」


「映像にぜひとも残しておきたかったな。」


「私も見たかったです。」


「そうだろそうだろ。」


どうせ知らない部分の話だ。ある程度適当に盛って話してやるのが丁度いい塩梅なのだ。話ってのはある程度の真実に少々の嘘を混ぜてやる事が会話をスムーズに行かせるためのコツである。


「……ありがとうございます。」


「あ?」


「私達を、助けてくれて、ありがとうございます。……また、命、助けてもらっちゃいましたね。」


「何度命を助けてやっても自分から危ない所に突っ込んで行っちまうもんだから困ったもんだ。」


「私、鉄砲玉ですから。一度放たれた弾丸はもう止まれないのです。」


「無鉄砲だろそれ……」


……多少なりとも優しいってのは分かるが、本当に危うい性格してる奴だな。


「……いつもいつも、シド様が助けてくれて……私は、幸せですね。」


「……目が覚めたらお前らが近くに寝転がってただけだ。別に俺が助けたわけじゃねえよ。」


あんまりにひたむき過ぎる好意から俺はそれをやんわりと回避する事にした。……こいつの言葉は他の誰の言葉よりも俺の心にストレートに突き刺さる気がしてならないのだ。それを受け止めてしまうと俺の持っているアイデンティティを変えてしまいそうな程に……


優しい言葉を受けたら誰だって嬉しくなるだろう。こういういい方にはなってしまうが、それを繰り返していく内に人は……弱くなる。甘くなる。


人のいい部分ばかりを見てしまう事になってしまうと敵の悪意に対して鈍感になりやすい。この世界でそんな生き方をしているのはただ単に命取りだ。かと言って人の行為を全て無視して生きて行けるほど強い人間なんて自分を除いて他に知らない。きっとそんなことが出来る奴なんて他に居はしないんだ。


きっと人は寄り添って生きて行くものだと生まれた時からそう定められているのだろう。


……こいつと出会う前、俺はそれを頑なに拒否していた。


この恵まれた外見に比類なき強さ、トークも軽快饒舌な俺がその気になったらいくらだって他の奴から好かれるように振る舞うことも出来ただろう。


……だが、俺は逆に誰からも疎まれるような生き方を選んだ。代わりに自由を得た。何をしても誰にも関係も無い。行きたい所に行き、食いたい物を食い、気に食わない奴が居れば殺す。世界から切り離された存在のようなもの。周りから見れば朧のようなわけの分からない存在。


別にその時はそれでいいって、思ってたはずなんだがな……現に今だってまた孤独になったって別に構いやしないと心から思える。


……本当に、良くも悪くも俺の道は目の前でぽーっとしてるこいつに大きく捻じ曲げられてしまった。気を抜けばいつだって俺を暖かい何かで包もうとしてくる。


……あの時どうして声をかけたのか。そんなものは言葉にするのも野暮な事だ。とても短くシンプルに5文字で表現で来てしまう程陳腐な感情。


「ありがとうございます。」


「……今さっき聞いたぞ。」


一瞬返事を返すのが遅くなった。なんで改めて言うのかちょっと困惑したのもある。


「倒れてる私達をここまで運んでくれたのは、シド様ですよね?勝手にこんなしっかりとした場所に移動して来たわけじゃないです。だからやっぱり、ありがとうございます。」


……こいつのこう言うところが、たまに辛い。自分の事になるとなんでも悪いように思いこむくせに人の事となると何でも言いように解釈する所が……見ていて居た堪れなくなるのだ。


「……まあその分寝てる間に体をじーっくりと眺めさせてもらったからな。」


「はっ……そう言えば私の下着がいつの間にか……」


「無くなってねえだろ。つーか見てただけって言ったろうが。」


最後は結局うやむやに誤魔化してこのいかんともしがたいムードを払しょくするのも俺のお決まりの手だった。


「ん……ううん……」


バカやってる内にもう一人も目を覚ましたようだ。タイミング的には丁度良かったか。


「起きて来たか。」


「……うう……ここは、どこなのですか……」


「洞穴みたいです。」


「……!!雪崩はどうなったのですか!」


「どうもなってねえよ。とりあえず無事にここに居るってのだけ本当の話だ。」


「……私……頭に血が上って、思い切り撃っちゃったのです……ごめんなさいです……」


「起きて早々思う事がそれかよ……助かってよかったわーいって思うやつは居ねえのか。」


「……」


こいつはこいつでこれだしなぁ……


「危ないと思ったから撃ったんだろ。なら別に間違いじゃねえだろ。避けそこなったあいつが悪い。」


居ない奴のせいにしてしまおう。居ないのが悪い。


「そういえば……エイル君はどこなのですか?」


「その内ひょっこり出て来るだろ。心配する事でもねえよ。」


「……」


だが表情の晴れない彼女は思いつめた顔を続けるといきなり立ち上がり俺達に背を向けて行こうとしてしまう。


「どこ行くつもりだ。」


「……エイル君を、探しに行かなくちゃなのですッ……」


「まだ外は暗いぞ。もう数時間して明るくなってから行けばいいだろ。」


「でもっ……」


「はぁ……申し訳なく思う気持ちは分からないでもないが、だからと言って今お前が出てってあいつを見つけられるかって言うとそれは全然別の話だ。」


「……でも……」


「助けたいって気持ちがあるんなら今一番最善の策はしっかり休んで体力を回復して明るくなって状況もよくなったところで探すのが一番だろうが。違うか?」


「……」


気持ちだけ先走ってしまう人間は総じてこういう勘違いをする。すぐ行動することが最善ではない。体力の有り余っている俺ならばともかく、碌に回復していないであろうソーラが出て行ったところで事態の快方へと繋がる可能性は極めて薄いだろう。本人がそれに気付かない以上周りがそう伝えてやるしかない。幸いソーラは俺に少なからず信頼のような気持ちがあるだろうから素直に言う事を聞くのだった。


「……エイル君、1人で、大変なのです……」


「納得できないってんならあいつにあった時いくらでも謝ればいいだろ。それで終わりだ。」


「……ちゃんと、謝るのです。」


「つーかお前ら事態を深刻にとらえ過ぎだぞ。これあるだろうがこれ。」


「あっ……」


「何だよ。ほんとに忘れてたのか?これがあれば寒くて凍える事はないだろ。」


どうやら2人とも石の存在が頭から抜け落ちていたらしい。それが慰めになったのか、2人の心は少しだけ晴れた気持ちになっているようだった。


「だからとりあえず陽が出るまではここで休むぞ。じゃないと探すにも探す体力が無いからな。」


「……お腹、空きました。」


「空いたのです。」


「はぁ……」


2人そろって腹の虫が騒ぎ出したようでクウと言う音が俺の耳にもよく聞こえた。


……


「こういう場所で食べるご飯も悪くないのです。」


「俺は普通に暖かい飯が食いたいがな……」


こういう場所へ持ってくる食事は味はそこそこに手軽さや持ち運びやすさなどを重視したものになってしまう。正直俺の口にはあんまり美味いとは思えない。


「それにしても、雪崩が来た時はどうなるかと思ったのです。」


「真下から雪崩を見た事ありませんでしたね。今思えば豪快で見応えがあったような気もします。」


腹もこなれて来ていつものムードが少しずつ戻ってきたようだった。しょぼくれてるのより全然この方がいい。そんなの当たり前の事だ。


「シドさんが助けてくれたのですか?」


「まあ、それなりにな。」


「ありがとうなのです。」


「……わーったから食ってさっさと寝るぞ。」


礼を言われる様な事じゃない。むしろあんな状況になってしまうまで手こずってしまった事を咎めて欲しい位だ。そうすれば逆ギレ出来るのに。……ほんとに、悪意のない奴らだ。


世の中にこんな人間いるのだと思うと、自分のクソさ加減を実感させられてしまう。別にそれを引け目に感じたりするわけでもないのだが……


そうこうしている内に食事は済んだ。


「せっかくだから3人で川の字になって寝るのです。」


「分かりました。じゃあ誰が真ん中に寝るかを決めましょう。」


「そこは普通俺だろ。」


「常識に囚われちゃいけないのです。」


「……あほくさ。」


俺は適当に横になる。


「……すすす。」


遅れてシノが俺の右に横になる。


「ああ、ズルいのです。じゃあ私はこっちなのです。」


空いた左側にソーラが横になる。


「結局こうじゃねえか。」


「シンプルイズベストなのです。」


「早速つい数十秒前と言ってたことが違うぞ。」


「男の人は細かい事は気にしちゃダメなのですー。」


「……今日も、歌いますか?」


「ああ。」


「?何をするのですか?」


「シド様が眠るときは私がお歌を唄ったりします。」


「シノの歌、聞きたいのです。」


「そんな人様に聞かせるような出来の良い物ではないですが……」


「いいからさっさと歌え。」


「……あなたの未来はー……」


少々照れくさそうにしながらもシノは歌いだした。ソーラは、何も言わなかった。たぶん、想像以上の出来に言葉も出なかったのではないだろうかと勝手に想像する。


誰だって自分で気づかないだけで才能みたいなものは持ってるもんだ。それを自分の誇りにすればいい。


いつもの事だが、子守唄が終わる前に俺は意識を閉ざしていたようだ。


……男なんて助けても何のメリットも無いが……2人がその後引きずることが無いように探すか……世話かけさせやがる。絶対に出会い頭にぶん殴ってやる。


……意識を失う際におぼろげながら思った事だった。

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