表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シドとシノの大冒険  作者: レイン
238/1745

一夜明けた後

「あ!おーい!こっちこっちー!!」


「アホが手振ってるぞ。」


「善意でやってくれている事ですから振り返してあげればいいじゃないですか。」


「魔物相手に誰がんな事するか。」


ペイカの町で一夜を明かした私達は昼頃になってから再びガロミオさんの所へと訪れた。パリィ君も私達を待っていたようで手を振って待っていてくれている。


「元気なものだな。」


「お前が言うか。」


「?」


シド様の言いたい事はよく分かる。昨夜あんなにも血を流していたはずなのにヴリシェルさんの傷はまるで嘘のように綺麗になっていた。


「話には聞いていましたけど、ドラキューレって凄いんですね。」


「もっと苛烈な戦闘が起こった事もあった。数々の戦いの中で受け継がれてきた戦いの遺伝子がこうして強靭な肉体を作り上げているのだろう。ご先祖には感謝せねばな。」


私としては後に何か残ってしまうような傷で無かった事がとにかく嬉しかった。私のせいでそんな傷を負わせてしまったとしたら、その傷を見る度辛い気持ちになるし、何よりヴリシェルさん自身が一番傷ついてしまうだろうと思ったからだ。


……


「昨晩はありがとよ。よく眠れたかい?まあ、こんな昼間にやって来るって事はゆっくりしてたって事だろうけどな。」


「本当に生意気な奴だ。……いつみても殺したくなる。」


シド様はこういう子供っぽいのはたいそう嫌いなんだろうな……


「ガロミオさんもよく眠れましたか?」


「ああ。」


「それは何よりです。」


短い言葉を交わした程度だけど、どうやらいつものガロミオさんのようだ。


「あの魔物は結局何だったんでしょうね。無事勝てたとはいえ通常のベオベオより遥かに強力でした。」


「もしかしたらデスワンハンドレッドじゃ無かったのかなぁ…いや、でもどう見てもあれは間違いなく…」


「うだうだ考えても仕方ないだろうが。もうぶっ殺したんだから。」


「もしまた現れるようなことがあったらどうすんだよ!?」


「知るか。俺には向かうようなら殺すさ、そうでないなら知らん。」


「まぁ、シドさんならそう言うでしょうね。」


「…ほんと自分本意だなー…知らねえからな!」


……今回の事、少しだけ頭に止めておいた方がいいかも知れない。けど今はまだそっちを考えるより…


「それで、そこに見えるぐにょぐにょした物体の山は僕達のお目当ての物という事ですかね。」


……ここに入った時に既に視界に入っていたけど、ちょっとグロテスクな感じもあったのでなるだけ視界に入れないようにしていたけど、やっぱりそれか……


「おう、約束通りガランドバスの触角たんまり貰って来てやったぜ?これで1000個はあるだろ!まあ、もし足らなきゃまた貰って来てやるよ。」


「……蠢いていますね……」


「いきが良いだろ?」


魚じゃないんだから……


「これ……持って行けますか?こんなにたくさん……」


「……デカい袋にぎゅうぎゅうに詰めて……まあ、二袋あればなんとか入るだろ。」


「なるほど、ではそれをシドさんが運んでくれると……」


「バカ言うな。お前が2個とも持って行け。それぐらい出来るだろ?出来ないって言ったら殺すぞ。」


「あはは……それはとんだスパルタ教育ですね……まあ、一応一袋は当然持ちますけど、二袋持つのは流石に……」


「よし、じゃあ死だな。」


「……シドさんって、本当にSっ気強いんですね……」


「私が一袋持ちますから、エイルくん一緒に運びましょう。」


「シノさんは本当に優しいなぁ……まさに天使と悪魔の……あ、痛っ……」


「誰が悪魔だ誰が。」


……大きめの袋二つに何とかぎゅうぎゅうに詰め込むことは出来たが……これを持ったままあのお爺さんの所まで歩くのは流石に無理だ……帰りは乗り物を使ってもらう事にしよう……


「私ももう少し一緒について行けたらよかったのだがな。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。ヴリシェルさんはヴリシェルさんのやる事をやって頂いた方が村の人達も喜ぶっていうものですよ。」


朝方になってからの急事で、どうやら他の村へと出向かなくてはならない用事が発生してしまったようで、そうなると護衛役としてヴリシェルさんが居ないと心もとないという事で、この後ヴリシェルさんはそちらの用事を果たす事になるので私達とはここでお別れとなる。


「中途半端な形で別れる事になってすまないな。」


「もう十分すぎるぐらい手伝って貰いましたし、後は僕達3人でどうにかなりますよ。ね、シドさん、シノさん?」


「……」


少々ばつの悪そうな顔をするシド様だったが、エイルくんの言う通り、後は私達でどうにかするべきなのかもしれない。ガロミオさんだって長くここを離れると言うわけにもいかない。むしろたまたまとは言え2人の助力を借りることが出来たのはラッキーだった。


「薬の治療薬が完成するように祈っている。」


「ありがとうございます。」


「実は、昨夜の一件でちょっと思ったんですが、ヴリシェルさんの血を飲むと体が強くなるんですよね?もしかしてそれでゲンガー病が治ったりしませんかね。」


「ヴリシェルの血じゃ女にしか効かないんだろ?」


「シドさん、それじゃあ駄目なんですか?」


「……あ、そうか。それならそれでいいか。別に男は助ける必要も無いしな。」


「そんな自分勝手な都合で動こうとしちゃ駄目ですよ……」


「昨日も言ったかもしれないが、病気の特効薬の代わりになる程の強さを与えるものではないな。それにそんな大人数に分け与えられるほどの血も無い。」


「ちっ……」


「この兄ちゃん本当に色欲に塗れてんだなぁ……」


「魔物にそう言われるようではどうしようもない。」


「……」


「どうせ助けるつもりならば、村人全員を助けるつもりで動くがいい。シドのような豪快な男はそれぐらいするものだ。それが英雄というものだろう。」


「別に助けるのが目的って言うわけでもないがな……可愛い子だけ助かるならそれでいいわけだが……あのジジイがちょっとムカつくから鼻を明かしてやりたいってのもある。」


「あのお爺さん……協力してくれるでしょうか。」


あくまでこの触角を持っていけば治し方を教えてもらえるのではないかと言う希望的観測であって、持っていったあげく行き止まりになる可能性も無きにしも非ずだ。


「あのジジイ世間知らずだから何も知らないのに無理なんて言ってやがる。現にここにこんなに触角があるってのによ。」


「いや、それは違うぜ。確かにこの森にガランドバスはたくさん居るけど、逆に言えばここ以外の場所にはもうガランドバスはほぼ生息してないはずなんだ。」


「そうなんですか?何故この場所にだけガランドバスが?」


「ガランドバスってのは、そもそもそんなに高い戦闘能力のある魔物じゃないんだ。餌だって動けなくなった生き物を捕食するぐらいで、基本的には狩られる立場になる方が多いくらいの魔物だった。だからこの森に集まって来たんだよ。寄り添って生きて行けるこの森に。」


分散してそれぞれ生きて行くよりも、集団で生きて行った方がいいって考えたわけか……


「こっちの大陸に居る力の弱い方の魔物ってのは多かれ少なかれ最終的にはそう言う風な所に落ち着いちゃうんだよ。そう言う魔物達は町や村を襲ったりするよりも、自分達の種の繁栄を第一に生きて行くってわけさ。」


「……こっちの大陸……と言うのは。」


「そんなの言うまでも無いだろ。人間領の事さ。」


この世界で生きている内に自然と分かった事だ。私達人間がほぼ支配していると言ってもいいこの大陸を人間領と人は呼ぶ。……そして、決別の裂目と呼ばれる大きな亀裂の入った地面のずっと先にもう1つ大陸が存在する。それを人は魔物領と呼ぶ。


「まあ、それはそれで魔物の生き方だっておいらは思ってるけどね。今更おいら達が向こうの大陸に行くなんて方法も無いし。」


「魔物領に……戻りたいですか?」


「うーん……まあ、どっちでもいいかなぁ……おいらはね。別にこの生活もそんなに嫌いじゃないし。……けど、他の奴らは戻りたいって思ってるのかもね。大体大陸が分けられたのだっておいらが生まれるよりもずーっと前の、下手したら1000年ぐらい前の話みたいだし、そんな話今更って感じさ。」


モンスターにはモンスターの歴史……か。


「もういいだろ。昔の話なんざどうだっていいだろ。」


「そうだな。おいらには分からない話だもん。」


千年以上こんな状態が続いている以上、そんな大昔の事が今に影響を及ぼすのかと言われると……


「……」


「?エイルくん?」


何故か、この話の流れでエイルくんはとても神妙な顔をしていた。……いや、いっそ、何か思いつめているようにすら見えてつい声をかけてしまう。


「……あ、はい?なんでしょう。」


「……何か、悩みですか?」


「ああ、いや、あはは。どうやったらシノさんとヴリシェルさんのハートをキャッチできるかを考えていたらいつの間にか話から置いて行かれて行っちゃってたみたいですね。それで、今どんな話を?」


「……アホか。」


「この兄ちゃんに言われるようじゃ本当にお先真っ暗だぜ……」


「あはは。」


一転してけろりと屈託のない笑顔を浮かべる。……でも、その言葉は、何となく嘘が混じっているような気がした。


……オド……


何故だろうか。……ふとその言葉が頭をよぎる。


……モルフィンさん達が命を賭けてでも阻止しようとした未来。その破滅をもたらすと言っていたのが、オド。


今思えば、モルフィンさんは強大なモンスター達と戦うために人の力を終結させる必要があると言っていた。つまりオドとはモンスター側に味方する者である。それ即ちオドもモンスターだと言えるのではないだろうか。


だけど不思議な事に、この世界で生きていてオドと言う言葉が普通に飛び交う事は無い。何故ならそんなものは観測されていないから。あくまで過去から伝わった歴史の中に登場するだけだ。今を生きる私達に何らかの影響を及ぼしていないから多くの人の頭の中からは抜け落ちている。


……だけど、モルフィンさん達は確かにオドが近い未来私達に牙を剥くと言う風に言っていた。


ならばオドは一体どこに存在しているのか。その答えは、十中八九魔物領だ。だって人間領には姿を確認できない以上、あちら側に居ると言うのはいっそ当たり前だ。


そして……オドはモンスター達の王様の様な存在。王が多くのモンスター達を率いて……人間領へと攻め込んでくる……?


つまりあの裂け目を越えてモンスター達がこちらへとやって来る術が存在するという事?ラズリードに行った時、遺跡の地下にあったあのうにょうにょ発生装置みたいなものがあったとしたら……モルフィンさん達はその手立てを知っていたからこそそれを止めようとした?


……


「おーい。」


「……あ、は、はい。なんでしょう。」


「今度はお前が考え事か。」


「どうかしたのかシノ?」


「……あ、いえ。頭の中で勝手に脳内会議が始まってこちらの世界に帰って来るのが遅れてしまいました。てへ。」


「……はぁ……」


……自分でも誇大妄想が過ぎたと思う。どうして急にそんな事になってしまったのか。本当に気の迷いだ。今はそんな事よりもゲンガー病の治療法を探さなくてはいけないのだ。頭をちゃんと切り替えよう。


「おし、用は済んだし、そろそろ行くとするか。」


「そうですね。あのお爺さんの口ぶりだと、まだまだ特効薬を作るのに必要な品物はありそうですし、これからが本番なのかもしれません。」


「行くのか、気を付けてなー!」


「パリィくんもお元気で。ガロミオさんもありがとうございました。」


「俺の為にやった事だ。むしろ手を貸してもらってこちらこそ感謝している。」


口数こそ少ないけど、優しくて強いいい人だ。


大量のガランドバスの触角の入った袋を背に抱えて私達は森を後にする。


……


ペイカに着いた私達の元におあつらえ向きに乗り物がやって来ていた。それを使って私達はお爺さんの居た灯台へと向かう事になる。


「それでは元気でな。また何かあれば遠慮なく頼ってくれ。」


「ヴリシェルさん……その……」


「傷の事ならば気にしなくていい。気に病む事は無い。」


「……」


「シドもあまり羽目を外し過ぎないようにな。エイルもしっかり2人をサポートしてやってほしい。シドは放っておくと暴走してしまうからな。」


「はい。それは重々承知ですからお任せ下さ……痛っ!」


「てめえが一番暴走する可能性が高いんだよ!これまでどんだけてめえに引っ掻き回されたと思ってんだ!」


「3人とも仲良くな。」


こうして再び私達3人での旅の再開となったのであった。


……


「まあ、思ったよりスムーズに手に入ってラッキーでしたね。シノさんの大手柄じゃないですか。」


「?」


「シノさんがガロミオさんの所に行けばもしかしたらって言ったから手に入ったわけですし。」


「それはたまたまと言うか巡り合わせが良かっただけですよ。」


「じゃあ俺の人脈勝ちだな。」


「じゃあ、その調子で次の探し物もシドさんの人脈で見事見つけてくださいね。」


「つーか……マジでお前いつまでついて来るつもりなんだよ……」


「少なくとも特効薬が完成するところまでは見届けるつもりですよ?」


「……さっさと特効薬を作ってこいつを厄介払いするぞ。」


……やれやれ、こうして一緒に行動しているもののまだまだ互いの距離が近づくと言う所までは全然行っていないようだ。


揺れる、揺られる。景色は流れる。そして、この旅はまだ始まったばかり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ