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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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そして4人は……

戦いは終わった。多くの人間を血祭りにあげてきたデスワンハンドレッドだったが、それをシド達は5人で仕留めきったのだ。


だが……


「ヴリシェルさん……!!」


「……流石に……あれは無事で済みそうも無いですよね……まずいです……まずい……」


シノとエイルは血の気が引く感覚を感じていた。……ヴリシェルは、岩場に頭から激突し、そのまま動かない。


普通の人間ならば、それは至って自然な事。……それが示す物は至ってシンプル。


……死。


「シド様!シド様!!」


「……」


その声に平静さを取り戻したのか、振り下ろし続けた剣をそのままにシドは肩で息をしている。


「ガロミオ!ガロミオ!ありゃ……やべえって……」


「……」


怒りと言う感情から解放された二人はそれぞれの声に振り返り、ヴリシェルの方へと向かっていく。その遠い距離……30メートルの距離を移動する程の勢いで岩場に頭から激突したと言う現実に、近寄ると言う行為そのものが彼女の死を確認するための作業のようで恐ろしくなる。


「早く……手当てをしないと……」


真っ先に駆け寄るはシノだった。自分を庇ってこんな目に遭ってしまったのだと思うととても気が気ではない。もしシノが自らの命を引き替えにヴリシェルを助けることが出来ると言う選択肢を与えられたなら迷うことなくそれを実行しただろうが、この世界においてそんな取引を産む選択肢は与えられないのだ。


「……」


あまりにも痛々しい光景……ヴリシェルの首はだらんと垂れて表情がよく見えない……もしもあの美麗な表情が傷だらけになっていたらと言う事を思うだけで、その体に触れていいものかどうか躊躇ってしまうシノであった。


そして、それは後からやって来た4人も同じだった。


「……」


見知った人間の傷ついた姿など、見たくは無かった。誰も何も言葉もかけられなかった。ただ、この無残な光景を無言で食い入るように見つめるだけである。


「(……私の、判断が、甘かったから……ヴリシェルさんが……)」


……


……大切な人を、ヴリシェルさんを、こんな形で、死なせてしまうなんて……私なんかの為に……


「……ふっ!!」


「……」


ヴリシェルさんは静寂に満ちた空間を断ち切るかのように、すっと首を起こして起き上がる。


「んむ。」


「……」


そして、首をぐりんぐりん回している。それは体を慣らす時の動きによく似ていた。


「……あの……ヴリシェルさん。」


「ん?何だ、シノ。」


「……」


大丈夫、ですか?……って、聞いた方がいいんだろうか……


「……大丈夫……なんですか?」


「?大丈夫とはどういう事だ?」


「あの……さっき、頭からこの岩場に激突したように見えたんですが……」


「ああ、その通りだ。この世界に来てベスト3に入る程度にはいい衝撃だったな。」


「……それで、その、大丈夫、なんですか?」


「まだ戦えるという事か?それなら特に問題は無いぞ。もっとも、いつの間にやらあの魔物は倒してしまったようだな。止めを自分でさせなかった悔しさと最後の時に加われなかった自分の至らなさを悔やんでいるところだ。」


「……」


「?」


これって……つまりは、全然ダメージとしては受けてないっていう事でいいんだろうか……でも、あんな勢いで頭からぶつかったのに、そんな事あるんだろうか……


「……頭から、血……出てますけど……」


「ん?出ているな。(ドクドク)」


……現在進行形でポタポタと流れ続けている。綺麗な顔に鮮血は不思議とマッチしていると言えなくもないけど……とにかく痛々しい……


「……」


「……(ドクドク)」


「……」


「飲むか?(ドクドク)」


「……」


「……(ドクドク)」


「え……血をですか?」


「飲んでも構わないぞ。(ドクドク)」


「……は、はぁ……」


「いい加減にしろ……これじゃいつまでも話が進まんだろうが。結局岩場にぶつかった傷は大丈夫なのか?」


私自身もどこへと着地して行く事になるか分からなかったところなのでシド様が加わってくれたのは正直助かっていた。


「うむ。このくらいの傷はどうという事も無いな。(ドクドク)」


「血、出てますけど、止めなくちゃまずいのではないですか?」


「まあ、その内止まるだろう。どちらにせよ命に別状はないだろう。むしろ血を流すという事自体そうそうある事でもないから、たまのこういう機会に血を抜けて丁度良かったかもしれない。(ドクドク)」


「……ようは、心配は無用という事でいいのか?」


「ああ、心配無用だ。(ドクドク)」


「ヒヤヒヤさせんなよな!!俺達全員めっちゃ心配したんだぜ!?」


「そうだったか。だが安心するといい。ドラキューレはこの位どうという事は無い。(ドクドク)」


と、いつものように余裕に満ち溢れた微笑を浮かべていた。


「でも、どうしてすぐに起き上がって来てくれなかったんですか?」


「ん?いやなに、起き上がりついでにたまにはジョークの一つでも言ってみようかと言う考えがふとよぎって来たから考えていた。(ドクドク)」


「もしかして……そのジョークって……」


「飲むかって奴じゃねえだろうな……?」


「そうだが?(ドクドク、ピュー)」


「……」


とりあえず……一旦、血の勢いが収まるまで待つことになった。もう見ていても痛々しいもん……


……


「よいしょよいしょ……」


「すまないな、シノ。」


素人手つきではあるが、負傷した場所を包帯で巻く。出血もだいぶ収まってきたようだ。


「本当に大丈夫なんですか?」


「血が少し抜けたぐらいではドラキューレは倒れたりしない。」


「コップ一杯じゃすまないぐらい流れてたぞ……」


「だから飲むかと言ったのだ。」


「起き上がって来なかった時間で考えたとっておきのジョークがそれとはな……ドラキューレのセンスはどうかしているのではないか?」


「む。まあ、半分はジョークだが、もう半分はある意味本気で言っていたのだ。」


「もう半分ですか?」


「ドラキューレの血は飲んだ人の体を強くするのだ。もっとも、そうそう血を流す事など無いからそれゆえ希少なものなのだ。」


「へー、そうなんですかー。じゃあ僕、ちょっとぐらい飲んでも良かったかもしれないですね。綺麗なヴリシェルさんの血なら僕全然イケますし。」


「お前笑顔でそんな事カミングアウトするなっての……」


「エイルでは無理だろうな。飲むことは出来ても、その恩恵にあずかることは出来ん。」


「と、言いますと?」


「ドラキューレの血が力を与えるのは女性だけなのだ。男性が力を得るにはドラグーンの血でなければならない。」


「……男の人の血は遠慮しておきます……」


このテンションの下がりよう。


「強くなるって、どんなふうになるんでしょうか。」


「飲んでみるといい。」


……飲んで、いいんだろうか。別に衛生面的な事を言っているわけでは無い。むしろヴリシェルさんの血なら私の血よりずっと清廉そうな気すらする。


「……それじゃあ少しだけ頂きます。ぺろり……」


少しだけ指に掬って口に含む。……普通に血の味って感じかな。


「……飲んだな?」


「……え?」


その瞬間、ヴリシェルさんは今までに浮かべた事の無いような妖艶な笑みを浮かべていた。


「これで、シノはドラキューレの一員となった。」


「……どういう事ですか。」


「簡単な事だ。ドラキューレの血を体に含んだものは、強くなる。なぜならば体が自然とドラキューレのものとなっていくからだ。」


「……それって……」


「ふふ、次第に尻尾も生えてくるだろう。そうなればもうシノは立派なドラキューレだ。」


……そ、そんな事って……こんな意図していない形で人の体とお別れだなんて。お父さんとお母さんから貰った大事な体だけど……今度から私はドラキューレになってしまうんだ……


「(ぐすぐす……)」


心の準備も出来ていない私は、突然の事態に涙ぐんでしまう。


「と、言うジョークもさっき思いついたんだがどうだろうか。」


「……」


「……」


「……さっきのくだらないジョークよりは少し信じそうになった。」


「そうか。それなら何よりだ。」


「(ぐすぐす……)」


「シノ、そんなに涙ぐんで……まさか、ドラキューレになると言うのがそんなに嫌だったのか?」


「……ヴリシェルさんの嘘に騙されちゃったのが悲しいです。ぐすぐす……」


「そ……そんなにショックを受けるな。私がいたたまれない気持ちになってしまう。そ、それに、ドラキューレの血を飲むと強くなると言うのは本当の事だ。」


「どんなふうに強くなるんですか……」


「風邪に強くなると言われているな。」


「……それは、ありがたいですね……」


「そうだろう。」


……どうやら意図せず風邪に強くなったようだ。だからどうしたと笑い飛ばす人も居るだろう。


「ええい、もうアホ漫才は止めろ。お前もワザと続けるな。」


別にワザと続けていたつもりは無いのに……


「おふざけが過ぎたな。さて、とりあえず無事あの魔物は倒したわけだ。」


月明かりに照らされてその体が横たわっているのが少し離れていてもしっかりと確認できる。


「これでお前の頼みは聞いたんだ。約束通りガランドバスの場所を教えてもらうぞ。」


「あー、まあそれでもいいけどよ、欲しいのって触角なんだよな。」


「ちなみに1000個程ですけどね。」


「そしたら今日はもう暗いし、一旦お開きって事にしようぜ。んで、明日また俺達の寝床に来てくれよ。そこにガランドバスの触角1000個準備しとくからさ。」


「場所、あんまり教えたくないんですか?」


「そういうわけじゃないけど……それで用件が済むんならそれでいいだろ?いちいち触角をちぎる手間も省けるぜ?」


どういう意図なのかは分からないが、結果的に触角が手に入るならそれでもいいだろう。


「じゃあ、そうしますか?」


「……ちゃんと用意しとけよな。」


「もちろんだって、約束は守るって!」


「……では、俺は帰るぞ。」


「あ、待ってくれよガロミオ!」


別れの挨拶もそこそこに2人は再び森の方へと歩いていく。


「……疲れちゃいましたね。」


「無理も無い。だが、シノ、良く戦ったな。」


「特に頭を一つ潰したのは流石でしたね。」


……たとえその功績が大したものだとしても、結果的にヴリシェルさんにけがを負わせてしまう事になってしまった手前、心から喜べるものでは到底無かった。


「……ヴリシェルさん、すみません。私が注意を怠ったせいでそんな傷を……」


「いや、これは私の判断ミスによって生じた傷だ。」


「判断、ミス……?」


「あの時私は、シノをちゃんと信頼できていなかったのだ。だから私が盾とならなければシノに大けがを負わせてしまうと勝手に思ってしまった。だが、飛び込んでからそれが間違っていた事に気付いた。シノは私が守りに入らなくてもしっかり自分の身を守る事が出来ていたのだ。」


「……」


「シノの力を見くびった私の判断ミス、だが、私が思う以上にシノが強くなっていたのだと同時に感じて、情けないやら嬉しいやらそんな気持ちでいっぱいだ。」


「ヴリシェルさん……」


……情けない気持ちでいっぱいなのは、私の方。……ヴリシェルさんはたまたま無事だっただけだ。もし私が同じ立場だったらきっと頭をぶつけた時点であの世に行っていただろう。他の人を危険な目にあわせていたかも知れないのは紛れもない事実。……でも、本当に無事でいてくれてよかった。……私も嬉しさと情けなさでいっぱいなんだ。


「帰るとしよう。」


「……はい。」


戦いを終えた私達は、ペイカの町へと帰っていく。夜遅くではあったが、宿の人は心温かく私達を迎え入れてくれたのだった。


……


シド様は先に寝てしまった。


でも、私にはたくさん思う事があって、まだ眠れなかった。


……結局、あのモンスターはどうして出現したのだろうか。その謎については未だ不鮮明。


それと、もちろん今日の戦いの事だ。……もっと、上手くできた。そうすれば無用な傷をヴリシェルさんだって負わずに済んだ。……私の未熟さでまた足を引っ張ってしまった。


……こんな調子で、ちゃんと治療薬の材料を集めていけるんだろうか。


……そう言えばエイルくん、あんなに身のこなしが軽かったんだな……でも、結局自分からは戦わなかった。……不思議な、子、だな。


……結局、眠気には勝てず、少しずつ私の意識は落ちていく。


「……シド……様……」


そしてやっぱり最後に着地する場所は、隣のこの人。この人の隣が、私の居る場所でありたい。


……夢の中でも一緒に居られるように、少しでも近くに居られるようにと、シド様の体を強く抱きながら、夜の闇へと意識が溶け込んでいった。

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