5人が討つ
「す……すげぇ戦いだ……」
戦闘能力に乏しいパリィは彼らの戦う様子を離れて見るしかなかった。だが、遠巻きに見ているにもかかわらず、異様なまでの緊迫感に包まれていた。実際に自分が相対しているわけでないにしろ、切迫した戦いの気迫と言うのは肌で感じるものだ。
戦いは、苛烈を極めていた。
……
「次は……ここかあぁぁぁッ!!」
シドは標的の後ろ後方より後ろだった足めがけて剣を突き刺す。本来ならば、その一撃が肉を抉り、何らかのダメージとなるはずなのだが……
「ちぃっ……イマイチだな……」
凶悪と言ってもいい程の硬い毛皮に覆われた魔物の体まで刃が届く事は無く、渾身の一撃は無情にも弾かれてしまう。
「ん?……くそッ!!」
ならば第二撃を、と構えようとする時には既に自分へと向けられた攻撃をいち早く回避するモーションに移らなければならない。
決定打を決めあぐねている時に深入りしたところで自らをただ危険へと追いやるだけなのだ。今は敵にとってのウィークポイントを探さなければならない時点の話だった。
「(やっぱりこの硬さ……普通じゃねえ……)」
それは元がベオベオの魔物とは全く持って考えられぬほどの変異体。何らかの異常たる要因が重なった事で生まれた魔物だとシドは断定する。
以前この地にて戦った漆黒のデンプシーと同じような手ごたえ。あの時はまだ黒に染まりきっていない部分が残っていた為そこを狙う事で撃退することが出来たが……
「……こんだけデカいと……そいつを探すのも面倒な話だぜ……」
そもそもそんな場所があるのかも定かではない。
最悪の場合、あの剣を抜かざるをえないとも考えていた。
「……」
だが、まだ、その時ではない。というより、シドの中ではその剣を抜く事など無いのが一番理想的な事なのだから。
剣の力でなら倒せたとしても、それは自分の力が目の前の魔物に通用しないと認めてしまう事である。一度でもそうしてしまった時点で自分は逃げた事になってしまう。そんな行動を取ってしまうと不思議とそれから先も同じ状況で力を発揮できなくなってしまう。苦手意識を自分自身に植え付けてしまうという事だ。
……ましてや、自分より弱いと言ってのけた他の者達が普通に立ち向かっているのだから、自分が最初に敵わないから剣に頼るなんて軟弱な事を言いたくなかった。
「ほっ。よっと。まあ、これだけ大きい体だと、俊敏には動けませんよね。よいっ。」
今現在デスワンハンドレッドの攻撃は大きく一人に集中している。
戦いが始まってよりエイルは敵の眼前に躍り出ていった。だが、それは攻撃の為ではなく、注意を自分に引き付ける為である。もちろんそれは一番危険な行為なのだが、1分も経たない内に他の者達はエイルの担ったポジションを彼に任せ、自分達は思い切り攻撃へと移る事になった。短い時間ながら、エイルの身のこなしを見て誰もが分かった。彼に攻撃が当たる事は無い、と。
「(エイルくんはきっとどんな攻撃でも避ける。一番弱い私でもよく分かる……)」
「よいっ。おとと……」
エイルは攻撃を避けた後に、少しよろめく……
「……ッ!!」
その隙を好機と見た魔物はすかさず攻撃を加えるが……
「~♪」
傍目に見れば間一髪のところで回避する。……よろめいたところまで、エイルは意図的に行っていた。それは注意を引き付ける役目を担ううえで、重要な事。
「(あと一歩で仕留められる……そう思わせる事で、一番自分へ注意を引き付けられる。)」
それは常識ではあるのだが、実際に行うとなるとそのリスクの高さは尋常ではない。常に相手の間合いの中に居続けるなどと言う事をしていたら一瞬の迷いで一転して窮地に追いやられることになる。仲間と言う結束力が強い程そんな役目を誰かに負わせたくはないものではあるが……
「いやぁ、流石に強いですね~もうちょっとでやられちゃうところだったかも知れませんね。」
魔物に言葉が通じているのかは不明だが、それでもエイルは軽口を叩いて挑発をして見せる。明らかな挑発であっても、魔物はエイルの術中に嵌る。相手の行動の糸を深く追求しないのは直情的とそうでない、人と魔物の大きな差と言えるのかも知れない。
不思議とその様子を見ているとエイルに対して絶対の安心感を持ってしまう程度にエイルは囮を続ける。そしてその役を担っている彼をそこから解放するには速やかに標的を排撃するのが第一に違いなかった。
「とおぉッッ!!」
凄まじい怒号が響く。それを引き起こしたのはヴリシェルの一撃。高く飛翔しながら対象に向けて飛び掛かりながらの攻撃が敵へと襲い掛かる。
「なんと、だいぶ力を込めたつもりなのだが、そこまでいい当たりではないな。」
自分の思ったほどの効果を得られていないヴリシェルは淡々とそう言ってのけるが、それはあくまで彼女自身の自己評価でしかない。
「ガッ……ガアアアアッッ!!!」
ヴリシェルの大剣はダメージを認識させる程の傷を負わせていた。傷口からは紛れもなく鮮血が溢れだす。痛みを与えられた怒りのあまり荒れ狂うデスワンハンドレッドの巨体。
「次はもう少し力の入れ方を変えてみるとしよう。」
振り落される前にヴリシェルは自分から飛び退く。
「(流石にここで近づくのはちょっと危険ですね……せめて私が遠くから攻撃する術を持っていればいいんですが……)」
シノの思案をあざ笑うかのように、自分自ら荒れ狂う巨体へと向かう男が居た。
「……」
ガロミオである。彼も面倒事はさっさと片付けたい気持ちが強いため、とかく致命傷を与える為接近する。そして先ほどのヴリシェル同様、巨体目がけて飛び掛かる。
「……全く……デカい図体をして暴れてくれる。」
体全体を使って行うロデオの如くだった。正直言って気分のいいものではなかったため、すかさず攻撃を行う。
「……ッ!!」
シドの剣ですら上手く食い込ませる事が難しい表皮に向かって、ガロミオは己の拳を突き刺す。
……だが、それは拳にして、拳に非ず。
「剛鉄拳だァーー!!!」
……遠くからパリィはそう叫ぶ。戦いに集中しているシド達には一切聞こえていないが、それは彼の必殺の拳。彼の絶対の自信を力へと変える。この拳で、彼は森の魔物達をねじ伏せた。
「ぬおおおおッッッ!!!」
怒号一閃ッ!巨大な巨体に強大な衝撃を伴うガロミオの拳が突き刺さる!!この拳の前には強靭な表皮であろうと問題ではない。漆黒の鎧を切り裂きながらその先にある肉を抉り取るッ!!
「……ッ……ガッ……ッ!!!!!」
この一撃は先ほどのヴリシェルの攻撃よりも更に大きなダメージを与える。声にならない叫びをあげる標的だが、ガロミオは手を緩めない。この剛鉄拳はまだ最初の段階に過ぎない。
「……ふうぅぅ……」
肉を貫いた右腕を自分の元へと引き戻すと、今度は右の手と左の手を組み合わせ、一つの巨大な塊へと変化させる。
「はぁぁぁぁッッ……」
呼吸を整え、それを天高く翳す。そして……振り下ろすッ!!!
「行けぇ!!両剛鉄拳だぁ!!!」
また誰にも聞こえない場所でパリィの声が響く。……技の命名はパリィが勝手に自分で行っているものである。
「砕けろ……!!」
だが、両の拳を合わせたその一撃は、1と1を足した単純なものでは収まらない。
「ガアッッ……アアアアァァッッッ……!!」
その一撃に、大きく体勢を崩し、デスワンハンドレッドは倒れこんでしまう。強靭な四つの足をもってしても支えきれないほどの衝撃を加える事に成功したのだ。
「っっしゃあ!!!」
「……凄いです……あの大きな体を……」
「ほんとに人間離れしてるなぁ……」
パリィは喜びに打ちひしがれ、シノとエイルはただしきりに感心し……
「感心してる場合か!!」
「ここは、一気呵成に攻めこむぞ!!」
気を見るに敏。シドとヴリシェルは更なる追撃を加える為我先にと標的へと向かっていく。そして二人が狙うは……
「おらぁッッ!!」
「てえぇいッッ!!!」
5つある頭部の内……2つッ!!
「ア……グゥゥゥ……!アアァァッッ!!!」
見事2人の渾身の一撃はそれぞれ頭部に致命的なダメージを与える。
「残り……3つだッ!!」
頭が5つある生物の生態などよく分かりもしないが、全ての頭を潰せばまず間違いなく活動を停止するだろう何てことは誰もが分かっていた。それゆえ、敵が大きな隙を見せたならばその時こそ頭を潰していく大チャンスなのだ。
「私も……ちゃんと分かってます。」
2人の攻撃に触発されたシノは少し遅れるものの、残った頭部の1つへ向かって飛び掛かりながら攻撃を行う。
「!!!」
……シノは超至近距離にて、敵が睨む様を見る。死に際の形相……ともすれば、貴様を食い殺すぞと言わんばかりの怒りの形相。
……だが、シノは、怖気づいたりなどしない。
「(……そうです。私は今からあなたに攻撃を行います。)」
心で、そう宣言する。
「……」
得物を……その瞳目がけて、差し出すッ!!
……
そして、刺し貫く……
「ウウゥ……アガァァァッッ!!!!」
上がる雄叫び。ただ痛みに表情を歪めていく。だが、ここで容赦などするべきではない。
「……」
片方の目を潰したならば、もう片方も潰して然るべき。それが、戦いの流儀なのだから。
「ッッーーー!!」
敵の抵抗などが起こるより素早くシノはもう一つの目も刺し貫いた。
100人もの人間を相手取ると恐怖されるデスワンハンドレッドを相手にシノは周りのアシストがあったにせよは重要な機関である頭を一つ機能停止させる事に成功したのだった。
「(ちゃんとやりゃあ、出来るじゃねえか……)」
「(ただ見てるだけじゃなくて自分で戦って……流石僕の……)」
だが、ここで灌漑に打ちひしがれてしまうようではまだまだ一人前ではない。まだ頭部は2つ残っている。それを潰さない限りは安全とは言えない。しっかりそれを実践するためにシノは、後方へ向かって……
「……ッ……!」
飛びながら距離を置く……そのはずだった。そのモーションは完璧な流れであったはずだったが、シノの視界へふと飛び込んできたのは……自分の体以上の大きさを誇る敵の暴腕であった。それが、自分へと向かって来ていた事にシノは気付いたが、もはやその軌道から逃れるためのモーションを取るには無理があった。
「(……せめて防御態勢を取って被害を最小限に……)」
だが、そんなシノの盾となるべくして進路上に人影が出現する。
「ヴリシェルさん!!」
「……」
どう見ても無我夢中に飛び込んできた彼女は何の受け身も取らずに、ただ、シノよりも早くその巨腕の攻撃を受ける事と相成ってしまう。
「……っくッッ!!!」
碌に攻撃を防ぐ手だても無かった状態で攻撃を受けたヴリシェルは大きく弾き飛ばされ……不幸な事にその先にはせり出した岩石が待ち構えていた。
そして少し遅れる事、ヴリシェルが間に入った事で幾ばくか速度や勢いが減殺された攻撃をシノはその身に受けてヴリシェル同様弾き飛ばされるが、そのダメージは大したものではない。すぐさま起き上がって退避行動がとれるほどのものだ。
だが、その間にヴリシェルは凄まじい勢いを維持したまま岩場へと頭を打ちつけてしまう。
「ぐっ……か……はっ……」
尋常ならざる光景を誰もが見てしまう。だが彼女の安否を確認するよりも先に、敵を殺さなくてはならないと言う殺意の衝動がシドとガロミオの中に沸き上がってくる。
「てめええええ!!!」
「……だあああああッッッ!!」
……男はいつの時代であっても、女を守るための強さを持っている。
そして、女を傷つけられた男は本能的に狂気と形容する程の怒りに震えあがる……
そう思わされる程に、2人の殺意のこもった攻撃は、我が身を省みない捨て身と言っても差し支えの無い程のものであった。
「アァァァ……ァァガッッ……」
この怒りは、一撃程度で済まされるものではない。
「死ねええええッッ!!!」
「……ッ!!」
2人は何度も何度も渾身の一撃を叩き込み続ける。対象物が、息の根を止めようとも、ぴくりとも動かなくなろうとも、抑えきれない怒りが収まるその瞬間まで、2人の苛烈なまでの攻撃は続いた。
たとえそこにもう意味などないとしても、それでも繰り返す。それが、人と言うもの、なのだろうか。
この本能から、この檻から、人は抜け出せない。いや、抜け出したくなんてないと懇願しているのかも知れない。それが人であるという事の証明、そう、感じているから。




