あの頃と今とこれからの自分達
年輪樹、巨大な木が意志を持って動き出した魔物。時折四方八棒を落とす……
「見た通りの魔物で探す手間が省ける!!」
俺達二人に立ち向かうには、少々相手不足のその強さ。もっとも俺達の目的は倒す事だからこれで良い。
「本体を狙うよりは……枝を攻撃して弱らせた方が楽って書いてあったよね!」
それで無くとも動きは緩慢。オルテナの敵では無いだろう。
「……」
「どれだけ長い戦いになるか分からないけど……フォニカを探す為に……倒すよ!あっちょー!!」
威勢の良い掛け声とともに格闘少女は飛び掛かる。
ベキベキッ!!
そしてセオリー通りにメインマストである太い部分から文字通り枝分かれして生えているそれらをへし折る!
「(この枝のどれかに四方八棒があるんだろうか。)」
倒すより探す方がめんどくさそうだとついつい思ってしまう……だが、仕方ないか、人探しってのは何かしら骨を折るような作業だ。そして苦労の先には美人に成長したフォニカが待っているに違いないのだ。
「俺にも、ちょいとやらせてもらう!!」
自分なりにも奮起した俺は遅れて攻撃に参加する。そして俺の攻撃は更に敵の枝葉を伐採する。大木のように思えていたその大柄な体からは次第に緑が消えていき、残るは今にも枯れそうな木の柱だけ。
「ここまで弱らせたら……後はトドメの一撃を!!」
「やっちまえ!」
俺が言うとも言わずとも、結果は同じ事だっただろう。
「ほあっちょー!!!」
メキメキッ!!!
戦いの中で発生した傷と共に強度も落ちて脆くなっていくのか、太い大木はオルテナの渾身の蹴りによって真っ二つに裂けた!
「よし、おしまい!」
「大した事は無かったな。」
少なくともこいつらが大群で現れたとて、おそらく苦戦する事は無いだろう。この木漏れ日の森という場所自体が結構初心者向けの冒険スポットであるようだし、そこに現れる魔物だってたかが知れている。倒せないなら逃げる選択肢だって十分に取れるだろうしな。
「そしたら……探そうか、四方八棒……」
「枝ばかりで……うんざりしそうな光景だがな……」
倒した魔物の残骸の中からお目当てのアイテムを探す……ついこの間も全く同じシチュエーションがあったと記憶している。
「(あの時は骸骨の中から……今度は枝の中からか……)」
枝の中から違う枝を探す……その時より難易度は高い。
ガサガサ……
「結構ヤバいね、これ……」
「……ヤバいな。」
ちなみに四方八棒の特徴は、一本真っ直ぐで尖った棒だという。何に似ているかと例えるならゴボウを小さくしたようなとか何とか……
「(いやに抽象的な書き方だったので嫌な予感はしたが……ちゃんとイラストを乗せておいて欲しかった。)」
ひとまずそれらしいものを見つけては試してみるしかあるまいか……
ガサガサ……
「地味だ。そして地道だ。」
「シド、こういうの好きじゃないよね。」
「俺は派手なのが好きだ。」
「ねえねえ、シドはやっぱり冒険が好きなの?それとも戦うのが好きなの?」
「どちらかと言えば、冒険だな。別に戦いは無くてもいい。」
「ふーん、そっか。そうだよね、シド戦うの面倒くさいっていつも言ってたもんね。」
やらなきゃいけないならそうするだろうが、自分から進んでそれをしようとは思うまい。そういう奴らの気が知れない。
「お前はどっちが好きなんだ?」
「私?」
「お前は元々あいつに無理やり誘われて冒険者やる羽目になっただろ。けどそれからもずっと今に至るまで続けてるって事は、なんだかんだ気に入ってたのかよ。」
「……前にも同じ事言ったかもしれないけど、この生き方しかよく分からないんだよね。あ、後ろ向きな意味じゃないんだよ?困ってる人のために頑張れるこの冒険者って言うのが私は好きなんだと思う。だから他にやりたい事を探そうってあんまり考えないのかも。」
「他の奴を助ける為に自分が危険を冒すか……」
「でもちゃんとその分の対価は報酬として受け取ってるし、そうしたら私にもやるメリットはあるでしょ?」
どうせ誰も引き受けたがらないような割にも合わないような依頼ばかりを好んで受けているのだろう。目に浮かぶ。
「ライラックのおかげで今の私があるんだよねきっと。そうじゃなかったら私、もしかしたら今もあの場所で一人で暮らしてたかもしれない。」
「それはねえだろ。大人になれば自分がどうしたいかとかもう少し色々考えるようになる。」
「ふふ、でもあの時の私はただひたすらにお父さんとお母さんが戻って来てくれる事だけを考えてた。だから帰って来るための場所は私が守らなくちゃって思ってたんだ。」
オルテナの両親はオルテナが小さい頃に居なくなったと聞いた。ガキの頃は何故なのか、その理由などに気を回す事など無かったが、今考えてみると、恐らく結果は一つだろうと思う。恐らく居た堪れない事情から蒸発してしまったのだ。けれどせめてオルテナだけは巻き込まないようにと置いていった……だとするなら、その二人がどのような末路を辿っているのか想像するのは難しくない。オルテナがいくら待ったとて、きっとその二人は戻って来なかっただろう。
「私、気にしないようにしてたけど、本当は一人で生きていくの心細かったんだと思う。魔物を倒したり困ってる人を助ける事で生きていく為のお金は用意出来たけど……でも、生きていくのに必要なのってそれだけじゃなかったから。」
「他に何が必要だったんだ?」
「……大好きな人達と一緒に居る時間、人の温もり……かな。」
「……」
「怖い時や寂しい時、一人じゃどうしようもない時に誰かが傍に居てくれるの……とっても安心するの。ライラックが……フォニカが……ジハードが……そして、シドが居てくれたから、私独りじゃないんだって。独りの時よりずっとずっと楽しくて……心強いって思えた。みんなと一緒に旅をしていたあの頃が私、大好き。」
「……そいつは、悪い事したな……」
「?どうしてシドが謝るの?」
こうしてオルテナの真意を知った今、俺はまた一つガキだった頃故の俺の罪を知る。オルテナは、あの関係を続けたかったのだ。たとえあの女が居なくなったとしても、その後も4人で旅を続ける事を願っていたに違いない。けれど俺が周りの事などお構いなしに一人抜けていき、ジハードも居なくなった。結果として残ったのはオルテナとフォニカの二人だけ。その事実が、随分と心細い想いにさせてしまったのは間違いない。
「……お前は、俺を恨んだりはしなかったのかよ。」
「?シドを?」
「最初に輪の中から出てったのは俺だ。そんな俺とこうして冒険をするどころか、顔を合わせるのだって嫌だったんじゃねえのか?」
「そっか、そう言う事か……ううん、全然そんな事思わないよ。確かにシドが行っちゃったときは寂しかった……けど、ずっと一緒に旅を続けるなんて、そんなの、子供だからこそのワガママだったんだよ。大きくなって大人になれば色々な目線で物事を見るようになる。やりたい事や行きたいところだって……みんな一緒じゃなくなってくる。シドとジハードは私より大人だったんだよ。だからやりたい事が見つかった。今なら分かるよ。だから恨んだりなんかしない。本当だよ?」
「……」
俺なら、恨むだろう。顔も見たくないだろう。一緒の空間に居たくないだろう。それでも咎められないのは、オルテナが優しいからだ。
「……四方八棒見つからないね。」
「……一応レアアイテムだからな。ここまで探しても無いなら、今の奴からは落ちなかったのかもしれねえ。」
「……じゃあ、次の年齢樹探して、倒そう!」
「……そうだな。」
振り返ろうとも、過去には戻れない。俺達は今の生き方を選んだのだから、この今しか分からない。そしてこの選択がどんな未来に辿り着くのかも分からない。過去も未来も、何なら今でさえ俺達は迷う。これで正しいのか。
……
「さっきより小さいね。」
「デカいのと小さいのだとどっちの方がレアなんだろうな。」
歩き続けて再び出くわした年齢樹だが、つい先ほどの個体より二回りぐらい小さい。かと言ってその分速いわけでも無く、ただ単にスケールダウンしたようにしか見えない。
「いいさ。現れた奴全部倒すだけだ!」
「そだね。ようっし……あちょー!!」
すかさず戦闘モードに切り替えて、難なく俺達は撃破する。
ガサガサ……
「今度は小さいから探すの楽だね。」
「ちょっとだけな。」
落とした枝の数が少ないからそうもなる。そして、見つからない。
「……よし、次探そう!」
「分かった。」
さて、数打てば当たるの法則に基づくなら、なるべくデカい奴を倒した方がたくさん枝が出てくるのだから見つかる可能性が高いと言う事に……?
「なんて事考えてたら大物が出やがったな!!」
これまで出会った3体の中では間違いなく最大の大きさ!これは期待も持てるだろう。
「枝も……これまでよりはずっと固いよ!!あっ……ちょーー!!!」
そうは言ってもバキバキと気味の良い音で破壊していくオルテナ。敵は相変わらず棒立ちのように動かない。
「と、見せかけて……そっちの枝で攻撃しようとしてんのは見えてんだよ!!」
攻撃に転じているオルテナ目がけて鋭利な枝が向かおうとしているのを察し、無論叩き切る!!
「ありがとシド!!」
「分かってたんならもう少し気にする素振りを見せろよ!気がついてないのかと思っただろうが!」
「……シド、私の事助けてくれるって信じてたから!だから私は攻撃に集中したの!」
「……俺がそこまで仲間想いの人間にでも見えてるのか!」
「……昔からそうだった。子供の頃は気が付けなかったけど、私の知らない所でいつも私のフォローしてくれてた。」
「んな事、しちゃいねえよ!」
「……昔より強くなったから分かる事って、あるんだよ。」
「……何を、生意気な!!」
「……あの頃が大好きだったのはもちろん本当。けどね、だからと言って昔に戻りたいって言うのとは違う!あの頃の楽しい想い出を持ったまま……成長した今の私が居るこの世界が……今の私の一番大好きな世界!」
「……!」
何の躊躇いも無く、戦闘中であるともお構いなしにオルテナは俺にそう語って見せた。
「私のせいでフォニカが居なくなっちゃった事はもちろん悲しい……悲しくて……辛い。でも、それだけじゃない。シドとまたこうして出会えて、一緒に冒険出来てる!それは、あの時ずっと一緒に居たら感じられなかった幸せ!」
こいつは、何を言っているのか。
「……この、バカが……」
「シドから見たら当たり前の事に喜びを感じたりしてる私は……バカかも知れない。けど、そんなバカみたいだけど、それが私なんだもん!」
……この世界は、どうにも放っておけない奴ばかりだと再認識してしまう。どうしてこんなバカを一人で放っておけるのか。
「……いい女になりやがってからに!!!」
「え?!」
こんな所でダラダラとくすぶっている場合ではない。俺はさっさと二人を再会させて心行くまで楽しむ時間を味わうべきなのだ!
「真っ二つに……裂けろやぁあああッ!!!」
ちまちまと弱らせていたのがアホらしくなった俺は、頂点から思い切り一刀両断してやった。俺の精神状態が左右していたのか、実に手応えのある会心の一撃だった。
ゴトッ。
「??」
するとどうした事か、何やら重量感のあるものが地面に落ちたような音がした。
「……宝箱……」
気が付けば数秒前には絶対にそこには無かったものが現れていた。
「……って事はまさか……」
……まさかとは思いながらも、俺はそいつに手をかけ、開け放つ。
「……真っ直ぐ一本で先が尖っていて、何に似ているかと言われるとゴボウを一回り小さくしたような感じ……」
……それと相違ない代物と、何やら説明書と思わしき紙が同梱されていた。
「シド……もしかしてその棒が……」
さしものオルテナも興奮気味に駆け寄って来る。
「……宝箱で出てくるならそう言っとけ!!!」
怒る。こんな出現の仕方ならどうしてあんなにも無駄な時間をかけて棒の破片を探していたのか俺達は!
「ま、まぁまぁ……良いじゃない。見つかったんだから。」
「時間を無駄にした事に俺は怒ってんだ!!!うああああッ!!!」
「……ね、ねえそれよりシド、さっき良く聞こえなかったんだけど、いい女ってひょっとして私の……」
「ああああああああッ!!!俺の貴重な時間を返せ!!!!」
「……」
答えたくない質問を自分の大声とショックを装う事でスルーしようとする小賢しい男がここに居た。
だが、何はともあれ探し物は見つかった。後は……結果を覗き見るだけ。
……その結果が、あるいは最悪に繋がる可能性を秘めているとしても。




