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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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戦いの九

「つかぬ事をお聞きしてもいいかしら。」


「?何でしょうか。」


日々ジャスティナさんの下で特訓に励む私、そんな折、訓練中珍しくジャスティナさんから尋ねられた。


「シノは……あの方と交際……しているのかしら?」


「あの方?」


直接的な名前を避けられてしまったので一瞬その人物を見失ってしまったが、普通に考えたら分かる事だった。


「シド様ですか?」


「……ここにいらっしゃらないからあまり言うのも悪いかも知れませんが、どうしてでしょうか。あの方の名前をお呼びするのは何故か抵抗がありますわ。決して悪い人というわけでも無いですし、そこまで不快感があるわけでは無いのです。ただ、何故か……私がその名前を口にする事がどうしてもしっくり来ないような……」


「そ、そんな事も……ありますよ。」


……まさかとは思うけど、前の世界での記憶をそのまま引っ張って来てるとかじゃないだろうな……だとしたらジャスティナさんとシド様の間の関係というのは結構根深い……


「別にプライベートにまで多く干渉しようというわけではありませんわ。あの方はシノにとって良い方だとは思いましたし、そうする事であなたがより良く過ごせるのならば良いと思います。こんな事を聞いたのはどちらかというと……私自身が少し興味があったからです。」


「ジャスティナさんも、好きな人とか居ますか?」


「今のところは……そこまで想えるような方との出会いはありませんわね。そこまで手が回らないというのが正直な所かしら。」


自分に厳しい人だから、あんまり自分の自由を優先させられないのかもしれない。こんな事言っちゃアレだけど、ジハードさんの事とかはどう思ってるんだろう。結構いつも慕ってるし……その気持ちは私がシド様に抱くようなものとは違うのだろうか。


「シノはどうしてあの方と?」


「私とシド様の事を一口でどう説明したらいいのかいつも考えてました。そうしたら結局は、色々助けてもらったからって言葉に落ち着きました。」


危機を助けてもらった、困ってる時助けてもらった。命を救ってもらった。それだけで理由なんて十分過ぎた。初めはもちろん赤の他人から始まり、そこから恩人に、やがては大好きな人へと変わった。


「好きな相手が出来る事で、あなたは心の拠り所を見つけたのかしらね。」


「深く考えた事無いかも知れませんが……何でしょう、辛い時とか、一人で寂しい時、シド様が一緒に居てくれるとホッとします。あ、もちろんシド様じゃなくちゃいけないってわけじゃないんです。ジャスティナさんと居てもホッとするんです。ただ、何でしょうか……シド様は私が思い悩んだり、どうしたらいいか分からない時、いつでも私にとって大切な言葉をくれるんです。そして時には私の為に一生懸命動いてくれる……口では自分の為って言ったりするけど、でもきっと私の為なんです。」


あの人は本当は心優しい人だ。言動がちょっとだけ(?)乱暴だから周りに誤解されるだけ。だって、優しくも無い人がどうして命を賭けてまで私を助けようとなどしてくれるだろうか。自分の事しか考えないならわざわざ危険に首を突っ込む必要なんて無いのだ。


「一人じゃないというのは……見ていて羨ましいと思いますわ。それは決して想い合っている間柄だからというだけではありませんわ。私とあなたがこうして二人で強くなる為の鍛錬が出来るのも、二人だから……一人では出来ない事が二人なら出来る……なんて、分かり切った事を言ってしまいましたわね。」


「でも、大切です。そして……結構忘れがちです。」


傍に人が居る大切さを、私達はいつしか当たり前のように感じてしまう。だから有難みが薄れてしまう。その大切さに気が付けるのは……本当に一人きりになった時だ。その心細さを思い知った時、傍に居てくれた人達の大切さと暖かさに気が付く。


「私にもそこまで信頼し合える相手が、欲しいですわね。」


恋愛、という部分にだけで言うならもしかしたら私の方が一足お先だったり?ただ、ジャスティナさんの場合釣り合う程の相手となるとそうそう居ないのだろうなぁ……


「ズバリ、ジャスティナさんの好みのタイプはどんな人ですか?」


「……私から訓練を脱線させてしまったのですから、答えないわけにはいきませんわね。」


大抵の事柄は即答してくれるジャスティナさんにしては珍しく、口に手を当ててしばらく考え込んでいた。案外自分の好きな人がどんな人なのか考えた事無かったのだろうか。


「……私が持ってない素晴らしい者を持ってる方かしらね。そんな方と一緒ならば、私も新しいものを学ぶ事が出来ますもの。お互いに研鑽し合える間柄だと良いかしら。」


ううむ、やっぱり向上心が高いなぁ……お互いに高め合える間柄か……


「(シド様じゃ……ちょっとそれは難しいのかも。)」


強いて言うなら強さという面だけなら上かも知れないけど、多分それ以外で弾かれるに違いない。逆にジハードさんならそれらの条件をおおよそすべて満たしているように思える。


「ち、ちなみに……じ、ジハードさんとかはジャスティナさんから見て、どうですか……?」


「……あなたも、結構色恋沙汰が好きですのね。」


「女の子なので……」


「……ふふ、そうですわね。たとえどのような身分であれ、恋をする権利は誰にでもありますわね。」


女の子として、聞いて見たくなっちゃう。


「ジハード様は……素敵な方ですわ。私が評価などするのもおこがましい程に、あの方はとても洗練され、そして完成されています。あの年齢であそこまでに行きつくには相当の努力があった事でしょう。尊敬しないはずもありませんわね。」


そこまでべた褒めだったらやっぱりジャスティナさんはジハードさんの事が……


「ですが……私の目から見るジハード様は、何か別の遠い所を見ているように思えますの。」


「遠い所……?」


「上手くは言えませんが、ジハード様はこのヤシャマにおいて英雄と称されるに相応しい地位まで上り詰めました。けれどそれすらまだ、目指す場所の途中のように思えるのですわ。ジハード様にはもっと……私には想像もつかないぐらい高い場所が見えているのかもしれません。だとするなら……私が想いを寄せたとて、その道のりの妨げになってしまうだけですわ。」


「……そういう、ものでしょうか……」


一緒に居る事で力付けてもらえる事もある……でも、ジャスティナさんはあくまで相手の事を想って、自分の想いを秘めている……そういう愛も……


「……ふふ、釣り合いませんわ。私とジハード様では。ですから強さとしての目指すべき目標止まりですわね。今のところ。」


ジハードさん……あんな風に飄々としているけれど、本当のジハードさんはきっと色々な事を考えている。その上でこのヤシャマ帝国で英雄にまでなった。


「(ジハードさんの目的……)」


……そこについて深く触れようと思った事は、あまり無かったな。人類を統一したいって気持ちがあるって事ぐらいは大まかに知ってたけど……じゃあ、何故そうするのかは微妙にあいまいな部分だった。今度、聞いてみてもいいかも……


「……ちなみに、嫌いなタイプとか苦手なタイプとかはあったりしますか?」


「それならありますわね。怠け者の方はあまり好みではありません。」


おっと、好きを語るに比べると実に早い回答。怠け者は好きじゃない……うーん、シド様前途多難。


「でもジャスティナさんぐらい頑張ってる人から見たら、みんな怠けてるように見えちゃったりしませんか?」


「そういう捉え方も出来てしまうかもしれませんわね。では、もう少し細かく言い換えますわ。私が好きで無いのは……努力が出来るのにしない方です。」


「出来るのに……しない人?」


どういう意味だろう。


「人それぞれ力量は違うのですから、私が容易に出来るような事に挑もうとして努力する方を見て滑稽と上から目線で見るという事も出来るかもしれません。ですがそれは心の貧しい方のする事……努力とは、今の自分の力量を越えて鍛錬に勤しむ事……その位置は人それぞれですわ。だから如何なる事柄においてだとしても、努力する方は素敵と思います。私が言いたいのは……努力が出来るだけの余力があるにもかかわらず、何もしようとしない方は……真に怠惰な方だと言う事です。」


……その努力の大小では無く、そもそも努力をしているかどうかを見ているわけか。


「私が好まない言葉が一つ有ります。『やれば、出来る。』」


「……何となく言いたい事が分かった気がします。」


ここで言う所のその言葉は、前向きな意味合いで使うそれとはきっと違う。


その言葉は時に言い訳として使われる場合がある。


出来ないように見えて、やる気になれば出来る……とか、きっとそういう類の事。


「使う人によってこの言葉は良く使う事も……悪く使う事も出来てしまいますわ。努力を惜しまない方にとっては一歩を踏み出す為の背中を押す勇気ある言葉に……怠惰な者にとってはこの言葉は逃げる為の言葉でしかありません。今の現状に立ち向かう事もせず、何の根拠も無い自身だけに縋って自己を保とうとする傍から見ても恥ずかしい行為ですわ。」


自分はやらないだけ。やれば出来る。確かに、これを根拠の無い自信と言わずして何と言うのか。


「たとえ結果実らずとも……努力を重ねた人に叶うはずありませんわ。いくら強かったとしても、そのような心の持ち主の方とは……多分、そりが合いませんわね。そもそもそんな事を考える方はもっと自分を顧みるべきですわね。やれば出来るか、その是非がどうであろうと、今現状で自分は出来ない人間だと判断されているのだという事を……何も無いちっぽけなプライドを誇示して自分を保つぐらいならば、現状を変える為に今からでも遅く無いと努力を始めるべきなのだと……」


……勤勉なジャスティナさんらしい意見だ。何事にも一生懸命にもなれない人を尊敬など出来ないと言う事だろう。一生懸命に頑張り続けるジャスティナさんだからなおの事。


「……シノ、あなたは大丈夫だと思いますけれど、この世界にそう思う方は案外少なくはありません。ですがその人が悪いというよりは……それほど、努力を続けると言う事は難しいのです。道半ばで諦めてしまうように……」


「……」


「……私も、いつそちら側に落ちてしまうかなど想像もつきませんわ。一つの挫折がとんでもない壁となってこれまでの自分を壊してしまうやもしれませんもの……前に進むと言う事は、何にぶつかるか分からない不安定さを受け入れていく事でもあるのです。」


ジャスティナさんでも、そんな不安を抱えているのだ。だとしたらきっと、私が強いと思っている人達みんな……そんな想いを抱えながらも頑張っている。


「強くなるのは実は難しい事ではありません。難しいのは……努力を続けられるかどうか……ただ、その一点だけですわ……」


「……はい。」


その言葉、しっかり肝に銘じるべきだと私は理解する。


たとえ牛歩の様な速度でも進み続ける事で必ず進歩する。そしてどうしても自分が強くなっているかどうかを実感したいと感じるから……ゆっくりだと不安になってしまう。この努力に意味はあるのだろうかと。


そう疑いだしてしまったら……もう、ダメなのかもしれない。やる意味の無い努力を続けても何も変わらないという認識を持ってしまえば……そこで道は閉じる。


「私……ゆっくり、自分のペースでも、歩き続けます。」


ジャスティナさんに見限られたりする事の無いように。何より自分の為に。努力を続ける事の大事さを知り、改めて誓う。


「……シノは素直な子ですわ。その素直さが、あなたをきっと強くしますわね。」


そう言って、優しく頭を撫でてくれた。とても安心してしまう暖かい手だった。


「(いつだって自分に出来る事を精一杯……未来の自分が力無い事に後悔しない為に……!)」

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