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シドとシノの大冒険  作者: レイン
1463/1745

戦いの八

「さぁ、始めるとしましょうか。と言っても……今日の訓練は些かあなたにとっては容易いものかもしれませんね。」


な、何だろう。ハードルを下げられた事で逆に出来なかったら失望されちゃいそうな不安が過ぎる……


「今日の訓練ですが、私とあなたの二人だけではありませんわ。」


「?」


そう言って私の後方を手で指し示すと……


「ジハードさん……!」


「来ーちゃった♪」


あどけなくそう言って首を傾げる姿はちょっと可愛く見えた。


「私がお願いいたしました。お忙しい中この為に時間を割いてくださった事、感謝いたしますわ。」


「僕自身もそのお願い叶えてあげたかったしね、それに……」


その瞳が見るは、私……?


「この間の手合わせを通じて思ったんだよ。ヤシャマから居なくなっちゃう前にもう少しだけシノちゃんの戦いぶりを見て通じて学んでおきたいってね。つまりは興味本位なわけだから、あんまり気にしないでだいじょーぶだよー?」


ジハードさん程の実力者が私から学ぶような事……あるのかな。


「シノ、今日のお相手はジハード様ですわ。」


わざわざ呼んでもらったという事はそういう事、それは大体予想出来ていた。


「そして対峙するのはあなたと……そして、私ですわ。」


「私と……ジャスティナさんで……?」


……それは、予想していなかった。


「私とあなたの二人がかりで、ジハード様と戦う……それが今日のあなたの課題ですわ。」


……ここに来てから、目標を決めるのはさほど苦労しなかった。与えられた課題をクリアする事。常に越えるべき壁は与えられていたから。そして今日与えられたその課題は……これまででも相当に高く思えた。


……


「僕は武器を手放さなければ良い……なるほど、シンプルだね。君と彼女のあの時の勝負と同じルールだ。」


私達がやっている勝負はそんな複雑な物じゃない。ジハードさん程の頭の良さならすぐに十分な理解が出来るだろうし、勝つ為に何が必要なのかもきっと分かっているだろう。


「私達は二人でお相手させていただきますわ。」


「お相手仕るよ。精一杯努めるとしようかなー。」


……このルールを聞いて、ちょっとでも卑怯な感じがすると思ってしまった私は、まだまだ甘かった。


「(私達二人の合計の力ならジハードさんを越えてしまうと考えるからそんな風に思ったのだ。)」


そして、結果はすぐに現実として立ちはだかる。


「あっ……す、すみません……!」


戦力は単純な足し算のようにいかない。


「シノ!個々に攻めるだけではジハード様には届きませんわ!私とジハード様の動きをよく見て……その上であなた自身の動きを選択しなさい!」


むしろやりようによっては引き算にすらなってしまう。


「(動きを……よく見て……!)」


今の私は、戦力の上では、マイナスだ。


「ちなみに、戦闘中にゆっくり相手を観察する時間は無いよー?」


「あっ……!!」


ジハードさんは……強い。あまりにも。そして防御側であるにもかかわらず、人数的には劣勢であるにもかかわらず……お構いなしに攻撃の一手を加えてくる。


「シノちゃん、君は……僕に手加減出来るほどには強くない。そんな君が僕から勝利をもぎ取るには遠慮どころかむしろ逆……相手を傷つけてしまうかもしれない程に踏み込まないと……届きやしないよ?」


「っ……!」


……英雄の壁は、強者の壁はどこまでも厚く高く……遠い……!!


「……って言うのが、今の君一人での力の限界だ。これは訓練だから足らない事を悔やむだけで済む。でももし、これが絶対に負けられない戦いだったら……君は、どうする?自分一人で立ち向かえる術は尽き果てたなら……さぁ、どうする?」


……それは、ほとんど、いいや、完全なる答え。ジハードさんは優しく、私にどうするべきかを指し示す。私だって痛い程もう知ってるはず、私の力は……私だけが持ってる力じゃないと……!!


「……ジャスティナさん……!ジハードさんの左側に回り込んで攻撃をお願いします!」


「「……!」」


自分だけで無理な事を無理矢理やるのは最後の最後、どうしようもない時の手段。けどそれを決断するのはいつだって私。どうしようも無いなんて決めつけてしまうのも……まだやれる事があると決めるのだって私なんだ!


「……承知しましたわ!!」


意思を、呼吸を合わせて……二つの力を合わせて攻め込む事で……力はようやく足し算になれる!


「思いのほか迷わなかったんだねー。」


「私は友達を……大切な人達を信じるんです!!共に戦う仲間として!!」


相手に迷惑をかけるからと思って頼らないで自分一人で何とかしようとしてしまう事……だけど私の周りの人達は優しいからそんな私の遠慮なんてお見通し。だから……体を傷つけさせない代わりに……心を傷つけてしまう。


力になりたいのに……その相手に助けを求めてもらえない事……


それは私がその人達を信じていない事と同じ事、その人達の強さを軽んじている事と同じ事。


「(私が大好きな人達はみんな私より優しく……私よりずっと強い!!)」


私がピンチなんて思う事、へっちゃらに乗り越えられる人達だから!!


「……やぁああッ!!」


私は右側面より!


「……はッ!!!」


ジャスティナさんは左側面より!!


「実に効果的な戦い方だね。そして一人では決して出来ない戦い方だ。」


私がどれだけ頑張ったとて、この攻撃は物理的に不可能な事、私一人じゃ出来ない。


「(二人だから……生み出せる一撃ッ!!)」


とても尊い、感触だった。


「……けど、これで終わっちゃあ、流石に拍子抜けだよねぇッ……?!」


「「!」」


英雄は、まだ、沈まない。


「もうひと足掻き……させてもらうんだよねぇ、これがああッ!!」


ブンッ!!!


「うくっ……?!」


私の手に、凄まじい速度の剣撃、そして衝撃に得物は弾かれ、硬直する。


「……すあぁあッ!!!」


そして抜き放った勢いのまま……向き合うはジャスティナさんの刃、目にも止まらぬ斬撃で回避行動と同時に……


「ッ……!!」


反撃を繰り出すッ!!


キィンッ!!!


勝負を決する一撃だったからこそ、その虚を突かれた攻撃は余りの破壊力を叩き出す。


「流石……ジハード様ですわ……!」


「君達二人のコンビネーションも中々だったよ。真剣だったら……危なかっただろうね。」


少しは近付けかもしれない。だが近付けば近づくほどにジハードさんの強大さを思い知るのだった……


……やがて、訓練を始めてより、2時間経過し、与えられた時間は終わった。


「二人がかりでも……勝てなかった……」


愕然とするには努力も力も、足りなかった。あと少しだとしたら悔しがる資格もあったのだろうが……その差は、到底埋まる程のものでなかった。


「(この課題……とてもじゃないけど、クリアなんて出来ない……ジャスティナさんが言ったような簡単なものじゃ……)」


「合格、ですわね。」


「……え……?」


「だねー、まぁ、シノちゃんならこれは得意な課題だっただろうしね。」


合格……?得意な課題……?


「……あ、あの私……全然勝負になりませんでした……よね……?ジャスティナさんに協力してもらっても全然歯が立たなくて……私、自分の実力……見えて、ませんか……?」


自惚れや過信、逆に過小評価を自分にするつもりは無いが……今の戦いで私は全然届かなかったと自覚している。その判断は、間違っている……?


「いいえ、正しいですわ。今のあなたの力では私と組んだとてジハード様に敵いはしません。」


「そう……ですよね……」


じゃあ、見立ては間違ってない……けれど、じゃあどうして合格……?


「シノちゃんよく分かってないみたいだね。じゃあ、答えは僕の方から教えちゃおうかなー。別に僕に勝つのが今回の課題じゃなかったんだよ?」


「勝つ事が課題じゃなかった……?」


「もしこの段階で勝てたら、それこそもう私の修行など必要ない程の強さですわ。今回シノが達成するべきだったのは……私と共に息を合わせてジハード様に立ち向かう事……協調性を重んじるあなたならば、既に会得しているといました。だからこれは確認の為の課題でした。戦いにおいて忘れてはならない事……」


「……協力して、戦う事……!」


頭の中のモヤが晴れたようだった。私になら出来ると言われた時点で私は思い当たるべきだった。


私の中にある、私を取り囲むとても頼り甲斐のある力……その存在を、私が信じる事が出来るかを問われていたのだと。


「戦いの中であなたは私を一人の仲間と信じ、時に私に指示を出しながら共に戦いました。」


思えば師匠であるジャスティナさんに指示して戦うなんて、失礼なように見えてしまうやもしれない。けれど……


「勝つ為に……全力を尽くした。」


……その時出来る事を、一生懸命に。何度だって繰り返してきた事。生きる事、戦う事、全部全部その言葉に繋がる。


「その心構えがあればあなたはそう簡単に諦めずに立ち向かう事が出来るはずですわ。自分一人で解決しようとするのでは取れる手段はぐっと狭まってしまう。それは未来への可能性を閉ざす事になる……ですが、自分は一人じゃ無い事を自覚した時、あなたの世界は大きく広がりますわ。今の戦いのように……」


……この世界のジャスティナさんは、私の過去をあまり知らないはず。けれどまるで私のこれまでを見てきてくれたかのようにそう語ってくれる。一人で無理矢理頑張ろうとしていた頃の私を知っているかのようだった。その上で、私の成長を認めてくれたように……そう、思えた。


「(今私、嬉しい……成長を認めてもらえる事が、こんなにも胸を暖かくしてくれる……)」


「良い笑顔だねシノちゃん。笑顔がキュートだ。」


「私、笑ってましたか……?」


「今驚いた顔で上書きされちゃったけどねー。」


どうやら笑顔を自覚した時に私はまた無表情に戻ってしまうらしい。


「人との繋がりを大事にするあなたにとってそれを力と自覚する事は大きな進歩ですわ。これからも磨き続けなさい。そして大切になさい。あなたが作り上げてきた絆を。」


「……はい!」


いつにも増して前向きな気持ちで一際大きな声で返事を返す。今の私にはそれが出来た。笑顔だったって言うのも、きっとそんな心の表れだったんだろう。


……


「あの、今日は私が晩御飯を作らせてもらえませんか?」


「?シノが?」


ささやかなお返しの意味で、そんな提案をしてみた。なので今日の晩御飯は私特製のハンバーグ、後野菜を少々とコーンスープと致してみた。


「(一応栄養の偏りは無いはず……疲れた体にはこれぐらいで良いはず……)」


いつもよりは少しバランスを考えて作ってみたつもり……


「頂きますわ。」


「い、頂きます。」


そして気が付けば二人で料理に向かっている。とても緊張する。下手したらシド様に食べてもらうより緊張するかも……


「(ぱくり。)」


いきなりメインのハンバーグ……!これがダメだと今日の夕食が全部台無しだ……


「お、お口に合いますか……?(恐る恐る)」


「……濃い味付けですわね。」


「あふぅっ……!」


第一声で失敗を悟る。あうぅぅ……シド様はいつもこれで喜んでくれるけど……やっぱりそう上手くは……


「……疲れている時は、これぐらいがちょうど良いかもしれませんわね。」


も、物凄く気を遣わせている気がする……


「ぐすぐす……」


「……ふふ、申し訳ありませんわね。つい意地悪をしてしまいましたわ。」


「意地悪ですか……?」


そう言うと再びハンバーグを一口大にして口へ運ぶ。


「とても美味しいですわ。シノは、料理の才能もありますのね。」


そして私に笑顔を向けてくれた。それが嘘とは……思えなかった。そもそもジャスティナさんは気休めやその場限りの嘘を言う人じゃ無い。じゃあ……


「ほ、本当に美味しいですか?無理させてませんか……?」


「あなた自身はどう思っていますの?まさか自分が食べて美味しいと思わない料理を私に出している自覚が?


「そ、そんな事はありません……私も何度も味見して、美味しいと思いました……」


けど、その美味しいがジャスティナさんにも通じるかは、ずっと自信が無かった。


「だったらもっと自分を信じなさい。この料理はとても美味しいですわ。疲れた体にとても良くエネルギーを補充する事やバランスも良く考えられている……料理に関して人様にとやかく言える程の腕前ではありませんが、十分合格ですわ。この腕前だったら私が教えを授からなければなりませんわね。」


「そ、そんな事ないです。それは流石におだてすぎです……」


「もしシノが嫌でなければ、これからもお願いしても良いかしら?」


「!ぜひ、ぜひ作らせてください!」


どんな形でも恩を返すべきと思っていた私にそのお願いは、渡りに船と言わんばかりだった。


「今日は日に2つも合格してしまいましたわね。」


「(自分で決めた目標以上の事を出来た日は……その人への感謝の気持ちで返す事にしよう。そうしよう。)」


今日こんなにも満たされた気分でいられるのはジャスティナさんとジハードさんのおかげだ。


「(ぱくりぱくり。)」


そして多めに作ってしまったばかりに余ってしまうかと思ったハンバーグをジャスティナさんがお代わりしてくれた事で、戦い以外でのちょっとした部分にもちょっとだけ自信を持つことが出来た1日だった。

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