10年前に消えた少女の行方
「ねえシド、もうちょっとしたらヤシャマ帝国に行くって言ってたよね。」
「ああ、言ったな。」
「そしたら、もうちょっと自由な時間があるって事だよね。」
オルテナは決意を秘めたような目で俺に問いかけた。いいや、既に彼女はとうの昔に決意など終えていた。だからこそ、10年と言う歳月をたった一人を探すために費やす事をした。
「フォニカの事……探したい。私一人じゃなく、今度は……シドの力も借りて。」
たった一人で戦い続けた彼女はもう、一人ではない選択をする事が出来る。一人なんて殺風景、こいつには不似合いだし、もう十分だ。お釣りが来ていい。
「いいだろう。俺から言い出した事だ。」
俺という超究極冒険者の手を借りる程度には。
「とっとと見つけ出してやろうじゃねえか、あの大人しいくせに言う事ははっきり言うガキだったあいつが今どんな姿になってるのか俺も興味がある。」
「……シドらしい。」
再会を果たしたいなんて感傷的な理由じゃなくていい。ただ可愛い奴の顔を拝んでおきたい。俺の知らない美人が居るなんて嫌だ。それで理由には事足りる。
「よし、いっちょ探すとするか。」
オルテナの成長ぶりを見るに、どうやらガキながらも俺の見る目は確かだった。二人とも美人に成長するであろう資質は見えに見えていた。活発な元気娘は少々方向性を変えながらも男前な美人(褒め言葉)に育った。そうなると儚げな魔法少女は……どう育つのやら。こればっかりは予想よりも見るが早い。
「まずはラミのところに聞きに行ってみるとするか。」
「ラミさん?何か知ってるの?」
「それを確かめに行くんだよ。まぁ見てろ。俺の頭脳はお前の想像を超える。」
この世界中を探すのに走り回るのは言っちゃ悪いが無謀だ。人探しは情報が物を言う。居る場所を特定出来れば探す労力は格段に軽減出来る。
「(オルテナに良いところを見せて、あわよくばこいつの評価も爆上げしてやる。名付けてダブルアップ作戦!)」
どうもオルテナはガキの頃の俺をいまだに引きずっているようで良くも悪くもガキだと思われている。けれど俺は年齢を重ねる事で卓越した知識と経験と力を得た。そいつをこれでもかと見せてやればちっとは俺の凄さを分かるだろう。
「(そのうちこいつの方から抱いて!とかいわれるかもしれん。そうなれば可愛がってやろう!はっはっは!!)」
「(シドが昔みたいな顔してる。この顔の時はいつもスケベな事考えてたなぁ……)」
さて、色々な客と会話を交わしている情報通であろうラミにフォニカの事を尋ねよう。
「おい、ちょっといいか。」
「依頼?」
「違う。人探しだ。個人的な要件でのな。」
「女の子でしょ。」
鋭い。だが、所詮二択。驚く事でもない。
「アンタが個人的に男の人を探すわけないし。」
……一択か。まぁ的を得ている。
「ラミさん……私、フォニカって娘を探しているんです。小さい頃に別れちゃった……私の親友を。」
「……そのフォニカって子を、ずっと探していたの?」
「しかももう探し始めて10年にもなっちまう。」
「……」
オルテナは小さく頷く。その事実を聞いたラミは、流石に悲しい目をしてオルテナを見る。若い女が10年という貴重な時間を人探しに費やし続けた事を思えば、ラミならば心を痛める事は分かり切った事。
「……探してあげたいわね、でも、10年探したのなら、それこそ世界中を巡ったんじゃないの?」
「探しました……ラズリードもゴーバスも……ヤシャマもガエインも……アンフォームもクノッサルも……サッコロもウズックも……全部全部……でも、それでも手がかり一つ……見つけられませんでした……」
「……一人なんかで探すからだ。このバカ……」
探せど探せど何も痕跡さえ辿れない現実がどれ程オルテナを苦しめ続けた事だろうか。それを一人で抱えるなど……もう無意味を通り越して害でしか無い。その呪縛から解き放つにはもう、この人探しを完結させるしか無い。
「……こいつじゃないけど、そうね。人探しなら大勢の方が良いわ。もしかしたら旅先でその人が出会う事があるかもしれない。その時あなたがその子を探している事を知っているかそうで無いかだけで……距離はグッと縮まるはず。」
「……私、一人で探し続ける事が私への罰だと思ってました……でも、そうじゃないってシドが私に教えてくれた……だから私、ラミさんが今言ってくれたように、沢山の人に頼ります。そしてフォニカと出逢えたその時に……きっと皆さんに感謝を言って回ります。そう、決めました。」
「……悩み続けたのね。でももう、良いと思うわ。今回はばかりは珍しくそいつの言ってる事が正しい。苦しみを背負う罪だとしても……きっとあなたが背負うべきそれがあるとするならそれはまだ先の話よ。今はとにかく再会する事だけを考えるといいわ。」
「……はい!」
俺が説得した事をラミが横から手柄を横取りしていった。こいつは実にこういう真似が得意だ。そして俺と違って信頼されるのだ。俺の立場はどこにある。
「褒めてあげてるんじゃない。珍しく女の子の力になってあげた事を。」
「……とりあえずお前が何か知ってるんじゃ無いかと思って聞いたんだが、今の感じだと、フォニカって名前に聞き覚えは無いようだな……」
もし人探しをしている事を知り、そいつの名前がフォニカだと知って、何かしら知っていればとっくに話しているだろう。それが無い以上は、そういう事になる。
「……私も職業柄、色々な話を聞く事はあるわ。けれど、それでも話したく無いようなプライベートな事はきっと誰にも話さない。私の知っている事はある程度知られても良いような当たり障りの無い話が殆どだと思うわ。だから直接あまり協力出来る事は無いかもしれないわね……せいぜい、今後来る人達にちょっとフォニカって子の事を尋ねるぐらいね……」
「そうしてもらえるだけでとってもありがたいです。多くの人と関わる機会の多いラミさんなら……それだけで私が探した10年以上の価値がきっとあります。」
「……あなたがそうまでして探し続けた以上、そう簡単に見つかるような場所には居ないかもしれないわよね……それこそ、人の出入りが多いような場所には居ないんじゃないかしら……」
「私もそう思って……フォニカも私達と同じ冒険者だったから、森や洞窟……火山や雪山、色々なところを回りました。」
「女一人で何を無茶な事を……んなところでピンチになっても誰も助けに来ねえぞ。」
「……そうね、もしも探すにしても、こいつみたいにただ強いだけの奴を一緒に連れて行った方がいいわ。今度から力が必要な時は言ってちょうだい。こいつを派遣するから。」
「おい、なんで俺の所在をお前が勝手に操作するんだ。」
「オルテナに協力しなかったら世界中全ての依頼所の使用を禁止するわ。」
……どんな権限があるというのだこの女。間違いなく冗談のはずだが……万一本当だったらと思うと本当に恐ろしい。
「……どこにも居ない……誰も知らない……フォニカ、どこに行っちゃったんだろう……」
「……なぁラミ、突然人が居なくなっちまうって話、聞いた事あるか?」
「人が突然?」
「フォニカが居なくなっちまった時、そうだったらしい。一緒に歩いてたら忽然と姿を消しちまったんだと……」
「……」
それを聞いて、神妙な顔で何やら考える。
「……信じて、もらえないかもしれませんけど本当なんです……」
「疑わないわ。疑うつもりならここまで首を突っ込まない。そしてあなたを見ていればどれだけ本気でその子を探しているのかも伝わる。10年探し続けたのだって、ただ片手間に探していたわけじゃなく、それこそ……自分の全てを投げ打ってでも探していた……それだけ大切な人だったんでしょう……?」
「……小さい頃の私は一人でした、同じような歳の友達も居なくて……遊んだり誰かに甘えたり、そんな事を考える事より、ただ毎日をどう生きるか考える日々でした……そんな私を孤独から救い上げてくれたのがここに居るシドやライラック達でした。」
「へぇ?あんた子供の頃は組んで旅してたの。意外だわ。」
「無理やり連れ回されてただけの黒歴史だ。」
「……フォニカは冒険者としても、友達としても私にとって大切でした。たとえ大人になっても、二人一緒でありたいって……そんなあの娘を私は守ると誓っておきながら……っ……」
「……」
こうして自分を苛む苦しみを10年、勘弁してほしい。見てるこっちが痛ましい。
「……急に人が消える原因、一番多いのは、人攫いでしょうね……あまり言いたくは無いけれど、そうなったらその子は最悪の場合もう……」
考えたくもない最悪のパターン、既に何かしらの原因でこの世に居ないのでは無いか……10年という時間はそれを十分現実味のあるものへ変えるに十分すぎる時間。
「考えたく無かった……でも、その可能性も……きっとあるんだと思います。そしてもしそれが本当だったら私は……私はッ……!」
想像だけでこの取り乱しよう、実際に起こってしまったら最悪こいつは自分の命さえ断つかもしれない。それぐらいの悲しみだ。
「……オルテナ、俺は探すといった以上、全力で探す。けど、ハナからそれが無かったら……捜索に何の意味もねえ。いくら俺でも存在しない物を探す事は出来ねえ。」
「……」
俺の言葉を否定したいだろう。フォニカが既にこの世に居ないなど、俺もこいつも考えたくなど無い。
けれど、現実は俺達の意思などお構いなしに好き勝手巻き起こる。
だから、俺達はしっかりとこの目で、自分達の目で見て、聞いて、そして確認しなければならない。
「……あいつがどこに居るかよりも先に、あいつがしっかりこの空の下に居るのかを確かめるのが先だ。」
「シド……」
それは50%の博打。けれど結果は早い方が良い。ダメならスパッと諦めがつくし、居るなら希望が見える。もっともそれは俺のように淡白に切り捨てられる人間の場合に限る。オルテナにとってその二つの答えはまさしく……生か死だ。
「……そうする事が、正しいってシドは……思うんだよね……」
「……」
「……分かってる、ううん、分からなくちゃいけない事だったのに、分からないフリをしようとしてた……フォニカを見つけたいのに私、ワザとやらなくちゃいけない事から避けてた……真実を知るのが怖いから……それを知った私が、どうなっちゃうのか……何もかも怖かった……」
「……もう、一人じゃねえ。俺が居る。たとえどんな結果が出ても……お前一人で抱える必要は無くなった。」
……悲しみの総量を分ける事は出来ない。100の悲しみを2人で分けるでなく、2人に100の苦しみが降りかかる。そうと知りながら俺は、気休めの言葉を吐く。だが俺は、最悪の結果が出るなんて思っていない。
「……俺の勘はよく当たる、お前も知ってるよな。」
「……たまに、外れちゃう。」
「あいつは生きてる。いいや、違うな。あいつが死ぬとは思えない。あいつは俺達と一緒に冒険していた奴だ。中途半端な実力でそんな事出来るはずがない。あの場で、あの女の元で戦い抜いてきた奴らは今この世界で3人とも平気で生きている。だったら……残りの一人だって生きてるに決まってる。」
……なんという、無理やりな根拠だ。こんなんで納得出来るなら、誰が苦労するというのか。苦し紛れの口からでまかせも甚だしい……
「シド……もし、もし……フォニカがもう……居なかったら……それはきっと私のせいだと思う……ううん、私のせい……だから、その時はシド……私の事を……」
「出ない結果の先を決めても仕方ねえだろ。これは確認作業だ。とっとと終わらせてさっさと探す。それしか俺は認めねえ。」
「シド……」
……どんな結果が出たとしても、そのせいでオルテナを死なせるなど……そんな事俺が許せるはずも無い。納得など、出来やしない。
だから俺は俺のために、ただ俺のためだけにあいつが生存する証拠を探す。




