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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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戦いの七

「流石に無視出来る存在では無くなってきたようだ。」


彼は皇帝。比喩でも何でもなく国家の頂点。そんな彼から見て民の一人一人は有象無象では無く、個。そんな中でも一際異彩を放つ者達、その者達はこのヤシャマにて彼の為に力を振るう。


「ヤシャマ軍の兵の者達にも良い影響を与えているともっぱらの噂です。どうやら、ジャスティナ将軍の目は極めて正しかったという事のようです。」


「優れた者は優れた者を見出す目に長けており……そして、優れた者の元には優れた者が集う。我の元に有能な者達が集うのと同じ事だ。」


シノはその短い時間にて力を手にしつつあった。そしてその力に惹かれ興味を抱く者達、それは一兵士のみならず、一国の皇帝であろうとも同じ事。冒険者シノは、確かに彼の目に認識されつつあった。


「ゆくゆくは我らヤシャマの優秀な戦力の一つと数えられるにまで至るやもしれません。不肖ながら、心が躍る心境です。」


ジャスティナの元で修業を受けると言う事、それが近い将来でヤシャマの力となるのだと想像するのは難しくなく、むしろ当然の成り行きと言い換える事すら出来ただろう。


「(……だが、果たしてそう都合よく事が運ぶものだろうか。)」


しかし彼の目には、何故かその人物がヤシャマの国を背負って戦うイメージが湧かなかった。


人より未来を視る力に長けているが故に、見えない未来は……早々起こりえないとこれまでの経験から知る。


「(……一つ、こちらから出向いて顔を見せる事も考えてみるべきかもしれない。直接この目で見て……自らの意志で感じ、見定めるべきか……その力とその魅力が本物であるかどうか。)」


……シノは図らずとも、皇帝へと近づきつつあった。


……


「嬢ちゃん強えな。一体どこで鍛えたんだ。」


「あふぅあふぅ。」


今日も今日とてご厚意で兵士さん達と手合わせさせてもらっている最中、そんな事を尋ねられた。どこで鍛えたと問われても、それを一口に少々難しかったので可愛い奇声を発する事で返事と返させてもらった。これでまた私を変人と認識する人が増えた。


「ヤシャマじゃ強い奴は大歓迎だ。これからが楽しみだぜ、手合わせしてくれてありがとうよ。」


「あふ……」


……薄々感じてはいた。恐らくこの人達は、私がヤシャマの軍で働く為にジャスティナさんの下で修業していると思っている。普通そう考える。


けれど私は……


……


「シノ、あなたは既に以前より一段と強くなりましたわ。数日で目覚ましい成長ぶりを見るのは悪く無いものですわね。ましてやそれが私の弟子なら……」


「指導の賜物です。」


「しっかりとした言葉を返せるなら……この段階で私はあなたの成長を認めましょう。力も心も以前より成長したと。」


認めてもらえた。そして、ならば……


「そして……更なる上の段階へと上るべく、次なる試練を課しましょう。」


「……はい。」


……そういう話だ。たとえ成長の兆しが見えようと、それはゴールには程遠い。


「シノ、今度はこれまでとは逆の立場で私を倒して見せなさい。」


「と、言いますと……」


「これまで毎日やって来た10戦勝負……常に攻め手は私でしたわ。今度はあなたが攻め手……1分以内に私の手から武器を手放させるのです。」


……守りの練習から一転、今度は攻めの鍛錬と言う事だ。そして勝負とは勝つ事が要。ただ耐え忍ぶだけでは勝機は舞い降りない。


「……分かりました。よろしくお願いします。」


今までジャスティナさんがそうしていたように、今度は私が一気呵成に攻め込む側へと立つ。


「……やぁあッ!!」


まず、先制の一撃。


「……なるほど、どうやら、流石にこの辺りはまだまだですわね。」


「……!」


驚いた様子など一つも見せず、落ち着いた動作ですんなりと私の攻撃はかわされてしまう。


「私から一勝をもぎ取るより、まずは私と剣を交える所から始めなさい。今のままでは流石に遠すぎますわ。」


「……くっ……たぁッ!!」


決して焦っているつもりは無い。むしろ制限時間など関係無く私は私の思うまま攻める事が出来ている。けれどジャスティナさんへの刃は言葉通り遠く、気が付けばあっと言う間に1分を経過してしまう。


「そ、そんな……」


「攻める側になって分かる事もあるでしょう。必ずしも優位なものでは無いと。」


「……」


この状況は思いのほか険しいものだった。思えばたった1分で勝負を付ける事が出来るなんてそんなの誰もが想像する理想的展開だし、それが出来るのは相当の実力がある事の証だ。ましてやこの勝負、受け手は相手の思惑がおおよそ読めているのだから……なおの事厳しい。完全に守りに徹された相手の防御を崩して武器を手放させるなんて……今の私にはその手立てが思いつかない……!


「さぁ、第2戦の始まりですわよ。たとえ1秒たりとも無駄な時間はありませんわ。」


「……ッ……!」


……攻める、攻める!!


「(まず、一発……一発を当ててジャスティナさんの牙城を崩さないと……!!)」


だが、だがしかし、ジャスティナさんは刀の鞘に手をかける事すらしない。ただ華麗な身のこなしで私の攻撃を完全に見切りながら回避を続けるのみ。


「(どうして……これまでと違って全然手ごたえを感じる事が出来ない……!まったく攻撃が当たる気がしない……)」


やがて、またも1分経過してしまう。


「……はぁっ……」


「糸口は見つけられないようですわね。」


私ばかり息を切らせてしまう。足りないものがあるから、私には何も見えず、ただガムシャラに向かって行くしか出来ない。


「……シノ、あなたは誰と戦っていますの?」


「……誰と……?」


「今一度理解なさい。そして、自分に問いかけなさい。そして、答えを出しなさい。あなたの答えを。」


「……」


……その言葉の意味も分からず、まるで漫然と戦いを続け、気が付けば残り2戦を残すのみ……この戦いで少しでも何かを掴み取る事が叶わなければ私は今日、何も学べていない事になる……


「(そんなの嫌だ……短い時間の中で、無駄な日なんてあっちゃいけない……だけど、どうしたらいいのか……分からない。)」


「……あなたがどうしても答えに迷ってしまうのならば、答えを教えてあげますわ。」


……余りにも見かねてか、間接的で無く、直接的な方法で私にそれを授けてくれようとするジャスティナさん。その心遣いに胸が熱くなる。


「……それをしたら……私は……今日までの私の頑張りを……無駄にしてしまうような気がします……」


「……」


「だから……まだ……まだ頑張りますッ!!」


……教えてもらえなければ答えに辿り着けないのでは、前の私と変わらない。ジャスティナさんの弟子を名乗り、強くなる為の努力を惜しまないというのなら……私はあくまで私自身の力で辿り着かなくちゃいけない。


「それでこそ、私の弟子ですわ。ならば残り2戦……あなたの全力を以て来なさい!」


例え結果が伴わずとも、私の答えに笑顔で受けてくれるジャスティナさんを見て、私の選択が間違いでない事を悟る。


「(……結果を、出したい。気持ちだけでなく、昨日の私より今日の私が強くなれたという目で見える確かな結果を……!!)」


……想いだけじゃなく、力にしたい。


それを求めて私はここに来た。


ただ普通に生きるだけではたどり着けない。


全力で今を生きる事でようやく手が届くその強さに……


「……全……力……?」


「……?」


ふと、自分の口からポツリと零れたその言葉に、私はふと、立ち止まる。そう、ふと、考える。ふと、思い悩む。


「(……私、本当に全力で戦ってる……?)」


……ふと、思い当たる。そしてその問いは、たとえこの1分という時間を割いてでも考えるべき命題。


「(……違う、これは私の全力なんかじゃない……)」


……これが答えだと、私は信じる。ここまでの8戦、私は戦っているようで、実は真に戦いに向き合っていなかった。


「……すぅー……」


大きく息を吸う。そして息を整え……


「……はぁあああッ!!!」


立ち向かう。私の目の前に立ちはだかる人に向けて。


「……!」


やる事は変わらない。得物を振り上げ、そして力を込めて振り下ろす。


「……ふっ!!!」


しかし、ジャスティナさんの応手はこれまでのそれと異なる。


キィンッ!!!!


高い金属音、それは互いの得物同士がぶつかり合った音。


「……ようやく、私を見据えましたわね。」


「随分、かかってしまいました……でも、もう、迷いません。」


鍔迫り合うその中、私は自らの辿り着いた答えが正しかった事を確信した。


「(ようやく分かった。どうして私の攻撃が届きもしなかったのか。それはきっと心の中で私がジャスティナさんに手加減をしていたからだ……!)」


もちろん力が勝っているからの手加減では無い。むしろ真逆、私の方が劣っているのにも関わらずしてしまうそれは、当然勝利から遠のく行為。何故私がそんな愚かな事をしてしまったのか。それはジャスティナさんが刃に手をかけていなかったからだった。


「(無防備な所に私の攻撃が当たってしまってはジャスティナさんに怪我をさせるかもしれないという気持ちがきっとあったから……そのせいで私は私の攻撃を自ら抑制してしまった……!)」


けれどそんな気持ち完全に見当違い。ジャスティナさんは現状では私の攻撃など届かないと完全に見切っているからこそ、刀に手をかけていなかっただけ。私がしっかり届けられるだけの攻撃を放てると判断した時には当然刃を抜くのだ。今のように。


「(誰と戦っているのか……まさしくその通り、私が今対峙している相手が誰だと思っているんだ。)」


私の尊敬する師匠である。私よりずっと強い人である。そんな人が私の一手を読めずに無防備な一撃を受けてしまうと?


「(それは私の目が曇っているだけでなく、師匠であるジャスティナさんを自ら侮辱しているのと変わらない!!)」


私はただ自分の持ち得る全力で最初からぶつかっていれば良かったのだ。遠慮や気遣いなど……強くなるために必要無い!!


「(私がどれだけ全力で立ち向かおうと、ジャスティナさんはきっとそれを越えてくる!だから何も恐れる必要は無い!!常に全力で……誰が相手であろうと!!)」


「……たぁあッ!!!!」


「……!!」


迷い無き一撃を、それを会心の一撃と自覚出来る程の一撃を……私は渾身の力で放ち……ジャスティナさんの顔が驚きに変化するのをしっかり見届けた。


……カァン……!


やがて遠くへと、得物は落ちていった。持ち主の手を離れて……刃は地に落ちた。


「まったくあなたという人は……新たな課題を出しても今日の内に超えてしまうなんて……」


「でも、遅くなってしまいました……」


本当は1戦目からそうぶつかるべきだった。気が付くのが遅かったのは、まだまだ私が未熟だったから。


「……私が思ったより、ずっと早いですわ。そして今よりあなたは真に私に向き合うに相応しい姿となりました。」


強い相手に、尊敬する相手に、手加減など不要。全力を出し尽くす事が礼儀。


「今日の成果としてはこれで十分。明日は、全勝を目指しなさい。常に昨日の自分を超える事。昨日とは違う自分になる事。常に心掛けなさい。そして相手にかけるのは手加減や気休めでは無く、全力であると心に誓いなさい。」


……戦いに臨む者として、その心構えを説かれる。


「(勝者には勝者の振る舞いがあると、分かっていたつもりだけど、もう少し理解が必要だったようだ。)」


戦う相手の事をも考えられるぐらいの力を持つ力。相手に情けをかけるでは無く、それとは違う方法で相手を救う力を持つ私になる。


「……最後のもう1戦、絶対、勝ちます。」


「それでこそ、望むところですわ。」


にこやかに、そうあるべき事が正しいのだと言うように私に微笑みかけるジャスティナさん。


……そして、残り数秒というギリギリではあったものの、私は偉そうに言った言葉をどうにか実現する事が出来た。

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