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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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見渡す景色は

「オルテナも一緒に冒険行かない?」


「私も、一緒に行って良いの?」


「居てくれた方が私も楽しいしさ。予定とかあるならしょうがないけど。」


「ううん、大丈夫だよ。それじゃあ一緒について行かせてもらおうかな。」


「やったぜぃ!」


エルとケイは手を叩いて喜び合っている。とても微笑ましい。オルテナもどこか困惑しつつも、二人の明るさに既に心許しているのか快く承諾する。元来人助けを好む性格上、余程の事が無い限りはそうなって当たり前だろう。


「魔物退治なんだけど、大丈夫?」


「むしろ私魔物退治ぐらいしか得意な事、あんまり無いから。それでお手伝い出来るなら喜んで。」


その謙虚な性格と整った容姿、女性とも男性とも取れ、そのどちらにしても上等に位置するであろう人間的魅力。子供の頃のあのおてんば娘が嘘のようだった。


「オルテナと一緒だとデートか何かと勘違いされたりしないかなぁ。」


「冒険者じゃなくてカップルと思われるかも!」


「それじゃあエスコートさせてもらおうかな、なーんて。」


……冗談も言い合える間柄の友人が増えて何よりだ。3人は意気揚々と依頼所を後にした。


「シドさんは一緒に行かなくて良かったんですか~?」


「女同士の方が良い時もあるだろうよ。」


「オルテナさん出て行く時チラッとシドさんの方見てましたよ~?」


「……良いんだよ。それにあいつらならオルテナと仲良くやれるさ。」


オルテナだってガキじゃない。今は昔の知り合いである俺が近くに居るからついついそっちに距離を置きがちだが、やがてそれより近しい現在の友人が出来ればそちらと積極的に絡むようになるだろう。そうなれば俺にそこまで引っ付く必要もあるまい。


「長い間一人で旅してたみたいだからな……これからはその空白の時間を埋めてもらった方が良い。」


「シドさんにあんな綺麗でカッコいい知り合いの女性が居るなんて知りませんでした~。」


「俺だってああなってるとは知らなかったさ。ガキの頃はただやんちゃな普通のガキだったしな。」


「女の子はしばらく見ない内に変わるものですよね~。」


それも、自由なものだ。


「っかし、この依頼所も随分と女っ気が多くなって来たもんだな。」


俺の記憶違いか、前はこんなにも女の出入りは多く無かった気がする……だからと言って決して荒くれ共が溜まっている無法地帯というわけでも無かったが……


「実際そうだと思いますよ~。ここ半年ぐらいでとっても賑やかになりましたよね~。」


女冒険者の出入りなんて昔じゃ数える程度しか無かったようなものが、今では中々の割合で見られる。


「ちょっと前はただの依頼所って感じでしたけど、今は喫茶店兼依頼所って感じですよね~。のんびりくつろぐ人達の数も増えてますし~。」


思えば今テーブルの上に置かれているメニューだってこんな華やかでより取り見取りでは無かった気がする。飲み物がいくつか並んでいるぐらいの言ってしまえば簡素なものだった。


「シーデルさん達とリラクラルさんみたいなウエイトレスさんが居るから配膳も手が回るし、ルーチェさんのような料理人さんが居てくれるから手の込んだものも出せるんですよね~。ラミさんもとっても今の状況を喜んでたんですよ~。」


「増築だとかってのもその辺の絡みがあるのか?」


「ゆくゆくはもっと広くしたいって言ってましたよ~。」


名オーナーとでも言えば良いのか。実際に実績をあげているなら事実その通りなのだろう。


「戦いの世界はいつも厳しくて油断の一つが命取りになっちゃうから、せめてこの場所だけは何も考えず安心してくつろげるような空間にって……ラミさん素敵ですよね~。」


「それを望む奴らが居て、こうして賑わってるなら、そうだな。」


見渡す限り広がる団欒とした空間。店の人間も客も皆、リラックスしている。そこの間に距離感はほとんど感じられない。


……けれど、明るい場所になればなるほど、何となく俺が居るべき場所で無いように感じて来てしまうのは、俺が偏屈だからだろうか。


「シドさんも居て良いんですよ~?」


「……読むなよ、心を。」


相手の表情で思っている事を何となく読み取れるとか前に冗談めかしで言っていたが、得体の知れないセリアの事なので案外ガチかもしれない。


「必ずしも触れ合う必要は無いですし、それこそ自分の好きな事をしているだけでも良いじゃないですか~。この場所はそれが許される空間ですから~。もちろん人に迷惑かけちゃうような事はダメですけど……一人でくつろぐのも、また自由だと思いますよ~?」


……優しく丁寧に諭されるなんて経験も、ここ最近の事だろう。勘違いでも何でもなく、俺はラミやセリアには好かれていなかった。まぁ、それは今もか。


「いつからこうなり始めたんだろうな……」


「う~ん、多分ですけど、シノさんが来た頃からだと思いますよ~?」


「あいつが来た頃から……」


「今この依頼所に居る人達を見渡してみると、大体何かしらの形でシノさんに繋がってると思いませんか~?」


「……」


パッと、辺りを見回す。


「この間は……お菓子あり……がとう……美味し……かった……わ……」


「!!リラクラルちゃんが私のあげたお菓子を食べてくれた!?(バタン!)←ショックで椅子から転げ落ちた音。」


「わ、私のお菓子は?!私のお菓子も食べてくれた!?」


「(こくこく。)」


「今度もっと美味しいお菓子買って来るから!!もっとオシャレで可愛くて綺麗なお菓子!」


「そこまで気を……遣わなくても……いい、わ……でも……あ……あ……あり……がと……う……」


「「!!!」」


「リラクラルちゃんに……二度もありがとうって言ってもらえる日が来るなんて……!今日は死んでもいい日?今日が私達の人生の頂点?!」


「(……飛んでるな。)」


リラクラルをとっ捕まえてはしゃいでいる女達、言うまでも無くリラクラル目当てで来ている。そのリラクラルをここに連れて来たのはシノ……


「シーデルさんこの間教えてもらった場所行ってみましたよ。中々落ち着いた良い場所でした。」


「自然が溢れていて昔はあの場所で寝転がったりしてやした。」


「魔物達が闊歩してる中にもあんな場所があるなんて全然知りませんでした。流石シーデルさん……あ、すみません……昔の事をあまり思い出したくないのに俺ってばつい……」


「……喜んでもらえたなら、昔の経験も無駄にはならなかったって事でさぁ。だから気にしないでくだせぇ。」


どうやら旅先でおすすめのスポットを教えていたらしく、それについて礼を言われていた。そんなシーデルがここで働くようにラミに声掛けしたのはシノ……


「……そうだな。確かにどこかしらかであいつに行きつく気がする。」


そういう意味では良い客引きの招き猫的な存在だったのかもしれない。


「そして、シノさんに繋がるって事は……シドさんに繋がるって事でもあるんですよ~?」


「俺に……?」


……そう、なのだろうか。


「二人が揃っているから、色んな出会いがあるんですよきっと。シノさんにはシノさんと合う知り合いが、シドさんにはシドさんと合う知り合いが居て、その知り合い同士がまた繋がっていく。知らない人同士でも知ってる人を挟めば知り合いになれちゃうんですから~。」


……友達の友達という奴だろう。ただ、俺に友は居ない。


「今のシドさん、良いと思いますよ~?昔は触れようとするといやらしい目で見るか……誰も触れさせないような冷たい目をするか……どっちかでしたから~。」


「……正直な感想、ありがとうよ。」


自分に余裕があれば口説くだろうし、イライラしてたり気に食わない事があれば、誰とも触れたくないと思うだろう。それは確かにかつての俺だ。いつからそうで無くなったのか、もう考えるまでも無い。あいつと出会ってからだ。


「ちっ……ちょっと依頼を受けてくる。」


「冒険、ですか~?」


「この場所はずっと居るには、やはり暖か過ぎる。」


「分かりました~、お気をつけて~。」


……ったく、何ともはやって奴だ。


……


実に適当な依頼を受けて、とある山にやって来た。大した敵が出るわけでも無さそうなので、名前を覚える必要も無いと判断する。


「切れ味が落ちないってのは、良いもんだ。」


ポツリとそう呟いて、並み居る魔物共をばっさばっさと気持ちよく斬り殺していく。


「(市販じゃない普通の剣はこういうところも便利だよな。)」


何かしらの加護を受けていたりする希少価値の高い剣というのは威力も高いが、耐久力も高いのがミソであった。普通の剣なら段々と傷がついて行き最終的にはポッキリと刃が折れてしまい、ジエンドなものだが、良い材質の金属を使ってるのかなんだか、こいつは変わる事の無い威力を常に叩き出している。


「ストームレイカー……だっけか。」


後々ようやくこの剣の名前を知った。風の力を帯びた剣……市場などで売っておらず、極めて珍しい剣だとの事。


「よくこんなもん持ってたもんだ。」


どこで手に入れたのかを聞くのももはやナンセンス。だからそこは考えずにただ使おうと思う。このようにブンブンと。


ブンブン!!


「強い!強すぎる!!」


雑魚相手なら適当にぶん回すだけでも十分過ぎる!


「(……けど、これ以上の剣もこの世にはきっとあるんだろうな……)」


……シノは力を求めて一度俺の元から離れることを決めた。


それに影響されているわけでは無いが、実は俺も同じ事だった。


俺も、今以上の力を欲していた。今までにない俺の新たな力を。


けれどこう言っちゃなんだが良くも悪くも俺にはさほど伸びしろと言うものが無い。自分を鍛えるという余地がほとんど残されていない。


だから、他の部分で強くなるしかない。


ゴーバスの闘技大会なんてお遊びのように聞こえるものに出てやろうというのも一応それに関係している。優勝賞品で貰える剣とやらにちょっとばかし興味があるからという分かりやすい理由。


「(力はいくらあっても困るもんじゃない。使い方さえ……誤らなければ!)」


使うべき場面で振るう事の出来ない力など力足りえない。


「(あいつが戻って来た時、どれだけの力をつけてくるのか分からないが、恐らくこれまでを遥かに上回った力を持っているのだろう。)」


俺とあいつの距離が縮まる。それは同時に、あいつから俺への見方が変わる可能性を秘めている。


「(……間違ってもあいつより下の俺ではあってはならない。俺はいつだってあいつより強くなければならない。)」


そうでなければ……あいつが俺の傍に居る意味など無いだろう。自分より弱い者と一緒に居る必要など無い。


そうでなければ、俺があいつの傍に居る意味など無いだろう。自分より強い者と一緒に居る事で惨めになるだけだ。


「……そう簡単に、俺に近付けると思うなよ。」


目の前の魔物では無く、ここに居ない奴に向けて一人呟いた。


「お前が走り続けるように……俺も走り続けるんだからな。」


それはいっそ宣戦布告のようなものだった。


あいつが俺に近付く分、俺はあいつより更に遠ざかる。


そんな想いと共に、俺はひたすらに魔物達を斬り伏せていった。


昔の乱暴なわんぱく小僧のように。

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