変わってないようで変わってるけれど、やっぱり変わってないもの
「オルテナお前、エイスの町に居ろ。」
「この町に……」
涙も身を潜めてしばらくして、俺は何様のつもりか命令口調でそう言い放った。
「お前なりに考えがあって世界中探し回ってるってのはもちろん分かってる。けど、今さっき言った通り見つけ方よりも早く見つける方法を取った方が良いと俺は思う。罪悪感を感じて一人で探し続けるのは……正直、良い事とは思えない。お前の時間がもったいない。」
策を尽くせば1年とか2年ぐらいで見つけられるかも知れない事をこいつは既に10年近くの月日を費やしている。うら若き青春の時代を当ても無く途方も無い事に使ってしまうのを俺は見ていられなかった。だからたとえオルテナ自身の気持ちを踏み躙ったとしても……それでも、少しでも早くオルテナとフォニカを再会させるべきだとそう思う。
人の時間を有限と考えるなら、早く再会してまた昔のような時間を長く過ごす方が絶対に幸せに繋がるだろうとそう確信している。
「……私も早くフォニカに逢いたいよ……逢って、謝りたい……」
「俺が探してやる。多少冒険の傍らになっちまうかもしれねえが、それでも一人で探し続けるよりずっと良いはずだ。俺……じゃなく、俺の近くに居る奴は思いのほか顔が広い。そいつらにも協力させれば見つかる可能性はこれまでよりずっと上がるはずだ。」
シノはあの性格なので人から好かれやすく、右に左に各方面に知り合いがいる。そうなれば同時期に別々の場所を探しているのと意味合いは同じとなる。
「……私、間違ってたのかな……」
「……償いが必要ってんなら、それはとっくに済んでる。フォニカの奴がお前に対して怒りなんか憶えてるはず無いと俺は思うが、万一お前が危惧してるような事を言ったらその時は俺が割って入ってやるよ。お前が誰よりもお前の事を想って探し続けたって事を。」
「シド……」
「……ま、それにあれだ。俺の面なんか見りゃあいつの怒りの矛先は俺に飛ぶだろうよ。昔みたいに。」
憎まれ口を叩くクソガキをいつも二人の少女が仕方の無い奴だと呆れた目で見ていた。そして遠巻きにもう一人のクソガキが居て……それが普通にあるべき光景だったはず。大人になった今でも俺は、その在り方が相応しいと思いたい。憎まれるは自分勝手なクソ野郎で良い。親友の為に文字通り東奔西走し続けた奴は……もう、報われていい。
「シド……優しい……」
「……ありきたりで適当な言葉言ってるだけだ。勘違いしなくていい。ただ俺の言う事は聞け。」
「……今日、シドと久しぶりに会って……あの魔物を倒した時、変な感じがしたの。その時は何の違和感だったのか分からなかったけど……後から分かった。シドが私に、ありがとうって言ってくれた時感じた不思議な感じ……私心の中ではどこかシドだって気が付いてたのかもしれない。そしてシドが……誰かにお礼を言うなんて、思わなかった。昔のシドと違うんだって……きっとそう思ったの。」
自分でも十分認めているが、確かに俺は礼を言わない。言う状況をなるだけ作らないつもりだからだ。
「……子供っぽいシド君も、ちゃーんと大きくなってお礼が言えるようになったんだね。」
「お前の目には俺は今でもガキに映ってんのかよ……」
「……ふふ、偉い偉い。」
「……ちっ、やっぱり一人足らねえよ。俺をおちょくってバカにするには。」
そうだ。俺をコケにするのはあのコンビでなければならない。あのムカつくながらも小気味良いコンビネーションがなんだかんだしっくり来る。
「……分かった。シドの言う通りにするよ。私、この町に居る。あ、もちろん依頼を受けて色んな所に行ったりはするよ?けどそれが終わったらこの町に帰って来る。」
「それでいい。何か最新情報があったらすぐ教えてやる。そんでお前もついて来い。いいな?」
「うん。分かった。」
ようやく話はまとまった。これまでの自由奔放な冒険の日々に、フォニカ探しが加わっただけ。そう遠くない内に見つかるだろうと俺は高を括る。
「(まずは……俺の周囲の奴らに声掛けする所からか。あいつらとて冒険者だ、旅先で不特定多数の人間と出会う事になるだろう。)」
今回の出会いだって感謝したくは無いが、あのガキやケイの情報があったから出来たようなもの。やはり人が多ければ多い程探している相手を見つけるのは叶うのだ。だからフォニカを探す為の策は今日から打っていこう。
「……ありがとシド。私なんかの為に協力してくれて……」
「一応昔馴染みのよしみでな。それにまぁ、顔の良い奴の力になるのは俺の流儀だ。」
「シドから見て私、可愛く見えてるの?」
「あまり見た事の無いタイプではあるがな。」
ボーイッシュって言うのか?顔は普通に女だが、装いや立ち居振る舞いは線の細い男といってもまぁ通じるだろう。中々絶妙に良いラインを保っている。どうやら美的センスも大人になる途中でしっかり磨かれているらしい。
「しかし……何であの野郎の真似なんか……」
「……それは、秘密。」
ここに来て何を隠し事しているのか……まぁ、どうでも良いか。大体予想はつくし。てか別にそこまで似てないと思うのは俺だけなのだろうか……
「私、最初に会ったのがシドで良かったかも知れない……シドは何でも正直に言ってくれるから……それが逆に助かったの。でも……」
「何だよ、口ごもってからに。」
「……私、ジハードに会いたいけれど……でも、ちょっとだけ会うの怖い……私の事なんてもう、忘れちゃってるんじゃないかって……」
10年という月日がもたらす可能性のあるその恐れを、どうやらオルテナは抱いていた。
「シドが居なくなっちゃった後、ジハードもやりたい事が出来たって言って私達の前から居なくなっちゃったんだ……きっと私達が居たら邪魔になっちゃって出来ないような夢……あったんだよね……」
……ついこの間あの野郎からその時の事はザックリ聞いていた。知らない世界が知りたかったとか力が欲しかったとか言ってたっけな。
「ジハード、子供の頃の私から見ても立派だった。だからそんなジハードが自分のやりたい事を見つけたって言うなら素直に応援してあげるべきだったんだよね。だからジハードが後ろ髪引かれないように見送ってあげられたら良かったのに……その時の私は、そんなに大人じゃなかった……だから行かないでって駄々こねちゃったんだ……」
「……」
あの野郎から伝言未遂の頼まれた事を思い出す。
……
「もし、冒険の途中で二人に会ったら、伝言をお願いしてもいいかな。」
「やだ。自分で伝えろ。」
「あの時、一緒について行ってあげられなくて、ごめんって……」
……
「悪い事、しちゃった……それにシドは覚えててくれたけど……ジハードはきっとあの頃よりもっと立派な人になってるだろうし、色んな人ときっと新しい出会いをしてるよね……そんな中で私達との時間なんて……とっくに薄れちゃってるかもしれない……だからもし会えても……案外何も話せないままになっちゃうかもって……そう思ったら、このまま会わないで子供の頃の思い出のままの方が良いのかもって思ったりもするんだ……ジハードにとって私と過ごした記憶がもし……思い出したくないようなものだったら……」
「……あいつはヤシャマに居る。」
「え……?」
伝言……?ふざけるな。んなもん、頼まれたって誰が伝えてやるものか。
「将軍やってるみたいだぜ。知らねえのか?」
「……私、あんまり国の事とか、知らなかった……フォニカを探す事でいっぱいいっぱいで……」
まぁ俺も知らなかったが。
「この間偶然会っちまった。けどまるで変わってねえ。あの頃の人を小馬鹿にしたような性格のままだ。」
俺達はどうしてか、根っこのところは大して変わらない。そして離れて10年近く経とうと言うのに、何故か同じ気持ちを抱いている事が多々あった。
「(あの野郎……オルテナ達を置いていった事を今でも悔やんでいた。そしてこうも言っていた。合わせる顔なんて無いと……)」
……どちらも心の中では再会を望んでいるのに、相手の事を気遣ってその道を選べない。そんなすれ違いが、10年の間二人を遠ざけ続けた。そりゃあそうだ。探さなきゃ、会いに行かなきゃ会えるはずもねえ。
「(……バカだろ。こいつも、あの野郎も……)」
……どこまで不器用で、どこまで自由じゃねえのか。他人の事ながら腹を立ててしまう。
「今度会って来い。」
「……」
「自分の事忘れてないか心配だって言ったな。全くの杞憂だ。あの野郎は今でもお前の事をしっかり憶えていた。」
「っ……!」
その驚愕が、喜びなのか、それとも悲しみの色を帯びているのか、判断しかねる所だったが、とりあえず事実を知るのは大切な事だ。
「忘れるわけねえだろ。お前みたいな強烈な奴と少しばかりでも一緒に過ごしてたら忘れるわけねえ。将軍になろうが王様になろうが一生お前の事は忘れねえだろうよ。だから、その内会いに行って来い。それか俺がついて行ってやる。その内ヤシャマに行かなきゃいけない用があるからその時ついて来い。」
「……」
そう簡単に心の整理はつかないらしい。まぁ、結論を焦る必要は無いか。
「すぐに決めなくても良いが、迷ってても最後に結果を出すのは変わらねえ。まぁそれだけだ。」
「……」
……薄々分かっていた事だが、オルテナの野郎は多分ジハードの事を好きなのだろう。無論、異性として。友達として好きのラインなどあの頃からとうに越えていたはず。それを越えて、慕情の気持ちになるのもムカつくが頷ける。あの野郎は女受けしやすそうな性格をしているし、顔も俺よりちょい下ぐらいだからだ。
「(……段々あの野郎がムカついてきたな。今度会ったら一発殴るか……)」
「……ねえシド、シドが私に聞いたシノって人の事、聞かせてもらってもいい……?」
「何だ藪から棒に。」
一応シノを迎えに行くからジハードに会う機会があるので何の話の脈絡も無いわけでは無いが……
「さっきの話で時々出てたけど、それって女の人……で、合ってる?」
「ああ。」
「そっか。その人って……シドとはどういう関係なの?」
「どうって言われても、まぁ荷物運びだな。」
一番分かりやすく言うならばとそう伝える。
「自分の荷物は自分で持った方が良いよ?特に女の人に持たせるなんて……」
「それがまぁ一般的だわな。」
……ついて来いという理由を、ただ荷物運びとするしか無かっただけだ。けど実際そうさせているのは否定しない。改善しようという気も今のところない。
「……シドの、大切な人?」
「知らん。とりあえず連れて歩ってる。」
「みんなその人の話する時、笑顔になってて、気になったんだ。きっと良い人なのかなって。」
「周りからの評価は高いだろうな。お前と同じような人種の奴だ。」
困ってる人を見つけたら自分が困ったとしても助けの手を差し伸べる貧乏くじ引くタイプ。損ばかりするもったいない奴だ。
「その人は今、どこに居るの?」
「ヤシャマだよ。ちょいと理由があってな。」
「じゃあその人を迎えに行く時にジハードに会いに行くんだね。」
「俺が会いに行くんじゃない。お前が会いに行くんだ。」
「……そっか、シドにも、信頼出来る人が出来たんだね。ちょっと、嬉しいかも。」
「テメエら……揃いも揃って同じ事言いやがるな……」
俺に信頼出来る人が出来たと勝手に勘違いして安心している……
「だって不安なんだもん。シドを見てるとひとりでどこまでも行っちゃいそうで。」
良い年齢になってもいまだに子供扱いときたものだ。これだから古い知り合いってやつは……
「人の心配に気を回すぐらいならちゃんとあの野郎と顔を合わせる心の準備しとけ。」
「……分かった。」
さてこれで、準備は済んだか。そう言えばシノのやつもオルテナを知っていたし、どこか会いたそうだった。ちょっとしたサプライズにはちょうど良いかも知れない。
「ありがと、シド。ジハードの事教えてくれて……」
「たまたま知っちまっただけの事を言っただけだ。別に礼を言われるような事でもない。」
「そうかもしれない……でも、ありがとう!!」
……こうして面と向かって礼を言われるからどこか気恥ずかしく、けれどその真っ直ぐな笑顔が……嫌いでは無かった。
その笑顔に、俺はあの頃の面影を見ていた。
変わっているけれど、変わってない。
そんな矛盾めいた感覚を、確かに噛み締めて。




