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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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戦いの六

今日の日中の課題は午前中は訓練所で与えられた課題をこなす、午後は書庫で読書との事。空いた時間は好きな事をして良いと言っていた。あまりガチガチに頑張る事だけを考えるのは気持ちにゆとりが無くなるからだそうだ。


「(そうは言いつつ、ジャスティナさんのプライベートを私はあまり知らない……)」


おおよそ殆ど日中は部下の人達と訓練をしたり、ヤシャマの重要な会議に出たり……その他いろいろ事務作業を抱えているらしい。てんやわんや……


「(たまにある余暇だって今は私の訓練に付き合ってもらっている。)」


分かっていた事だけど……申し訳ないな。それに私ももっとジャスティナさんの事を知りたい。もちろんお師匠様として慕っているのもあるけど、それとは別に普通にお話出来る友達……?(っていう言い方で良いのだろうか……)としても。


「ジャスティナさんの好きなものが分かればそれをきっかけにお話出来そうですが。」


しかし何が好きなのだろうか。はてな。オシャレ?甘いもの?読書?女の子の好きそうなものを私の偏見でパッと挙げてみるが、どれが正解なのか、はたまた全部正解なのか。


「(私のイメージだとジャスティナさんはあらゆる事柄に精通しています。)」


そんな色々知っているジャスティナさんが特に好きそうなもの……うーん、これは私だけの力じゃどうしようもない気がする。


「(こっそりとそれとなく聞いてみましょう。ヤシャマの人達に。)」


……怪しまれない程度に。


……


「好きなもの……本を読む事では無いだろうかな。本に書かれた経験に学ぶ事はとても多いからと自分達にも良く勧めてくれていた。造詣が深いのは確かだろう。」


「以前誰かがアンティークのカップを差し上げた所喜ばれていたと聞いた事があった。まぁジャスティナ様は好意のこもった品を受け取って無下にするような方では無いだろう。」


「お美しい方だからあの美しさを保つために我々には見えないような努力をされているのだろう。美容品……と言っても、合うか合わないかは人によって異なるだろうし……それは女性であるそちらの方が良く知っているか……身に着けるタイプのアクセサリーならば喜ばれるのではないだろうか?」


……


貴重なご意見ありがとうございました。まる。


「やっぱりジャスティナさんみんなに慕われてるなぁ……」


直属の部下じゃない人達にもその人柄は知れ渡っているようだし、外見も中身も申し分のない評価だ。やっぱり凄い人に弟子入りしているんだなぁとつくづく痛感する。


「(私もあんな風になりたいけれど……流石に無理だな……あんなにたくさんの人達の色々を背負って自分の事もしっかりなんて出来ないもん……)」


あまり卑屈になるつもりは無いけど、やっぱりある程度は生まれ持った才能というのは存在するだろう。ジャスティナさんが凄過ぎると言うものあるだろうけど、私は元よりそこまで突出したものを持ってるわけじゃない。そして手に入れようと努力して来たわけじゃない。だから当たり前と言えば当たり前。それを悲しむ必要も無いんだけど……


「戦いも無い平和な世界で平平凡凡に暮らしていたただの女の子が……果たしてどこまでこの世界で自分の願いを叶えられるのでしょうか……」


元の世界で生きていた場合一生涯経験出来ないほどの様々な事があった。良くも悪くも、そして、様々な出会いもまたしかり。


「……よし、俯いてあれこれ考えるのはここまでです。前向きシノちゃんで行きます。」


そうじゃないとジャスティナさんの弟子は務まらない。遅ればせながら今日の目標。


ジャスティナさんから10本中5本取る!


新記録に挑戦だ!


……


「よいしょ……よい……しょっ……!」


シノはジャスティナの指示を忠実に、そして確実にこなす。訓練時間において妥協してはいけないという教えを守る。


「(……ここで頑張らなかった事を……後悔しないために……!今日出来る限りを尽くす……!!)」


一朝一夕に強くなる事は容易くない。そんな強さの世界でただ一つ指標と出来る確かな事。


「(昨日の私に出来なかった事を……今日の私が出来るようにする……!!)」


出来なかった事が出来ると言う事、それだけは確かな事実。動かぬ標的への攻撃を精度と威力を保ったままに続ける事。そしてその成果は日々確実に表れていた。


「(成長を自らが実感する事で……私自身が次のステップを見据える事が出来る……そこを目標として捉える事が出来る!)」


辿り着こうとする場所をはっきり認識する事で、人は明確な目標を見出し、そこまでの道筋を作り出す事が出来る。努力とは、その小さな積み重ねの結晶。一瞬の奇跡などでは無く、日々の積み重ね。その集合体こそが真の奇跡。


未来の自分を助けるは、過去の努力した自分。シノは未来に向けて、鍛錬を続ける。


「(あの小さな体で……実に整った身のこなしだ……フォームも良い……)」


そんなシノのひたむきな姿勢を見ている内に、周りの者達の評価も変わっていく。本人はそんな事に気が付く程の余裕も無いだろうが、同じ場所でその訓練を見ている者達はシノへの興味を抱いていた。


「(ジャスティナ様の弟子と聞き、その姿を見た時は正直何を考えられているのか分からなかったが……どうやら只者では無かったようだな……)」


強そうに見える者が実際に強いのは往々にして当たり前の事。だからこそ彼らの中の常識にはその少女の存在が無かった。


どう見ても弱そうに見えるのに、その実……自分達と遜色がない強さを見せるその相手に……


「……少し、良いだろうか。」


「よい……しょ……?はふ、何でしょうか……もしかして私何かこの訓練所のルールを破ってしまっていましたか?すみません、実はあまり使い方の方はそこまで知らなくて……」


「もし良ければ、手合わせしていただけないだろうか?」


「手合わせ……私と、ですか……?」


「もちろん鍛錬の邪魔にならないならば、という条件付きだが……ジャスティナ様から言われている事があるならそちらを優先してもらって構わない。」


「……」


むしろジャスティナは、その反対の事をシノに言いつけていた。もし訓練の最中自分に手合わせを願う者が現れたら、その時は快く引き受けなさいと。


「……こちらこそ、よろしくお願いします。お、お手柔らかに……」


「ありがとう、感謝する。」


動かぬ敵を相手取るより、千差万別の戦い方を繰り広げる相手との戦いはシノを更に成長させる。そして自信をつける。たとえ互いに全力で無いにしろ、対人戦の中で自分の出来る事、考えられる事が増えているという事が成長を実感させる。


「(この人も強い……けれど、私も、強くなってる……)」


自分が強くなればこそ、相手の強さが分かる。そして更に知る。何故強いのか。


「(この人は、私の動きをよく見ている。その上で私の攻撃の軌道を読んで予めそれに対応して動いている……なるほど、だから早く動いているように感じる……常に先手を取られているようなものだもの。)」


相手の攻め方を理解し、そしてそれを打ち破るにはどうすればいいのか。そこまでを戦いの最中に考える事が出来ればもう冒険者としても戦士としても、十二分に上等。


「(……よし、ワザと攻めさせてみよう。私がそれに耐えられるだけの防御力があるかはまだ分からないけれど……!)」


攻めが効果的で無いと悟るなら、逆の立場となり、相手に攻め込ませる。


「せやぁあッ!!」


苛烈な攻撃の乱舞!だが……!!


「(……この攻撃なら、かいくぐれる……!!)」


対戦相手の得意とするのは相手を見抜く力。けれど自身の攻撃時には流石にその強みは抑えられる。実際の剣の力量としてはそこそこであるが故に、シノは耐え凌ぎ……そして……


「(ここだ……ッ!!)」


「……!」


一瞬の隙間を潜り抜け……反撃に打って出る!!


「(私の体の小ささなら……人より小さな隙間だって抜けられる!!)」


シノはとうとう見出した。自分の背丈の小ささは立派な武器であると。小さな標的にしっかりと攻撃を定めて打ち放つ事がどれだけ難しいか、自分の鍛錬の中で十分に把握していた今なら、それを逆手に取る戦術を咄嗟に放つ力がある!


「(後は、押すだけ!)」


「ぬっ……くっ……!!」


一度優勢になったならば、それを維持し続ける事を忘れずに、押し続けるのみ。劣勢では得意の持ち味を生かす余裕も生まれず防戦一方となりやがては……


キィンッ!!


「!!」


勝負、ありとなる。


「……はふぅ……」


勝負を終えて、少女は張り詰めていたものを吐き出し、再び弱き者へと姿を戻す。けれどそれは本当の姿を隠すベールに過ぎない。真の彼女は自らの心のままに戦い抜く、立派な戦士だった。


「負けてしまったか……だが実に見事な腕前だった。手合わせを願い出て正解だった。ありがとう。」


「いえこちらこそ……どうもでした。」


手合わせならば、このような握手をするような機会も生まれる。互いの武器を握った熱い手と手を交わす。そしてシノは思う。こんなにもこの人は強い力で武器を握り、振るっていたのだと。そして自分もまた同じくその熱を持っていた。


「……なぁあんた、戦いが終わったばかりで申し訳ねえが、もし良ければ俺とも手合わせしてもらえねえか?」


「ま、また私何かルール違反をしてしまいましたか……?すみません、訓練所の使い方はまだ不慣れなもので……」


「それはもう良いんだが……」


「……勝負してくれる人はいつだってありがたいものです。だから私なんかで良ければ……いくらでもお願いします!」


「……!そいつは、ありがたい……!」


自分一人での訓練は極端な話いつでも出来る。けれど、手合わせは相手が居てくれなければならない。相手の意志があってこそ出来るもの。だからシノはその機会をとても貴重だと知っている。今、何よりも強くなりたいと願う彼女がそれを断る必要性はどこにも無い。


命の取り合いなどと言う物騒なものではなく、ただ互いを高め合おうとするこの機会にはプラスしか感じられなかったのだから。


「(受けた勝負を断らないって言うのは一つの美学のように思っていたけれど……単純に自分の為でもあるからなのかもしれない。ようやくそれが分かるぐらいまで成長出来た気がする。)」


戦いが、戦いの日々が、戦いの日々で得られるもの達が、シノをまた一段と成長へと導いていく。


……


「どうやら随分と人気の顔になったようですわね。」


「人気かどうかは分かりませんが……でも、皆さん私の相手をしてくれました。とっても、いい経験になりました。」


「周りから見てもその成長が目覚ましい。ならばそんなあなたを放っておくヤシャマの兵ではありませんわ。今後も手合わせを挑まれたら快く応じ、そして勝利なさい。私の弟子として恥ずかしくないように。」


「は、はい!ジャスティナさんの顔に泥を塗るような事しません!」


「よろしいですわ。さて……それでは今日一日でどれだけの力をつけたのか……私がこの目で見定めてあげますわ!!」


「……お願いします!」


また多くの人と戦う事で今日は新たな事を知った。


ジャスティナさんは私のレベルに合わせて戦い方をセーブしてくれていたのだと。


これまでの私では越えられない程度の戦い方をして、超えるべき壁となってくれていた事を。


そして……私がやるべきはそれを越えられるだけの強さを手にする事だった事を。


「……たぁッ!!」


「(……どうやら、そろそろ次の段階へ進んでも大丈夫ですわね……)」


……その日私は自らに課した目標を、無事達成した。もちろんこれは道のりに過ぎず、終着点では無い。


ありがたい事に次の目標を示してくれる心強い人が私にはいる。


……そしていつかは、ジャスティナさんが傍に居なくても自分で自分の目指す道を決める事の出来る私になる。


この修行の日々の中で私が目指すべき到着地点は、今、ハッキリ見えていた。

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