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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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ここに彼女は居ない

素直になれない時間ってのはひたすらに苦痛だ。だと言うのにそいつを解除する事を俺は拒む。どうしてかそこに関しては自分で一歩踏み出す事をしない。それがもっとも救われると知りながらも、もっとも似合わず、そして、最も許されない事だと知っているからだ。


だからもしもこの時間から解放される時ってのは、自分では無く相手の協力によってなされていると言う事をいつだって知る。俺は他人が歩み寄る努力をしてくれた事で結果的に自分にとって都合の良い方向にありつくズルい人間だ。


俺は人の善意を受ける事をバカらしく虚しく思いながらも……それでも、助けられている。その事実はどうしたって揺るがない。たとえ俺が表面上でどれだけそれを否定しようとも。


……


一度深い壁を取り除いてしまえば、後はそこまでもつれる事は無かった。真正面から向かって話すという程積極的で無くとも、俺とオルテナは久方ぶりに会話、意思疎通をこなす事が出来た。時折デザートの味に喜びながら、団欒として弾む会話に心躍らせる、行った事も無いが貴族のお茶会か何か用に穏やかな時間ではあった。


「ねえ、シド……この後、少しだけ……いい……?」


ひとしきり話も終わり、楽しい時間の終わる間際、オルテナは俺にそう尋ねた。


「……なら俺の部屋に来いよ。おあつらえ向きに今は誰も居ねえ。」


そしてそれが人前で話すような内容でない事もよく分かった。だから俺は俺以外が存在していない空間へと招く。


「シド、いつもここに泊ってるんだ。」


「もはや殆ど俺の部屋みたいなもんだ。」


何年も同じ部屋に泊まっていたら実質的には家と変わらない。ある程度の金額は要するが、洗濯やら掃除をしてくれる手間賃と考えれば、実はそこまで割高と言うものでも無いのかもしれないと最近思った。


「ベッド二つ……一緒に誰かと泊ってるの?」


「今はちょっと居ないけど、基本的にはな。」


「そっか。それって、女の子?」


「男を同室に置く事を俺が許可するとでも思うか?」


「ううん、思わない。」


クスクスと笑ってそう言われてしまう。俺が昔通りの女好きで男嫌いなのをしっかり分かった上で。


「とりあえず座れよ。椅子でもベッドでもどこでも好きな所に。」


「ありがとう。」


俺はベッドに寝転がりたかったが、オルテナは椅子に座った。


「(……まぁ、いいか。俺の部屋だし。)」


普通なら真正面の席に座るべきかもしれないが、お構いなしに俺はベッドに体を放り投げた。


「……」


「……」


話したい事があるが、切り出し辛い者と、出来る事なら空気的にこちらから話しかける事を望まない俺……どうしても無言が多くなる。そしてこういう時に俺は出来るだけ向こうから話しかけてくるまで待ってしまう。男のエスコートの仕方としては実に悪い。けれど当たり障りのない会話という奴をしても必ず途中で途切れて再び無言が続くだけだと結果は見えている。それなら最初から本題に入る方が……


「シド、昔と変わらず冒険者を続けてたんだね。」


「……それ以外、どうやったらいいのか分からねえ。」


……向こうが望むなら、こんなとりとめの無い話であっても付き合おう。


「私も似たようなものかも。私の得意な事って魔物と戦う事ぐらいだから。」


「んなこたねえだろ。てかんな事ねえよ。お前はわりかし器用な奴だ。何をやっても上手くいく。」


「そんな無責任な事言って……私そんなに器用じゃないよ。」


「人とすぐ仲良くなれる奴は、何をやっても上手くいくもんだ。」


まともに働いた経験など無いが、自分以外の人間と協力するうえでコミュニケーション能力が高ければすべてに通じるだろうと俺は思う。分からない事があれば聞けばいい、そして好かれている人間は求めた以上の情報ややり方を知る。そうして仕事を上手く進める事が出来る。人づきあいが上手かったり美人の方が得ってのはそういう側面もある。


むしろ冒険者はそこまでコミュニケーション能力を必要としないものと俺は考える。複数人で戦う事も選択肢としてはあるが、その分分け前が減るので必ずしも優位では無い。俺のように一人で冒険をして一人で報酬を独り占めするのとはリスクと報酬を天秤にかけるもの。


オルテナは誰とでもうまく付き合えるのにもかかわらず、一人で旅を続けている。それはせっかくの自分の良い所を敢えて使わない無駄な事だ。


「この町にはあんまり来なかったのか?」


「凄く前に来た事あったかな……確か……その時以来だったと思う、依頼所に行ったのは。私が行った時はラミさんじゃなくて……優しそうなおじさんが居たと思ったけど……」


「そいつは多分もう辞めて居なくなっちまってるな。ラミか誰かがそんな話をしていたってのを聞いた。」


けれどラミが依頼所で働き出したのは確か7、8年程度前のはず。そして俺とオルテナ達が別れたのが確か……10年前ぐらいだったか……?となるとオルテナが行ったってのはその間という事になるのか?


「(まぁその時たまたまラミが居なかったと言ったらそれだけの話ではあるが……)」


いいか。過去の事は。


「つか、なんでその格好をしてるんだ?」


「え?もしかして、似合ってない……?」


「いや、そうじゃねえけど……そんな小奇麗そうな男の格好をするより、普通に女らしい格好をする方が自然だと思ったからよ……まぁ、好きってんなら変えろと言うつもりは無いが……」


悪いとは言わない。だけど可愛らしさを抑えてまでカッコよさを演出するのは俺の目線からするともったいないと思ってしまうだけの事。特別な理由があるならその限りでは無いにしろ……ちょっとその経緯は利いて見たかった。


「……この格好、実はちょっと真似してるんだ。」


「真似?誰の?」


「……ジハードの真似。」


「あぁ?」


「あ、でも直接見たわけじゃないの。あれからジハードとは……一回も会ってないから……でも、もしジハードが私達みたいに大人になってたらきっとこんな風にカッコ良くなってるんだろうなってイメージして。」


……と言う事はこの格好は、オルテナから見たあの野郎の未来予想図をトレースしたものらしい。


「何であの野郎の真似なんか……さては、好きだな?」


「そりゃあそうだよ。ジハードは優しくてカッコ良かったもん。」


恥ずかしがるでも無く即答される辺り、奴への信頼度の高さが窺い知れる……あの野郎俺を差し置いてからに……実際に割とその通りだから余計にムカつきやがる。


「……私は、シドやジハード程は強くなかったから……二人の強さはいつも私の憧れだったんだ。」


「お前も十分人並外れて強かったと思うがな……」


「自分の身を守れるぐらいにはそうかもしれない。けど……他の誰かを助けるには私の力は……全然足りなかった。」


「……」


この空気、どうやら、そろそろ聞かなければならない部分に自ら足を踏み入れなければならないようだ。


「……なぁオルテナ……お前、今一人で冒険してるんだよな。」


「……」


言葉なく、頷く。


「だったらおかしいじゃねえか。お前には……フォニカが居たはずだ。お前の親友が。」


「……」


そう。絶対に居るはずなのだ。


「あいつはどうした。」


「……」


押し黙ってしまうオルテナ。ならばそれは答え辛い答えを飲み込んでいると同義。


「……まさか、そんなはずねえよな。あいつがもう、居ないなんてそんなわけ……ねえだろうな。」


「……」


早く俺の不安を潰して欲しかった。例えばせめて何かしらの病気で寝込んでいるから一緒に居ないだけというなら俺がそれを治す薬でも探してやれば良いだけだから。けれど、もう居ないとするなら、その人間を呼び戻す事は俺には出来ない。先に死んでいったあの女を生き返らせる事など出来ないように。


「……フォニカ……居なく、なっちゃった……」


「?居なく……なった……?」


初め、既にこの世に居ないから居なくなったという言い方をしたのかと思ったが、しかし、何やらそうでは無く、命が無くなったからという間接的なものではなく、直接存在が消えたというようなニュアンスに聞こえた。


「どういうこったよ。人が居なくなったって……目の前で急に消えちまったとかそういう話じゃねえよな?」


「……シドとジハードと別れた後……私達は一緒に旅してた……そんなある時、いつものように一緒に歩いてたら……突然、消えちゃったの……」


「……おいおい、何だよそれ……マジで言ってんのか……?」


「……信じてくれないの……?シドも……信じてくれないの……?」


「……お前が嘘を言うとは思ってねえ。俺が驚いてるのはこの世界中でそんな現象が巻き起こる事があるって事に驚いてんだ。急に人が消えるなんて……流石に経験がねえ。」


実際半信半疑な部分もあるが、どうやらオルテナはその事を周りに口にして疑われたり信じてもらえなかった節があったようだ。だったら俺までそれを疑うわけにはいかない。


「周りに誰も居なかったのに……あっと言う間だった……それから私はずっと……フォニカを探してる。」


「……じゃあ、お前が冒険を続けてるのは……居なくなったあいつを探してるからか……」


「……」


もしもそんな理由が無かったら、あるいはオルテナは冒険者では無く、人並みの幸せを手にしていたのだろうか。今のオルテナは冒険者をしているのと同時に、冒険者を続けなければならない状況だったのだ。


……それは、自由じゃない。


「……いつから、居ないんだ。」


「……もう、10年ぐらい経っちゃう……」


「そんなに長い間……ずっと一人であいつを探し続けてたのか……」


「……私のせいだから……私、フォニカの事は絶対守るってそう言ったのに……なのに……!」


「……このバカ野郎。」


「!ば、バカって……」


「……この広い世界中をたった一人で探し回るバカがどこに居るんだよ。見つかるわけねえだろうが。」


それが俺の素直な気持ちだった。


「だ、だって……私のせいだから私が一人で……」


「それがそもそも間違ってんだろうが。まずお前がやらなくちゃいけないのはフォニカを見つける事だ。居なくなるのを止められなかったってのは見つかった後でいくらでも悔やんで謝ればいいだろうが。」


多くの人間が、過ちを犯した時には自分一人でどうにかしようとする。けれどそれがそもそも大間違いなのだ。


まずその問題を解決して、そこから償えばいいのだ。問題をどうにかする事と当人の贖罪は全く別だと言うのに混在して考えるからより時間がかかる。それを傍目に見た人間はアホらしいと感じる。


「自分の責任だから自分一人で見つけなくちゃならないなんてのはお前の勝手な思い込みだ。見つけようとするなら周囲の人間全てに頼み込むぐらいの事をしろ。じゃなきゃ時間だけがどんどん経っていくばかりだ。」


「……だけど……」


「いいかオルテナ。失敗とかした時に本当にやらなくちゃいけないのは自分一人で抱え込む事じゃねえ。しっかりやるべき事に向き合って、他人に頼むのが申し訳ねえ状況でも、それでも問題を解決するために協力を要請する事だ。そこを見間違えるな。」


「……」


「……フォニカなら俺が探してやる。だからお前一人で探そうなんて無茶な事もう止めろ。」


「……シドなら……見つけてくれるの……?」


「この世界のどこかに居るってんなら、会えるに決まってんだろ。現に俺とお前だってこうして出会った。それと同じ事だ。むしろこっちから探しに行くってんならそんなのそう遠くない時間の問題だ。」


「……」


……お説教になっちまった。別にこんな事言いたいわけじゃなく、もっとスマートでシンプルな言い方をしたかっただけなのに……


「……シドに、そんな事言われるなんて……あんなに子供だったのに……」


「んだよ、俺が言ったら悪いか。」


「……悪いよ……久しぶりに会ったばかりなのに……あんなに素直じゃなかったシドが……そんな、優しい言葉かけてくれるなんて……そんなの……ズルいよ……嬉しくて……」


涙混じりの声は、やがて雫を生み出し、頬を滴り落ちていた。


「泣く事ねえだろ……」


「ずっと我慢してたのに……泣いたらダメって思ってたのに……なのにそんな事言われたら……そうなっちゃうよ……」


……抱えていた重たいものを10年もの長い間一人で抱えていたオルテナの重荷を、俺はちょっとは軽くしてやる事が出来たのだろうか。


……そしてこれは、俺の償いの始まりでもあったのかもしれない。


あの日、自分勝手に一人で行動した事で4人のガキはそれぞれの道を歩む事となった。


そのきっかけを作った元凶として……それによって引き起こされたのがフォニカの失踪ならば……


俺が解決してやらなければならない事だ。


それを俺は10年ほったらかしにして、代わりにその責務をオルテナが負った。10年という歳月、オルテナは苦しみ続けた。


……今の俺は、恨み言を言われるような立場であるにもかかわらず、結果的に都合の良い言葉を並べ立ててその責任からのらりくらり逃れようとしていた。


そんな時俺は決まって思うのだ。


ああ、やっぱり俺はド悪党なのだと。


人を善と悪で2分割した時に、悪の頂点に君臨するような人間的に最底辺の男なのだと。


嫌悪感すら覚える自分の姿から俺は、目を背ける。

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