戦いの五
「ジハード様からしっかり手ほどきを受けましたわね?」
「はい。そして……完敗でした。全然歯が立ちませんでした……」
「ですが、それは幸運な事ですわ。自分より強い相手が近くに居ると言う事……近くに目標があれば、手が届くまでの道筋を建て易くなりますもの。」
そして私はこれまでずっとその機会に恵まれ続けて来た。シド様という私が知る限り一番強い人がずっと傍に居てくれたから。だから自然と少しずつでも強くなれた。今の私の姿が、ジャスティナさんの言葉の正しさを証明している。
「遠くて届かなくても、それでも諦めません。必死に追いついて、食らいついてみせます。」
「ちゃんと私の意図を組んでくれたようですわね。安心しましたわ。」
そこは間違ってないようで安心した。後はもう一つの方……
「……お手紙を勝手に読んじゃった事……本当にすみませんでした……まだ、怒ってますか……?」
「全く……一回だけですわよ?次同じ事をするようなら、今日の様な限りでは済まないと思いなさい?」
「!は、はい。気を付けます。」
「よろしいですわ。なら、不問にしましょう。明日からはまた私が訓練をして差し上げますわ。」
「お願いします。」
……許して貰えて良かった。今後ギクシャクしちゃうなんて嫌だもん……
「さてそれでは、今日の所は明日に備えて眠るとしましょうか。シノは何かやる事が?」
「いえ、特には無いです。なので私も寝ちゃおうと思います。」
用意してもらったベッド、寝心地も良いし、もうすっかり私の新しい寝床だ。ただ、一人なのはやっぱりちょっと寂しいけれど……
「あの……ジャスティナさんと一緒のベッドで寝てはダメでしょうか……」
「何ですの?その子供のようなお願い事は。」
「私いつもシド様と一緒のベッドで寝ているので……一人だとなんだか落ち着かない感じでして……はふ……」
「……サラッと凄い事を言いますわね……まぁ、プライベートにとやかく口を挟むつもりはありませんけど……一緒に寝ると私の方がどうなるか分かりませんわね。逆に私は一人で寝る事にしか慣れていないのですから……代わりに私の眠りを妨げるような事になるなら少々困りますもの。」
「それじゃあ試しに今日一回寝てみましょう。それでやっぱり落ち着かないようならやっぱり止めて、意外と大丈夫そうだったら今後もそうすると言う事で……」
「……」
「……だ、ダメですか……?」
「……」
しばし、長めの沈黙……これは、厳しいかも……
「……まぁ、頭ごなしに否定するのもどうかと思いますわね……分かりましたわ。試しに少しだけやってみましょう。」
……ほっ。
「そ、それじゃあジャスティナさんのベッドにお邪魔します……すすす……」
「そして私も同じベッドで寝ればいいと……」
あ、あふぅ……どうしてかとても良い匂いがする。お花みたい……体中から出た私を夢中にさせるフェロモンが染み込んでるかのようだ……
「……うっとり。」
「……やはり、ちょっと落ち着きませんわね……」
ご満悦の私と違ってどうやらジャスティナさんはお気に召さないらしい……このままではピンチだ。
「そ、そうですね……それじゃあ私の事は抱き枕か何かだと思ってくれれば……」
「抱き枕……?」
「感触が良いかは分かりませんが……とりあえずシド様には多分好評です。多分……」
嫌だと言われないから……良いだろうという勝手な想像。そして誰にでも良いわけでも無いのも分かってる。
「……(ぎゅっ)」
そして後ろからジャスティナさんに抱きつかれる。きゃあ……なんだか凄くドキドキが止まらない……
「(ジャスティナさん……薄着の上からでも分かるぐらい……柔らかい感触がもろに当たっている……)」
同じ女性同士だというのに、私ったらなんて邪でいやらしい事を考えているのだろう……でも、確かに柔らかくて良い気持ちなのは同意出来る。シド様がそういうのを好むのも……単純に気持ちが良いからなのかもしれない。
「……そんなに、悪くはありませんわね……」
「本当……ですか?」
「……確かに、何かを抱いていると……ちょっと……安心するような気がしますわ……」
「お、思う存分抱いていてください。」
「……」
感想を聞くに好感触間違いない!私って抱き枕の才能あるんじゃないかしら。てれてれ。
「……あれ?」
「……」
しばらくそのままで居ると、ある時を境にジャスティナさんの腕の力が弱まった。もしやするともしやすると……
「……寝ちゃって、ますか……?」
「……」
私の問いかけに答える人は無く、代わりにとても小さな寝息が耳元で聞こえていた。
「……とりあえず、不快感を与えるような事は無かったみたいですね……」
これなら明日からも一緒に寝てくれるかもしれない。だったらいいな。
「……私も、ちゃんと寝ましょう……明日の為に……」
……やっぱり、誰かの温もりがあると私は安心するのか……今日はすんなり、そして……気持ちよく眠り続ける事が出来た。
……
「今日は少し精神的な面についてお話しますわ。」
「精神……大事です。」
どれだけの力を持ってても、それじゃあその力をどれだけ出せるかがメンタルの部分。気落ちしている状態では半分の力しか出せず……逆に乗りに乗ってる時はあわよくば100%以上の力が出せるかもしれない。メンタルコントロールが如何に重要か。
「戦場での戦いは実に様々、時には自分の苦手な場所や相手との戦いを強いられる事、複数人を同時に相手取るような戦い……予期せぬ事態は考えてもキリがありませんわ。」
「事前に準備出来てれば心構えも出来ますけど……私の頭じゃ思いつかない事ばかりです。」
「状況とは予測出来ず与えられるような事が殆ど……それは仕方ありませんわ。それでは、別の部分で動揺しないようにしなければなりません。さて、その別の部分とはなんだか分かりますかしら?」
「別の部分……」
ちゃんと私が理解出来ていれば、完全正解と言わずとも近い事は答えられるだろう。考えてみよう。
状況は私の意志と関係無く訪れてしまうもの……例えば、自分にとって不利な敵が出て来てしまう事はどうしようもない。そして複数現れてしまう事も仕方がない。つまり、外的要因に関しては対策をする事は結構難しいと言える。
……なるほど、だとすれば、答えは一つか。
「自分自身の強さが揺るぎなければ……動揺せずに済みます。」
「その通りですわ。ちゃんと分かってますわね。」
私にしては珍しく大正解だったようだ。
「頭をなでなでして欲しいです……」
「理論だけじゃなく実践出来たら考えてあげても良いですわ。まぁ、それはともかく今答えた通り、どんな状況でも応対出来るという自負があれば戸惑う事無く対応出来ますわね。この状況ならば負けてしまうかもしれないという弱気な気持ちがメンタルを崩してしまうのですわ。そして、一度崩れてしまったならばそこからさらに状況は悪化し、気が付けば取り返しがつかない程ガタガタになってしまう……そうなってはもうおしまいですわね。」
「戦いはいつだって相手より風下に立ってしまってはダメですよね……たとえ心の中では不安でも、それを見せないように気丈に振る舞う事……」
「今日のあなたはとても冴えていますわね。今私が教えている事は既に重々承知だったかもしれませんわ。」
改めての復習、けど忘れがちだった事かも知れない。そして今教えてもらっている事が重要な事なのは事実。私の言っている事の殆どはジャスティナさんから教えてもらった事。だから正解を口に出来るのはある意味当たり前で、ちょっとズルをしているのかも。
「自分の強さに自信を持つ為には、自分がどれだけ努力を重ねて来たか……単純かもしれませんが、そこですわね。」
自分が納得出来るだけ頑張って来たなら……少なくともメンタル面で後れを取る必要は無い。
「日々強くなる事……昨日の自分よりも今日の自分は強くなる事……毎日目標を定めて努力する事……」
「私も毎朝目標を立ててます。その日の自分に出来ない事が明日出来るように。」
「……奇遇ですわね。私も同じですわ。」
「えへへ……」
これもジャスティナさんからそうするのだと教えてもらった事。確かにこれを続けている事で、私の中には自信と言うものが備わりつつあると自覚している。
私の先生であるジャスティナさんがそうすべきだと言ってくれた事を私は何とか続けてきている。ジャスティナさんを信じる想いが強ければ強い程、言われた事を継続している自分の頑張りを認める事が出来るのだと思うから。
「努力とは、するだけでは足らず、続ける事が肝要ですわ。努力は後から積み重ねる事が出来ないものですから……」
「毎日継続する事が大事……」
「強くなる事に……決して近道はありませんわ。それは誰もが当たり前のように知っている事でありながら……けれど多くの人が強くなる為の努力を続ける事を忘れてしまう……分かりやすい目先の力を求めてしまう。強い武器や強い装備……でもそんなものは、見かけだけのものでしかありませんわ。戦いの勝敗を最後に左右するのは……日々の積み重ね。努力を重ねて来た時間……最後の最後まで信じられるのは、自分自身なのです。」
……言いたい事が、とてもよく分かる。
強い武気があろうと、それを上回られたらそこまで。強い能力を持っててもそれを無力化されたらそれまで。結局武器も能力も、私自身を装飾する外側の強さである事には変わりがない。
その全てを無くして、最後の最後に残るのは私自身の強さ……その強さを私が信じる為には……積み重ねた時間が必要なのだ。
「人は完全ではありませんわ……だから、気が付くのが遅くなってしまう。足りなかったのは努力だったのだと……敗北の直前に気が付いてしまうのですわ。力が足りなかった事を悔やむ……どうしてもっと努力しなかったのかと……」
……そんな事、何度もあった。力を求めるという事に私がもっと貪欲だったら……救えた命が、助けられた命がどれだけあったか……それを、幾度も悔やんだ。
「シノ、あなたにはそんな想いをして欲しくありませんわ。だから……あなたは強くなりなさい。自分の努力が足らなかったから望む結果を得られなかった事を悔やまぬように……どんな状況でも立ち向かえるだけの努力を……あなたなら、きっと出来ると私は信じていますわ。」
「ジャスティナさん……」
「……話してばかりになってしまいましたわね、少し、体を動かすとしましょう。心と体、どちらをも蔑ろにしてはいけませんもの。」
……私を信じ、託してくれている。その想いを知った上での立会いは……昨日とはまた違うものだ。
背負うもの、叶えたい未来があればあるほど……私に必要な力は多くなる。
出会いの数だけ……私は、これまで以上の努力をしよう。
欲張りな私だからこそ、貪欲に……全部全部を叶える為に。
……
「ジャスティナさんの胸はとても大きいですね……(ぷかぷか)」
「大きいから良いというものでも無いのではなくって?」
一緒に湯船に浸かっているのにジャスティナさんのそれは水面に浮いている……
「……はふぅ。」
みんな良いなぁ、一体何を食べてどう運動すればそうなるのかなぁ……
「シノと私……文字通り本当に寝食共に過ごしていますわね。」
そう、今日からお風呂も一緒に入らせてもらっている。お背中御流ししますと言ったけれどそれは結構ですわと丁寧に断られちゃった。
「つかず離れずジャスティナさんの色んな所を見てちゃんと学びます。むむむ……」
もちろんジャスティナさんが居心地が悪いとかもっとプライベートが欲しいと思うなら流石にその時は自重するけれど……
「……昨日は気持ちよく眠れましたし、構いませんわ。二人で寝ると言うのも最初はどうかと思いましたが、存外悪くは無いものでしたわ。」
……そう言ってくれるので、甘えちゃおう。
「明日もその更に明日もずっとよろしくお願いします。」
人恋しい私は、大好きな誰かと一緒に過ごす時間を大事にしたいから。




