遭遇と出逢いの森
翌朝近くの森とやらに出向いた俺達だったが、そうすんなりと事が運ぶものでも無く、しばらくの間はただいたずらに時間と体力を消費しているだけになってしまった。
「居ないな……」
「居ないね。」
「居ないよー……」
「まぁ、居ないなら居ないに越したことは無いけどさ……でも、何だろう、この森に入ってからずっと変な感じはしてるんだよな……」
特別な相手が存在している時のみ感じえる違和感、もっと言うならこの森に充満する威圧感とでも言うのだろうか。ガキは小さくもそれを感じ取っている。そして俺も同じだ。だからこそすぐに撤退せずに探索を続けている。
「ちょっときゅうけーい……足くたびれちゃうよ。いくら魔物が大した事無くても……」
「……そうするか。」
おあつらえ向きと言うのか、腰掛けられそうな自然の造形物が転々としている地点で俺達は休息を……
「シギィー!!」
「うわぁ、間の悪い所に出て来たなぁ。」
「しかも微妙に疲れそうなカピーンだし……あーもう、出て来ちゃった以上は倒すしか無いし!」
「しょうがないよね……ビーム!!」
弱いわりに装甲はやや厚い為倒すのに多少体力を消耗する。おまけにそれなりの数を伴って現れるので全くもって旨味無し。報酬やドロップアイテムが良いわけでも無し。
「こういう低い敵相手だと俺のブーメラン相性悪いんだよな……」
「踏み潰すにしたって……このブチっとする感触が超気持ち悪い……」
叩き潰すか斬り潰すか……そのどちらでも無いビームでケイがだいぶ一掃してくれてはいる。
「ふー……これで、終わりかな……」
やっと軍勢は現れなくなった……
「ボルボル……!」
と、一息つく間もなく、一角牛が今度は諸手を挙げて現れる。
「嘘でしょ間の悪い……せっかく座ろうとしてたのにー……!くそー!!」
「現れちまったもんは……仕方ねえよな……カピーンよりかはやりやすいし、今度は俺がやってやる!!」
……冒険者として、敵と相対したした際には戦うか逃げるかの選択をする。特にメリットが無い戦いなら逃げるのも十分正しい選択だ。
……しかし、今俺達は現れる奴らとまともにやり合っている。それは自分達の技量ならば難なく倒せる相手であるから……
「終わったー……今度こそ本当に終わったー……」
「トドメのスーパービーム!!ふう……私の方も終わり……でも、ビーム撃ち過ぎて疲れちゃった……」
「ちょっと本当に休憩しようぜ……じゃないと……」
「カカカッ!!」
「!う、嘘……また、出て来た……?しかもガルヴァスでしょ……?」
「こ、こんな森にこんな高ランクの魔物居るのかよ……」
「速いし獰猛だし……」
これまでの2連戦と比べても片手間に処理出来るような相手では無い。
「……ちっ、そろそろ、出て来いよ。」
「え?」
3人共、俺のその手招きに納得の出来る反応を見せなかったと言う事は、どうやら戦いの最中だからか、あるいは俺がちょっと別の事を考えていたからか気が付いていなかったようだ。
「人間の中にも嗅覚が鋭い奴が居るようじゃねえか……まぁ、どうせこいつらでラストだったからまぁ良いだろう。」
俺達を取り囲んでいたどす黒い感情、敵意に。
「!!し、シド……あの魔物……!」
「昨日私達が倒した……マクスドラウだよ!まさか、倒し切れてなかったのかな……!?」
確かに姿はよく似ている。そもそも人の顔も覚えない俺が倒した魔物の姿など正確に把握しているわけでは無いが……しかし、ケイは気が動転しているのか思い違いをしている。
「俺達があの魔物と戦ったのはこの森じゃねえだろ?っつー事は……どうやら悪い方の考えがビンゴのようだ。」
「……マクスドラウは、やっぱり1体じゃなかった……って事だよな。」
ガルヴァスの群れと、その一際オーラを放つ魔物に取り囲まれながらも俺達は現状を把握する。そんな俺達を俯瞰するような目で見ているのは……圧倒的な眼力を持つそいつ。
「人間、もしやとは思うが……俺の弟を殺したのはお前らか?」
「お、弟……?」
「まぁこの付近に俺達の様な個体は他に存在していない……なら、十中八九そうなんだろうな。」
その似通った風貌、言葉を介するだけの高レベル……そして今の言葉から察するに、どうやら俺達が昨日倒した奴と目の前の奴は……別個体であり、肉親に当たる存在のようだった。
「魔物にも家族とか居るのかよ……」
「だが、お前らで言う所の血を分けた存在ってわけではねえさ。あいつがいつしか俺を兄と呼んでついて来ていただけだ。他に同じ種が居なかったからそう感じるのもおかしい事じゃなかったがな。」
「……敵討ちってんなら、理解はするけどやられるつもりは無いよ。私達だってこんな所で……」
「はっ、それはとんだ勘違いだ。負けた弱い奴の為に戦おうなんて人間と同じ甘い考え持つわけもねえ。俺はあくまで俺の為に戦うまでだ。のこのこと俺のテリトリーに足を踏み込んできたバカな奴らをここでぶっ殺す為にな。」
「……魔物の癖に知恵がまわるとは思ってたぜ。息もつかせぬ波状攻撃で次々と押し寄せてきやがったしな。しかも現れる魔物もどんどん強くなっていた。」
「途中で尻尾撒いて逃げてりゃあまだどうにかなったかもしれねえが、お前らは引き際を誤ったのさ。だからここで……死ぬ。」
俺達は野郎の思惑にまんまとハマっていたようだ。弱い相手を最初に出してくる事で逃げでは無く戦いを選択させられ、後は雪崩れ込むように徐々に強さを上げていく……そしてラストに出て来たのがこの親玉というわけだ。
「こいつらも頭は足りてねえが強さはそれなりだ。加えて……俺の命令を聞く程度の脳みそぐらいは持っている。」
ゆっくりと、手を掲げ……
「あのビームを撃つ奴とブーメランの奴を優先して殺せ。」
「「カカカッ!!!」」
やがて、開戦の合図を切って送る。
「狙いが的確でやがる……」
もし俺だとしても、いわゆる後方向きの相手を狙うであろう。数に物を言わせて。
「くっそぉ……!一掃してやる!!」
ケイもガキも懐に入って来られると急に戦いが厳しくなる。そうさせない為に俺とエルが前線で敵を食い止める役割を果たすわけだが……多勢となるとそれが叶わなくなりがちだ。
「ビーム……乱射!!」
「カカッ!!」
そして、ある程度の魔物ともなれば耐久力も高く、それはガキの攻撃一発ではそうそう沈まずお構いなしに襲い掛かって来るのを意味している。
「……カカッ!!」
「ま、まだ動く……」
そして同時に……ケイのビームにも耐えうるだけの頑丈さを保っている。どうやら向こうの狙い通り、こちらも体力を消耗してしまっているようだ。ケイのビームは無制限に使って威力が減衰ないなどという便利な代物ではない。このまま大挙して押し寄せて来たら行きつく先はジリ貧による敗北……死だ。
「(さっさとケイとガキを襲ってる魔物共を叩き潰さなくちゃいけないんだが……!!)」
それが分かっていながら、そうする事の出来ない不自由さに頭を悩ませている俺が何をしているのかと言えば……
「さぁ、おい、いつまで持ち堪えるつもりだ。その細っちょろくちっぽけな体で。」
暴力的なまでの破壊の力と真っ向からの打ち合いをせざるを得ない状況に追い込まれていた。
「こいつ……ッ!!皮が固くて打撃が通らないしッ!!」
ドゴッ!!!ブンッ!!!
魔物というのは生まれつきそんな頑丈な体を持っているのか。厚い毛で覆われているその皮膚もまた金属のように硬質なのか……エルの攻撃はびくともしておらず、俺の攻撃ですらたじろがない。奴はこちらの攻撃など諸共せず自分の好きなように暴力を振るう事が出来る。さぞ楽しい事だろう。
「ドバウを倒したってんなら、もう少しぐらいは歯ごたえあるのかと思ってたが……そうじゃなく、あの野郎がよっぽどの体たらくだっただけみたいだな。」
「……言わせておけばテメエ……!!調子付いてんじゃねえ!!」
顔面を思い切りぶち抜いてやろうと剣を振り抜く。
「……かすり傷をいくら重ねても……状況は好転しねえぜ?」
ようやくに斬り裂いたとて、顔の皮僅かにと言ったところ。そもそもの手応えがやはり薄く、顔面ですら魔物としての強さでコーティングされているのだと知る。
「うらぁあッ!!」
そして反撃が飛んでくる。刃で受けるも、衝撃を完全に殺す事が出来るわけでも無く、こちらは大きく跳ね飛ばされる。
「ちぃっ……!!」
……硬い装甲、重量、防御力の高さが攻撃力に転じて襲い掛かって来る。こちらの攻撃力が相手を上回らなければ奴の言う通り状況は変わらない。けれど今の俺の手物にある武器は重さよりも速度重視の剣。けれど、俺の繰り出せる速度にはもうだいぶ限りがある。ここにプラスαの何かを加えない限り、奴の肉体を斬り裂く事は叶わないだろう……!
「ケイ!!ブリア!!」
そして弱り目に祟り目か、エルの叫びを聞いて向こうの様子を見ると、もはや一刻の猶予も無いぐらいの悪条件になっていた。
「くっ、こいつら……しつこい……うわっ……!!!」
「はぁ……はぁっ……全方位……ビーム!!!」
二人の疲労具合はもはや見て明らか。段々と敵の攻撃も襲い掛かりつつある中……もうそのままやり合うのが得策で無いのは明らか……
「……エル、お前は二人のフォローに入れ!!こいつは……俺一人でどうにかする!」
「っ、けどそしたら今度はシドがピンチに……」
「俺を誰だと思ってんだ……んな事より向こうを助けねえと間に合わなくなるぞ!」
「っ……わ、分かった……!!」
……エルは二人を助けに行った。それでも精々状況を半々に戻せるかどうかと言うところだろう。体力回復が図れるわけでない以上は……この苦境は続く。
「自分一人逃げればそれで丸く収まるもんを……そうやって他人を助けようとするから今度はテメエが危険に陥る……人間は頭が良い癖にバカな行動を取りやがる。」
「俺一人で十分勝てる公算があるからに決まってんだろ。テメエこそバカ力だけでいつまでも調子に乗ってんじゃねえぞ……!」
「ああ、そうだな。ならそろそろ……締めと行くか。」
魔物は冷めた言い方でそう言い放ち、手振りをする。
「「カカッ!」」
「……へっ、第二陣が、控えてやがったかよ。魔物の癖に辛抱強いこった。」
人一人には過剰と言える程のガルヴァス共が奥から姿を現す。
「一人一人弱らせていけば仲間意識ってものを発揮して窮地に陥る。今度の狙いはお前だ。」
……力を持ち、策を弄してくる魔物というのはこれだから疲れるものだ。
「無論、俺も変わらず襲わせてもらう。まさか卑怯とは言わないだろうな?」
「……ここは戦いの場だ。汚えもクソもあるかよ。」
「潔の良さと諦めの良さは賞賛してやる。」
下卑た笑いで、何を勘違いしてるのか。
「誰が諦めるかよ。何でもありの勝負で……俺に勝てると思うなよ。」
あいつが、シノの居ないところで負けて行方知らずになるなどあまりにも、あまりにもカッコ悪すぎる。
「(だから俺は……俺は絶対に勝つし、生き残る……!)」
「最期までその目を保てるか、試してやろう!」
呆れ返る程の敵を前に俺は……
「……ほあっちょー!」
祈らなかった。ただ、目の前の現実を受け入れて、その目に焼き付けた。
「カカッ……!?」
一体のガルヴァスが強烈に吹き飛んでいった。その現象を起こすにはそれだけの力が必要だった。
「……!そっちにも、まだ潜んでる奴が居たか……!」
……その人物の存在は俺達ですら把握していなかった。魔物ですら驚愕するような出来事が巻き起こるこの戦場に、舞い降りたその人物に目を奪われた。
「これだけの多勢なら、手を貸すにも心置きなくやれるね。でも一応聞いておこうかな。助太刀しても、いい?」
この状況に居合わせた事、そして、この場に居る事、このタイミングに俺の前に現れた事、全ての疑問符を重ねて俺は尋ねていた。
「お前は……??」
優雅な立ち居振る舞い。外見こそ冒険者のそれであったが、醸す雰囲気はまるで貴族のようなそれであり、性別を超えた美しさのようなものを空気に纏っている。
その姿に俺は、どこか面影を感じた。
「私はオルテナ・クエリ、通りすがりなただの冒険者だよ。」
それは、遠い昔に少しだけ共に過ごしたある少女の面影だった。




