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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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戦いの三

今日も今日とて修行修行、与えられた時間は限り有る。無駄にしてしまう事なんてするべきじゃない。


「引き出しの上から2番目って言ってたような……」


と、修行の前にジャスティナさんからお願い事を言われていた。忘れ物をしてしまったのでジャスティナさんの机の引き出しから本を取って来て欲しいと。


「ありました。きっとこれですね。」


綺麗に整っている中に本は一つしか無い。迷う事も無く私はそれを手に取る。


「(きちんと整頓されてて使いやすそうだなぁ……)」


この辺りも性格が出るものだ。私なんてとりあえず最終的に見つかれば良いと思うタイプなので物なんて基本乱雑になってしまう。


「あふぅ、あふぅ。(カタンカタン)」


そして何の気なしに他の引き出しもちょっと覗いてみる。本当に興味本位。


「……おや。」


と、そんな矢先の事だった。私が目にしたのは、どうやら手紙と思わしきもの。普通ならチラッと見て気に留める事も無いだろうけど……私の名前を見つけてしまった事で少しばかり興味を持ってしまう。


「……人の手紙を読むなんて、いけない事と分かっています……」


……けれど私は好奇心を抑えられず、ちょっとだけと思いながら手紙を手に取ってしまったのだった。


……


親愛なるお父様、お母様へ


私は日々変わらず息災に過ごす事が出来ています。お父様お母様もきっとご健勝の事と存じます。


「(文章にまでジャスティナさんらしさが出ている。綺麗な字で、上品な言葉遣いで……とても両親に宛てているとは思えない完成度だ。)」


つい先日、私にとってはとても大きな出来事がありました。それは、不肖ながらも私が弟子を持つ立場になった事です。


部下を持った事はあれど、部下と上司は互いの力を頼る関係、立場の違いはあれど双方向な付き合いだと私は感じていました。けれど師と弟子となるとそれはまた異なるもので、私は未熟ながらも弟子に向けて望まれるだけのものを与えなければならず、それは少なからず私にとってのプレッシャーでもありました。


「(表に見せないだけで……そこまで深く思わせてしまっていたんだ……)」


まだ自分の事もまともに管理しきれていない未熟な私が誰かに物を教えるというのは自身でもこれまでに無く難易度の高い事と実感しました。私の教えた事を実践し、その教えをもってこれからの人生を歩むというのならば、私の責任は重大です。中途半端な覚悟でやるべきでは無いと、けれどそれを受け入れて尚、それでも私は弟子を持つ事を選びました。新しい関係の中で、私自身も新たな経験を積み、自分自身に一層の磨きをかける為に、全てを蔑ろにせず、一生懸命に果たそうと思います。私の新たな道の先、どうか温かく見守っていてくださると嬉しい限りです。


「(……ここまでの決意があってこそ、誰かにものを教えるという強い意志が伴うんだな……)」


さて、私が教える事になった弟子という方ですが、その名をシノと言います。


「(おっとここだ、ここに私の名前が出て来ていたんだった。)」


まだ出会って日も浅いので多くを知っているわけではありませんが、小さな背丈で可愛らしい容姿をしている娘です。


「(てれてれ。)」


ですがその小さな体にとても力強い気持ちを感じる娘で、強い意志と決意を持った眼差しをしています。そして腕前も十分にあり、私も一度見事な一本を取られてしまいました。彼女はとても強いにも関わらず、まだまだ上を目指そうとする向上心がありました。そしてそれだけの想いがあるなら伸びしろもあるだろうと。私自身も彼女がどんな風にこれから強くなっていくのか興味を持ちました。そして、ただその経過を見ているだけではなく、その為の協力をしたいと。微力ながらも力になりたいと感じました。その決意と力に偽りが無いと心から思えたから、私は彼女を弟子にする事を決めました。


「(……あふ、読んじゃ……いけなかったような気がする。)」


……


もう恐らく8割ぐらいまで来てしまって手遅れな感じもあったけど、私はここで手紙を元に戻す事にした……


「……こんなにも、大事に想ってくれていたんだ……」


やっぱり、弟子を取るなんて大変な事だったに違いない。私には短い時間だったように思えても、ジャスティナさんの中で長い葛藤の末に、それでも私を弟子にしてくれたんだ。プレッシャーを抱える事を覚悟してなお……そして今だってそれを抱えて……


「……」


私は持ってくるように言われた本を手に、急いでジャスティナさんの所に戻る。


……目には見えずとも、心をこれまで以上に強く持った気持ちのつもりで。


……


「すみませんわね。お使い事をさせてしまって。」


「いえ、大丈夫です。訓練、今日もお願いします。」


「ええ、それではいつものようにまずは体を温める所からですわね。」


「はい。」


……私が弟子である事が、ジャスティナさんのプレッシャーになるというのなら……だったら、私が弟子を止めればそれを取り除ける?


「……よいしょよいしょ……」


いいや違う。そんなのむしろ最低最悪だ。私を信じてくれたジャスティナさんの想いを無下にして、自分も一度決めた事から逃げるというもっともやってはならない行為なのだ。


「……よいしょよいしょ……」


だから私がやらなくちゃいけない事は……強くなって、ジャスティナさんが安心して私を送り出しても良いと思える強さを手に入れる事。ジャスティナさんの教えで強くなれたとそう思ってもらえる事……


「……よいしょよいしょ……」


教える側はいつだって大変だ。自分のやってる事が正しいかどうか迷いながら……それで良いと証明するには、結果を出すしかない。特にジャスティナさんはそういう人だ。


「さて、それでは今日もいきましょう。そろそろ惜しい所まで追いつめるぐらいまで来ても良い頃ですわ。」


自分のやっている事を意識し、理解する。全ては強くなる為の道のりだと。そして今現在のジャスティナさんから見た私のレベルだと、10本勝負の内、1度惜しい所まで良ければ上出来と見ている。それが今の私への評価。


「(……これを、越え続ける事……)」


ジャスティナさんにとって良い弟子である事。いつも予想を上回る成果を見せる事……それが何よりジャスティナさんへの報いる方法だった。


「初戦、行きますわよ!」


向き合って秒針が0になった瞬間より、私達の1分間限りの戦いは始まる。


「(ジャスティナさんの攻め手は相変わらずパターンが読めない。だから防御に回ろうとすると単純に反射神経だけの勝負になってしまう。)」


今回は低い位置からの斬り上げより始まる。


「うっ……くっ……!」


私も最初の何発かには対応出来る。けれど、そこから先の複雑な動きを読むというのは単純に厳しい。頭で考えながらも体を全力で動かし続ける事は……


カァンッ!!


「っ……」


「まず、私の一勝ですわね。」


……困難だ。どうしてもこの苛烈な攻撃を受けきるのは20秒ぐらいしか保たない。


「(なら……次は敢えて私が攻めてみるのはどうだろう……)」


防御に回る事で相手の手を読む立場になってしまうのを嫌ってこちらから攻撃を仕掛け続けるのは……


「……えええい!!」


「いい攻めっ気ですわね。」


私がそうされたようにジャスティナさんも私の連続攻撃に応手を返し続ける。だが、私と違ってその顔はまだまだ涼しい。


「……そこですわッ!!」


「っ……!!」


そして気が付けば、またも私の手から杖が手放されていた。


「重い一撃は相手にとってだけではなく、自分自身にとってもリスクのあるものですわ。大きく弾かれた時、その杖の重量が手にそのままかかるのですから。」


……それを握りこめ続けられるだけの握力がちゃんとあれば、それでもなお押す事は出来るはず……


「……」


3戦目、私は受け手側を選択する。


「守りに定評があるとは言え、ただ防戦一方なだけで1分間凌ぎ切れるとは考えない事ですわね!!」


……足をしっかり地に付け、腰を落とす。どっしりと構えての受け手。


「更に守りを固めてきましたわね。でも……」


「……えっ……!?」


固く、これまでより固く守備を整えたのにもかかわらず、私の腕は今にも武器を手放しそうになっていた。


「(ど、どうして……)」


やがて同じ結果が訪れたのは数秒後。結果は変わり映えの無いものと終わる。


「ただ身を固めるだけではまだまだですわ。一見堅牢そうに見えても、今の型はある程度一定の方向からの攻撃に備えていただけに過ぎません。だから逆に不測の位置からの攻撃には極めて脆くなってしまう……ありとあらゆる方向からの攻撃に対応するのは……正直あまりお勧めしませんわね。それは守りを突き詰めた戦い方……私があなたに教えたいのとは少し毛色が違いますもの。」


……守るだけ、では足りないからと思って私はジャスティナさんに力を教わっている。


「(攻めと、守り……)」


きっと大切なのはそのバランスと……その二つを織り交ぜながら繰り出す技術。どんな状況にあっても起死回生の一撃を繰り出す力と……たとえ優勢であっても一旦間をおいて不測の反撃にも対応出来る力……


「4戦目、そろそろ疲れも蓄積する頃ですわね。」


「……」


勝てずとも、せめて惜しい所までにじり寄りたい。


「……やぁあッ!!!」


「……ふっ!!」


私は刃を受ける。弱い力では無く、それこそ全力で。


「……その細い腕で、やはり……剛毅ですわね……!!」


「うぅぅッ……!!!くぅっ!!!!」


……勝てずともなんて、弱い気持ちでどうする!!それじゃあ予想を覆せない。


「……やぁっ!!!」


相手に攻めさせる自由を与えない!その為には力で圧倒して相手より上の気持ちで在るべき!私の攻撃に警戒する気持ちを与えれば……


「(ジャスティナさんは……一旦防御に回るはず……!)」


そして予想通り、ジャスティナさんは一瞬力を緩めた後、僅かに私から距離を取ろうとする。きっとそこから速やかに反撃に繋げるつもりなのだろう……


「(そうはさせちゃいけない!!)」


だから私はすぐさま距離を詰める!


「……!」


「……てやあッ!!!」


相手に考えさせる余裕を与えない為に……相手の思惑の常に先を行く!!攻撃を狙うならば回避を、回避を狙うならば追い詰める!


そう、戦いとは常に相手の心理を読んでその先を読むものなのだ。


つまりそれは、対戦する相手との心の対話。


「(ジャスティナさんの攻め手は分からずとも……ジャスティナさんの心ならちょっとぐらい分かる……どれだけ私の事を想って教えてくれているのか……!!その優しさを知ってる!強さを知っている!!)」


だから、もういい加減勝たなくちゃいけない!!


「たぁあああッ!!!」


「……くっ……!!」


やっと、ようやく、ジャスティナさんに厳しい顔をさせる事が叶った。


「これで……ッ」


そして……そこまでで満足したりしない……!!


「……やぁああああッ!!!」


最高のタイミングは二度と訪れないかもしれない。だから、今相対したこの瞬間に、それを打ち放つのが何よりの正解。


「……!!」


……最高の手応えからの一撃、触れた感触も、どこか心地良い。


「……ふふ、大した一撃ですわ。あなたから一本を奪われた時と同じ輝き……」


その賞賛が、嬉しかった。


「(私の……勝ち……)」


「でも……気を抜くのが早いですわね!」


「えっ……?」


ジャスティナさんの得物はその手を離れていった。けれどジャスティナさんから戦意は薄れていない。駆け出した先には、飛んでいった刀……


「……あ……!!そうか……ッ!」


気を、緩めるべきじゃなかった。


この勝負における私の勝利条件は、私が1分間武器を手放さない事。それ以外は私の負け……つまり……


「まだ時間が残っている以上……まだ決着はついていませんわ!」


「うっ……」


たとえジャスティナさんが武器を手放さそうとも勝敗には関係無かった。極端な話刀を使わずに足などを使っても良かったのだから。私が勝手に勝ちを確信しただけでしか無く、残り少なくともまだ時間はあったのだ。それなのに私は既に達成感に浸ってしまっていた……!


「惜しかったですわね!!」


「……あっ……!!」


……一度抜けてしまった気を取り戻す間に……私は、掴んでいたはずの勝利を手放してしまった。


あの瞬間を勝利と考えてしまっていた私と、その先をまだ見据えていたジャスティナさん……どちらが勝者に相応しいのか……もう、結果を見れば考えるまでも無く……


「(……諦めない……)」


……まだ、結果は出ていない……


「(諦めない……!!)」


だってまだ、私の杖は……宙を舞っている最中だからだ!!!


「っ!!!」


思い出せ!そして考えるより先に行動するんだ!!


武器を手放して……地面につかなければ私の勝ち!最初にそう決まっていた!!


「(残り時間数秒の間に杖をキャッチさえ出来ればッ!!)」


諦めの悪さだけを頼りにここまで来た私が……どうして、ここで諦めずに居られるものか!!


「……たぁああああッ!!!!」


全て出し切り、全てやり切る。


「……」


「……」


きっとジャスティナさんが教えようとしてくれていたのは、そんな心だった。やれる事を全てやって、勝利を手にする事。


「……ついに、一本ですわね。」


「……はぁ……はぁっ……!」


……私の手には、しっかりと杖が握られていた。


初めての勝利は、みっともない格好だったかもしれない。


けれど、その勝利をもぎ取った事でようやく私は少しだけ私の努力を認める事が出来た気がした。


この数日間が無駄ではなかったと、そう証明する事が出来たと。


「……さぁ、すぐに次の戦いが始まりますわよ。一度の勝利に慢心せず、ここから全勝を目指しなさい。」


……残念ながらその日はその一戦に全力を注いでしまった為か、それ以上の成果を出す事は出来なかった。しょんぼり。

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