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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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戦いのニ

「ジャスティナ将軍が何やら弟子を取ったと軍で話題になっているようです。」


「当然に耳には入っている。どうやらごく普通の冒険者であるという事も。」


執務室にて、皇帝とその側近はそのような話をする。軍事や政治と関係無くもこんな時間もあるのだ。


「ヤシャマの人間でも無く、素性も明らかでは無いのに、大丈夫なものでしょうか。一抹の不安もありますが……」


「不安を覚える必要は然程あるまい。才あるものは人を見る目を持ち合わせている。しかとその目で判断して弟子と言うものを取る事を決めたのならばそれに反対する事も無い。」


下々の者達の多くに干渉し過ぎる事で不自由さを生み、やがてそれが不満へとつながると知るからこそ、皇帝はなるべくの自由を許す。自分以外信用出来ない人間の弱さを知るが故に。


「だがしかし、ジャスティナ将軍の目に叶うというその冒険者がどのような人間なのか、興味が無いわけでは無い。」


「それは私も同意見です。直接見たわけではありませんが、背丈の小さな少女と聞いています。」


「……珍しく、いいや、極めて稀な事に、リッドがその者に興味を示していたようだったな。」


「リッド様が……ですか。それは確かに珍しいかと思います。」


その者を賓客として招いて以来、彼は大人しく大人しく過ごしていた。何に興味を抱くでは無く、時に書物を読み耽りながら。そんな彼が、他の誰かに興味を示すのを二人はほぼ見た事が無かった。


「機会があれば、直接会いに行くのもやぶさかではない。」


「お呼びしますか。」


「そこまでの興味では無い。」


「かしこまりました。」


個人を気にするよりも、彼は大局を見据えて動かなければならない。よって自分の興味など優先順位としては下位に位置する。さて、今日もヤシャマの一日は過ぎていく。


……


「ちぇ……いさぁああッ!」


「握りが甘くなっていますわ!力を込めるに一番寛容なのは握るその握力……そこを中心として力を解放するイメージで振り抜きなさい!」


「分かりました……!せい……やぁっッ!!!」


「今日は多く時間が取れるからみっちり鍛えてあげますわ。」


珍しくお仕事も少ないらしく、その空いた時間の殆どを私の為に割いてくれるとの事だった。そしてそこは遠慮するでは無く、しっかりありがたく受け取り、一日でも早く目標とする場所に辿り着く。それが孝行というものだ。


「(私から一本を取って見せただけあって戦い方は既に十分と言える程……ヤシャマの兵士のそれにも劣らぬ程の経験が見て取れますわね……そんな相手に私が教えられるとすれば……)」


「……せやぁあッ!!」


「(……技術の伸びしろよりも、心の伸びしろを育ませる事……)」


「……ふぅっ……どうでしょうかジャスティナさん。」


「……良く出来ていると思いますわ。言われた通りに。」


「ありがとうございます。」


……もっともっと、上を目指したい。自分で自分に自信を持てるだけの強さが手に入るようにと。


「……そろそろ体を休める為、少し外に出ますわよ。」


「あ、はい。」


時間も忘れて訓練に勤しんでいたから気が付かなかったが、そろそろ休憩の頃合いだった。


……


「よいしょよいしょ……」


ジャスティナさんと街を闊歩するなんて、新鮮だ。


「この場所は、どうかしら。あなたの目から見て。」


「立派ですね。城下町だけあってとても賑わっています。」


「私達はこの賑やかな喧騒を守る為に努力を積み重ねていますわ。」


「……分かります。守る為には、力が必要だから……」


守りたい者が、守りたい人が多ければ多い程、多くの力が必要となる。人の本来の力では人一人救うのだってとても大変なのだ。


「まだ、詳しく聞かせてもらってませんでしたわね。あなたの守りたいもの。」


「……大好きな人達の為に、いつも私の為に体を張ってくれる人達の為に私は強くなりたいんです。守られるばかりでなく……守ってあげられる私になりたいから。」


「模範的な解答ですわね。そして……それがあなたの嘘偽りの無い本心だと分かりますわ。それがあなたの人柄なのでしょうね。」


「……本当は弱くて俯いちゃうばかりの私だけど、たくさんの人がそんな私を支え続けてくれたんです。その時ようやく気が付きました。自分の力の無さを悔やんだって何の恩返しにも繋がらないって。そんな事いつだって誰だって出来る……大した事じゃない。本当に大変なのは、自分の弱さを知って、それでもそこから強くなろうと努力を続ける事……自分と向き合う事なんだって。」


才能だってもちろんあるだろうけど、強くなる事は一朝一夕なミラクルじゃない。もっともっと地味で堅実な積み重ねの連続。その末に求める力が存在する。強くなる事に近道は……無いんだ。


「……本音を言うと、私からあなたに教えられる事なんてあまり多く無いと思ってしまいますわ。私はあなたの師匠を務めながらも、あなたより劣っている部分もありますわ。いいえ……あなたには尊敬に値する部分がある。」


「そんな……」


「……あなたは目的の為に邁進しようとする強い意志がある。その意志が秘められた真っ直ぐな眼差し……とても、美しいですわよ?」


だとしたらそれはジャスティナさんを含め、多くの人達の協力で培われたものだ。諦めたくない必死な想いは確かに、ここにある。


「軽く、何か食べていきましょう。」


「分かりました。」


時間も時間で軽食屋さんに入って私達はフレンチトーストと飲み物を注文した。


「その小さな体によくそれだけ入りますわね。」


「ちょっとした自慢です。運動の後の食事は何とも美味しいです。」


「過酷な訓練の後は食欲すら湧いてこない者も居るのに、それだけ食べられる事は良い事ですわね。栄養をしっかり補給して明日の糧としなさい。」


でも食べ過ぎてこの後の訓練に支障が出てもまずいのである程度に抑えておこう。ふう、満足。


「あふぅ、でもジャスティナさん……本当にご飯代全部出してもらってしまって良いんでしょうか……」


それはこの場だけの話じゃない。何とヤシャマに滞在している間の食費は全部ジャスティナさんが受け持ってくれているのだ。


「弟子が遠慮するものではありません。悪いと感じるならばしっかり食べて強くなりなさい。」


……ジャスティナさんが思う弟子と師匠の在り方って、こんな感じなんだな。やっぱり優しい人だ。なので私はしっかりごちそうさまを告げて店を後にする。食べた栄養を力に変える為に。


……


「また、10戦10敗ですわね。」


「勝て……ません……」


同じルールで幾度も立ちあいを行っているのにも関わらず、どうしてもジャスティナさんから一本を奪う事が出来ない。今日までの立ち合いのその全て、どれも同じ攻撃方法は無かった。つまり過去のデータやジャスティナさんの行動の癖を見切って勝つと言う事が出来ないのだ。


「悔しいです……」


「そう簡単に越えられるような目標であってはシノも困るでしょう?こちらもそれ相応の力で当たっているだけですわ。」


実践では無くとも、本気で向かって来てくれている……それにたまたま1本取ったとて、そんなの偶然に過ぎない。運に頼らなくちゃいけないのは全力を出し切ってそれでも足りない時……基本的には自力で困難を乗り越えるのが基本……


「何となく想像しているかもしれませんが、これはまだ第一段階に過ぎませんわよ。私一人を相手にする事が叶うようになったら……次に進みますわ。」


……まだまだ課題は尽きない。こんな所で立ち止まってられるもんか。


「さて、今日は体を動かすのはこの辺りにしておきましょう。ですがまだ終わりではありませんわ。私の部屋に一緒に来なさい。」


連れられるは私がお泊りさせてもらってるお部屋。


「本を選んで持ってきてありますわ。これを読みなさい。」


「ありがとうございます。」


手渡されたのは魔物について書かれた図書と、戦術指南書だった。


「ただ読むだけでは無く、あなたも旅の先で多くの魔物と立ち会ってきたはずですわ。頭の中で敵の動きと自分の動きをシミュレーションして仮想の戦いをするのです。イメージトレーニングですわね。そしてそれも同じ戦い方では無く、敵の応手をいくつも考えてそれに対抗する戦い方を幾万と考えなさい。シノの頭の中に新たなやり方が思いつかなければ指南書を読んで新しい攻め方を学びなさい。」


体を動かすばかりではなく、予め様々な状況を想定する事も大事か。よし……やろう。


「私は先に体を洗ってきますわ。」


「了解しました。」


ジャスティナさんの私室にはしっかりお風呂が完備されている。私もしっかり今日の疲れを落とそう。


「もくもく……」


空からの敵と戦うには……向こうが攻めて来たところにカウンターを打ち込む……けど、もし炎を吐いて来るような敵だったら……


「もくもく……」


辺りに何か高い所に登れる木のようなものがあればと思うが……もしなかったら……その時は一旦逃げて姿を眩ませよう。すると敵はこちらを探すはず……


「もくもく……」


こんな時飛び道具があれば距離など関係無く攻める事が出来る。爆弾のような遠距離系のアイテムなどを常に道具として持っておく事でそんな相手とも対応出来る……


「もくもく……」


そしてもしも空からの敵が複数だった場合……これは相当なピンチだ……一人で切り抜けるには力押しではどうにもならない。やはり各個撃破が上策だけど……


「もくもく……」


力量差を考えると……勝って勝てない事は無いけれど、それはその勝負一回こっきりの時の話……冒険の最中だったら一回戦ってもすぐまた次の戦いがやって来る……なるべく被害を最小限に抑えて戦うには……


「上がりましたわ。次はシノの番ですわよ。」


「もくもく……」


「シノ、上がりましたわ。お風呂に入って来なさい。」


「……はっ……!ジャスティナさんいつの間に……」


妄想の中に入り込み過ぎて気が付かなかった……


「よく集中していたようですわね。何をすればいいか分からず迷っていたりしていなくて安心しましたわ。さぁ、今日の疲れを洗い流してきなさい。」


「りょ、了解しました。」


……入って来ようっと。


……


「はぁ……」


流石にお風呂ではのんびりしてしまう。


「ジャスティナさんの入った後のお湯……」


何だかとても気品に満ち溢れた液体に浸かっている気がする……


「って、まるで変態さんですこれでは。」


シド様の事言えないな。


「ジャスティナさんの使ってるシャンプーやリンスってこういうものなんですね……(まじまじ)」


私も流石に女性らしく自分の愛用の物はあるが、ちょっとジャスティナさんの使ってるものにも興味があった。あんな整った髪質を保っている秘訣が一体どのようなものなのか興味が無いはずも無い。


「私も髪を伸ばしてみたら……どうなるでしょう……」


似合うかな。シド様が喜んでくれるなら伸ばしてみても良いけど……どうかな……


「……想像出来ません。」


敵との仮想戦闘は想像出来ても自分の髪が伸びた姿が想像出来ない不思議。


「そして……今日も目標を達成出来ませんでした……」


……10本中5回以上、ジャスティナさんに勝つという目標……その達成は未だならず。


「(……今日も夜中にランニングですね。)」


……この空の下でシド様もシド様のやるべき事を頑張ってるはずだ。そう思えば私もいくらでも頑張ろうという気になれた。


「(ジャスティナさんのおかげでお城の施設もある程度使わせてもらえるし……今日も筋トレしてしまおう。)」


しっかりと揃った機材があると効果も期待出来る。ただしやり過ぎてガチガチの筋肉になってしまうと動き辛くなるから目指すべきは柔らかく柔軟さを保ちながらの筋肉だ。女の子らしく。


「う~ん、それにしてもジャスティナさんもリンカスターさんも女性らしい細腕なのにどうしてあんな軽々と剣を扱えるのか不思議です……」


無駄の無いスマートな体だからこそ、美しく優雅に見えるのだろうけど、私があの領域に達するのは相当遠いな……


「……出来るだけの努力をしましょう。そうしましょう。」


お風呂から出た後も二人で夕食を食べてまた少し訓練を付けてもらった。寝る前にもう少しだけ体を動かすと伝えるとジャスティナさんが見てくれる事になった。


「弟子の体調管理も師の務めです。明日に疲れが残らないように見ていてあげますわ。」


至れり尽くせり……本当にいい先生だ。


「終わった後はしっかり体をマッサージして疲れをなるべく残さないようにします。さぁ、横になりなさい。」


「そ、そこまでしてくれるんですか……」


「師とはそういうものですわ。」


「そういうものですか。(そうかなぁ?)」


……恐れ多いジャスティナさんのマッサージだったけど、効果抜群でとても気持ち良かった。

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