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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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敵を知り、己を知り

「……すすす……」


優しくもしっかりとホールドされている私はシド様を起こさないようにしながらちょっとだけ体勢を入れ替える。いつもは背を向けている私が、珍しくシド様と向かい合わせになる。


「……」


「(……寝てる。)」


当然も当然、今は明け方4時。こんな時間にまだ起きてたら不眠症の気があると言われてしまう。


「(……)」


冒険ばかりしているけれど、こうしてじっくりと見つめているとカッコいいながらも端正なお顔をしている。私がキュンと惚れてしまうのも無理は無い!


……と言っても私も決して顔の良さで相手の好き嫌いを決めているつもりは無い……はず。


「(あふぅ……そうは言っても、やっぱりカッコよくて……好き……)」


……いつもいつも背中を向けて寝てしまうのは嫌いだから……なんて事は全く無くむしろ逆。


「(毎日毎日向き合うようにして寝ていたら私が興奮のあまり眠れないから……そして、目が覚めた時にこんな素敵なお顔があったらビックリしちゃうから……きゃあ!)」


我ながら……もう既にシド様の虜であった。


「(……うずうず。)」


したい……そう、ふと頭に過ぎってしまう。


意志薄弱な私は、やっぱり親としての資格に欠けているのだろう……


「(……せめて……)」


……そう。それならば、せめて……


「……」


眠っているその無防備なお顔に私は自分の唇を接近させる。


「……」


そして、くっつける。


……本当はほぺたにした方が良いかとも思ったが、結局マウストゥーマウスを選んでしまった。だが、やはりその選択をした事による私の心の充足感は生半可では無かった。


「(……ああ、やっぱり好き……好きですシド様……大好きで大好き……)」


抑えなければならないこの想い、とめどない。いっそこのまま私の方から襲いかかってしまいそうなぐらいに。


ただ一方的なキスをしているだけでこんな事になっているのに実際に情交に及んだら私はいつもの私を保っていられるのだろうか。


……無論、そんな日が来るとしたら遠く未来の話だ。それは私が為すべき事を全て終えたその時のみ。


……このキスと言う行為が、私に許された本当のギリギリのライン……私がまだ私で居られる、自制心を保てるライン。


「……」


いつまでもそうしていたい気持ちをどうにか押さえつけて私は、シド様との接触を終えて、再び反転する。


「(……ごめんなさい……あなた達を死なせてしまった責任も取らず、自分本位な事をする私を……お母さんを許してください。)」


……これで、一旦は振り切ろう。ただ前へ進む事だけに……邁進しよう。


それは私の自由意志では無く……己が課した決め事……絶対にすべき事なのだから。


「(……おやすみなさい、シド様……)」


……


「(なんか、急にこっそり動き出したから様子を伺ってたら……)」


突然、キスされてしまった。バレないようにとずっと目を閉じていたからどんな顔をしていたのかは分からなかった。


「(う~む……反撃して襲い掛かるべきだったか。いや、何を考えているんだ俺は。)」


シノの奴は行為に及ぼうとすると突如過去の何か暗い過去がフラッシュバックされる節が見受けられる。あれがある限り実行した所で変な所でお預けになるのが目に見えている。


「(時間はかかるかもしれんが……まず、何があったのかをハッキリさせてそれを完全に解消したと確信出来た時……だな。)」


今の行動を見るに、シノは俺に惚れ惚れの惚れの字である……と、思いたい。なので実際シノだって俺に愛されたいに違いない……と、思いたい。


「(ゆくゆくはそっち方向にも手を付けていって……その時が来たらそれまでの鬱憤を晴らすかの如く毎日毎日可愛がってやろう。)」


そうだな。耐えて耐えてようやく出来るその瞬間の快楽を思えばまだまだ我慢出来るはず。幸いなんて言ったら不謹慎だが、今は情事に耽るよりも退屈しないような事ばかり巻き起こっている。


「(……今回は流石にあれだな、何の無策でただ戦うってわけにもいかない。人質が居る以上……ある程度頭も使っていかねえとならない気がする。)」


もう少し自分から知りに行くべきかもしれない。今俺達が相対しているその敵というものに対して……


……


「シド様シド様、私これを買って来ました。」


本屋さんの開店と同時に入店した私は誰よりも早く入って誰よりも早く店を出ていった。これを携えて。


「ん?随分厚い本だな……なになに……?動物図鑑?」


「本屋さんに売っていたのでこれだ!と思って即決で買って来ました。言い値で買って来ました。」


「……もしかしてこれはアレか?奴らの能力を突き止める為に……」


「です。」


「ジェイやエルが言ってたもんね、戦ってる最中に色々敵から聞き出せたって。」


「確か、あれだよな。動物の力を手にいれたとか何とか言ってたって……」


「らしいです。」


魔結晶によって魔物の力を手にしたパターンはあったけど、今度は動物か……魔物より些か可愛いのかと思いきや、あんまり大差無かったな……


「ジェイさんから教えてもらったところによると、戦ったその相手はカンガルーさんの力を持っていたと言っていたそうです。」


「カンガルーねえ……」


「フットワークも良さそうだったし何となく納得かも。」


「それもただのカンガルーさんでは無かったようです。えーと……」


買って来たばかりの本を開いて目次を見る。目で追って……やがてその名前を見つけ、そのページを開いて二人に見せる。


「これです。ヒル・カンガルー。」


「「……」」


ザックリと読むとこう書かれていた。


荒野に生息する種で、周囲の狂暴な動物に負けない程の力を持っている。人間への敵対度は中ぐらいと言った所。基本的にはあまり近寄らない方が良い、と。


「ちょっと鋭い顔つきしてるねぇ。いかにも狂暴な感じかも。」


「俺からすれば所詮カンガルー風情でしか無いが、そいつの力を人間が使ってるってのが今回のパターンなわけだ。」


動物さんは私達と言葉を交わす事が出来ない。また、人間と比べると文明を築いたりするようなレベルの知性は無いのかもしれない。


けれどそれを補ってか、人には無い凄まじいパワーがある。もしも知恵を持った人間がそれを振るえば……やはりそれは脅威だろう。


この間の戦いを制す事が出来たのはエルさんやジェイさんが人並み外れて強かったから。やはり私のような未熟な冒険者がまともにぶつかったら苦戦はもちろんの事……最悪、負けていたかもしれない。


「そうなって来ると、レイナードを倒したって人や、雪美をさらったアープデイも全部全部そんな力を持ってるって事なのかな。」


「ですね。おそらく乗り物で会ったイージスと言う人……そして森で私達の前から飛んでいったあのイルと言う人もみんな……」


フウマさんから聞いたシエンタ、アメリアと言う人達も……きっと。


「そう言われて考えて見ると、あのイルって奴は明らかに人じゃない姿を見せて来た。ありゃ、何かの鳥の力かなんかだったわけだ。」


「飛んでたもんね。」


「でも流石にあれだけじゃどの鳥さんの能力を持っているのか分かりません……鳥博士さんだったら羽の種類を見ただけで分かるのかもしれませんが……」


私がこれを買って来たのはやはりどの動物の力を持っているのか、それを知る事で何か弱点を掴めるかもしれないと思っての事。


こういう場合は得てしてその動物の特徴をそのまま継承してしまっているのがパターン。長所だけでなく短所も。


「あのアープデイって奴は……姿を消してみせたよね。」


「姿を消す動物なんて……一つしか思いつかねえな。」


言わずとも私達の意見は一致していた。だからその動物のページを開く。


「「……」」


……カメレオン。


「保護色って言うんだよね、こういうの。」


「体の色を変化させて周囲に同化する……ただそれだけなら凄い能力なんですが、これを使って悪用されてしまうのは困ったものです。」


「だからケイも背後に忍び寄られても気がつけなかったんだもんね……姿が見えないんじゃ結構厄介だよ。」


人をさらうという分野にかけてならばこれ程までに適した能力も無いもんだ。せめてこの能力を持っているのがアープデイだけである事を祈るしかない。世界各地であんな騒ぎがあっては大混乱は免れない。


「カメレオンってだけでも……意外と種類があるもんだな。」


これまで関心を持った事が無かったからあれだけど、確かに種類は思いのほか多い。しかもこの本に載ってない種だって居るんだろう。


「何か対策と言うか、弱点を見つけたいのですが……」


「ふーむ……」


いつもはあっさり解決方法が浮かぶシド様だが、流石にちょっと難航している様子。まだ何か決めあぐねている。


「カメレオンって言っても……普通のカメレオンじゃないよね。クロックが斬りつけたのに全然効いてなかったみたいだし……」


「……そもそも、傷が無くなっていたって話……ですよね、シド様。」


「俺は、そう考えている。武器で相手を斬りつけた時の手応えで当たったか、そしてどれだけのダメージを与えたかぐらい分かる。だから幻覚とかそういうこっちゃねえ。そして、効いていなかったというのと傷が無くなったのは似ているようで少し違う。」


「そっか。血の跡だってあったって事は……傷を負ったけど、すぐに塞がったって事?」


「……そんな特徴があるカメレオンは、居るのか?」


負った傷を治してしまうような、そんな特徴のあるカメレオンは……


「……あ……」


……居た。それと思わしき記述が、そこには記載されていた。


「オオヤマオオカメレオン……傷ついても高い治癒力でたちどころに傷を塞ぐ事が出来る……」


「これだよきっと!」


「素早い逃げ足とも書いてあるし……なるほどな、確実かどうかは分からんが、かなり可能性は高い。」


……よし、文字通り尻尾を掴んだぞ。


「何か弱点は弱点は……」


「「……」」


……ありゃ、特に弱点は書いてなかった。


「とりあえず基本的には人に害を加えないので見かけても放っておいていい……だって。」


「何だこの本。使えねえな……返品して来いよ。」


「そ、そんな……」


朝一番に買って来たのに……


「まぁでも、普通そうじゃない?図鑑はあくまで動物の性質や特徴を知る為の本であって魔物を倒す攻略本じゃないんだもん。」


「……一応、まだ持っておきます。これから先役に立つかもしれませんし。」


今後奴らと会ったらなるべくその動物の種類を探り出すようにしよう。今回はダメでも次は何か掴めるかもしれないし。


「んじゃあひとまずこの件は置いておいて……依頼所に行ってみるか。」


「はい。ラミさんから何か情報があるかもしれません。」


と、そんなわけで宿から依頼所へ最短ルートで向かう。


……


「よいしょよいしょ……」


もはや手慣れたもので勝手知ったる我が家のように。


「レイナード、早く目が覚めるといいね……」


「寝かせときゃいいんだよ。起きて来たとて何が出来るもんか。」


「一応傷の方はもうほぼほぼ大丈夫らしいですけどね。」


エナさん曰く驚きの回復力で、流石隊長さんとの事らしい。


「起きたら起きたできっと、ナナを探しに行っちゃうだろうしね。」


「もしそうなったら私達も一緒に行きましょう。」


「冗談止せ。なんで野郎と一緒に行動しなくちゃならんのだ。」


「でもレイナードさん強いですよ?」


「俺の方が強い。」


そりゃそうかも知れないけど……もう、シド様ったら張り合っちゃって……そういう子供みたいなところもまた可愛いんだから……


「てれてれ……」


「そのタイミングで照れるのか……」


呆れられてしまった。


「見ーつけちまったぁ、と……」


「「!?」」


瞬間的に、そちらを振り向いた。何故なら聞き覚えのある声だったから。そして私達に聞こえるようなわざとらしいボリュームで語り掛けて来たから。


「随分楽しそうに歩いてるじゃねえかよ。サッコロで顔を合わせた時ぶりだな……」


……そいつは、私達の追いかけていた宿敵であり……同時に向こうも……こちらを追いかけていたのだから。


「……アープデイ……!」


壁に寄りかかって両腕を組んで余裕そうに佇んでいる。その落ち着いた感じが……癪に障る。


「あの時は俺一人だったから見逃してやったが……今回はお前一人狙いだ。キッチリさらってやるよ……」


向こうはそう宣言する。


「……こっちだって、そっちの思い通りに行かせるつもりはありません。」


だからこっちだって宣言してやる。


「お前をぶっ飛ばしてとっととナナと雪美の居場所を吐かせる。覚悟しとけ。」


「……ひゅう。おっかねえ。」


よく言う。口笛なんか吹いたりして見てまるで恐怖など感じていない様子なのだから。


……私とシド様の想いは同じ。


「(こいつの好き放題にさせてなんか……やるものか!)」

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