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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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激動の前の静けさ

「うん。間違いないよ。」


「じゃあこれが……清き言の葉……」


その宝箱から出て来たものこそ私達が探し続けていたもの。


「ようやく……見つかったな……」


時間にしてみればたったの二日程度。でも……それに出会うまでの私達の心境たるや、気が気では無かった。


……他人の事なのに、まるで生きているようでは無かったのだ。


「これを使えばナナちゃんの事が……」


「本当なら居場所が分かるようなアイテムだったら良かったかもしれないけど……」


そちらの可能性の方が薄かった。このアイテムとて容易に手に入るものでは無いが……


「……確かめて、見ようじゃねえか。」


「「……」」


私もタンザナイトちゃんも、息をのむ。そのアイテムを使用する事に。


……でも、恐れてはいけない。その為に来たんだもの。


……神聖なる森、バラハラ。ここでは植物にまつわるアイテムが手に入りやすい。その中でもレアアイテムに分類されるのがこの……清き言の葉。見た目にはちょっと大きな葉っぱでしか無い。


けれど当然それだけでレアアイテムとなるはずも無い。タンザナイトちゃん曰く、このアイテムを使うと使った人が想い願った人物の現在の状態が分かると言うのだ。


私がシド様の事を想ってこの葉っぱを握ると……色が変わって、その色によってその相手がどのような感情を抱いているかが分かると。


もし私の事を好きでいてくれたら……なんて、てれてれ。


……冗談は私の妄想の中で留めておこう。


無論、私が今知りたいのは……未だ行方知れずのナナちゃんの事……おそらく雪美さんも同じ場所に居るのだろうけれど、基本的にはさらわれたのが早く幼いナナちゃんの方が危険に晒される可能性が高いとみている。


今、無事で居てくれているかどうか……少なくとも安否確認だけはしたいという私達の願望も大いに含まれている。


……この葉っぱを握り、何一つ反応が無かったとしたらそれはつまり……既にその対象の人物は何も抱く感情が無い……既にこの世の者では無いと同義である。


「……私が、握ってみます……」


……ナナちゃん、どうか……無事でいて……!


強く……強く!そう願って私は……葉っぱの先端を強く……ギュッと……握る!!


「「……」」


目を閉じている私に分かるような変化は……現れなかった。


「(この目を開いた時……もし、握った時と何も変わっていなかったら私は……私は……)」


「あっ……!」


……やがて、タンザナイトちゃんが小さく声を発した。


私も恐る恐る……目を、開く。


「……あ……」


「緑色に……光ってるな……」


……元々そんな色をしていたけれど、こんな光り輝いてはいなかった。葉っぱは私の手の中で綺麗に……綺麗に輝いていた。


「じゃあ……じゃあナナちゃんは……!」


「……大丈夫、って事だよな。タンザナイト。」


「……うん。大丈夫。それに……緑色に光ってるのは、悪い状態じゃないはず……酷い目に遭わされたりしてたらたとえ生きてても心は不安を感じて……赤や黄色を示す。緑はむしろ……まだ元気が残ってる証拠だよ!」


「……良かった……」


まだ助ける事が出来たわけじゃないけど……それでもホッと……安心する。ナナちゃんがさらわれてから今に至るまで……心から安心出来た日なんて無かった。


今はただ……無事で居てくれる事が私に希望を与えてくれる……


「ひとまず無事なのは分かったが、かと言って放っておいても良いわけじゃねえ。これで安心しちまわねえようにしないとな。」


「……はい。絶対絶対、助けに行きます。全速力で。」


「ナナは小さいけどしっかりしてるから……きっと、私達が来るまで頑張ってるんだよ。」


「……」


あんな良い子からの信頼を……裏切ってなるものか。


「(待っててナナちゃん……それに雪美さんも……必ず……必ず助けますから……!それまでどうか、無事で居てください……)」


祈るだけでは、変わらない現実に立ち向かう為に私は……踏み出す。


更に、今より更に。


……


「……」


外界より閉ざされたこの牢獄の中で彼女は、黙していた。死んでいるわけでは無い。無論意識もある。その上で、横たわっているだけに過ぎない。


「……一体、いつまで、こんな状況が続くんだろうな……」


「……」


「あぁっ……!!!クソおおッ!!!」


澄んだ水のような心の彼女と違い、こちらは感情の昂ぶりが激しく荒れていた。まるで突然やって来た雷のように。


「こんな場所に俺達を閉じ込めやがって……!!おまけにこんなもんまで嵌められて……クソがぁッ!!」


「……」


今日まで鍛え上げたその技量をもってしても、その両腕に課せられた束縛を振りほどく事は叶わなかった。


「あの野郎共……俺達をさらって何を企んでやがんだ……!!」


「……」


「どうせロクでも無い事なら……さっさとこんな所からおさらばしてえってのに……あぁあ!!どうやったらこの手錠は取れんだよ!!!」


鍵穴も何も存在しない。腕にピッチリと嵌って完全なるロックが為されている。これでは解錠もへったくれも無いというものである。


「スイゲツ!!俺達いつまでこんなとこで油売ってるつもりだよ!なんかいい考えはねえのかよ!!ああぁああッ!!!」


「……」


スイゲツと呼ばれたその忍びは……少しばかり目を開けてはみるが、やがてすぐに瞳を閉じてしまった。


……ほんの少しだけ早く悟ってしまったのだろう。今の自分達の力ではこの状況をどうにもする事が出来ないと。


だがだとしても足掻こうとするもう一人の忍び、ライオウの行動はむしろ自然。実際に出来るか出来ないかを知るのはやはり神のみ。だからこそ人は諦めないのだ。可能性に0は無いと信じているから。


「……」


……きっと、やはり彼女はまだ立ち直る事が出来ていないのだろう。


大きな心の支えであった慕う師の存在、そして……密かに想いを寄せていた同胞の喪失……その二つのショックは未だ彼女の心に影を差している。だからこそ、このような囚われの身となったとて歯向かう気力が沸き起こって来ないのだ。


「(……どうにも、ならない。)」


分かっているから、動かない。


「(……もしもこれが影瞬様や……あるいは、カラマだったならば……)」


……分かっているから、動けない。


「(……考えたところで、現実は変わらない……今の私達には、どうする事も出来ない……)」


……二人の首へと嵌められた首輪に記されている数字、602と603と言う二つの数字がどこか悲しく見えた。


……


「しかし随分ケチなアイテムだな。」


「?」


その手に持ったそれをヒラヒラとさせながら何やらお気に召さない様子のシド様。どうしたのかな。


「一個の葉っぱきれで一人分しか見れないなんて渋すぎる。」


「なるほど。」


納得した。


清き言の葉は凄いアイテムだけど無尽蔵に誰の情報もたちどころに分かるわけでは無い。と言うより今ここにあるそれはもはやナナちゃんの安否を確認専用のものでありそれ以外の事には用を為さない。その為に雪美さんの正確な現状を把握出来ない事に少々ご立腹なのだろう。


「どうどう。」


「あ?」


「……失礼しました。忘れてください。」


いけないいけない。先んじてこんな事をしてしまったら、俺は馬じゃねえ!!って言われてしまうのが目に見えていた。ストップシノちゃん。


「一つの葉に込める事が出来る想いは一つだけ……だから仕方ないよ。それに今回はどうにか一つ手に入ったけど一つ持ってる状態でもう一つ手にいれようとするととっても入手難易度が上がるんだって。」


「らしいな。どういう了見か知らんがよく分からん縛りだ。」


宝箱から出て来る確率がとにかく低くなるんだって。だから私達はあの場所での探索を切り上げて来たというわけだ。


「ちょっともったいないですけど、それでもタンザナイトちゃんが教えてくれたお陰で少しだけ気が安らぎました。ホッ……」


「えへへ~、褒めて褒めて~。」


「なでりなでり。」


「わぁい。」


あふぅ、可愛いよぅ……


「……ったく。」


ちょっとだけ……ほんの束の間だけど安息の時間を過ごしながら、依頼所へとひた戻って来た私達……


「お帰りなさい。それで……どうだったの?」


ラミさんも私達を視界に入れるやすぐさまそれを尋ねて来た。あるいは私達よりもずっとずっと心配している人かも知れないし……当然か。


「とりあえずの所、無事であるっぽいのは確認出来た。この通りな。」


そう言ってシド様が差し出した葉っぱはやはり緑色に発光している。


「……これが、ナナちゃんが無事って言う事なの?」


「光ってるって言う事は何かしらの感情が渦巻いている……つまり生きてる証明。そしてその色は精神状態を表してる。今はまだ見える限りでは……少なくとも悲しい気持ちとかにはなってないんじゃないかな。もちろん……心細いんだろうとは思うけどね……」


「……まだ、小さいんだもの。必死に怖い気持ちを押し殺しているに違いないわね。」


「……」


「……ごめんなさい、別にシノちゃん達を責めてるわけじゃないの。何も出来ずここで帰りを待ってる私なんかよりよっぽどシノちゃん達の方が頑張ってくれてるのに私ったら……酷い女ね。」


「そんな事……ありません。ちゃんとラミさんの気持ち、分かってますから……!」


力があるか無いか……それだけで相手を想う気持ちが決まるなんてあり得ない。


ラミさんがナナちゃんを想う気持ちはきっととっても強い……もし力があったら仕事だって投げ捨ててきっと助けに行く事だろう。そう確信する。


「餅は餅屋……荒事は冒険者に任せておけ。お前は……あいつが帰って来た時に喜ぶようなサプライズでも考えておけよ。」


「……」


その言葉はシド様にしては珍しく……目に見える優しい言葉だった。ましてやラミさんにそれを直接伝えるなんて流石に想う所があるのかもしれない。なんだかんだ言っても、きっとシド様はラミさんの人柄を信頼している。同時にラミさんも実はシド様の事を……


「あんたにそう言われると……なーんか裏があるように聞こえて仕方が無いのよね……今回の事を恩に着させて後で何か請求しようと企んでるんじゃないでしょうね。」


ありゃ、信頼してなかったようだ。


「……おい。なんでそんなに信頼が無いんだよ俺は。」


「日頃の行い。」


「……」


納得。


「……ふふ、なんて……嘘よ。ありがと。今回ばかりは……あんたの無茶苦茶な強さがちょっとだけ安心だわ。」


「ラミ……」


「あんたがその気ならきっと……あの子がこの世界中のどこに居たってきっと血眼になって探し回ってくれるんでしょ?だったら……私も少し安心して待つ事にするわ。世界最強の冒険者さん。」


「……」


……そうだ。シド様は、凄い冒険者なんだ。探すと決めたならどこまでだって追い求める。それだけの力がある人……


そんなシド様を私は精一杯……サポートしよう。少しでも……一秒でも早くその目的地へ辿り着けるよう。


……


「エナさん……レイナードさんは……」


そして依頼所に来たなら……私は一人お見舞いに来る。


「今は眠っています。まぁ……あの日から、まだ一度も起きてはくれていませんが……」


「……」


「あ!でもでも大丈夫ですよ?命には何ら別状はありませんから!ただ、あの大怪我からくる痛みと極度の疲労……そして心労が祟って今も尚こんな状態が続いているんでしょう。人の体って不思議なもので、その人の意志とは違う行動を取ろうとするんです。当人がそう思っていなくてもこれ以上続ければ命の危険がある時には……無理矢理にでも体を休ませようとしたり、ですかね。私的には今は悩んだり苦しんだりを忘れて心と体の回復に努めて欲しいって思うんです。」


「……はい。私も……そう思います。」


ナナちゃんが未だ戻って来て居ないこの現実は……レイナードさんには辛いよ……


出来る事なら……目が覚めたその時に真っ先にその目に飛び込んでくるのがナナちゃんであれば……どれ程良い事か。


「(……思ってるだけじゃ、ダメだ私……)」


そう。だったらいいな……を、現実にするのは私の役目。


……私が、やらなければならない事なんだから。

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