セコンドアウト
「てえい!ビームビームビーム!」
戦場を幾度も飛び交う光線の嵐。
「随分と、厄介な……!」
効いている……直接当たらずともケイさんのビームは確実に敵に恐怖を与えている。つまり効果があるからだ。それに今の人数的にもこちらが優位なのは確実……
「(逃がさず……捕える!)」
「こ、これは流石に……!」
「観念……して貰います!」
「っ!」
敵の隙をついてアイさんの鞭がしなりを上げて伸び切り……やがて敵を捕獲する!
「し、しまったっ……!!」
「よしまずは一人!!アイ!逃がすなよ!」
「分かっているわ。」
これで後はあのイル様と呼ばれたあの人だけ……
「(……それにしてもあの人……素早い。)」
「殺さねえ程度に叩きのめす!!」
「ビーム!!」
チュン!!
「うっをぉ!!?」
おっと、シド様の隣をビームが通り抜けて行った。危ない危ない。
「ちゃ、ちゃんと狙えー!!」
「うや……!狙ってはいるんだけど……うゆぅ……そんな近付かれてたら流石に無理があるよぉ……」
ケイさんの言い分もその通りか……くっ、素早い動きを止める為にはある程度のダメージが必要だけどそれを当てる事が出来ないのでは……
「少々粘ってはみましたが……どうやらこの辺りが潮時のようですね。」
「何ぃ!?」
「……出来る事ならば、この姿を晒したくはありませんでしたが止むを得ません。受けるならば死の苦しみよりも……罰の方が遥かにマシですから。」
何か、隠し持っている奥の手があるかのような口ぶりだった……
「……何を企んでんのか知らねえが……」
「逃がしはしねえ!!!」
「……」
シド様とジェイさんが一斉に襲い掛かったその瞬間であった。
バサァ!!!
「「!!」」
私だけでなく、誰もが目を疑った。
人の、背中から……
「……つ、翼……?」
「……」
それは天使が生やしているような絵本の中のものと言うよりは、どこかもっと自然の中で養われてきたもの……鳥の羽のように見えた。
「腕からなんかも……何か生えて来てる……!」
やはりそれは羽であった。今分かる事だが、先ほど味方にトドメを刺した時に使用されたあの羽は……あの人が放ったアイテムと言うよりは体の一部だったのだ。
「……ふっ……!」
そして彼女は、先ほどと同じようなモーションで……腕を振り抜く!!今度の標的は……
「!?シド様!!!」
真っ直ぐそれが向かっていくのが私にも見えた。ならば当然眼前に居るシド様には……
「……ふんっ!!」
……見え見えだった。
「良い集中力ですね。この姿で少し動揺を誘えるかと思ったのですが。」
「多少姿形が変わったとて、美人が美人である事に変わりないならどうでもいいこった。」
「……あなたにとって重要なのは容姿、外見なのですね。理解しました。」
あらら、良くない所を覚えられてしまったものだ。
「やはりこの姿とて、あなた方と交戦を続けるのは不利であると否めません。ですが……逃げるにはこれ以上ない十分さを持ちます。」
「目の前でそう宣言されて……誰が逃がすと……!」
バサァッ!!!
「!!」
その到底見掛け倒しには見えない翼が……大きくはためく!
「真っ向から、逃げさせてもらいます。」
「ッ……!!速い……ッ!!」
その姿を目で追った先には、もう、振り切られている程に……!!
「目で……お、追いつけない……!!」
「ううっ……び、ビームビーム!!!」
極めて狙いが重要なそれはもう、敵の姿を捉えられない。完全に狙いがズレてしまっているせいでまぐれ当たりすら期待出来ない程に。
首を行ったり来たりさせて右往左往する私がようやくその姿を捉えた時には……
「ああっ……!!」
……完全に、遅かった。
「い……イル……様……ぁ……?!」
やられた……!!狙われたのは私達では無く……
「助けるつもりだったのですが、この状況では困難と判断しました。ですがあなたも組織に属する者ならばこう言った覚悟も承知の上だったはずですね。」
「……う……ぇ……え……」
首の後ろに……鋭利な刃……!!
「そこまでして……口封じするのか……!!」
「……ヤバいって、お前ら頭どうかしてるって!!」
「判断するのは自由。どう判断されても私は何も感じません。」
……これで、再び情報を得る手立てを失った。残るはあの人だけなのに……今まさに、私達の前から逃げおおせようとしている。そしてそれをみすみす見送る事になるのが目に見えて分かる……!あの速度には追い付けない。
……また、また逃してしまうのか……
……ナナちゃんや雪美さん達を……これ以上長い事酷い目に遭わせる事に……
……私は……私は……
……
「っ……はっ!!」
「その鞭も中々ですが、私を捕らえるなど流石に無理があります。」
アイの鞭も……ケイのビームも、そして俺やエルや野郎の攻撃など当然に届かない。せめて、もう少し遠距離を使える手数があれば……!
……なんて、自分が出来もしない事を他人に要求しようとするさまはみっともないでしか無かった。
「たまたまではありましたが、結果的に秘密の漏洩を防ぐ事が出来ました。しかし……この姿を晒してしまった事や彼らの命が奪われてしまった事を思えば……やや、マイナス。あまり褒められた結果ではありませんね。」
「全部自分達でやった事だろうに……!!」
「そうですね。このお叱りは戻った後で潔く受ける事としましょう。では……」
……完全に……取り逃がしてしまう。
俺達は再び手がかりを……
「待て。」
「……えっ……?」
「っ……?」
まさに文字通りこの場から飛び去ろうとする奴の興味を惹いたのか、その声の通りに奴は留まる。
……だが、俺は今この瞬間においても、分からずに居た。
その言葉を発した人間が誰であるのか。
「……たとえ、お前達がどれだけ逃げようとも……私達は必ずお前達の元へと辿り着くだろう。何故ならそれは……斬ろうとしても斬れぬ縁……宿命に他ならないのだから。」
……分からない。こんな凛としてハッキリとした喋り方をする奴が……この場に居る人間に該当しない。
「……まるで、詩を読んでいるかのような物言いですね……」
「事実を口にしたまでだ。それに……たとえお前がひた隠そうとしたところで、それは無意味な事。何故なら私はお前の覆い隠そうとするその真実を……とうに知っているのだから。」
「……!」
……本来であれば、先ほどから喋っているその言葉を口にしている人物の姿を見れば理解出来るはずだ。口の動きと声が連動しているのだから、ああ、あいつがこれを口にしているのだと分かるはずだ。
……だが、それを経ても今も尚……俺は、理解が追い付かずにいた。
「シノ……?」
……100%と言わずとも、ある程度あいつを知る俺が……全く知りえない面を今まさに、見せていた。
「……あなたが一体何を知っているというのですか。それがハッタリである可能性など頭で計る必要すら……」
「お前のその境遇を……知っていると言ったら?」
「……っ……!」
「どうしてお前が組織に身を置くようになったのか……今日に至るまでのその一部始終を私が知っていると言ったら?」
「……」
……シノが、何を言っているのか。何を知っているのかは現段階では分からない。
けれど、奴の顔は……確実に動揺と……威嚇の眼差しを見せていた。
「……その程度の事は所詮極一部、今は理由あってお前達を泳がせているだけに過ぎない。異世界人であるこの私の異能たる力を以てすれば……晴らせぬ事象など有りはしないのだ。」
「……そうでした。帽子のあなたも……異世界人……」
……あなた『も』?
「イルとやら、もしも異世界人を狙うというのならばまどろっこしい真似などせず、この私を狙うがいい。私を狙わずして捕えずして……貴様らの悲願など達成出来ぬ。そう断言する。」
「……戯言に……すぎません。」
「ならばどうしてお前はこの場に留まっている。」
「っ……」
「私の言葉が真実であるとお前も本当的に理解しているからだろう……?同じ境遇の同郷の士よ。」
「……」
そのシノの変わりようと語っている言葉の異質さ……そこに誰も口一つ挟めない。
果たしてシノは一体何をしようと……
いや……これは、シノなのかどうか……俺達はそれすら、分からない。
「……あなたを放置しておくべきでは無いと私は独自に結論付けます。」
「その感覚は正しいだろう。だが、実行に移せぬでは絵に描いた餅、後の祭り……大事に動けぬ者程役に立たぬ者もなかろう。さっさと根城に帰ってお前の失態を報告すると共に教え伝えるのだな。この私の存在を……異世界者シノの存在を!」
「……」
そう高らかに宣言したのを聞いて、初めて分かる。あいつが……彼女がシノ本人であると。
「……シノ……私はあなたを未だ表面に現れぬ脅威と判断します。」
「判断が遅い。そのような事は私がこの世界に来た時からしておくべき事。お前がその気ならば今すぐここで帰りの足を断ってやってもいいのだが……どうやらお前も既に刃は収めている。ならば決着は後に持ち越しと言うわけだ。」
「……」
「私はエイスの町に居る。お前達の腹が決まったのならさっさと来るがいい。私とて……いつまでも待っている程のんきでもないのでな。」
「……自らの居場所を知らせるなど、愚かな事です。そしてその傲慢さ……やがて後悔する事になるでしょう。」
「させてみるがいい。」
「……」
たった一歩も引かぬどころか、常に相手を圧倒し続けるような舌戦の後……やはり、奴はその巨大な翼をはためかせて……上空へと飛び立っていった。
「び、ビーム!!!」
しばらく呆気に取られていたというのもあったが、一応遅れてケイが奴の姿目がけてそれを放つ。当然というか仕方なくも、当たる事は無かった。
「……逃げ、られちまった……ん、だよな……」
「……」
結果だけ見るならそうだろうが、先ほどまでの顛末を見ていた俺達には、何が何だか分からなかった。
「「……」」
そしてシノは、ただ上空を見据えていた。今も尚。そんなシノを俺達は見つめていた。
「……」
誰が、尋ねるべきか、各々が二の足を踏んでいた。
「……」
お前は……シノなのか、と。
「……」
誰かがやらねばならないとするなら……それは、おそらく俺の役目だろう。
「……」
……近付く。その、俺がよく知る姿をしている……そいつに。
「……おい。」
「……」
シノは、視線を変えずに上を見ている。
「……何だ?今のは。」
「……」
何か、反応を見せて欲しいとしばらく待っていると、やがてゆっくりと俺の方へと視線を移してくる。
「……」
こいつがこんな目を、こんな顔をしていたかと言われて……よく分からない自分が居る。
全くよく似た姿の……例えば性格の違う双子の奴と変わったんじゃないかと思ってしまう程に……
「……はふぅ……」
「……は?」
しかし、勘繰りに勘繰った俺へと向けられた最初の言葉は、どう考えてもいつも奴が言うような謎の擬音語だった。
「……シド様私、使い慣れない言葉遣いをしたせいと、あんなにたくさん喋ったせいで……疲れてしまいました……こてん……」
「うぉ……とと……」
そう言って、俺へと倒れ込もうとして来るので抱き留めてやる。そこにはいつも通りの……シノが居た。
「し、シノ……だ、大丈夫……なの……?」
「……えふぅ。」
……謎の擬音語が飛び出す。
「し、シノー!!ちょ……さ、さっきのって……」
「……ぐふぅ……」
「……え?」
皆、面食らう。
「……ちゃんと喋れ。さっきから言葉になってねえぞ。」
「もういっぱいいっぱいです……」
「「……」」
シノ、だった。
誰の目にも明らかだった。
……そうか、あいつは居なくなったりなど、していなかったのだと実感した途端に、何故か俺の中には安堵感が生まれていた。




