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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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ノックアウト

「しゃらああああッ!!!死ねや……女ぁああッ!!!」


「……」


怒りに任せた攻撃は通常のものよりも威力が高い。だがその反面、軌道が単純になりがちである。


だからこそ、怒りとは恐ろしい。


自らの攻撃がさほど効果を発揮出来ていないという明らかな事実に気がつく事を阻害する感情。


「「……」」


エルの戦いを見守る者達にももう、一目瞭然であった。どちらが優勢なのか。


「……エルさん……」


それはたとえ、シノにとっても。


「うしゃあッッ!!!」


「……」


攻めている側は実に気持ちよく戦えているだろう。何せエルは反撃を行わない。自分の好きなように戦いを推し進められている……そんな気分であるからだ。


「じゃあそろそろ……」


「んあぁぁっ!?」


しかし、そんな上っ面だけの優位な時間はいつでもどんな時でも急に終わりを告げる。


「行くから!」


「……ん、何ぃ……!?」


反撃の時間であると、宣言するエル。その言葉と共に、一撃を……


「……側頭部にハイキックっ!!」


繰り出す!


「……ん……ぬぅっ!!?」


速度においては己が優位である確証があるからこそ、すかさず腕を出してガードをしてみせる男。


「(相変わらず……バカみたいに自分の攻撃のコースを口にしやがる……!!んな速度の動き素でも見切れんのに声でまで知らせたら当たるわきゃ……)」


「ガードを見越してのフライングニールキック!!」


「……!」


ガードは成功した。だが、すかさずの第二撃が宣言され……その体を襲う!


「(ただでさえ不安定な体制から……完全に無防備な大振りな攻撃……こいつ、戦いの組み立て方ってもんを分かってんのか……?)」


片足どころか両足共地面から離すという事は状況によっては最もピンチな状態とも言える。大地から離れた人間は宙においては無力と化すと考えるならば。


「……んぐっ……!!」


だが、宙を華麗に舞う彼女ならば、それに該当しない。


「(……ちっ……!!ガードしたってのに……重いじゃねえか……!!)」


見え見えの軌道であったが、すぐさまの反撃を見据えてガードに回ったのが裏目に出たのか、予想外の一撃を受けて腕に痛みを覚える男。


宙に体を預け全体重をかけた一撃はたとえ女性のものであったとしても軽いものでは無い。


「そのまま体勢を戻しながら……今度は下段を攻める!!!」


「……んなろぉおおおがああッ!!!!」


エルはすぐさま体をかがめて小手調べとも挑発とも取れるローキックを放つ。怒りに我を忘れつつある男にとってはそれは避けるまでも無い一撃のはずだった……


「……ん……がっ……?!」


が、実際には足に違和感を覚える衝撃と……紛れも無い痛みが男を襲う。


「(……な、何だ……今のは……!!あの程度の攻撃で俺が……っ!?)」


ここまでの戦いの中では予想しえなかったダメージに、ようやく男は幾ばくかの正気をを取り戻す。冷静になろうと思考する。


「怯んだ所に……パンチを二発叩き込む!!」


「(っ……?!俺が……怯んでるだと……?こんな程度の相手に?!」


自問自答の余裕など無い。そんな事を考えるぐらいならば回避、あるいは防御行動に移るべき。それを怠ったなら当然に……


「うぐぁッ!?ぐっ……?!」


拳の餌食となるのは目に見えている。


「ここらで呼吸を整える為に、少しだけ距離を取る。そっちも本気で来るなら今の内に体勢を整えた方が良いよ?」


「……な、何ぃっ……!?」


それはエルの情けであったが、男には挑発行為以外に感じる事が出来なかった。


もし、男がエルの言葉を素直に受け入れ……平静を取り戻し目の前の相手に真摯に向き合っていたら……まだ、勝敗は分からなかったかもしれない。


「……てめえ如きが……俺に向かって何を言ってやがるぅああああッ!!!」


「……」


この時点で、勝負は決した。九分九厘決まっていたものが今、紛れも無く完全を指し示した。


「お前は強さを手にした事で随分良い気になったみたいだけど、でも……強さは、力を手にいれてからが大事なんだよ。どんなやり方で手にいれた力だって、そこで満足したらそれ以上は無い。そこで満足しないで、どれだけ上を目指していけるか……力は他人に見せつけたりするものじゃなく、むしろ自分を高める為に己の心で磨き上げるものなんだよ。って言っても……私の言葉なんて聞く耳持たないだろうけどね。」


「誰に……講釈してやがらぁああああッ!!!!」


男は力を手にしたが、その力を今のようにただ振り回すだけ。


力を使うのと力を磨くのは全く異なる。


強大な力を手にいれたとて、ただ振るうだけでは力に使われているだけに過ぎない。


その力に見合うだけの己の力量無くては……真なる強さとはならない。


エルはそれを理解している。


「一気に……決める。」


そんな彼女にとって、向かって来る男の何を恐れる事があろうか。


「首に手刀を叩き込んで……」


「まだそのバカな戦い方を続けるつも……」


「両足でワンツーを入れて飛び回し蹴りを叩き込んで……」


「……んがっ……!!!」


既に……第一撃が入った時点で、その流れはもはや止められない。


「吹き飛んだところにすかさず追撃のドリルキックを入れつつ蹴り上げて空中に浮かせて……」


「ばっ……て、てめ……っ……!!」


軌道が分かっていたとて、避ける力も意思も無ければ結果は変わりはしない。


「一緒に飛び上がって……力の限りパンチを……叩き込むッ!!!」


「ぐへあっ……!!ぶごっ……!!?」


いっそ、エルが次の攻撃を宣言するからこそ、逆に相手が翻弄される場合もある。


動きを見てから動きを決める視覚による理解に、言葉から入って来る情報が挟まって来る事で若干の遅れが生じるのだ。


「おりゃおりゃおりゃおりゃああああ!!!!!」


「うぐ……ああああっッ!!!!」


もっとも、ここまで圧倒的な差の前ではそのような要素すら微々たるもの。先も語ったように既に勝負は決している。後はエルがどこを落とし所とするか。


「ラストはその脳天を……思い切り踵落とすッ!!!!!」


男の後頭部に……己の足を宛がい……重力と共に急降下する!!


「こ、こんなはずが……この俺が……こんな女にぃッ……!!!?」


「らああああッ!!!!!」


正しき怒りを叫びと共に放ったエルの一撃は……


ドゴァアアアン!!!!!


「ッ……!!!ぶ……ほ……ぁ……!!!」


完全な形で、炸裂した。


「……強さがズルいとか悪いとか、正直どうでも良くて……私は……ナナ達をさらってったお前らがただひたすらに許せないんだ!!」


「……」


その決着の言葉すら、男の耳には届かず、理解に至っていない。


……意識を失った男にそれ以上は、もう、無かった。


……


「(……何を、やってやがるあいつめ……)


戦いの最中であろうと、その決着の瞬間だけはレスタの目にも映っていた。


「(普通の人間なんかに負けるなんてどんなドジ踏んだらそんな事に……)」


「……うるぁあああッ!!!」


「……そらよッ!!!」


「うぉごっ……!?」


すぐに視線を自らの眼前の相手へと戻し、顔面へと一撃を叩き込む。これで何度目だろうか。大してジェイの拳はまだ一度たりとも決定的な一打を放っていない。


「……不本意な結果ながら、向こうは決着がついちまったようだ。ならこっちもさっさと終わらせてえところなんだが……」


負ける予感など到底なくとも、レスタは既にウンザリだった。ジェイの想像を超えるそのタフさにあきれ果ててすら居た。


「てめえがギブアップするってんなら構いやしねえが……俺はまだ一発叩き込んでねえんだ。このまま終わっちまうのはそれこそ不本意ってもんだぜ……」


「……いい加減にしやがれよ。勝ち目もねえのにいつまでも食い下がってきやがって……めんどくせえんだよ。」


レスタの身になればその気持ちも分からないでは無かった。


負けもしないが、終わらない戦いなどしていてはテンションも徐々に下がるばかり。戦いの醍醐味などどこにあろうかと言うところだろう。


「おーい、兄ちゃん!!勝ったよー!!」


「おう、見てたぜ!よくやったなエル!!」


「(……まだ俺と戦ってる最中なのに……無駄話してる体力もあるってか……)」


「なんかこいつら動物の能力持ってるって言ってたよー!だから多分そいつも何か変わった能力持ってるかもー!」


「動物ぅ?!なんだよそれは!動物って猫とか犬とかか?!そんなの怖くもなんともねえぜ!」


「……あいつ、負けたばかりか、要らねえ事もペラペラ言っちまったと見える……そんでもってテメエも……随分貧困な脳だな。」


「あぁ!?んだコラ!!」


動物と言われて代表的なその二つしか思い浮かばないボキャブラリーの無さを、レスタは嘆く。


「……いいだろうさ。どうせここに居る奴らは全員死ぬか俺達がさらうかどっちか……なら冥途の土産代わりに教えてやってもいいさ……」


「何をだよ!自分の能力は血統書付きのわんこですってか?」


「……」


語るよりも雄弁に、その速度からパンチを繰り出す。


「……!」


すんでの所で避けるジェイ。そんな怯え怯む姿に向けてレスタは語る。


「ヒル・カンガルー。って言っても知らねえかテメエは。まぁ動物博士かなんかでも無い限り聞く事もねえだろうな。」


「ヒル……カンガルー……?」


普通のカンガルーが生きるよりもっと過酷な環境に置かれた固体。無論厳しい世界で行きて行く為に己の生存本能や力を高めた種。それが猛獣……ヒル・カンガルーであった。


「こいつの力を手にした俺は元々の力に加えてこの腕力と……スピードを手にしたのさ。だからテメエのヌルい攻撃なんて一度たりとも喰らう事もねえって事さ。」


「……」


当人の口から語られたその強さのベール。それを知ったジェイは……


「……へへ。」


「……あぁ?」


……得意げに、笑ってみせた。


「……へへへ……はぁあっはっはっは!!なるほどなぁ!そういう事かよ。今の説明でよく分かったぜ……なるほどそういう事か!」


目の前の相手の強さを知って気が触れたのかと思う程に、ジェイは高笑いをしていた。


「……死ぬ前に、せいぜい笑っておけ。そうすれば楽な気分のままあの世に送って……」


「……そろそろ俺も我慢の限界だぜ。」


「……?」


「エルの奴が勝負を決めたなら……俺もそろそろ決めさせてもらうとするかよ。」


「……何を、寝ぼけた事を?」


レスタにはその言葉の意味が分からなかった。


「分かんねえかよ。なら……別に構いやしねえさ。そうだな……ただ俺はテメエに一発……かますだけさ。」


戦いが始まるよりも前から、そして戦いの最中も馬鹿の一つ覚えのようにジェイはその言葉を連呼する。


一発、ぶつけるだけだと。


「たった一発……それすら俺に当てる事が出来てもねえくせに……何を偉そうな事を……」


……まだ、喰らっていないからこそ、分からない。想像する事が出来ない。


その『たった一発』とやらの……想像を絶する、破壊力をも。


「結局のところ俺は……曲がったりなんだりするのは嫌ぇなんだわ。だから……やっぱ最後には真っ直ぐなのを打っちまうんだよぁああああ!!」


「……っ……!」


そう叫びながらジェイが放つは、ただただ真っ直ぐに……純粋な破壊力を込めた……右のストレート。


「(……これで、決めるつもりかよ。だとしたらこいつ……本当に終わってんな。)」


確かに威力だけを見るならば必殺技と呼ぶに相応しい一撃かもしれない。


だが、それではこの技を当てられるだけのダメージを……隙を作る事が出来ているだろうか。


「(いくら強くたって当たらなきゃ意味ねえって……んな事も分からねえようじゃ、死んでも仕方ねえな……)」


渾身の一撃をレスタは、腹で嘲笑う。


トドメの一撃を、最高の形にてカウンターで返す算段をして……体を潜り込ませる。


「っ……!?」


殴り合いの中にて生まれる激しく、そして最も美しい形の一つ……交差する二つの腕……


「これで……沈めよ。」


クロス……カウンター……己の放った勢いがそのまま己に跳ね返って来る二乗の破壊力を放つ技。


「……」


「……」


突き伸ばされる両者の腕……しかし、標的を捉えているのは片方のみ。


「……」


「……とっととぶっ倒れろ。そして……死ね。」


……眼前の相手の顔面を突き刺した拳は……


……レスタの拳だった。

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