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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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インターバル

この世界に生きる人間全てに備わっている二つの要素。それらによっておおよそ人生が裕福になるかどうかは決まる。


元々のその人物のレベル……そして、スキルレベル。前者が努力値ならば後者を才能と呼ぶ事も出来るだろう。


上手になりたい、強くなりたいと願う者にとって才能の壁は大きく立ちはだかる。一方は数十年にも及ぶ血のにじむような努力の果てにようやく到達出来るものが一方ではほんの少しの努力で為しえられてしまう。才能無き者からすれば堪ったものでは無いだろう。もっともそれがある程度可視化されているかそうで無いかだけでおおよそどの世界もそのルールが適用されている。


そして多くの者は越えられぬ壁と言うジレンマを抱えながらもそれに目を向けないようにして逞しく生きている。


だが、その中にはこう思う者も決して少なくは無い。


努力と才能……それ以外の要素によって強くなる事は出来ないのだろうかと。


結果から言ってしまえばそれは可能である。


強い武器や防具を揃えてしまえば凡愚でもいっぱしの力を有する事は出来るだろう。それが武具の性能を100%引き出しているかどうかは別としても。


……そして、研究者デーニッツ・ヘルムートは次のような方向性を見出した。


人間の体を作り変える事で後天的に力を得る事が出来るのではないかと。


そもそも人間と言う枠組みの中に居るからこそ努力や才能に翻弄され続けるのだと。


だから、人を越えた進化した人類……『進人類(ネオヒューマノイド)』の力の開拓へと勤しんだ。


奇しくも似たような事に手を染めた者が居た。それが呪術の徒の頭目であったコンタスト・レギウスその人である。


彼もまた人類が現在ある肉体からの脱却を目論んだ結果、ゴアステラ・クリマヌクスの協力の元に魔物の力を自らの物とする為の魔結晶へと手を染めた。


人道を外れている事を除けば彼の望んだ結果通りそれを使用した人間は多大なる力を得る事に成功していた。それは先の戦いでも明らかであった。


だが、デーニッツがコンタストと異なっていたのは求めたその異形の力が魔物のものでは無く、動物の力であった事だ。


魔物と人間は完全に相反する存在であり、そのせいなのか人類と魔物の生体構造は極めてかけ離れており、類似点を見つける方が困難な程であった。


その為に魔物の力をいざ人間のものへと転化しようとするとかなりの荒行、あるいはデメリットを抱えたままにならざるを得ない事が多い。


例を上げれば以前の世界においてエルニとスクリムがそれを使用した事で元の姿へと戻る事が出来なくなったり予期せぬ暴走を引き起こしたり、グレゴリオが使用した事でやはり自我を失うような制御不能状態へとなったり枚挙に暇がない。


その結果を見ればやはり100%完全に魔物の力を掌握して利用するというのは困難を極めると結論付けていいだろう。コンタスト自身が使用して見せたあの姿とて、彼の望んだ理想形の90%止まりでしかないのだ。


やや話が逸れてしまったが、その為にデーニッツはもっと汎用化が可能である動物の力へと目をつけた。


元来全く違う所から生まれ出て来た魔物と違い、人間は広義的に言えば動物の一部……それ故に親和性はそう遠くは無かった。


だから彼は行ってみせた。人間の細胞に……動物の細胞をかけ合わせるという実験を。


その結果生まれた存在こそ彼らが言う進人類なのだ。


それに属する者達は皆相応の力を持っている。


まずザックリとした分け方として戦いを得意とするファイターと、特殊な索敵能力を持ったサーチャーの二種類が存在する。


ファイターはその名の通りである。狼であれば素早さと狂暴性を。亀であれば頑丈な防御力を。それぞれの動物が持つ長所をそのまま受け継ぎ戦闘能力へと転化する者達である。


デーニッツはそれぞれの動物に対して独自の数値を点数として数値化した。攻撃・防御・速度・特殊の4項目についてである。これをスコアと呼ぶ。


これを簡単に言うと攻撃の数値が3ならば人間にとっては攻撃面のスキルレベル3に該当する程の力を有すると言う事であり、当然スコアの合計値が高ければ高い程人としての枠を超えた進人類である事となり、スコアの合計が11を越えた者達を現在においてアロウズ・イレブンと呼ぶ。


サーチャーにおいては戦闘能力に目立った部分は見られないものの、遠く離れた場所に居る特定の人物を探り当てる事が出来るというサーチ能力を持っている。


例えば高いスキルレベルを持った者であったり……そう、異世界人などである。彼らはその力を以てしてデーニッツの更なる研究の発展の為に優れた人材を探し当てる役目を担っている。


ところがこのサーチャーであるが、一つばかり無視出来ぬ点がある。


この能力を得るのに必要な動物はねじれコウモリと呼ばれるものであり、これ自体の細胞を人間に適合させるのはさほど難しい事では無い。だが、ここにプラスαで加えなければならないものがある。


索敵を行いたい対象の人物に近しい細胞が必要なのである。魔法のスキルレベルが高い者をサーチするにはその人物も同様にその細胞を、異世界人を探すには異世界人の細胞を、と言ったようにだ。


細かな説明は省くが、同じ人間と言えど遺伝子構造は若干に異なり、これまた異世界人は元来この世界で生まれた者とは違う波長のような者を持っており簡単に探し出す事は出来ないのである。


そして……一口に細胞と言えど、一人の異世界人から百人分のサーチャーが作れるかと言うと全くそうでは無い。効率の悪い事に一人から生み出せるサーチャーはたった一人……その一人の為に……片方の一人は犠牲とならざるを得ないのだ。


デーニッツがなぜそこまでして異世界人を求めるのか。


それはどうにも異世界人が皆持っている何かしらの特殊性に興味を見出しているからのようだ。そしてその見地は大きく間違ってはいない。


異世界人こそはこの世界で人類が未来を切り開く為に与えられた天からの授かりものと呼ぶ事も出来よう。それがたとえ世界を玩ぶ神の些細な気まぐれ……悪戯のようなものだったとして、その事実は変わらない。


さて、ここで少々話をファイターの方へと戻す事となるが、人を大きく超えた力を持つ者達と一括りに言ってもやはりそこには格差が生まれる。


それはやはり元々の力と、その人物に適合した動物の強さによってである。


力を増強する事が出来るのならば、元より強い者がその恩恵を授かる方がより強い人間が生まれるのは自明の理。


元々強いか、強気動物との親和性が高いか……その両方を兼ね備えた者達が現在組織の中でトップとなっているアロウズ・イレブンである。


そこから下は隊の隊長となる人物が置かれ、更にその下には構成員となる者達が居る。


現在ジェイが交戦しているレスタ・アンラークはその中では三番隊隊長と言う肩書を持ち、エルが対峙している男は構成員。全体では下位に位置するがそれでも通常の人間よりは遥かに強い。


……だが、悲しいかな。その力を手にする為には大きな痛みを伴う事となるのが現状。しかし同じ痛みを受けながらも与えられる力には開きがある。それを不満と思わないはずも無く、口にはせずとも、意識せずとも下位の者達は些かなりとも劣等感と言うものに苛まれている傾向がある。


「(俺は力も才能もねえからこそ……あんな死にそうな思いをしてまで今の力を手にいれたってのに……この女は……!!)」


……才能あふれる者が、妬ましい。自分の力を信じられるひたむきさが羨ましい。


だからこそ、許せないのだ。何の労も無く天から預かった物を得意げに振り回す目の前の相手が。


「(……痛い目に遭わせるだけじゃ……到底足りねえ……こいつの信じてきた力って奴を徹底的に力でねじ伏せて……そして絶望を味あわせた上で……ブチ殺す!!!)」


……今、男の頭の中を染めているのはどす黒い殺意のみ。


それは、エルへと容赦なくぶつけられる。


……


「超……飛び蹴りッ!!」


目の前の女へと、憎しみが募る。


「……もう、お遊びは終わりだ。」


「……!」


男は容易く、一撃を避けて見せ、そして……


「うぁっ!?」


突き出されたエルの足を鷲掴みにて……


「潰れろ女ぁ!!」


地面へと思い切り……叩きつける!!


「うああぁっ……!!」


大地こそ、この世で極めて硬い存在。人の身など諸共せずにただ純粋に痛みのみを与える。


「エルっ!!」


「うっ……くっ……いてて……くっそぉ……!」


背中から強く叩きつけられたのもあってかあまり受け身も上手く取る事も出来ず結構なダメージをその身に受ける。


「頑丈だなぁその体……!!!」


「うあっ……!!」


頑丈と評したその肉体を……蹴り飛ばす!


「っ……!なんて事を……!」


「うぐっ……うぅっ……!!」


一度ならず二度、そして三度と繰り返される蹴打。その一発一発を受ける度にエルの口から呻きが零れる。


「随分と良い気になってたみたいだが……これが力の差だ。そんでもって生まれた時からの才能に甘きってったお前と俺とのハングリー精神の差だ。」


「……っ、くっ……お前の……お前のその力はじゃあ、何だって言うんだよ……!それだって……才能……なんじゃないのかよ!」


エルの問いかけに、男の攻撃は止む。そして、言い放つ。


「……才能なんかじゃねえよ。」


自らの不運とツキの無さ、何より才能の無さを嘆くように。


「とんでもねえ強さを得られる機会があったのにもかかわらず俺が適合出来たのは一般的な力でしか無かった……」


「……?」


「世の中には人間より強い力を持った動物はまあ居るさ。その中で俺は……犬だぜ?そん所そこらに居るいたって普通の犬コロさ。」


「……な、何言ってんだよ!」


「……この身に宿った力の事をテメエに教えてやってんだよ。俺はのたうち回るような痛みを経て……犬の能力を得た。だから才能じゃねえんだよ……無理矢理後から継ぎ足しただけの後付けの力なんだよ!!」


「「……」」


劣等感が、男にそれを言わせた。その言葉をエルやシド達は断片的に理解する他なかった。


「(あいつ……余計な事をペラペラ喋っちまってるな……まぁ、ここに居る奴ら全員死ぬかさらうかだから別に構わねえか……)」


そう、これは本来口にしてはならぬ領域。だがこれから死にゆく者達にとっては冥途の土産にしかならぬ。この場に居る全員の末路が既に見えているからこそ、それを宣言したのだった。


「……後付けでも何でも、力なら……いいじゃんかよ……」


「……あ?」


「私が怒ってんのは……その力で……人が傷付いたり悲しんだりする事……!!力の使い方が最低だから怒ってるんだよ!!」


地面に這いつくばりながらも、エルは怒号する。


力が間違っているのではなく、その振り方が問題なのだと。


「お前がどんな理由でその力を欲したのかなんて私にはどうでもいい事……!私が今知りたいのは……私達の助けを待ってるナナや雪美達の居場所だ!!お前の口からさっさとそいつを吐き出させるまで……私は……負けないッ!!!」


「……っ……吠えてんじゃ……ねえぞ瀕死の癖によぉ!!!」


強大な力をかざしているのに、臆せず自分に物申すエルへと大して渾身の一打を放つ男!!


「……はあっ!!」


「……!」


だが、男が予想するよりもエルはまだ体力を残していた。その一撃から逃れて体勢を立て直す程度の体力は。


「まだ……動けるってか。」


「……ワンちゃんには、負けないって。」


「……」


その明らかなる挑発に、男は更に怒りを増した。


「どうせ他の奴らだってお前みたいに可愛らしい動物達の力かなんかを持ってるだけでしょ。だったら怖くもなんともない。」


自分を強者では無く……まるでペットか何かのように……格下のように発言して見せたその言葉に……


「……殺す……殺してやらぁああああ!!!!」


激昂する。


「(……だいぶ怒らせちゃったけど、それはまぁ想定内か……)」


半面、エルは内心悟る。


……ここら辺が、限界であると。


「(……引き出せる情報も、この辺りがせいぜいってところみたいだし……)」


……見に回るのは、この辺りで十分であると。


「(そろそろ……やっちゃおうかな。)」


……これ以上、敵の好き勝手にさせる必要は無いと。


「(……本気で!!!)」


ここより、この瞬間より、本気の戦いが始まるのだと。

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