ダブルシングルマッチ
悪党なれど、勝負へ臨む希薄だけは決してシド達と大差はないのかもしれない。
如何なる場合においても、どんな局面に出くわそうと、至上目的は最後まで立っている事。目の前の相手を下す事。そこには変わりがない。
ましてや己の力に絶対の自信を持っているからこそ、搦手など必要としない。ただ真っ向から力を与えるだけで砕く事が出来る。そういう意味でもこれは互いにイーブンな戦い。
ただ純粋に、それぞれの力量がぶつかり合うだけの戦い。
「ここ最近は俺の腕を振るう場面が無かったからな……ここらでガツンと示しをつけておきてえってのもある。」
昂ぶり荒ぶる心のジェイを目の前にして男は、レスタはさほど心に揺れ動くものは無かった。
「無駄口を叩くぐらいならば先制はこっちが頂く……まぁ、この程度の一撃で呆気なく終わってくれるな……よ!!」
「!」
拳を構え……一気に距離を詰める!その速度は紛れも無く常人のそれでは無い!そんな相手の攻撃に対し、避けるか……受けるか……
「んなろぉ!!!!」
ジェイは後者を選択する!打ち合いを望み、己も腕を真っ直ぐと伸ばして突き抜こうとする!
「やはり小細工すら出来ねえ程に真っすぐだな。ふんっ!!!」
「……んなっ?!」
だが打ち合いを望むのはジェイだけ。レスタは一度伸ばしたその腕は引っ込め、もう片方の腕にてジェイの腕をアッパーにて撃ち抜く!!
「……ぐっ!!」
伸ばされきった腕は無防備にダメージを受けてしまう。だが、ここで隙を見せては敵の思う壺。そんな事は理解の上だからこそ……
「……っ……らあっ!!」
もう片方の腕ですかさずカウンターを繰り出す!これは攻撃と言うよりも防御。相手の連続攻撃を防ぐ為の策。
「……ちっ!」
その甲斐あってかパンチは空を切るも、相手は一旦体勢を立て直す事を余儀なくされる。
ダメージを負った時は、追撃を受ける事を回避しなければならない。そこで攻撃を食い止めて被害を最小限に抑えるのは戦闘の基本。ジェイともなればそんな事本能的に理解している為頭で考えるより先に体がそうのように動く。
「……多少タフなのは認めてやるよ。けどこれの繰り返しじゃ、ジリ貧だ。」
「……言っとくがてめえが思ってる以上に、俺はタフだぜ。この程度の一発なんてこたぁねえ……」
あたかもダメージが無いように右腕を振ってアピールして見せる。そして、余裕の笑みを浮かべる。
「体力だけがウリって事か。その危なっかしい戦い方でよく生きて来れたもんだ。」
「……戦いの最中にあれこれ喋りやがって、てめえこそ無駄口が多いんじゃねえのか?」
「それだけ余裕があり、力の差が歴然という事に気がつかねえか。少しでも長生きしたいなら今からでもそこで見ている奴らに助けでも求めて全員でかかって来るといい。」
「まだ……戦いは始まったばかりだろうが!」
今度は、ジェイから攻撃を仕掛ける。速度を乗せて、右腕を繰り出す!!
「(……マジで、真っ直ぐ過ぎる。信じられねえくらい……素人の動きだ。)」
力はさておきあまりにも読みやすい軌道の為、何か隠しているのではないかと勘繰るところだが、現実、コースは予測通りの為攻撃は当たらない。
「ふっ!!」
「うぉっ!?」
今度はレスタのカウンター。ジェイと比べても速度は極めて高く、確実にその体を捉える。
「ふっ……ふっ!!」
一発、二発、三発!!
「ぬ……をっ!!」
そして……フィニッシュ……!
「沈めや……!!」
真っ直ぐなストレートが……顔面を思い切り捉える。
「……ぐ……わあああっ!!!」
体格では分があるジェイが……その体が、しなやかに繰り出された拳にて大きく吹き飛ばされる!
「口程にも、ねえな。」
「ジェイ!!」
「っ……!」
戦いを見守っていたアイ達も流石に叫ばずにはいられなかった。予想以上に、その攻撃の破壊力が戦っただろうからであった。
「……つつ……!」
「……」
しかし、そこは頑丈さがウリのジェイ。
「……痛ぇじゃねえかコラァ!!!!」
チンピラ感丸出しの言葉と共にすぐさま立ち上がって来る。
「一応、殺すつもりで殴ったんだがな。頬の骨一つ折れても無さそうじゃねえか……」
「んなやわな鍛え方してねえんだよ……第一、てめえこそデカい口叩く癖に大した攻撃じゃねえ。その程度の攻撃なら百発でも耐えられんぜ!」
「……」
事あるごとに挑発を重ねるジェイ。それを受けてか、最初よりかは確実に戦闘モードへと移行していくレスタ。構えも、元より己が得意とするものへと変えていく。
足はフットワークを刻み、腕はいつでも相手を打ち抜けるように。いわゆるボクサースタイルの構えだった。
「それで勝てるつもりかよ……」
「試してみりゃあいい。もう嫌って程その身に痛みってのを染み込ませた後には流石に理解出来るだろうよ。」
「……はっ!」
ジェイにとっては力とスタミナが全て。それに長けている自分が勝つという理論が頭の中に確立されている。
一方レスタが重んじているのはスピードとフットワーク。全く異なる要素を重要視している者同士の戦い……
その場合、勝敗を左右するものとは一体、何か……
それはやがて分かる事。
勝者と敗者が生まれたその瞬間に。
……
「エル!!そんな奴やっつけちゃえー!!」
こちらはこちらとて既に戦いは繰り広げられている。現在の攻め手は……エル。
「ちょりゃりゃりゃ!!!」
「……ただの人間にしては、まぁまぁやるじゃねえか。女!」
「うっさい!そんな言葉よりナナちゃん達の居場所を吐け!!」
「やれやれ……褒めてやってんのに、可愛くねえ女だ!!」
「……!」
ここまで様子を伺うのに徹していた男の、反撃の一打!その速度を見て、エルも流石に悟る。
「(こいつ、流石に……口だけじゃないか!)」
悪党を名乗るだけの、力量はあると察する。力無き者を虐げる程の力があると。
「後ろ……回し蹴りッ!!!」
「……うぉっと……!」
回避と反撃を同時に行うは戦闘センスの無しえる技。繰り出した攻撃は当たりこそしなかったが、敵の追撃を許さない。
「上段……飛び蹴りッ!!!」
「……ふんっ!!」
強烈な一撃だが、それ故男が回避すると読んだエルだったが、男の取った行動は……
「!?受けたッ!?」
その腕にて……防いでみせる。
「……良い、蹴りじゃねえか……!!」
その腕に確実にダメージが行き渡るが……
「お返しを……喰らってもらうぜ!!!」
反撃のチャンスを……与えてしまう!!
「痛っ……!!」
右手にて攻撃をいなし……空いた左腕を打ち込む!そして……
「こいつを……喰らえ!!」
「……!」
まるで、意趣返しと言わんばかりに……先ほど繰り出された上段蹴りを繰り出す!
「うぐっ……うぁああああ!!」
腕を出す事でどうにか顔面への直撃は避けるが、流石に男性と女性の体格さ、重量さ。与える破壊力も比では無い。悲鳴と共に大きく転がされてしまうエル。
「へ、女だからって手加減はねえぜ?ここは戦場……痛い思いをしたくなければしゃしゃり出て来なきゃいいんだ。」
「……う、うぅッ……!!こいつめぇ……!!」
「「……っ……」」
歯がゆい想いを抱えながらも、ケイ達はジッと……成り行きを見守る。信じる。
エルの、その強さを知っているから。
まだ、こんな程度では無いと分かっているから。
「……頑張れエルー!!!」
ケイは声援を送り続ける。恐らくもっとも近い関係でありいつも意気投合している相手だから、仲間だから、家族だからこそ、エールを送り続ける。
「おうおう、お仲間が応援してるぜ?さっさと立ち上がってきた方が良いじゃねえのか?つーか何ならいっそ泣き喚いて助けてー!って叫んでみろよ。そうすりゃあいつらと一緒におてて繋いで戦えるぜ?」
「……私達は仲間だし……家族だし……確かに困った時は協力する……けどッ……!!」
「……お?」
「……今はまだ……そんな所じゃない……!」
声援を受けて、立ち上がる。自分を奮い立たせる。まだ、ここから行けると。
「へえ。」
「……お前の言う通り、ここは戦場。自分で挑んだ戦いは自分で始末する。何より……お前みたいな名無しの雑魚相手するのなら、私一人で十分と踏んだから挑んだわけだし。」
気丈に、不敵にそう言い放つ。お前など、相手じゃないと。
「……言ってくれるじゃねえか。」
その発言に、些かなりとも苛立ちを覚える男。
「(泣かせるぐらいじゃ……なんか足らねえよなぁ……!)」
「……さぁ……まだまだこーい!!と言うかこっちから行くし!!」
「(……内心女だから痛めつけるぐらいに収めておいてやろうかと思ったが……マジで、殺しちまうか……!)」
目の前の女性に加虐心を覚える時点で男はややS気味なのだろう。
「飛び蹴りぃぃ!!!!」
「いちいち……叫ぶんじゃねえよぉ!!」
「うぇっ!?」
癖か、はたまたワザとかエルは自らが繰り出す攻撃を叫ぶのである。そのせいで攻撃の軌道の読みやすさったら無い。
「死ね!!」
「うわわわわっ!!!危なっ!!」
と、本来ならば反撃を受けるのが普通だが、そこは持ち前の格闘センスによって上手く致命的な一撃を回避して見せるエル。もっと言えば繰り出す技を叫ばなければよりそれらが効果的に活かせるのだろうが……そこは本人が決めたスタイル。他人がとやかく言うものでは無いし、本人がそれを気に入っているのならば。
「パワーデコピン!!」
ピン!
「……」
ちなみに今の一撃が当たったのはおでこでは無く、腕である。ダメージは……極めて小さい。
「惜しい!!もうちょっとだったのに!」
「……舐めた真似してんじゃねえ!!」
「うよっ!!?」
このように命を賭けた戦いにおいて一見無駄と見えるような今の行動は挑発行為とみなされる。
挑発行為を行う事が出来るのは基本的には格上の者に限られる。弱者にはそのような余裕が無いからである。
つまりエルは自分の方が強いと暗に語っている事となる。
「(気に入らねえ……気に入らねえなこの女ぁ……!)」
だから男は苛立つのだ。明らかに自分より弱い奴がまるで余裕を見せている所が。
……まだ、痛みと言うものを真に知らないが故に、そのように無邪気で居られるのだと。
「奥義!龍の構えッ!!!」
誰も見た事の無い独特のポーズをとって見せるエル。
「……普通の、構えだろうが!!!」
「良く見抜いたじゃんか!褒めて遣わす!」
……どうやらただ今思いついただけのようだった。
「……てめえ……戦いを甘く見るのも大概にしとけよ……」
段々とペースに乗せられて翻弄される男。
男は腹の中で怒りを覚えていた。
たとえ非人道的な行動を取ろうとも、戦いというものに対しての最低限の姿勢だけは持っていたからこそ、エルに激怒していた。
戦いを、甘く考えている彼女へと。
「(……勝負ってのはこんなふざけた奴がやって良いものじゃねえ……こんな奴は本来搾取されていたぶられるだけの弱者だ……それがレスタさんや俺みたいな強者と同じ土俵に立っているつもりだと……?)」
「……ふざけんなあああッ!!!」
「っ……!」
「……どうせあれだろうがよ。てめえは元々持ってるてめえ自身の力に気がついてここまで強くなったってんだろうが……何の苦労も無く才能に恵まれた言わばボンボンが……」
「……お前だって、そうなんだろ。やってる事最低だけど、強さだけは確かにあるよ。」
「分かってねえ……分かってねえんだよテメエは……俺がこの強さを手にいれる為にどれだけの事をして来たかをなぁ!!!」
「……」
男は我慢がならなかったのだろう。まるでエルが、自分と同じような立場であると思っている事に。
……確かにエルの力は生まれ持ったスキルレベルによるところが大きく、そこに努力を重ねて来た強さ。
一方男の強さは……後天的に身につけたもの。
……痛みと苦痛と引き換えに……手にした力。
異形の力であった。




